心臓には左心房、左心室、右心房、右心室――の四つの部屋があり、それぞれの出口には扉のように開閉する弁がある。左心房出口の「僧帽弁」がうまく閉じず、血液が左心室から逆流する「僧帽弁閉鎖不全症」は患者数が多く、米国の75歳以上の約1割が中等度以上の患者との報告もある。(竹井陽平)
◆重症化で心不全
この病気になると、全身に十分な血液を送り出すことができず、息切れや呼吸困難が起こりやすくなる。重症化すると心不全に陥る。
僧帽弁につながる「
腱索
」が延びたり、切れたりすることが原因になることが多い。手術で弁や腱索を縫合するなどして、機能を回復する「僧帽弁形成術」が有効な治療法だ。
◆主治医が遠隔操作
従来の開胸手術は、胸の真ん中の骨を大きく縦に切るため、患者の体の負担が大きかった。2018年、僧帽弁などの形成術に対して、米国製の手術支援ロボット「ダビンチ」を使った手術が保険適用された。
この手術では、操作台に座った執刀医が3D画面を見ながら、
鉗子
などの道具を取り付けたロボットの腕を遠隔操作する。手術に必要な傷は最大でも約4センチで患者への負担が小さく、精密な手術が行える。
奈良県の男性(67)は昨年2月の人間ドックでこの病気がわかり、同年6月、大阪公立大病院(大阪市阿倍野区)で手術を受け、8日後に退院した。今はゴルフや旅行を楽しめるまで回復し、「丁寧な説明で納得し、手術を決めた。日常生活に早く復帰でき、本当に感謝している」と語る。
◆35の認定施設
「ロボット心臓手術関連学会協議会」は、年間の手術件数などに基づく認定制度を設け、これまでに全国の大学病院など35施設が認定されている。
協議会委員長の柴田利彦・大阪公立大心臓血管外科教授は「心臓手術では人工心肺装置を使い、患者の心臓を止めて行う。このため、時間の制約があり、より高い安全性が求められる。ロボット心臓手術を安全で精度の高い手術として普及していきたい」と話す。