日本にっぽんの購買こうばい力りょく平価へいかは高たかくない

アベノミクスの第だい1の矢やの金融きんゆう緩和かんわで、円えんが下さがり、株かぶが上あがり、輸出ゆしゅつが増ふえ、企業きぎょう業績ぎょうせきが好転こうてんし、雇用こようが拡大かくだいし、賃金ちんぎんが上昇じょうしょうし、物価ぶっかも上あがるという兆きざしが見みえてきた。日本にっぽんは、ついに失うしなわれた20年ねんから脱却だっきゃくできるかもしれない。だが、この変化へんかを喜よろこばない人ひともいる。

安倍晋三あべしんぞう総理そうりのイデオロギーが気きに入いらないから喜よろこばないという人ひともいるかもしれない。しかし、金融きんゆう緩和かんわで景気けいきが良よくなるのは当あたり前まえのことで、右みぎであれ左ひだりであれ、誰だれが金融きんゆう緩和かんわをしようが景気けいきは良よくなるのである。

景気けいきが良よくなるのが気きに入いらないという人ひとに政権せいけんは取とれない。景気けいきが良よくなるとは、すべての人ひとが得とくをするということである。企業きぎょうは利益りえきの上昇じょうしょうで、労働ろうどう者しゃは雇用こよう拡大かくだいと賃上ちんあげで、政府せいふは税収ぜいしゅう増ぞうで得とくをする。税収ぜいしゅう増ぞうは、政治せいじ家かにとって自分じぶんの支持しじ者しゃに予算よさんを配くばれるということである。マスコミも広告こうこく費ひの増加ぞうかで得とくをする。損そんをする人ひとはいない。

景気けいきが良よくなるのが嫌きらいでは、ごく少数しょうすうの支持しじ者しゃしか得えられないだろう。イデオロギーで金融きんゆう緩和かんわが気きに入いらないという人ひとには、このことをまず認識にんしきしていただきたい。でなければ、左派さはは永遠えいえんに政権せいけんを取とれないだろう。

景気けいきが良よくなるのは皆みなが得とくをするのだから良よいことで、安倍あべ総理そうりがするのが気きに入いらないというのなら、自分じぶんですれば良よかっただけだ。それができなかったのは自分じぶんの不徳ふとくと反省はんせいしていただかなくてはならない。しかも、安倍あべ総理そうりは、官僚かんりょうの勧すすめで金融きんゆう緩和かんわを実現じつげんさせたわけではない。日銀にちぎん官僚かんりょうをはじめとする多おおくの勢力せいりょくの反対はんたいを押おし切きって実現じつげんさせたのである。

さらに、金融きんゆう緩和かんわの必要ひつよう性せいを認識にんしきしている黒田くろだ東ひがし彦総裁そうさいと岩田いわた規久男きくお副ふく総裁そうさいを任命にんめいし、継続けいぞく的てきな緩和かんわを確実かくじつなものとした。これは日銀にちぎんに騙だまされていたこれまでの政治せいじ家かにはできなかったことで、間違まちがいなく安倍あべ総理そうりの個人こじん的てき業績ぎょうせきである。しかし、なぜか金融きんゆう緩和かんわが気きに入いらないという議論ぎろんがさまざまに繰くり返かえされる。

日本にっぽんの購買こうばい力りょく平価へいかは、ビッグマックレートで見みれば円えん安やすすぎるという議論ぎろんがある。この意味いみするところは、すでに円えん安やすすぎるから、金融きんゆうを緩和かんわして円えん安やすにするなどとんでもないということだ。さまざまなところで聞きいた話はなしなので、発信はっしん源げんは同おなじだと思おもうが、日本にっぽんのビッグマック（320円えん）がアメリカ（4.37ドル）と同おなじ値段ねだんになるレートは１ドル＝73円えん22銭ぜに（320÷4.37＝73.22）となる。だから、90円えんを超こえるレートは円えん安やす過すぎる。アベノミクス以前いぜんの80円えんを切きる円えんレートでも少すこしも円えん高だかではないという。

しかし、なぜビッグマックだけなのか。すべての財ざい・サービスの価格かかくを考慮こうりょした購買こうばい力りょく平価へいかによると、円えんレートは少すこしも安やすくない。

下図したずは、フランス、ドイツ、イタリア、日本にっぽん、韓国かんこく、台湾たいわん、イギリス、アメリカ、中国ちゅうごくについて、IMFが計算けいさんした購買こうばい力りょく平価へいかと通常つうじょうの為替かわせレートを示しめしたものである。これによると、日本にっぽんの為替かわせレートが79.3円えん／ドルのときに、購買こうばい力りょく平価へいかは102.8円えんである。

購買こうばい力りょく平価へいかとは、すべての財ざい・サービスの価格かかくを考慮こうりょしたものだから、平均へいきんの平価へいかと言いえる。ということは、日本にっぽんのマクドナルドは他たのものに比くらべて、きわめて安やすくビッグマックを売うっているということだ。安やすく売うりながら、高たかい利益りえきも上あげている。これは、マクドナルドの効率こうりつが高たかいということだ。

為替かわせレートが79.3円えんとは、日本にっぽんの製造せいぞう業ぎょうは投入とうにゅうコストの平均へいきんが102.8円えんのときに、79.3円えんで海外かいがい企業きぎょうと勝負しょうぶしなければならないということだ。これは可哀かわいそうで、不公平ふこうへいではないかとわたしは思おもう。

しかも、海外かいがいの為替かわせレートと購買こうばい力りょく平価へいかの関係かんけいを見みると、先進せんしん国こくは皆みな、購買こうばい力りょく平価へいかの方ほうが為替かわせレートより高たかいが、その差さは大たいしたことはない。日本にっぽんだけが、102.8円えんと79.3円えんと23.5円えん、すなわち29.6％ものハンディを負おっている。しかも、韓国かんこくを見みると、為替かわせレートが1137ウォン／ドルに対たいして、購買こうばい力りょく平価へいかが807ウォン／ドルと、購買こうばい力りょく平価へいかより為替かわせレートの方ほうが割安わりやすなのだ（韓国かんこくのレートは、作図さくずのために、図ずの縦たて軸じくでの値ねを10分ぶんの1にしてある）。

韓国かんこくの輸出ゆしゅつ企業きぎょうは、国内こくないの投入とうにゅうコストが807ウォンのときに1137ウォンで海外かいがい企業きぎょうと勝負しょうぶすれば良よいということになる。これでは日本にっぽん企業きぎょうがかなわないのは当然とうぜんだ。為替かわせレートと購買こうばい力りょく平価へいかの逆転ぎゃくてんは、韓国かんこくだけではなく、台湾たいわん、中国ちゅうごくにも共通きょうつうである。日本にっぽん企業きぎょうは大変たいへんなハンディを背負せおって輸出ゆしゅつをしている。

日本にっぽんは円えん高だかで大変たいへんだというが、実質じっしつ実効じっこう為替かわせレートで見みると円えん高だかではないという人ひともいる。実質じっしつ為替かわせレートとは、各国かっこく間あいだの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの違ちがいを調整ちょうせいした為替かわせレートだ。為替かわせレートが上昇じょうしょうしても、自国じこくの物価ぶっかが他国たこくに比くらべて下さがれば、国際こくさい競争きょうそう力りょくは低下ていかしない。だから国際こくさい競争きょうそう力りょくは、実質じっしつ為替かわせレートで見みるべきで、実質じっしつ為替かわせレートで見みれば日本にっぽんの為替かわせは上あがっていないのだから心配しんぱいすることはないと言いうのである（なお、実効じっこう為替かわせレートとは日本にっぽんの貿易ぼうえき相手あいて国こくのウエイトを勘案かんあんして調整ちょうせいした為替かわせレートである。だから、実質じっしつ実効じっこう為替かわせレートとは、日本にっぽんの貿易ぼうえき相手あいて国こくのウエイトを勘案かんあんしながら、これらの国くにと日本にっぽんの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの違ちがいを調整ちょうせいした為替かわせレートということになる）。

しかし、実質じっしつ実効じっこう為替かわせレートが上昇じょうしょうしていないということは、物価ぶっかが下さがっているということである。なぜ物価ぶっかが下さがったかと言いえば、国際こくさい的てきに競争きょうそうしているのだから、価格かかくを下さげないかぎり売うれないからだ。設備せつび投資とうしを止とめ、研究けんきゅう開発かいはつを行おこなわず、配当はいとうを払はらわず、賃金ちんぎんを下さげ、首くびを斬きり、必死ひっしの努力どりょくの結果けっか、価格かかくを下さげたのだ。価格かかくが下さがっているから競争きょうそうで不利ふりになっていないとは、価格かかくが下さがって大損おおそんし、将来しょうらいのために投資とうしもできなくなっていることを無視むししている。

1990年ねんから現在げんざいまで、名目めいもく実効じっこう為替かわせレートが100から200にまで上昇じょうしょうしたのに、実質じっしつ実効じっこう為替かわせレートが100のままとは、この20年間ねんかん余あまりに、他たの国くにに比くらべて日本にっぽんは物価ぶっかが半減はんげんしたということである。これが日本にっぽん経済けいざいになんの影響えいきょうもないとは考かんがえられないことである。

円えんが上昇じょうしょうするとき、円えん高だかという歴史れきし的てき、構造こうぞう的てき変化へんかに、小手先こてさきではない抜本ばっぽん的てきな対応たいおうをしなければならないなどという議論ぎろんが盛さかんになるが、まったくの誤あやまりである。円えん高だかとは、円えんという通貨つうかとドルなど他たの国くにの通貨つうかとの交換こうかん比率ひりつにおいて、円えんの価値かちが高たかくなるということである。

どんなものでも供給きょうきゅうを増ふやせば価格かかくが下さがり、減へらせば上あがる。通貨つうかも同おなじである。歴史れきし的てきでも構造こうぞう的てきでもなんでもない。これはハリー・ジョンソン、ジェフリー・フランケルなどの経済けいざい学者がくしゃが1970年代ねんだいに、厳密げんみつに示しめしたことである。前ぜん日本銀行にっぽんぎんこう総裁そうさいの白川しらかわ方ほう明あきら氏しも、このことを、30年ねん以上いじょうも前まえになるが、両氏りょうしの論文ろんぶんを引用いんようしながら認みとめている（白川しらかわ方ほう明あきら「マネタリー・アプローチについて」『金融きんゆう研究けんきゅう資料しりょう』第だい3号ごう、1979年ねん8月がつ）。

円えんレートが金融きんゆう政策せいさくで決きまることは、安倍あべ総理そうりの掛かけ声ごえによる金融きんゆう緩和かんわで円えん安やすになったことで明あきらかである。もっとも、現在げんざいまででは大たいして緩和かんわしていないのだが、将来しょうらい十じゅう分ふんに緩和かんわするだろうとの期待きたいで円えん安やすになったのである。新あたらしい日銀にちぎん総裁そうさい、副ふく総裁そうさいは、大胆だいたんな金融きんゆう緩和かんわをするだろう。だから、実際じっさいにそうなる前まえに円えんを売うっておかなければならないと、市場いちばが読よんだことで円えん安やすになったのである。

各国かっこくが競きそって金融きんゆう緩和かんわをして、自国じこく通貨つうかを切きり下さげれば、為替かわせ切きり下さげ競争きょうそうが起おきて大変たいへんだという議論ぎろんもある。しかし、そんなことにはならない。

まず、全ぜん世界せかいで金融きんゆう緩和かんわ競争きょうそうをすれば、景気けいきが良よくなりすぎて、過度かどのインフレになる国くにが出でてくる。そのような国くには自国じこくの利益りえきのために金融きんゆうを引ひき締しめる。インフレは国民こくみんの嫌きらうものだからである。実際じっさい、先進せんしん国こくが為替かわせ切きり下さげ競争きょうそうをしていると非難ひなんしていたブラジルで、インフレ率りつが高たかまっている。インフレのときに自国じこく通貨つうかが高たかまることは、国内こくない需要じゅようを犠牲ぎせいにせずにインフレを抑おさえる効果こうかがある。

さらに、為替かわせ切きり下さげ競争きょうそうなど起おきないという、もうひとつの理由りゆうがある。輸出ゆしゅつが増ふえるときには必かならず輸入ゆにゅうも増ふえるということである。しかも、輸出ゆしゅつが増加ぞうかしたときには、輸出ゆしゅつ額がくから輸入ゆにゅう額がくを引ひいた純じゅん輸出ゆしゅつは減少げんしょうし、輸出ゆしゅつが減少げんしょうしたときには純じゅん輸出ゆしゅつが増加ぞうかする傾向けいこうがある。なぜなら、長期ちょうきの輸出ゆしゅつ拡大かくだいは、設備せつび投資とうしの拡大かくだいをももたらすからである。投資とうしの拡大かくだいは内需ないじゅの増加ぞうかで、当然とうぜん、輸入ゆにゅうの拡大かくだいももたらす。

経済けいざいはゼロサムゲームではない。輸出ゆしゅつを増ふやすためには、日本にっぽんは原材料げんざいりょうを輸入ゆにゅうしなければならない。また、輸出ゆしゅつが増ふえれば景気けいきが良よくなって、人々ひとびとは支出ししゅつを拡大かくだいする。グローバル経済けいざいとなった現在げんざいでは、日本人にっぽんじんがお金かねを使つかえば、必かならず輸入ゆにゅうが増ふえるのである。輸出ゆしゅつ増加ぞうかは日本にっぽんの景気けいきを回復かいふくさせ、さらには世界せかいの需要じゅようも拡大かくだいさせる。金融きんゆう緩和かんわで輸出ゆしゅつが増加ぞうかしても、何なにも心配しんぱいすることはない。ドイツや韓国かんこくが不満ふまんであれば、自分じぶんたちも金融きんゆう緩和かんわすればよい。インフレが怖こわくてできないのなら自分じぶんの国くにの都合つごうである。

一部いちぶの歴史れきしの教科書きょうかしょでは、大だい恐慌きょうこう期きに為替かわせ切きり下さげ競争きょうそうが起おきて、世界せかい恐慌きょうこうが激化げきかしたとなっているが、これは間違まちがった歴史れきしの解釈かいしゃくである。全ぜん世界せかいが金融きんゆう緩和かんわすれば全ぜん世界せかいの景気けいきが良よくなるだけだ。良よくなりすぎてバブルやインフレになりそうな国くにがあれば、そんな国くにから引締ひきしめを始はじめればよい。