(Translated by https://www.hiragana.jp/)
宇宙線陽子スペクトル高精度観測 – 早稲田大学

宇宙うちゅうせん陽子ようしスペクトルだか精度せいど観測かんそく

国際こくさい宇宙うちゅうステーション搭載とうさいこうエネルギー電子でんしガンマ線がんません観測かんそく装置そうち(CALET) による測定そくてい

宇宙うちゅうせん陽子ようしスペクトルのこう精度せいど直接ちょくせつ観測かんそく成功せいこう

10テラ電子でんしボルト領域りょういきでエネルギースペクトル”軟化なんか”を検出けんしゅつ

発表はっぴょうのポイント

国際こくさい宇宙うちゅうステーション搭載とうさい宇宙うちゅうせん電子でんし望遠鏡ぼうえんきょう(CALET)が、10テラ電子でんしボルト領域りょういき銀河ぎんが宇宙うちゅうせん主成分しゅせいぶんである陽子ようしのエネルギースペクトル軟化なんかこう精度せいど観測かんそくすることに成功せいこうしました。
これまで、観測かんそくむずかしさから実験じっけんあいだによるばらつきがおおきかったため、精度せいどたか測定そくていされておらず、スペクトル全体ぜんたい総合そうごうてき理解りかい困難こんなん状況じょうきょうでした。
広範囲こうはんいでのエネルギー領域りょういきでスペクトル構造こうぞうこう精度せいど観測かんそく達成たっせいしたことは、超新星ちょうしんせい残骸ざんがいでの宇宙うちゅうせん加速かそく機構きこう銀河ぎんがないでの宇宙うちゅうせん伝播でんぱ機構きこう解明かいめい重要じゅうよう貢献こうけんとなると期待きたいされています。

早稲田大学わせだだいがく理工りこう学術がくじゅついん総合そうごう研究所けんきゅうじょ主任しゅにん研究けんきゅういん 小林こばやし 兼好けんこう(こばやしかずよし)早稲田大学わせだだいがく名誉めいよ教授きょうじゅ・CALET代表だいひょう研究けんきゅうしゃ 鳥居とりい 祥二しょうじ(とりいしょうじ)、シエナ大学だいがく教授きょうじゅ Pier S. Marrocchesi、と宇宙うちゅう航空こうくう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこう(JAXA)およ国内こくない機関きかん、イタリア、米国べいこく国際こくさい共同きょうどう研究けんきゅうグループ(以下いかほん研究けんきゅうグループ)は、国際こくさい宇宙うちゅうステーション(ISS)・「きぼう」日本にっぽん実験じっけんとうふねがい実験じっけんプラットフォームに搭載とうさいされた宇宙うちゅうせん電子でんし望遠鏡ぼうえんきょう(CALET:こうエネルギー電子でんしガンマ線がんません観測かんそく装置そうち)をもちいて、銀河ぎんが宇宙うちゅうせん主成分しゅせいぶんである陽子ようしの10テラ電子でんしボルト領域りょういきで、エネルギースペクトル軟化なんかこう精度せいど観測かんそくしました。

「きぼう」で定常ていじょう観測かんそく継続けいぞくするCALET*1は50ギガ電子でんしボルトから60テラ電子でんしボルト*2ひろいエネルギー領域りょういきで、宇宙うちゅうせん陽子ようしスペクトル*3、4こう精度せいど直接ちょくせつ観測かんそく成功せいこうしました。これまでに発表はっぴょうしているテラ電子でんしボルト領域りょういきいた漸次ぜんじてきな「スペクトル硬化こうか*5」につづいて、さらに60テラ電子でんしボルト領域りょういきまで観測かんそく領域りょういき拡大かくだいして、「スペクトルの軟化なんか*6」をあらたに測定そくていしました。この結果けっかは、これまでのCALETによる宇宙うちゅうせんしょ成分せいぶん電子でんし炭素たんそ水素すいそてつ、ニッケルなど)の観測かんそく*7とともに、銀河ぎんが宇宙うちゅうせん加速かそく*8伝播でんぱ機構きこうのモデル検証けんしょうのために重要じゅうよう情報じょうほう提供ていきょうするものです。

宇宙うちゅうせんやく100ねんまえ発見はっけんされて以来いらいつね物理ぶつりがく最先端さいせんたんのテーマでした。様々さまざま飛翔ひしょうたいによる観測かんそく結果けっか総合そうごうして、「超新星ちょうしんせい残骸ざんがいにおける衝撃波しょうげきはによって加速かそくされ、銀河ぎんが磁場じばによって拡散かくさんてき伝播でんぱして銀河ぎんががいす」という”標準ひょうじゅんモデル”による理解りかいすすんでいます。このモデルでは、地球ちきゅう観測かんそくされる宇宙うちゅうせんスペクトルの形状けいじょう単調たんちょうべき(べき)がたのスペクトル*9予測よそくされます。しかし、近年きんねん気球ききゅう人工じんこう衛星えいせい、ISSによる直接ちょくせつ観測かんそくで、この予測よそくはんするすう100ギガ電子でんしボルトにおけるスペクトルの単一たんいつべきからのズレとして、スペクトルの硬化こうか報告ほうこくされています。これは”標準ひょうじゅんモデル”では理解りかいできない結果けっかであり、宇宙うちゅうせん加速かそく伝播でんぱ機構きこうモデルについてパラダイムシフトの必要ひつようせい示唆しさしており、その解釈かいしゃくをめぐって現在げんざい活発かっぱつ研究けんきゅうひろげられています。

このたびほん研究けんきゅうグループがCALETをもちいて観測かんそくしたエネルギー領域りょういきは、これまで磁気じきスペクトロメータ(PAMELA、AMS-02)とカロリメータがた検出けんしゅつ(ATIC、CREAM、NUCLEON、DAMPE)の2種類しゅるい検出けんしゅつによって別々べつべつにカバーされていました。CALETは宇宙うちゅう空間くうかんからはじめて、ぜん領域りょういき単独たんどく検出けんしゅつとして観測かんそくすることに成功せいこうしました。これまでの測定そくてい結果けっかでは、気球ききゅう搭載とうさいされたカロリメータがた検出けんしゅつによるテラ電子でんしボルト領域りょういき観測かんそく結果けっかは、エネルギー決定けっていむずかしさもあって比較的ひかくてきおおきなばらつきをっていました。磁気じきスペクトロメータによるやく1テラ電子でんしボルト以下いかでのこう精度せいど測定そくてい比較ひかくして、スペクトル全体ぜんたい総合そうごうてき理解りかい困難こんなん状況じょうきょうであったとえます。一方いっぽうで、ほん研究けんきゅうグループによるCALETの測定そくてい結果けっかは、この積年せきねん懸案けんあん事項じこう解決かいけつし、首尾しゅび一貫いっかんした実験じっけんてき描像をえがくことを可能かのうにします。信頼しんらいせいたか宇宙うちゅうせん陽子ようしスペクトルは、暗黒あんこく物質ぶっしつ間接かんせつ探索たんさく大気たいきおよび宇宙うちゅうニュートリノ、ガンマ線がんません天文学てんもんがくにも使用しようされる重要じゅうよう基礎きそデータでもあります。

ほん研究けんきゅう成果せいか国際こくさい学術がくじゅつ雑誌ざっし『Physical Review Letters』オンラインばんに2022ねん9がつ1にち)に掲載けいさいされました。また、ほん論文ろんぶん同誌どうしのハイライトとして“Editor’s Suggestion”えらばれています。

論文ろんぶん名称めいしょうObservation of Spectral Structures in the Flux of Cosmic-Ray Protons from 50 GeV to 60 TeV with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station.

(1) これまでの研究けんきゅうかっていたこと(科学かがくてき歴史れきしてき背景はいけいなど)

近年きんねん目覚めざましい発展はってんによりあきらかになってきた、エックス線えっくすせんガンマ線がんませんふく宇宙うちゅうにおけるこうエネルギー放射ほうしゃ最終さいしゅうてき理解りかいには、そのみなもととなっている荷電かでん宇宙うちゅうせん理解りかい必須ひっすとなります。これは、電波でんぱあかがい可視かしこうとう電磁波でんじはスペクトルがおもに、くろたい輻射ふくしゃ代表だいひょうされるねつてき放射ほうしゃ観測かんそくしているのにたいし、べきがたスペクトルによって特徴とくちょうづけられるねつてき放射ほうしゃ背景はいけいにはかなら宇宙うちゅうせん加速かそく伝播でんぱかくされているためです。

地球ちきゅうそそ宇宙うちゅうせん、そのなかでもとく銀河ぎんが宇宙うちゅうせん観測かんそくするには、大気たいき希薄きはくたか高度こうど直接ちょくせつとらえる(直接ちょくせつ観測かんそく)ことが不可欠ふかけつです。そのため、国内外こくないがい飛翔ひしょうたいもちいた様々さまざま装置そうち考案こうあんされ、観測かんそく実施じっしされてきました。この結果けっか、「超新星ちょうしんせい残骸ざんがいにおける衝撃波しょうげきはによって加速かそくされ、銀河ぎんが磁場じばによって拡散かくさんてき伝播でんぱして銀河ぎんががいす」という”標準ひょうじゅんモデル”による理解りかいすすんでいます。

さらに2000年代ねんだいはいってからは、素粒子そりゅうし実験じっけん開発かいはつされた粒子りゅうし検出けんしゅつ技術ぎじゅつ駆使くしして、南極なんきょく周回しゅうかい気球ききゅう宇宙うちゅうによるこう精度せいど観測かんそく実施じっしされています。その結果けっか陽子ようしふく主要しゅよう原子核げんしかく成分せいぶんたいして、”標準ひょうじゅんモデル”の予測よそくする単純たんじゅんべき形状けいじょうからのずれ「スペクトル硬化こうか」が示唆しさされています。これは宇宙うちゅうせん加速かそく伝播でんぱ機構きこうあらたな仮説かせつ導入どうにゅうした理論りろんモデルの必要ひつようせい示唆しさしており、すうおおくの理論りろんモデルが提案ていあんされ、活発かっぱつ議論ぎろんひろげられています。宇宙うちゅうせん主成分しゅせいぶんである陽子ようしやいくつかの原子核げんしかくについては、CALETの観測かんそくでもスペクトルの硬化こうかすで報告ほうこくしており、スペクトル硬化こうかこう精度せいど観測かんそく注目ちゅうもくあつまっています。

(2) 今回こんかい研究けんきゅうあらたに実現じつげんしようとしたこと、あきらかになったこと

陽子ようし宇宙うちゅうせん主成分しゅせいぶんであり、宇宙うちゅうにおけるこうエネルギー放射ほうしゃ理解りかいするかぎとして、もっとくわしく調しらべられてきました。2010年代ねんだいにはPAMELA衛星えいせい国際こくさい宇宙うちゅうステーション搭載とうさいAMS-02がともすうひゃくギガ電子でんしボルト領域りょういきにおけるスペクトル硬化こうか検出けんしゅつしました。こうエネルギーがわではカロリメータがた検出けんしゅつCREAMやATICなどの気球ききゅう観測かんそく結果けっかがあり、全体ぜんたいとしてスペクトル硬化こうかしめしているのですが、観測かんそくむずかしさから実験じっけんあいだによるばらつきがおおきくなっています。とく重要じゅうようこうエネルギーがわべきかんしては、カロリメータがた検出けんしゅつがAMS-02の測定そくていよりもさらにかたべき示唆しさしているものの、磁気じきスペクトロメータとの整合せいごうせいをチェックできるていエネルギーがわべき精度せいど測定そくていされておらず、エネルギー測定そくていにおける系統けいとう誤差ごさ可能かのうせいのこってしまっている状態じょうたいでした。

CALETはひろいエネルギー測定そくてい範囲はんい確実かくじつ装置そうち較正こうせいにより、磁気じきスペクトロメータとカロリメータがた検出けんしゅつによってカバーされていた領域りょういき単独たんどく検出けんしゅつとしてこう精度せいど観測かんそくすることに成功せいこうし、2019ねん論文ろんぶん*10でスペクトル硬化こうか観測かんそくしました。そのおなじカロリメータがた検出けんしゅつDAMPEによってこの結果けっか追認ついにんされています。今回こんかいほん研究けんきゅうグループによるCALETの観測かんそくでは、このエネルギー領域りょういきを10テラ電子でんしボルト以上いじょうまで拡大かくだいし、スペクトルの軟化なんか急激きゅうげききていることをこう精度せいど検出けんしゅつしています。

(3) 今回こんかい研究けんきゅうられた結果けっかおよ知見ちけん

CALETによって科学かがく観測かんそく開始かいしした2015ねん10がつ13にちから2021ねん12月31にちまでのデータをもちいて、測定そくていされた陽子ようしのエネルギースペクトルを1にしめしました(あかてん)。灰色はいいろのバンドはCALETの観測かんそくともな現時点げんじてんでの系統けいとう誤差ごさふくぜん誤差ごさです。今回こんかい観測かんそくは、CALETの前回ぜんかい陽子ようしスペクトル観測かんそくhttps://www.waseda.jp/top/news/64883:2019ねん5がつ発表はっぴょう)ののち発表はっぴょうされた、青色あおいろしめしたDAMPE実験じっけんとは絶対ぜったい誤差ごさ範囲はんいない一致いっちしています。

カロリメータによる原子核げんしかく測定そくてい独自どくじ利点りてんはあるもののむずかしさもおおきく、系統けいとう誤差ごさ見積みつもりも容易よういではありません。CALETでは、加速器かそくきビームによる性能せいのう検証けんしょう実験じっけんやシミュレーション計算けいさん駆使くしして詳細しょうさい系統けいとう誤差ごさ評価ひょうか実施じっししています。

今回こんかいのCALETの観測かんそくにおいて、50ギガ電子でんしボルトから60テラ電子でんしボルトという3けた以上いじょうにわたるひろいエネルギー領域りょういきでスペクトル構造こうぞうこう精度せいど観測かんそく達成たっせいし、あらたに10テラ電子でんしボルト領域りょういきでのスペクトル軟化なんか急激きゅうげきこっていることを検出けんしゅつしました。この結果けっかは、超新星ちょうしんせい残骸ざんがいでの宇宙うちゅうせん加速かそく機構きこうとく加速かそく最大さいだいエネルギー)や銀河ぎんがないでの宇宙うちゅうせん伝播でんぱ機構きこう解明かいめい重要じゅうよう貢献こうけん期待きたいできる観測かんそく結果けっかとして注目ちゅうもくされています。

(4) 研究けんきゅう波及はきゅう効果こうか社会しゃかいてき影響えいきょう

宇宙うちゅうせんほし進化しんか過程かてい生成せいせいされた元素げんそが、とくにその最終さいしゅう段階だんかい超新星ちょうしんせい爆発ばくはつなどにより宇宙うちゅう空間くうかんにばらかれ、超新星ちょうしんせい残骸ざんがい生成せいせいされた衝撃波しょうげきはによって加速かそくされるとかんがえられています。しかし、この衝撃波しょうげきは加速かそくやその宇宙うちゅう空間くうかんへの拡散かくさんなどについては、まだまだ不明ふめい部分ぶぶんおおく、その解明かいめいには宇宙うちゅうせんしょ成分せいぶんのエネルギースペクトルのこう精度せいど観測かんそく不可欠ふかけつです。

CALET は世界せかいはじめて宇宙うちゅう搭載とうさいされた宇宙うちゅうせんシャワーを可視かしできるカロリメータがた観測かんそく装置そうちです。CALET開発かいはつ以降いこうでは、同種どうしゅ観測かんそく装置そうちである中国ちゅうごくのDAMPE と米国べいこくのISS-CREAM がげられているます。カロリメータがた観測かんそく装置そうちたいして、磁石じしゃく採用さいようしたマグネットスペクトロメータがたのPAMELA とAMS-02 が、電荷でんか正負せいふ判定はんていによるはん粒子りゅうしふく観測かんそく現在げんざい成果せいかげています。カロリメータがた装置そうちは、電荷でんか正負せいふ判定はんていできないものの、エネルギー測定そくていがテラ電子でんしボルト以上いじょうまで可能かのうです。これにたいして、マグネットスペクトロメータがた装置そうちは、テラ電子でんしボルト領域りょういき以下いか観測かんそくかぎられています。このため、両者りょうしゃはおたがいの利点りてんかして相補そうほてき観測かんそく実施じっししています。こうしたなかで、CALETはこれまでこう精度せいど観測かんそく困難こんなん未開拓みかいたく領域りょういきであったテラ電子でんしボルト領域りょういきでの観測かんそくにおいて成果せいかをあげています。

ほん研究けんきゅうグループによる今回こんかい成果せいかは、宇宙うちゅうせん主成分しゅせいぶんである陽子ようし精密せいみつなスペクトル構造こうぞう観測かんそくしており、10テラ電子でんしボルト以上いじょうでのスペクトルの軟化なんかは、衝撃波しょうげきは加速かそく限界げんかいエネルギーについてあらたな知見ちけんあたえるだけでなく、あらたな加速かそく機構きこう検証けんしょうとしても重要じゅうよう発見はっけんであるとかんがえています。このように宇宙うちゅうせん研究けんきゅう宇宙うちゅう物理ぶつりがくおおきなテーマであり、宇宙うちゅう仕組しくみを理解りかいするじょう重要じゅうよう貢献こうけんをもたらします。さらに、宇宙うちゅうせんは、さまざまな元素げんそなく宇宙うちゅうから地球ちきゅうへもたらしており、宇宙うちゅうにおける物質ぶっしつ創成そうせい循環じゅんかん重要じゅうよう役割やくわりたしているとかんがえられています。したがって、その精密せいみつ情報じょうほうることは地球ちきゅう環境かんきょう理解りかいにとっても重要じゅうようであるとえるでしょう。

 (5) 今後こんご課題かだい

スペクトル硬化こうか現象げんしょう陽子ようしだけでなく炭素たんそ酸素さんそかんしては観測かんそくされました。ヘリウムにおいてもかくあたりすうひゃくギガ電子でんしボルトの領域りょういきにてべき変化へんか示唆しさされています。これまでの宇宙うちゅうせん加速かそく伝播でんぱ機構きこう理論りろんてき解釈かいしゃくでは、このエネルギー領域りょういきでのべき変化へんか説明せつめいすることがむずかしく、あらたな加速かそくand/or伝播でんぱ機構きこうによる解明かいめいいそがれています。CALETではヘリウムや発表はっぴょうじゅう原子核げんしかくでも、カロリメータがた検出けんしゅつによるこう精度せいど観測かんそく結果けっか今後こんご発表はっぴょうする予定よていです。

スペクトル硬化こうか原因げんいんとして提案ていあんされている理論りろんモデルの正否せいひ判定はんていには、ホウ素ほうそ/炭素たんそのエネルギー依存いぞんせい観測かんそく重要じゅうよう役割やくわりたします。炭素たんそ酸素さんそは、ほし元素げんそ合成ごうせい過程かてい生成せいせいされ、超新星ちょうしんせい爆発ばくはつともな衝撃波しょうげきは加速かそくされほしあいだ空間くうかん放出ほうしゅつされるいち成分せいぶんです。これにたいし、ホウ素ほうそいち成分せいぶん宇宙うちゅうせん銀河ぎんがない伝播でんぱちゅうほしあいだ物質ぶっしつ相互そうご作用さようしてできるてき成分せいぶんです。そのため、ホウ素ほうそ/炭素たんそ測定そくてい銀河ぎんがない伝播でんぱ拡散かくさん過程かてい定量ていりょうてき理解りかいするじょう重要じゅうようになるからです。CALETはすでホウ素ほうそ/炭素たんそテラ電子でんしボルト領域りょういきまでの観測かんそく実施じっししており、これまでの観測かんそく結果けっかからスペクトル硬化こうか解明かいめいへの貢献こうけん可能かのうになるとかんがえられます。

一方いっぽう超新星ちょうしんせい残骸ざんがいにおける衝撃波しょうげきは加速かそくは”標準ひょうじゅんモデル”の中心ちゅうしんてき仮説かせつであり、電荷でんか比例ひれいした加速かそく限界げんかい予言よげんします。超新星ちょうしんせい残骸ざんがい達成たっせい可能かのう最高さいこうエネルギーは典型てんけいてきに、陽子ようしで60テラ電子でんしボルトと見積みつもられています。しかしながら、地上ちじょうにて観測かんそくされた宇宙うちゅうせんの3ペタ電子でんしボルト付近ふきんでのスペクトルの軟化なんか(スペクトルの形状けいじょうあしひざているので、ニー:Kneeとばれている。) が示唆しさしているのは、超新星ちょうしんせい残骸ざんがいでの衝撃波しょうげきは加速かそく限界げんかいむかえ、宇宙うちゅうせん組成そせい電荷でんか比例ひれいしてけい原子核げんしかくからよりじゅう原子核げんしかくへシフトすることによる構造こうぞうかんがえられています。この間接かんせつ測定そくていによるKneeを、上記じょうき超新星ちょうしんせい残骸ざんがいモデルで理解りかい(できるかどうかをふくめて)するため、今回こんかい陽子ようしスペクトル軟化なんか観測かんそく決定的けっていてき役割やくわりたすことができます。

CALETは今後こんご、さらにデータを蓄積ちくせきし、またこうエネルギーがわでの系統けいとう誤差ごさらすことにより、じゅう原子核げんしかく成分せいぶん炭素たんそ酸素さんそてつなど)の10テラ電子でんしボルト(かくあたり)領域りょういきでの観測かんそくくわえて、100テラ電子でんしボルトをえるエネルギー領域りょういき陽子ようし・ヘリウムスペクトルを決定けっていすることで、電荷でんか比例ひれいする加速かそく限界げんかい検証けんしょう目指めざします。

(6) 用語ようご解説かいせつ

1:CALET(こうエネルギー電子でんしガンマ線がんません観測かんそく装置そうち

  • 2015ねん8がつ国際こくさい宇宙うちゅうステーションに搭載とうさいされ、同年どうねん10がつより宇宙うちゅうせん観測かんそく開始かいしした宇宙うちゅうせん電子でんし望遠鏡ぼうえんきょう「CALET」は、日本にっぽん宇宙うちゅうせん観測かんそくとしてははじめての本格ほんかくてき宇宙うちゅう実験じっけんで、すでに7ねん以上いじょう安定あんていてき観測かんそくおこなっています。こうエネルギー電子でんしこう精度せいど観測かんそく最適さいてきされたユニークな装置そうちですが、確実かくじつ電荷でんか決定けっていひろいエネルギー測定そくてい範囲はんいにより、陽子ようし原子核げんしかく成分せいぶん観測かんそくにも強力きょうりょく性能せいのうゆうしています。CALETのあるじとなる検出けんしゅつ装置そうちは「カロリメータ」とい、ここにんでくる宇宙うちゅうせんとらえて観測かんそくすることになります。カロリメータは、2のように3つのそうからできています。
  • 2のだい1のそう(CHD)では粒子りゅうし電荷でんか測定そくていし、入射にゅうしゃ粒子りゅうし電荷でんか測定そくていします。だい2のそう(IMC)では、おも粒子りゅうしんできた方向ほうこう測定そくていします。そしてもっともあつみのあるだい3のそう(TASC)で、宇宙うちゅうせん吸収きゅうしゅうされてしょうじる「シャワー」の発達はったつ様子ようすからその宇宙うちゅうせんのエネルギーや種類しゅるい特定とくていします。この3つのそうからられる情報じょうほう統合とうごうすることで、その宇宙うちゅうせんについてかなり広範囲こうはんい理解りかいすることが可能かのうかんがえています。とくだいさんそうあつさや使つかわれている物質ぶっしつ信号しんごう方法ほうほうによって、どれだけたかいエネルギーの粒子りゅうしまで観測かんそくすることができるかがまるのですが、CALETはとりわけここがCALET以前いぜん観測かんそく装置そうちくらべてたか性能せいのうっています。

2:電子でんしボルト

エネルギーの単位たんいです。1ボルトの電位差でんいさ抵抗ていこうなしに通過つうかしたさい電子でんしるエネルギーが1電子でんしボルトです。ここではその109ばいのギガ電子でんしボルト、1012ばいのテラ電子でんしボルト、1015ばいのペタ電子でんしボルトのエネルギー領域りょういきあつかっています。

3:宇宙うちゅうせん

宇宙うちゅう空間くうかんは、なにもないようにえますが、じつはとてもたくさんの粒子りゅうしんでいます。それらは原子げんしよりもさらにちいさい陽子ようし電子でんしなどの粒子りゅうしで、宇宙うちゅう空間くうかんをかざしたらいち秒間びょうかんに100以上いじょうにあたるほどたくさんんでいます。そのような粒子りゅうし宇宙うちゅうせんいます。宇宙うちゅうせんやく100ねんまえ発見はっけんされて以来いらいつね物理ぶつりがく最先端さいせんたんテーマでした。宇宙うちゅうせん研究けんきゅうから、陽電子ようでんし中間子ちゅうかんし発見はっけんなど、人類じんるい知識ちしきおおきくひろげる成果せいかがあがっています。宇宙うちゅうせんは、太陽たいようそらかわ銀河ぎんが地球ちきゅうがある銀河系ぎんがけい)など宇宙うちゅう様々さまざま場所ばしょからんできます。とくたかいエネルギーをもったものは、わたしたちがらす太陽系たいようけいそとからはるばるやってきています。

4:スペクトル

本稿ほんこうではすべてエネルギースペクトルの意味いみもちいています。よこじくをエネルギー、たてじくながれたばとしたをエネルギースペクトルといます。宇宙うちゅうせんスペクトルはべき形状けいじょうとなっていて、そのべき大体だいたい -2.7程度ていどですので、たかいエネルギーになるにつれ急激きゅうげきながれたば減少げんしょうします。

5:スペクトル硬化こうか

べき絶対ぜったいちいさくなる方向ほうこうのスペクトル変化へんかあらわし、エネルギーにたいするりゅうたば減少げんしょう割合わりあいっていくことをしめします。

6:スペクトル軟化なんか

スペクトル硬化こうかとはぎゃくに、べき絶対ぜったいおおきくなる方向ほうこうのスペクトル変化へんかあらわし、エネルギーにたいするりゅうたば減少げんしょう割合わりあいえていくことをしめします。

7:これまでのCALETによる宇宙うちゅうせんしょ成分せいぶん電子でんし炭素たんそ水素すいそてつ、ニッケルなど)の観測かんそく

8:宇宙うちゅうせん加速かそく

こうエネルギーの宇宙うちゅうせんがどこからきてどのように加速かそくされたのか(=たかいエネルギーをたのか)についてのもっとも有力ゆうりょく説明せつめいは、「超新星ちょうしんせい爆発ばくはつ」です。超新星ちょうしんせい爆発ばくはつとは、質量しつりょうおおきなほしがその一生いっしょう最後さいごこす爆発ばくはつで、そのとき甚大じんだいなエネルギーが放出ほうしゅつされます。そのエネルギーによって加速かそくされて地球ちきゅうまでんできた粒子りゅうしこうエネルギーの宇宙うちゅうせんだとかんがえられていますが、加速かそくされるメカニズムの詳細しょうさいについては、まだわからないてんおおのこされています。

9: べきがたスペクトル

変数へんすうxにたいしする分布ぶんぷ関数かんすうがxαあるふぁ になる分布ぶんぷを、べきαあるふぁべき関数かんすうがた分布ぶんぷびます。変数へんすうをエネルギー(E)にとった場合ばあいりゅうたば分布ぶんぷをエネルギースペクトルとい、宇宙うちゅうせんスペクトルはべき形状けいじょうとなっていて、Eγがんまあらわされます。べきはマイナスでγがんまは2.7程度ていどであるので、たかいエネルギ―になるにつれ急激きゅうげきながれたば減少げんしょうします。

電波でんぱあかがい可視かしこうとう電磁波でんじはスペクトルがおもに、くろたい輻射ふくしゃ代表だいひょうされるねつてき放射ほうしゃ観測かんそくしているのにたいし、べきがたスペクトルによって特徴とくちょうづけられるねつてき放射ほうしゃ背景はいけいにはかなら宇宙うちゅうせん加速かそく伝播でんぱかくされているためです。

10:2019ねん論文ろんぶん

雑誌ざっしめい:Physical Review Letters 122, 181102, 2019 (Highlighted as Editor’s Suggestion)
論文ろんぶんめいDirect Measurement of the Cosmic-Ray Proton Spectrum from 50 GeV to 10 TeV with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station

 (7) 論文ろんぶん情報じょうほう

雑誌ざっしめいPhysical Review Letters 129, 101102, 2022 (Highlighted as Editor’s Suggestion)
論文ろんぶんめいObservation of Spectral Structures in the Flux of Cosmic-Ray Protons from 50 GeV to 60 TeV with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station
著者ちょしゃめいO. Adriani et al. (CALET Collaboration), Corresponding Authors: K. Kobayashi, P.S. Marrocchesi, and S. Torii
DOI10.1103/PhysRevLett.129.101102
紙面しめん掲載けいさいVolume 129, Issue 10, 1 September 2022

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