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筆者は電気自動車(EV)が苦手だ。これまで何度もEVに試乗してきたが、一度も所有したいと思ったことがない。そんな筆者だが、先日ドイツでアウトバーンを300km走らせる機会があった。あれだけEVが苦手だったが、「ごめんなさい、これならEVありかも」と思わず口に出ていた。ある一定の環境であれば、EVの魅力に気づく瞬間があったのだ。
筆者は、古いタイプのクルマ好きだと自覚している。エンジン車が大好物。エンジンは高回転まで回したいし、大排気量の自然吸気(NA)エンジン車に乗ると興奮する。「クルマは自分で変速してなんぼでしょ」タイプで、これまで所有してきた4台のうち3台は手動変速機(MT)車だ。
MT車の運転席
新車で買えるMT車は年々少なくなってきている。(写真:日経Automotive)
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ただ普段は、自動車担当記者として、仕事で最新のEVに乗ることが多い。試乗するたびに、まだまだエンジン車が好きだなと感じさせられる。その理由を幾つか紹介する。
1つは、違和感を覚える加速だ。モーター駆動だと、アクセルを踏んだ瞬間から最大トルクを発生できる。加速の立ち上がりが速すぎて体がついていかない。車種によっては無音で加速していく。普段、エンジン回転数の上昇する音と連動して加速する従来のエンジン車に慣れているため、無音で急激にトルクが出るEVではすぐに酔ってしまう。ハンドルを握っていないときはもちろん、自ら運転しているのにクルマ酔いすることも少なくない。
2つ目は、充電が面倒くさいことだ。エンジン車であれば5分もせずに給油できるところを、EVは急速充電でも約20~30分かかる。一般家庭なら夜通し充電器に差しておかないと電池容量がいっぱいにならない。筆者は現在、EV充電器のない集合住宅に住んでいるため、充電器のあるところまでわざわざ走り、充電中は時間を潰す必要がある。正直、面倒だ。航続距離だって、同車格のエンジン車よりも短いことがほとんどだ。
これらの理由から、自分がEVを所有するのはまだ先、エンジン車がなくなるまで乗り続けたいと思ってきた。
ドイツでアウトバーンを走行
そんなある日、筆者はドイツAudi(アウディ)の取材会に参加するため、ドイツのミュンヘンを訪れた。取材会のあと、ニュルンベルクに行くことになった。EV向けの充電施設「Audi charging hub(アウディ チャージングハブ)」(以下、チャージングハブ)を見学するためである。ミュンヘン空港からニュルンベルクへ往復約300kmの道のりを、日本のメディア関係者たちと交代しながらEVを走らせる。
Q8 Sportback e-tron
多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVである。(写真:日経Automotive)
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試乗したのはAudiの上級EVである「Q8 Sportback e-tron」と「SQ8 Sportback e-tron」だ。走行の約7割は高速道路アウトバーン、残り3割が市街・郊外路だった。
EVの魅力を特に感じたのがアウトバーンでの試乗だった。アウトバーンは速度無制限区間が幾つも設定されている。せっかくなので同区間で、アクセルを踏み込み200km/hまで加速してみた。
SQ8 Sportback e-tron
アウトバーンを走行してみた。(写真:日経Automotive)
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