日本にっぽん代表だいひょうするデザイナーの一人ひとり三宅みやけ一生かずおさんが8がつ5にちくなりました。84さいでした。三宅みやけさんには生前せいぜん、「日経にっけいデザイン」において、たか美意識びいしきとクリエーティビティーの重要じゅうようせいかたっていただきました。追悼ついとうめて、2011ねん4がつごう掲載けいさいした「ふたた世界せかいへ! 日本にっぽんのモノづくりがやるべきこと」を再掲さいけいいたします。つつしんでご冥福めいふくをおいのりします。

新店舗のオープン準備で指揮を執る三宅一生氏(2011年撮影)
しん店舗てんぽのオープン準備じゅんび指揮しき三宅みやけ一生かずお(2011ねん撮影さつえい

 日本にっぽんのモノづくりが価値かちつたえていこうというプロジェクトが2010ねんあき世界せかいおどろきと賞賛しょうさんをもってむかえられた。素材そざいつくるのは、繊維せんいメーカーの帝人ていじんファイバー。同社どうしゃのケミカルリサイクル技術ぎじゅつもちいて、3ねん以上いじょう月日つきひをかけてつくられた再生さいせいPETの繊維せんいである。この素材そざい使つかうのは、デザイナーの三宅みやけ一世かずよひきいるしょう人数にんずう研究所けんきゅうじょ「Reality Lab.(リアリティ・ラボ)」だ。研究所けんきゅうじょでの実験じっけん試作しさくから、三宅みやけは「132 5. ISSEYMIYAKE 」というあらたなブランドを設立せつりつあらたなモノづくりの方法ほうほうろん世界せかいはじめた。

日本にっぽんのモノづくりをさい創造そうぞう

 2010ねんあきどうブランドが発表はっぴょうしたふくが、「りたためるふく」だ。まるでフラクタルのようにりたたまれた1まいぬの一部いちぶをつまみげると、スカートやワンピースなどが3次元じげん形状けいじょうとなりがる。2次元じげんから3次元じげんへと劇的げきてき変貌へんぼうげるそのうごきは、ファッションというよりもプロダクトデザインをおもわせるつくかただ。国内外こくないがいわずすうおおくのデザインでこのふくげられ、すでに4度目どめ商品しょうひんデリバリーをしているが、顧客こきゃく要望ようぼういつかない状態じょうたいだ。

 ただ、このブランドにおおくのひと注目ちゅうもくするのは、かたちうごきにたいするおどろきだけではない。「『再生さいせい』の技術ぎじゅつから、日本にっぽんのモノづくりの未来みらいを『さい創造そうぞう』していこう」という三宅みやけおもいのした日本にっぽん技術ぎじゅつ知恵ちえ結集けっしゅうしたプロジェクトであるというてんに、おおきな意義いぎ見出みいだしている。

 たとえば、「オリジナルのうつくしい「おり」の造形ぞうけいをつくり過程かていでは、筑波大学つくばだいがくでシステム情報じょうほう工学こうがく専門せんもんとする三谷みたにじゅん先生せんせい研究けんきゅう着想ちゃくそうた」。そしてこのかたちは、帝人ていじんファイバーがした、しなやかだがかるくてこしのあるいとだからこそつくれたかたち。「ただ再生さいせい素材そざい活用かつようするというのではなく、素材そざい特性とくせいかすことでより魅力みりょくてき商品しょうひんせた」(三宅みやけ

 そして「いとるのは福井ふくい富山とやま石川いしかわめて、山形やまがたっていきじんる。さらにそれをチェックするのが我々われわれのいる東京とうきょうで、必要ひつようならば最終さいしゅうてき箔押はくお加工かこうほどこすのが大阪おおさか」と、すべて日本人にっぽんじん製品せいひんす。糸作いとづくりから最終さいしゅうてき加工かこうまでのすべての工程こうていにおいて、リアリティ・ラボのスタッフとかく生産せいさん現場げんば製品せいひんしつたかめるために知恵ちえい、丁寧ていねいなモノづくりをこころみた。

つね現場げんば意識いしき

 三宅みやけは、1970ねん三宅みやけデザイン事務所じむしょげて以来いらい日本にっぽんから世界せかいいどつづけることを40ねんにわたってつづけてきた。一貫いっかんして世界せかいたたかうためのじゅつとして意識いしきしてきたのが「つね現場げんばくこと」と、商品しょうひん提案ていあんするための「戦略せんりゃく」である。

 1960年代ねんだいまつ、パリやニューヨークから日本にっぽんかえってきたとき、日本にっぽん繊維素せんいそざい劇的げきてき進化しんかしていたことにおどろいた三宅みやけは、「あたらしい時代じだいふく素材そざいからオリジナルで開発かいはつはじめないかぎつくれないだろうとかんじた」とう。そして「自分じぶんなりのアイデンティティーと、世界せかいへの勝負しょうぶじゅつもとめ、日本人にっぽんじんだからこそつくれる素材そざい研究けんきゅうはじめた」のだ。

 実際じっさいのモノづくりの現場げんばみずかたずあるいた。新潟にいがたをはじめ群馬ぐんまけん桐生きりゅう岡山おかやまなど、日本にっぽんちゅうまわり、しま木綿もめん小千谷おじやちぢみ、しじらり、桐生きりゅうりなど素材そざい研究けんきゅうかさね、現場げんば職人しょくにん現代げんだいてきふく使つかえる素材そざい開発かいはつおこなった。その姿勢しせいは、「1325. ISSEY MIYAKE」でのモノづくりにおいてもわらない。

 モノづくりの現場げんばだけではない。三宅みやけわかいスタッフたちに「ひとあつまるところにくことを意識いしきさせている」。人々ひとびとがどのようにふくるか。消費しょうひ現場げんばつね意識いしきすることをもとめている。

すうおおくのファンを輩出はいしゅつ

 「Tてぃーシャツやジーンズのようにたくさんのひと使つかってもらえる、時代じだいのニーズにこたえる衣服いふくつくろう」とのおもいでふくづくりをつづけてきた三宅みやけひとのことをとく意識いしきすることになったのが、プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(以下いかプリーツ プリーズ)をつくるきっかけにもなった、1991ねんのウィリアム・フォーサイスとフランクフルト・バレエだん公演こうえんけてコスチュームをデザインしたときだった。

 「この公演こうえんでのダンサーたちきしていて、これまでのように着飾きかざるのではなく本能ほんのうてきうごきやすくて着心地きごこちのいいふくもとめていた。それにおうじて衣装いしょう用意よういすると、ふく感想かんそうかたまえに、みなうばうように興味きょうみあるふくをさっとてしまう。ダンサーたちが面白おもしろがっててくれる様子ようすて、これこそがデザインだと直感ちょっかんした。それまでは、コンセプトづくりにいそがしかったが、ひとのためにふくつくらなくてはならない、ということをあらためて意識いしきした瞬間しゅんかんだった」。

 そしてこの経験けいけんから、かるくてコンパクトに収納しゅうのうできすぐかわく、そして心地ここちくフィットして価格かかくごろという条件じょうけんみちびしてつくったのが、プリーツ プリーズだったのだ。

 プリーツ プリーズを提案ていあんしたとき、「これからの女性じょせいには、するするっといで、ぱっぱとられるふく必要ひつよう時代じだいているんだと説明せつめいしても、社内しゃないですら賛成さんせいしてくれたのはわずか1人ひとりだけだった」。しかし、結果けっかてきにプリーツ プリーズは、イッセイ ミヤケの基幹きかんブランドに成長せいちょう消費しょうひしゃ生活せいかつつねい、そのニーズをとらえながら技術ぎじゅつ研究けんきゅうとクリエーティブの研鑽けんさんつづけてきたからこそだ。

 プリーツ プリーズにとどまらず、つくしゅ立場たちばち、素材そざい研究けんきゅうかさねてつくられた三宅みやけふく世界中せかいじゅう根強ねづよいファンを数多かずおおんだ。「ロンドンあたりにくと、20ねんまえわたしつくっていた、ウインドコートをているひといまでもう」。また、建築けんちくのリチャード・ロジャースは、わざわざ東京とうきょう三宅みやけのアトリエをおとずれて、すでつくられていないむかしのコートをもとめにた。フランスの政治せいじのジャック・ラング、シャルロット・ペリアンすうおおくの著名ちょめいじんが「むかしつくっていたあのふくはないのか」と三宅みやけのもとをおとずれたとう。

るための戦略せんりゃくかんがえているか

 ただモノづくりにとって大事だいじなことは、製品せいひん製造せいぞうすることだけではない。世界せかいみずからのブランドを発信はっしんしてくのなら、海外かいがい事情じじょう理解りかいしたうえでのビジネス戦略せんりゃく必要ひつようだ。

 商品しょうひん発表はっぴょうし、るタイミング1つをとっても、細心さいしん注意ちゅういはらわなくてはならない。服飾ふくしょく産業さんぎょうれいにとると、世界せかい主要しゅようコレクションがわってしまったときにはバイヤーはもう予算よさん使つかたしている。つまり、海外かいがいのコレクションの時期じきぎてしまっては、どんなに商品しょうひんつくっても世界せかいではれないことを意味いみする。また近年きんねんでは、1ねんに2かい主要しゅようコレクションの3カ月かげつほどまえに「クルーズコレクション」とばれる、商品しょうひん先行せんこうてき発表はっぴょうするがある。商品しょうひんをいちはやくデリバリーすることをバイヤーや消費しょうひしゃもとめるうごきが近年きんねんつよまるなか、こうしたコレクションに注目ちゅうもくあつまっており、このうごきにいかにわせるかがわれはじめている。

 また、世界せかい認知にんちされるためにもう1つ必要ひつようなのが、いかに人々ひとびと印象いんしょうのこるプロモーションをおこなうかとうことだ。「132 5. ISSEY MIYAKE」の発表はっぴょうで2次元じげんが3次元じげんになる、たためる洋服ようふくをまず発表はっぴょうしたのも「デザインには、かならずサプライズや感動かんどう必要ひつよう」とかんがえるから。今後こんごどうブランドでは、再生さいせいPET素材そざいかるさと風合ふうあいのさをかし、一層いっそうシンプルでおおくのひとられるふく展開てんかいしていく。ふく実用じつようてきでなければならない。だが一方いっぽうでサプライズもなければつまらない。そのバランスをどのようにりながら、世界せかいとコミュニケーションをはかるか。三宅みやけは、その戦略せんりゃく実践じっせんにもいどむ。

美意識びいしきのあるモノづくりと経営けいえい

 「132 5. ISSEY MIYAKE」が目指めざすのは日本にっぽんのモノづくりの未来みらいさい創造そうぞうすること。ただ、その過程かていで、三宅みやけは、現在げんざいのモノづくりがかかえるすうおおくの問題もんだいったとう。

 りやめ、和紙わし加工かこうなどすうおおくの地場じば産業さんぎょう工場こうじょうあしはこんできた三宅みやけは「地場じば工場こうじょうつよみは、加工かこう機械きかいこまかいチューニングをはじめ、既存きそん加工かこう創意そうい工夫くふうかさねていままでにない製品せいひん表現ひょうげんしてきたところにある」とる。「進歩しんぽしよう進歩しんぽしようと努力どりょくかさねてのこってきた」のが、日本にっぽん産地さんちだった。しかし、三宅みやけ一緒いっしょにモノづくりをおこなってきた工場こうじょうは、高齢こうれいや、近隣きんりん諸国しょこくとのコスト競争きょうそうなどの問題もんだいからすこしずつえつつある。

 わりに台頭たいとうしてきたのが、コスト重視じゅうしのモノづくりの姿勢しせいだ。三宅みやけは「132 5. ISSEY MIYAKE」の商品しょうひんとして、1まいぬのから3次元じげんがる、ふくおな構造こうぞう照明しょうめい開発かいはつした。しかし「肝心かんじんのライトの部分ぶぶんに、この構造こうぞうかせるうすいものがいくらさがしてもない。コードもふといものばかりで、かるさを演出えんしゅつしようとおもってもできない」となげく。

 現在げんざい流通りゅうつうシステムがもとめるのは、ていコストで、ある程度ていど品質ひんしつのモノづくり。しかし三宅みやけは「世界せかい通用つうようするものをつくろうとするならば、たか美意識びいしきち、ゆたかな経験けいけんんだ消費しょうひしゃのことをかんがえなくてはならない。そのてんかんして日本にっぽんのモノづくりはおくれている。たか技術ぎじゅつつとっても、たか美意識びいしきこたえられなければ、『なかくらいにい』程度ていどのモノづくりしかできない」。デバイス開発かいはつめんからも、美意識びいしきったモノづくりがあってこそ、はじめて一流いちりゅうべるようになると三宅みやけかんがえる。

いま自分じぶんたちを「うたがう」ことが大切たいせつ

 そんな一流いちりゅうのモノづくりを実現じつげんするために必要ひつようなのは、経営けいえいしゃたか意識いしきだ。かつては経営けいえいしゃにも独自どくじ美意識びいしきったひと数多かずおおくいたとう。「ソニーの創業そうぎょうしゃ盛田もりた昭夫あきおさんとは1ねんに1かい年末ねんまつにおいして、つぎとし製品せいひんせてもらっていた。そのなかにあったのが、ウォークマン。盛田もりたさんは、なかまえかなら我々われわれのようなクリエーターにプレゼンテーションをした。自社じしゃ製品せいひんたいして、なぜ、どういう目的もくてきでこういうものをつくったのかを理解りかいしていたし、またそのためにどうするべきかについて、非常ひじょう研究けんきゅう熱心ねっしんだった」

 盛田もりただけではない。盛田もりた三宅みやけ依頼いらいしてソニーのユニフォームをつくったが、そのユニフォームをて、すぐに三宅みやけのもとにやってたのがスティーブ・ジョブズ時代じだいつく経営けいえいしゃは、デザインやクリエーティビティーの重要じゅうようせいはだかんじていたのだ。

 たか美意識びいしきとクリエーティビティーを活用かつようしてつぎ時代じだいつく経営けいえいしゃが、これからの日本にっぽんまれてほしいと、三宅みやけつよねがう。「元来がんらい日本人にっぽんじんほど創意そうい工夫くふうねばづよ研究けんきゅう開発かいはつおこない「つくる」ことにひいでた国民こくみんはいない。きとして、活動かつどうよろこびを見出みだせる社会しゃかい再生さいせいさい創造そうぞうするには、モノづくりをわたしたちの文化ぶんかとして強力きょうりょくし、成果せいか世界せかい発信はっしんすることこそがもとめられるのではないか」。

 そのために必要ひつようなことはなにか。三宅みやけはこうう。「まずいま自分じぶんたちを『うたがう』ことが必要ひつようだろう。デザインとは、いまあるものを『うたがう』ことからはじまるのだから」。

※「日経にっけいデザイン」2011ねん4がつごう特集とくしゅう経営けいえいしゃ7にんがデザインを正面しょうめんからかたる」から、三宅みやけ一生かずおさんの「ふたた世界せかいへ! 日本にっぽんのモノづくりがやるべきこと」をさい編集へんしゅう

写真しゃしん谷本たにもと なつ

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