＜社説しゃせつ＞教員きょういん給与きゅうよの増額ぞうがく　現場げんばの疲弊ひへい解消かいしょうできぬ

2024年ねん4月がつ25日にち 07時じ55分ふん

　長時間ちょうじかん労働ろうどうが深刻しんこくな公立こうりつ学校がっこう教員きょういんの処遇しょぐう改革かいかく案あんを検討けんとうしてきた中央ちゅうおう教育きょういく審議しんぎ会かい（文部もんぶ科学かがく相しょうの諮問しもん機関きかん）が素案そあんをまとめた。時間じかん外がい勤務きんむ手当てあて（残業ざんぎょう代だい）を支給しきゅうしない代かわりに基本給きほんきゅうに一律いちりつ上乗うわのせする「教職きょうしょく調整ちょうせい額がく」を現行げんこうの4％から10％以上いじょうに増額ぞうがくすることが柱はしら。

　教員きょういん給与きゅうよ特措法とくそほう（給きゅう特とく法ほう）の改正かいせいを経へて実現じつげんすれば、1972年ねんの同どう法ほう施行しこう以来いらい、初はじめての増額ぞうがくとなるが、実際じっさいの労働ろうどう時間じかんに見合みあう残業ざんぎょう代だいが支給しきゅうされない制度せいどの骨格こっかくは維持いじされ、現場げんば教員きょういんらが求もとめた抜本ばっぽん改正かいせいには程遠ほどとおい内容ないようだ。

　素案そあんは中教審ちゅうきょうしんの特別とくべつ部会ぶかいで大筋おおすじで了承りょうしょうされ、教職きょうしょく調整ちょうせい額がくの増額ぞうがくのほか、学級がっきゅう担任たんにんや管理かんり職しょくの手当てあて増額ぞうがくなども含ふくまれる。

　さらに、定年ていねんを迎むかえるベテラン教職員きょうしょくいんの大量たいりょう退職たいしょくに伴ともなって大量たいりょう採用さいようされた若手わかて教員きょういんの支援しえん体制たいせいの充実じゅうじつや、全ぜん教員きょういんの残業ざんぎょうを月つき45時間じかん以内いないにする目標もくひょうも掲かかげている。

　素案そあんを基もとに5月にも改革かいかく案あんをまとめる見通みとおしで、文科ぶんか省しょうは来年らいねんの通常つうじょう国会こっかいでの法ほう改正かいせいを目指めざす。

　ただ、現場げんばの教職員きょうしょくいんらは、実際じっさいの労働ろうどう時間じかんに見合みあう残業ざんぎょう代だいを支給しきゅうする制度せいどへの転換てんかんなど抜本ばっぽん改革かいかくを望のぞんでいた。管理かんり職しょく側がわが人件じんけん費ひの膨張ぼうちょうを避さけるため、長時間ちょうじかん労働ろうどうの抑制よくせいに努つとめるとの期待きたいからだ。

　教職きょうしょく調整ちょうせい額がくの乗じょう率りつ引ひき上あげが実現じつげんしても、長時間ちょうじかん労働ろうどうが改あらたまる確証かくしょうはない。現場げんばの教職員きょうしょくいんらの疲弊ひへいは解消かいしょうできるだろうか。

　現行げんこうの枠組わくぐみを維持いじする理由りゆうの一ひとつは財源ざいげんだろう。教職きょうしょく調整ちょうせい額がくを10％に引ひき上あげるための公費こうひ負担ふたんは年間ねんかんで約やく2100億おく円えん増ふえる見込みこみで、労働ろうどう時間じかんに応おうじて残業ざんぎょう代だいを支給しきゅうする場合ばあいはそれを超こえる。管理かんり職しょくが残業ざんぎょう時間じかんを正確せいかくに把握はあくすることが難むずかしいとの指摘してきもある。

　最もっとも肝心かんじんなことは、今回こんかいの改革かいかく案あんによって、常態じょうたい化かしている長時間ちょうじかん労働ろうどうを解消かいしょうし、新あらたな教員きょういん人材じんざいを集あつめるようにすることだ。

　教員きょういんの長時間ちょうじかん労働ろうどうを抑制よくせいするため、これまでも数々かずかずの対策たいさくを講こうじてきたが、目立めだった改善かいぜんにはつながっていないと指摘してきされ、教職きょうしょく調整ちょうせい額がくは「定額ていがく働はたらかせ放題ほうだい」とも揶揄やゆ（やゆ）されている。教職きょうしょく調整ちょうせい額がく引ひき上あげで教職員きょうしょくいん志望しぼう者しゃが若干じゃっかん増ふえたとしても、効果こうかは限定げんてい的てきだろう。

　給きゅう特とく法ほうの枠組わくぐみを大胆だいたんに改あらためることが必要ひつようと考かんがえる。それが難むずかしいというなら、ゆとりをもって働はたらけるよう教職員きょうしょくいん定数ていすうを増ふやして残業ざんぎょうを大幅おおはばに減へらすなど、抜本ばっぽん的てきな改革かいかくが欠かかせないのではないか。