マッキーまきもと記憶きおく三ツ星みつぼし食堂しょくどう新宿しんじゅくひそむ、にく名人めいじん洋風ようふう居酒屋いざかやジョンダワー』

マッキー牧元の【記憶の三ツ星食堂】新宿に潜む、肉焼き名人|「洋風居酒屋ジョンダワー」
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老舗しにせから新店しんてんまで、あらたなあじひととの出会であいをもと古今ここん東西とうざいめぐるマッキーまきはじめさん。そんなタベアルキストが、現在げんざいまでに出会であってきたさまざまなみせ料理りょうりの、いまあじわうことがむずかしい“まぼろしあじ”の記憶きおくをひもとく。

 きかきらいか? そうかれてもこたえがないのが新宿しんじゅくというまちである。
 どうでもイイというまちではない。よくみにかけるわりには、すすんではこうとはおもわない。
 わかころからお世話せわになって馴染なじんでいるのだが、時折ときおり疎外そがいかんかんじてこわくなったりもする、きわめて日本にっぽんてき繁華はんかがいでありながら、ここは日本にっぽんなのか? とおもうときもある。
 東京とうきょうという都市とし現代げんだいうつしたまちでありながら、「ブレードランナー」にてきたような。きん未来みらいてき日常にちじょうかんもある。

 そんなまち新宿しんじゅくのどなかに、そのみせはあった。ある意味いみそれは、新宿しんじゅくというまちのフトコロのふかさ、いや混沌こんとん雑多ざったせいあらわしていたのかもしれない。
 きゅう区役所くやくしょどおりをきたすすむ。客引きゃくひきのびかけを無視むししてすすめば、やがてかえでりん会館かいかん到達とうたつする。つぎにそのさきにあるふるぼけたビルに、おそおそはいっていただこう。

 いちかい案内あんないばんには、スナックやらクラブの名前なまえがずらりとならんでいる。そのなかに「会員かいいんせい 洋風ようふう居酒屋いざかやジョンダワー」の名前なまえつけることができよう。
 会員かいいんせいといってばかりで、フリのきゃくはいってこないための自衛じえいさくである。もっともこんなビルの案内あんないばんつけて、わざわざ階上かいじょうのぼってみせはい酔狂すいきょうきゃくなど、いないとおもうが。

「ジョンダワー」は、ステーキのみせである。それもるいまれなるステーキを、やす値段ねだんす。「ひとる」という意味いみがわからない陳腐ちんぷないいまわしがあるが、まさにこのみせこそその言葉ことばがふさわしいみせだった。

 薄暗うすぐら店内てんないはいるとにつくのが、じゅうねんほこり放置ほうちしたままのさけびん装飾そうしょくひん数々かずかずと、カシューナッツのから堆積たいせきしてえなくなった、ゆかである。この光景こうけいに、初心者しょしんしゃはおののく。だが、アーリーアメリカン調ちょうのバーカウンターのなかったご主人しゅじんが、すぐに、「いらっしゃ~い」と、愛想あいそごえをかけてくれるので、安堵あんどする。

 このご主人しゅじんながらくふねのコックだったということで、りくがってみせひらいたという。むかし料理人りょうりにんには、こうしてふねのコックからみせひらいたほうおおかった。

 最初さいしょされるのがサラダである。レタスだけがのボウルにはいった質素しっそなサラダだが、これがたまらなくうまい。秘密ひみつはドレッシングにある。
 サウザンアイランドソースにた、うす桃色ももいろのどろりとしたソースで、ゴマがかされているのはわかるのだがそれ以外いがい成分せいぶん不明ふめいである。やわらかい甘味あまみ時折ときおりした辛味からみがあり、風味ふうみおだやかで、しずかな旨味うまみがある。
 以前いぜんは、かえぎわけてくれたのだが、なんでも大手おおて食品しょくひん会社かいしゃにその成分せいぶん売却ばいきゃくしたとかで、みせべることしかままならない。このジョンダワーソースは、サラダだけでなく、オムレツにもステーキにもかける。そして料理りょうりかす。万能ばんのうソースなのであった。

 サラダのつぎはオムレツとこう。つくはじめるご主人しゅじんて、みなてんとなる。なにしろたまごをとかない。直接ちょくせつ5を、次々つぎつぎとバターをいたフライパンにれるのである。
 しかしそこからさきが、あざやかなつきでオムレツに仕立したてて、さらってジョンダワーソースをとろりとかける。

「こんな手間てまぁかかるの、よそじゃできねえよ」とって、つぎつくるのが、ハンバーグである。あつさ6センチはあるハンバーグをれば、ちゅうからうっすらとあかにくかおす。ハフハフといながらくちはこべば、のハンバーグにはないコクがある。なんと自家製じかせいのブルーチーズをりこむことによって、複雑ふくざつ旨味うまみんでいるのである。にくとブルーチーズがじりい、鉄板てっぱんうえでジョンダワーソースとじりう。たまりません。

 そしていよいよ主役しゅやく、ステーキさま登場とうじょうする。てきた瞬間しゅんかんいきむその姿すがたは、たかさ6センチはあるにくかたまりで、鉄板てっぱんうえおとてながらそそりつ。
 ナイフにちかられるまでもなく、すっとれるにくにフォークをすと、たっぷり肉汁にくじゅうふくんでおもい。めばむほど、にくのジュースがてくる。
 うまいにくひとだまらせる。無我夢中むがむちゅうべ、かおげると、同席どうせきしゃうれおうくちうごかしている。そしてにこりとわらう。

 そう。ここにくるとだれもが、子供こども笑顔えがおになるのであった。

イラスト◎死後しごくん

著者ちょしゃプロフィール

マッキー牧元の【記憶の三ツ星食堂】新宿に潜む、肉焼き名人|「洋風居酒屋ジョンダワー」

マッキーまきもと

タベアルキスト。『あじ手帖てちょう編集へんしゅう主幹しゅかんしょくつくしゅへのあいあふれた文章ぶんしょうにく1kgをたいらげるいっぷりにファン多数たすう蕎麦そばからフレンチ、割烹かっぽうまで、守備しゅび範囲はんいひろい。近頃ちかごろ本誌ほんししょくらく誌上しじょうめい料理人りょうりにんぶりも披露ひろうしている。