政府は2日付で、2020年秋の褒章受章者775人(うち女性159人)と27団体を発表した。3日に発令される。
学術研究、芸術などの分野で活躍した人に贈られる紫綬褒章には、映画やテレビで幅広い役柄を演じる俳優の中井貴一さん(59)、「白い巨塔」など話題作を送り出してきた脚本家の井上由美子さん(59)ら17人が選ばれた。社会奉仕活動に長く従事した人への緑綬褒章には、「スーパーボランティア」として知られる尾畠春夫さん(81)ら17人と27団体が選出された。職業一筋に励んだ功績をたたえる黄綬褒章は270人、公益に尽くした人への藍綬褒章は471人だった。新型コロナウイルスの感染拡大で、天皇陛下による受章者との面会は中止が決まっている。
創作 境界を越えて…小説家 多和田葉子さん 60
「褒章にはいろいろな色があり、社会への奉仕の仕方によって色が違うそうです。紫は身分の高いお坊さんの着物の色というイメージがあり、わたしにはもったいない気がします」
ドイツに暮らして38年。言葉遊びやユーモアの好きな人らしく、拠点を置くベルリンから遊び心のある表現でコメントを寄せた。
東京生まれ。都立立川高時代に第2外国語として独語の勉強を始め、早大進学後も続けた。小説、戯曲、詩など多彩に執筆。2018年、架空の近未来日本を舞台にした「献灯使」の英訳版で、全米図書賞の翻訳文学部門を受賞するなど海外での評価も高めている。
「性の境界、文化の境界を越えた色彩豊かな小説の世界を、パンデミックで個人が隔離されがちな時代だからこそ、たくさんの方々に知っていただきたい」。人間を取り巻く様々な壁を越える創作を今後も続ける。
40年 父の背中追い…俳優 中井貴一さん 59
父は若くして亡くなった昭和のスター俳優、佐田啓二。その背中を追って俳優となり約40年。「必死に一つのことを継続する。その結果が今回のご褒美につながったのかと安堵しています。この褒章は無念にも早逝した父とともに受けさせていただきたい」と喜ぶ。
1981年に映画「連合艦隊」でデビュー、83年からのドラマ「ふぞろいの林檎たち」で地歩を固めた。シリアスな作品から、映画「記憶にございません!」(2019年)のようなコメディーまで、幅広い演技で存在感を発揮。日本アカデミー賞では「壬生義士伝」での最優秀主演男優賞を始め8度の受賞歴を誇る。
「仕事を通して少しでもお客様の心を癒やし、安らぎにつながるよう、ツールはデジタル、心はアナログをモットーとし、愚直にいつも通り生きてまいりたい」
俳優として、コロナ禍の世を明るく照らしたいと願う。
生涯 社会のために…環境保全奉仕者 尾畠春夫さん 81
2018年8月、山口県周防大島町の山中で行方不明になった男児を3日ぶりに見つけた。東日本大震災や熊本地震での活動と合わせ、「スーパーボランティア」として時の人に。その原点は、約30年前から地元・大分県の由布岳(1583メートル)で続けている登山道の整備と清掃活動にある。「やるべきことをやってきただけ」と控えめに語る。
同県別府市で鮮魚店を営みながら、健康のために40歳で登山を始めた。ボランティアの道に踏み出したのは50歳。登山道のベンチを修繕し、手製の竹の杖を登山者に配り、けがをして歩けなくなった人を背負って下山した。65歳で店を畳んだ後は、月のほとんどが山通いになったことも。
海洋プラスチックごみの問題を知り、昨年からは海岸でペットボトルの回収も始めた。「生きている限りボランティアを続けたい」。日焼けした顔で笑った。
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【紫綬褒章受章者】(敬称略、かっこ内は芸名など。年齢は発令日の3日現在)
尺八演奏家 善養寺恵介(56)▽脚本家 井上由美子(59)▽演出家 鵜山仁(67)▽東大教授 川崎雅司(58)▽東大名誉教授 神田秀樹(67)▽東大教授 後藤由季子(56)▽東大教授 小林修(61)▽漫画家 高橋留美子(63)▽日本舞踊家 田中裕士(藤間蘭黄)(57)▽小説家 多和田葉子(60)▽俳優 中井貴一(59)▽漆芸作家 西勝広(65)▽名古屋大名誉教授 高橋雅英(65)▽京大教授 高橋義朗(56)▽人形浄瑠璃文楽人形遣い 大西彰(吉田玉男)(67)▽大阪大教授 沢芳樹(65)▽岡山大教授 沈建仁(58)