経済評論家の山崎元氏が亡くなった。山崎氏とは、大学が同窓であるだけでなく、旧三和総合研究所時代には同僚だった。また、山崎氏がその後転職して、楽天証券時代に息子の康平とも同僚となっていた。テレビ番組や、雑誌の対談など、彼と仕事をする機会は、とても多かった。
山崎氏は、一流企業ばかり12社も転職をしたことで有名だったが、仕事自体はほとんど変えておらず、仕事の基本は、「資産運用」だった。ただし、その分野では、セルサイド、バイサイドの双方で仕事をして、活躍の場は広かった。つまり、山崎氏は、日本で最も資産運用に詳しいプロ中のプロだったということになる。
その山崎氏が、私にこう呟いたことがある。
「森永さん、運用って言葉分かりますよね。運を用いるって書くんです。投資はね、ギャンブルと同じ運なんです。誰にも未来のことなんて分からないんですから」。
私が山崎氏を好きだったのは、常に正直だったからだ。プロ中のプロである山崎氏が、未来のことなんて分からないと断言しているのだから、他のファンドマネージャーに未来が分かるはずがないのだ。
ところが、世の中はそう思っていない。例えば日経平均の動きを追跡するように機械的にポートフォリオを決めるパッシブ・ファンドより、ファンドマネージャーが積極的にポートフォリオを入れ替えながら運用するアクティブ・ファンドのほうが、ずっと信託報酬が高くなっている。つまり、ファンドマネージャーが銘柄を選択することで、より大きな投資リターンが得られると世間は信じているのだ。
もちろんそうなることもあるし、そうならないこともある。すべては運だと山崎氏は言っていたのだ。
一歩、引いてみると、いまや投資元年だの、新NISAだのと、貯蓄から投資への戦略変更を推奨する経済評論家や金融関係者が圧倒的に多い。それに反対して、いまこそ元本保証の預貯金など、手堅い運用をすべきだと主張しているのは、一貫して投資に批判的なスタンスを貫いてきた荻原博子氏と、近々世界的な株価大暴落がやってくると主張している私と、慶応義塾大学の小幡績教授くらいしかいない。
こうした事態に、もし山崎氏が生きていたら、こう言うのではないだろうか。株価のさらなる上昇が続くのか、バブル崩壊派の予言が当たるのかは、誰にも分からない。どちらかが当たるのかは、どちらが「運」を持っているかにかかっているとシニカルに彼は笑うのだ。