ゲーセン｢大量たいりょう閉店へいてん｣の背後はいごにある本質ほんしつ的てきな変容へんよう

学校がっこうの帰かえり道みち、ゲーセンに寄よって、友達ともだちとだらだらした経験けいけんのある人ひとはいるだろうか？

筆者ひっしゃも中高なかだか時代じだい、そんな経験けいけんをした一人ひとりだ。音おとゲーが好すきな友人ゆうじんがいて、「maimai」というゲームをずっとやっているのを、横よこで見みていた。特とくに私わたしはお金かねを使つかうわけではなく、そこで友人ゆうじんとだべりながら、だらっとしていた。たまにやるのはアーケードのシューティングゲームで、「ハウス・オブ・ザ・デッド」をよくやっていた気きがする。

ただ、お金かねがたくさんあるわけではなかったから、2プレイぐらいして、それで帰かえる。思おもえば、1000円えんかからないぐらいで、だらっといられる、「せんべろ」ならぬ「せんだら」的てきな使つかい方かたをしていたなあ、と思おもう。

でも、そんな、ゲーセンは、もう戻もどってこないのかもしれない。実じつは、ゲーセンの倒産とうさんが相次あいつぎ、業界ぎょうかい全体ぜんたいが苦境くきょうに立たたされているのだ。

なぜ、ゲーセンは苦くるしいのか？　筆者ひっしゃは、それを、まさに今いまここで書かいたような「だらだらする空間くうかんとしてのゲーセン」という視点してんから考かんがえてみたい。つまり、「せんだら」的てき魅力みりょくの減少げんしょう、という観点かんてんだ。

先行さきゆき不安ふあんなゲームセンター業界ぎょうかい

まず、前提ぜんていとして、今いま、ゲーセンがどのような状況じょうきょうにあるのかを見みてみよう。

帝国ていこくデータバンクが4月がつ7日にちに発表はっぴょうしたデータによれば、ゲームセンターの倒産とうさんが過去かこ5年ねんで最多さいたとなったという。2年ねん連続れんぞくで倒産とうさん数すうは増加ぞうかしている。ゲームセンターの店舗てんぽ数すう自体じたい、10年間ねんかんで8000店てん近ちかく減少げんしょうしており、直近ちょっきん5年間ねんかんでは3割わり減げんだ。

【画像がぞう】苦境くきょうのゲーセン業界ぎょうかい。大手おおてでも国内こくないはジワジワ減少げんしょう、久ひさしぶりの海外かいがい出店しゅってんも…実態じったいをグラフなどで詳くわしく見みる（5枚まい）

一方いっぽうで、倒産とうさんしているのは、中小ちゅうしょうのゲームセンターだ、という話はなしもある。たしかに、昨今さっこんではゲーセンと言いえば、ショッピングモールなどに展開てんかいする大型おおがたチェーン店てんが浮うかぶ。床ゆか面積めんせきはこちらのほうが大おおきいわけで、そういう意味いみでは「二に極きょく化か」と言いってもよさそうに感かんじられる。

実際じっさい、東洋とうよう経済けいざいオンラインの記事きじ「ゲームセンターが『復活ふっかつ』を遂とげた意外いがいな背景はいけい」では、国内こくないのアミューズメント市場いちば規模きぼがコロナ禍かに入はいった2020年度ねんどに大おおきく落おち込こんだが、その後ご回復かいふくし、各社かくしゃの売上うりあげ高だかが、コロナ禍か以前いぜんの水準すいじゅんを上回うわまわるまでに復活ふっかつしていることを報ほうじている。

ただ、こうした「大型おおがたチェーン」も、視点してんをずらしてみると、安易あんいに順調じゅんちょうとは言いいがたい実態じったいが見みえてくる。

例たとえば、複ふく合あいアミューズメント施設しせつとして知しられる「ラウンドワン」は、アメリカでの事業じぎょうに支ささえられてV字じ回復かいふくを果はたした側面そくめんがある。また、国内こくない店舗てんぽ数すうはじりじりと減へっている一方いっぽう、アメリカ出店しゅってんは増ふえており、国内こくないよりもアメリカに市場いちばをシフトさせている現状げんじょうがあるのだ。

また、大手おおてゲームメーカーとして知しられていた「セガ」も、2022年ねんにゲームセンターの運営うんえい事業じぎょうから離はなれ、自社じしゃのゲームセンター運営うんえいをGENDAに引ひき渡わたした。この背景はいけいには、ゲームセンター市場いちばの先行さきゆきを不安ふあん視しする見方みかたがあったと考かんがえられる（ただし、後あとで解説かいせつするが、結果けっか的てきには「GiGO」として、好調こうちょうな出店しゅってんを続つづけてはいる）。

スクウェア・エニックス・ホールディングスの子会社こがいしゃである「タイトー」は、2023年ねんにアミューズメント施設しせつ「タイトーステーション」をフランチャイズ形式けいしきで、香港ほんこんに初はつ出店しゅってんすることを決定けっていした。興味深きょうみぶかいのが、11年ねんぶりとなる海外かいがい出店しゅってんということ。つまり、一度いちど撤退てったいを決きめた海外かいがい事業じぎょうに、ふたたび挑戦ちょうせんしようとしているのだ。

いずれにしても、ゲームセンターを巡めぐる状況じょうきょうは、先行さきゆきが不透明ふとうめいな状況じょうきょうだ。

苦境くきょうの理由りゆうはコスト面めんだけか？

この理由りゆうについては、すでにさまざまな指摘してきがある。電力でんりょく料金りょうきんの引ひき上あげや硬貨こうかの両替りょうがえ手数料てすうりょうによるコストの増加ぞうか、また、クレーンゲームの台頭たいとうによって、これまでの店舗てんぽ構成こうせいでは十分じゅうぶんな利益りえきが上あげられなくなった等ひとし……。

もちろん、コロナ禍かによる大だい打撃だげきもあった。しかし、実際じっさい、コロナ禍か2年ねん目めの2021年ねんには売上うりあげ高だかが復活ふっかつしていたこともあり、コロナでの打撃だげき以上いじょうに、このようなコスト面めんでの問題もんだいが大おおきな影響えいきょうを与あたえているといえる。

実際じっさい、帝国ていこくデータバンクによれば、ゲームセンターでは、100円えんの売うり上あげに対たいして利益りえきが6円えんというデータもあり、その厳きびしさがわかるだろう。

このように、コスト的てきな問題もんだいがある一方いっぽうで、筆者ひっしゃは、ゲームセンターの「空間くうかん的てきな価値かち」が減少げんしょうしてしまったのではないか、と考かんがえている。

「だらだら過すごす」空間くうかんとしてはもう厳きびしい…？

最近さいきん、筆者ひっしゃは、筆者ひっしゃ（26歳さい）と同年代どうねんだいか、それより下したぐらいの年齢ねんれいの人ひとを中心ちゅうしんに、彼かれらが都市としをどのように使つかっているのかを調しらべている。具体ぐたい的てきには、彼かれらがどのような場所ばしょで滞留たいりゅうしたり、居座いすわるのかを調しらべている。

その中なかで感かんじるのは、特とくに若年じゃくねん層そうを中心ちゅうしんに「せんだら」（1000円えん以内いないでだらだらできる場所ばしょ）を求もとめる人ひとが増ふえてきている、ということだ。

例たとえば、その需要じゅようにうまく乗のることができているのが、チェーン系けいのカフェ。特とくに都内とないの場合ばあい、どのカフェに行いっても混こんでいるが、これはある程度ていどの値段ねだんで長居ながいすることができるからだ。

東京とうきょうの場合ばあい、公園こうえんや広場ひろばなどでだらだらする場所ばしょがあまりなく、結果けっかとしてこうしたカフェがその受うけ皿ざらになっている。筆者ひっしゃがこれに関かんするポストをXでしたところ、大おおきな反響はんきょうがあり、これは多おおくの人ひとが思おもっていることのようだ。

若者わかものにとって「せんだら」需要じゅようをどのように満みたせるのかが重要じゅうようであり、そこにうまく適応てきおうできている店みせが強つよみを持もっていると感かんじている。

そして、この「せんだら」需要じゅようにうまく乗のれていないのが、昨今さっこんのゲームセンターなのではないかと思おもうのだ。

実じつは、ゲームセンターの歴史れきしをたどっていくと、そこは、若者わかものにとっての「せんだら」需要じゅようを満みたしていた場所ばしょだったことがわかる。ある時代じだいまで、ゲームセンターは若者わかものがぶらぶらと集つどい、コミュニケーションを取とる場所ばしょとして機能きのうしていたようだ。

加藤かとう裕康ひろやすは『ゲームセンター文化ぶんか論ろん』という本ほんの中なかで、かつてのゲーセンが若者わかものたちにとって、どのような場所ばしょだったのかを書かいている。

この中なかでは、ゲーセンに集たかった人々ひとびとが、お互たがいのことをハンドルネームで呼よび合あい、また、ゲーセンの中なかにあった「ゲーセンノート」というノートの中なかで若者わかもの特有とくゆうのコミュニケーションが生うまれてきた様子ようすが書かかれている。

若者わかものが集つどい、たむろする場所ばしょとしてゲーセンがあったことがわかる。

さまざまな若者わかものを受うけ入いれ続つづけてきたゲーセン

もちろん、ゲームセンターと一いち口くちにいってもその歴史れきしは古ふるく、その中なかでさまざまに変化へんかを遂とげつつ、そのたびに客層きゃくそうを変かえてきた。

1980年代ねんだいには、「スペースインベーダー」（1978年ねん）のヒットを受うけて、ゲームセンターが増殖ぞうしょく。一方いっぽうで、その店内てんないの薄暗うすぐらさも相あいまって「不良ふりょうの溜たまり場ば」としてのイメージを強つよく持もたれることになる。今いまでもSNSをたたけば、当時とうじの暗くらかったゲーセンで不良ふりょうにカツアゲされた思おもい出でを書かく人ひともいる。

治安ちあんという面めんでは望のぞましいことではないが、あるタイプの若者わかものたちの居場所いばしょにはなってきていたのだろうと思おもわされる（もちろん、不良ふりょうばかりがいたわけでもないが）。

そうした状況じょうきょうを受うけて、1990年代ねんだい以降いこうは「アミューズメント施設しせつ」へと舵かじを切きり、縦たて型がたのアーケードゲームやプリクラも増ふえてきた（先立さきだつ1985年ねんに風営法ふうえいほうが改正かいせいされたことが大おおきい）。

すると、今度こんどはプリクラを撮とるために女子高じょしこう生せいが集あつまる。また、1990年代ねんだいから、いわゆる「音おとゲー」も全盛期ぜんせいきを迎むかえ始はじめ、凄腕すごうでの「音おとゲーマー」がプレイする周まわりには、見物けんぶつ客きゃくが多おおく集あつまるようになった。ある種しゅのコミュニケーションがそこから生うまれ、「そこに行いくだけでなんだか楽たのしい」場所ばしょとして、ゲームセンターはあったと思おもう。

私わたしも友人ゆうじんがこぞってプレイしていたから、なんとなくわかるが、100円えんでけっこうじっくり遊あそべるのが「音おとゲー」だった。「せんだら」の文脈ぶんみゃくからいえば、1000円えんも持もっていけば、かなり満足まんぞくいくまで遊あそべるのが音おとゲーだったのではないか（ちなみに私わたしの友人ゆうじんは金持かねもちだったらしく、1000円えん以上いじょう使つかっていた。うらやましかった）。

いずれにしても、その客層きゃくそうは異ことなれど、若者わかものが集あつまる場所ばしょとしてゲームセンターは機能きのうしていたと思おもう。そして、それは、あまりたくさんお金かねを使つかうことなくいられる場所ばしょだったから、ということもあるだろう。

とはいえ、「せんだら」的てきな使つかわれ方かたは、やはり利益りえき率りつとして見みれば店みせ側がわにとっては、あまりうれしくないことも確たしかだ。

先さきほどの帝国ていこくデータバンクの報告ほうこくからもわかる通とおり、ゲームセンターの利益りえき率りつは100円えんにつき6円えん程度ていどという試算しさんも出でており、ただでさえ低ひくい利益りえき率りつで「だらだら」いられるのも困こまるだろう。実際じっさい、近年きんねんのゲームセンターはそうしたゲームの中なかでも売うり上あげを高たかく出だすことのできるクレーンゲームに移行いこうしているところも多おおい。

例たとえば、運営うんえい元もとの移動いどうに伴ともない、セガのゲームセンターが衣替ころもがえした形かたちのゲームセンター「GiGO」は、映画えいが配給はいきゅう会社かいしゃのギャガを子会社こがいしゃ化かし、積極せっきょく的てきにIPを活用かつようしたクレーンゲームの展開てんかいを行おこなっている。

そうすると、クレーンゲームの景品けいひんを目当めあてに行いく人々ひとびとが、たくさんお金かねをかけて、景品けいひんを取とろうとするから、当然とうぜんながら売うり上あげとしては優すぐれていることになる。これだけが理由りゆうではないだろうが、GiGOは積極せっきょく的てきにその出店しゅってんを伸のばしている。

ただ、そのようなゲーム筐体きょうたいの変化へんかが、結果けっか的てきには「だらだら」する場所ばしょとしての、ゲームセンターの価値かちを下さげているかもしれない……というのが筆者ひっしゃの考かんがえだ。

実際じっさい、現在げんざいのゲームセンターは、どちらかというと、「クレーンゲームでお金かねをたくさん使つかう場所ばしょ」として認識にんしきされているかもしれない。もちろん、現在げんざいでもゲームセンターにたむろする人々ひとびとはいるだろうが、過去かこから相対そうたい的てきに見みれば、そこでぶらぶらしたり、たむろすることがしづらい場所ばしょになっているのではないか。

クレーンゲームでは、100円えんで数すう秒びょうから数すう十じゅう秒びょうしか遊あそべない。1プレイ200円えんとなると、5回かいで1000円えんとなってしまう。これでは「コスパ」「タイパ」ともに最悪さいあくだ。そこがいかに楽たのしい場所ばしょだったとしても、「また行いこうか」とはなりにくいだろう。

「せんだら」空間くうかんとしての魅力みりょくをもう一度いちど考かんがえ直なおしてみてもいいのではないか

若年じゃくねん層そうに話はなしを聞きいていると、彼かれらがいかに「せんだら」の場所ばしょを求もとめているかがわかる。

例たとえば、シーシャ（水みずたばこ）屋やなどは、東京とうきょうに集中しゅうちゅうしており、なおかつ最近さいきんはその数かずも横よこばいになってきてはいるものの、そうしたニーズをうまく満みたしているような気きもする。それ以外いがいにも、銭湯せんとう（サウナ）やカフェなどで、彼かれらはなんとなく、だらだら過すごしている。

もちろん、今いまでもゲームセンターでだらだらする若者わかものはいるし、ゲーセン自体じたいに魅力みりょくがないわけでもない。短期たんき的てきな利益りえきも重要じゅうようではあるが、やはりその空間くうかんとしての価値かちを見直みなおすことが、業界ぎょうかい全体ぜんたいの底上そこあげにもなるのではないか。

もちろん、そうしたゲームセンターがまったくないわけではないし、例たとえば、ショッピングモールを中心ちゅうしんに出店しゅってんを伸のばすイオンモール系列けいれつ「モーリーファンタジー 」などはショッピングモールでだらだら過すごす人々ひとびとの、「せんだら」的てきニーズを満みたす場所ばしょになっているかもしれない。

ゲームセンターの先行さきゆきが不透明ふとうめいな時代じだいだからこそ、逆ぎゃくに、もう一度いちど、これまでゲームセンターが担になってきた「空間くうかん的てきな価値かち」を問とい直なおすことも必要ひつようではないか。