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植村 要「 先端医療におけるインフォームド・コンセント――想像できない手術を受けた経験の語り」
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先端せんたん医療いりょうにおけるインフォームド・コンセント――想像そうぞうできない手術しゅじゅつけた経験けいけんかたり」

植村うえむら かなめ 2008/02/29
立命館大学りつめいかんだいがくグローバルCOEプログラム「生存せいぞんがく創成そうせい拠点きょてん 20080229
『PTSDと「記憶きおく歴史れきし」――アラン・ヤング教授きょうじゅむかえて』
立命館大学りつめいかんだいがく生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター,生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく1,157p. ISSN 1882-6539 pp.63-70

last update: 20151225

研究けんきゅう報告ほうこく 1
先端せんたん医療いりょうにおけるインフォームド・コンセント――想像そうぞうできない手術しゅじゅつけた経験けいけんかたり」
 植村うえむら よう立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん 先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう 院生いんせい

 よろしくおねがいします。先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう植村うえむらかなめいます。いま佐藤さとう先生せんせいからおはなしがあったように、お手元てもと配布はいふ試料しりょうなかにあります、「先端せんたん医療いりょうにおけるインフォームド・コンセント―想像そうぞうできない手術しゅじゅつけた経験けいけんかたり」という資料しりょうをごらんください。そちらにそくして報告ほうこくしてまいります。
 まず、だいしょう関心かんしん所在しょざいです。生命せいめい倫理りんりがくにおける重要じゅうようなテーマのひとつにインフォームド・コンセントおよびインフォームド・チョイス、以下いかでは IC とりゃくしますが、IC の問題もんだいがあります。IC がとりわけ必須ひっすとなる場面ばめんは、いくつもあります。まずは、治験ちけん臨床りんしょう研究けんきゅうげられます。アメリカでは 1932 〜 72 ねんにかけて梅毒ばいどく自然しぜんについての研究けんきゅうが、連邦れんぽう政府せいふ資金しきん提供ていきょうによって実施じっしされました。この研究けんきゅうでは梅毒ばいどく罹患りかんした黒人こくじんという、社会しゃかいてき脆弱ぜいじゃくそう対象たいしょうにされたこと、しかも治療ちりょうほう発見はっけんされて以後いごもそれをおこなうことなく、研究けんきゅう継続けいぞくされたことが社会しゃかいてき波紋はもんび、タスキギー事件じけんばれることになりました。この事件じけんへの反省はんせいは、研究けんきゅう倫理りんりさだめた1979 ねんのベルモントレポートの作成さくせいへとつながりました。また、ひかりせき・ヤ島・栗原くりはららは、人体じんたいもしくはその一部いちぶ、またはその情報じょうほう対象たいしょうとする科学かがく研究けんきゅうにおける対象たいしょうしゃ保護ほご目的もくてきとした法律ほうりつ試案しあん作成さくせいしています。
 また、遺伝いでん情報じょうほう解読かいどく技術ぎじゅつ向上こうじょうは、遺伝いでん医療いりょう可能かのうにしました。それによって出生しゅっしょうぜん診断しんだんちゃくゆかぜん診断しんだん技術ぎじゅつてき可能かのうになり、その情報じょうほうあつかいと対応たいおうをめぐって、遺伝いでんカウンセリングが要請ようせいされるような場面ばめんしょうじてきました。
 診療しんりょう場面ばめんにおいても ALS やガンなどの難治なんじ疾患しっかんにおいては病名びょうめい告知こくちやその治療ちりょうほうをめぐって、IC が問題もんだいになります。エホバの証人しょうにん信者しんじゃ輸血ゆけつ拒否きょひ重要じゅうよう問題もんだいげかけています。
 このような場面ばめんにおいて IC が議論ぎろんになるとき、そこで論点ろんてんになるテーマはリスクとベネフィットについての情報じょうほう提供ていきょう判断はんだん能力のうりょく有無うむだいだく自己じこ決定けっていする患者かんじゃ権利けんり被験者ひけんしゃ保護ほごなどがあります。実験じっけん段階だんかいにある先端せんたん医療いりょうを、ひとたいする臨床りんしょう研究けんきゅうとして思考しこうする場合ばあいは、とくに IC をめぐるこれらの論点ろんてんのいずれもが重要じゅうようになります。
 このような IC が診療しんりょう場面ばめんにおいてどのように遂行すいこうされるかについて、たからがつは、リウマチ患者かんじゃ対象たいしょうとした診察しんさつまえ記録きろくもとづいて、医療いりょう意味いみ世界せかい医師いし患者かんじゃ共同きょうどう作業さぎょうによって共有きょうゆうされていく過程かていをシンボリック相互そうご作用さようろん立場たちばから考察こうさつしています。かしでん肝臓かんぞうガンの外科げか手術しゅじゅつ治療ちりょうほう説明せつめいがなされている面談めんだんしつ撮影さつえいしたビデオデータにもとづいて、エスノメソドロジー・会話かいわ分析ぶんせき立場たちばから考察こうさつしています。
 しかし、ここからは IC をめぐる診療しんりょう場面ばめん患者かんじゃにどのように経験けいけんされたかをうかがいることはできません。とりわけ、実験じっけん段階だんかいにある先端せんたん医療いりょうの、ひとたいする臨床りんしょう研究けんきゅうにおいては、IC が重要じゅうようであるのにはんしてです。
 そこで、ほん報告ほうこくでは報告ほうこくしゃのこれまでのインタビュー調査ちょうさなかから 2003ねんおこなわれた国内こくないはつ改良かいりょうがた歯根しこん利用りよう人工じんこう角膜かくまく手術しゅじゅつにおける IC についてのかたりについて考察こうさつすることとします。たからがつ観察かんさつ記録きろく録音ろくおんテープをもちい、かしがビデオデータをもちいているのにたいして、ほん報告ほうこくでは、すで過去かこ出来事できごととなった IC をめぐっての診療しんりょう場面ばめん現在げんざいから遡及そきゅうてき想起そうきしたインフォーマントのかたりをもちいます。それは、インフォーマントの記憶きおくであり、過去かこ事実じじつとしての出来事できごと忠実ちゅうじつ反映はんえいしたものではありません。しかしそれはインフォーマントがその出来事できごとをどのように経験けいけんし、それを現在げんざいからどのように解釈かいしゃく意味いみづけているかを反映はんえいしたものです。それでは、インフォーマントが想像そうぞうできなかったとかた手術しゅじゅつについて、その IC をめぐる診療しんりょう場面ばめんがインフォーマントにどのように経験けいけんされたかを考察こうさつしていきます。
 だいしょうです。対象たいしょうしゃ方法ほうほうです。対象たいしょうしゃは、ここではたちばなさんという仮名かめい報告ほうこくします。女性じょせいです。1954 ねんに4にん兄弟きょうだい末子まっしとしてまれ、大病たいびょうをすることなく成人せいじんしました。しかし 1998 ねん、44 さいのときスティーブンスジョンソン症候群しょうこうぐん発症はっしょうしました。スティーブンスジョンソン症候群しょうこうぐんについてはちゅう1(135 ぺーじ参照さんしょう)に説明せつめいしるしましたが、ほん報告ほうこくさいして念頭ねんとういていただきたいてんべます。この疾患しっかんは、難病なんびょうひとつにふくまれるもので、原因げんいん不明ふめいですが、おも医薬品いやくひんたいするアレルギー反応はんのうとして発症はっしょうします。全身ぜんしん皮膚ひふ粘膜ねんまくみずぶくれができ、死亡しぼうりつ重症じゅうしょうがたでは3わりとされています。死亡しぼうしなかった場合ばあいにおいても、おも臓器ぞうき後遺症こういしょうのこします。たちばなさんもほぼ失明しつめいちか状態じょうたいになりました。たちばなさんは、その 2003 ねん、49 さいのとき、国内こくないはつ改良かいりょうがた歯根しこん利用りよう人工じんこう角膜かくまく以下いか OOKP とりゃくしますが、OOKP によって、視力しりょくを 0.7 に回復かいふくしました。OOKP は、レンズをんだ自分じぶん糸切いとき移植いしょくすることによって視力しりょくもど手術しゅじゅつほうです。
 OOKP については、ちゅう5(136 ぺーじ参照さんしょう)に詳細しょうさいしるしましたし、またこれから報告ほうこくするたちばなさんの経験けいけんつうじてもご理解りかいいただけるとおもいます。方法ほうほうは、たちばなさんにたいして報告ほうこくしゃ実施じっししたインタビュー調査ちょうさのトランスクリプトをもちいます。このなかから手術しゅじゅつまえにおける、手術しゅじゅつ説明せつめいについてのかたりを抽出ちゅうしゅつし、それを医師いしからの説明せつめいについてのかたりと、その説明せつめいからたちばなさんがかんがえたことについてのかたりとに大別たいべつします。これが、だいしょうひょう1(128 ぺーじ参照さんしょう)です。つぎ手術しゅじゅつ状態じょうたいについて評価ひょうかしているかたりをし、それを手術しゅじゅつによる利益りえきについてのかたりと、不利益ふりえきについてのかたりとに大別たいべつします。これがだいしょうひょう2(128 - 130 ぺーじ参照さんしょう)です。そして、たちばなさんのかたりから IC をめぐってのかたりを中心ちゅうしんさい構成こうせいし、記述きじゅつします。これがだいしょうです。
 ではだいしょうです。ひょう1と2をざっとごらんいただければとおもいます。OOKP手術しゅじゅつけた外見がいけん写真しゃしん掲載けいさいしましたのでごらんください(131 ぺーじ参照さんしょう)。配付はいふ資料しりょうをカラーで印刷いんさつするとかったのですが、できませんでした。若干じゃっかんインパクトがよわいかもしれませんが、外見がいけん変化へんかするという雰囲気ふんいきはおつたえできているとおもいます。
 それではだいしょう考察こうさつうつります。それでは、OOKP 手術しゅじゅつたってのICと、たちばなさんの経験けいけんていきます。まず、たちばなさんにこの手術しゅじゅつはなしがったのは、たちばなさんが医師いしったつぎ言葉ことば発端ほったんになっています。「5ねんかかってもええから、10 ねんかかってもええから、手術しゅじゅつがあったらつけといて」という言葉ことばです。そのときのたちばなさんとしてはかる冗談じょうだんじりでっていただけだといいます。それからしばらくして、医師いしからたちばなさんにOOKP が紹介しょうかいされたのですが、たちばなさんは本当ほんとうにこのようなはなしんでくるとはおもっていなかったといいます。OOKP が施行しこうされるのは、その大学だいがく病院びょういんはじめてだったというだけでなく、国内こくないはつでもあったために、大学だいがく病院びょういんでは倫理りんり委員いいんかい開催かいさいされ、審査しんさされることになりました。倫理りんり委員いいんかい審査しんさは1ねんほどつづいたといいます。たちばなさんは、倫理りんり委員いいんかい継続けいぞくちゅうよりは通過つうかしてからのほうが、手術しゅじゅつけるかかの決断けつだんをするのになやみがふかかったといいます。それは、倫理りんり委員いいんかいつづいているあいだは、まだ本当ほんとうにその手術しゅじゅつけられるかどうかはからないからだといいます。
 ここで注目ちゅうもくすべきは、たちばなさんが医師いしからけた説明せつめい、つまり IC の内容ないようです。ひょう1にあるようにベネフィットとしてげられているのは、「視力しりょく平均へいきんで0.7 〜 0.8 くらいているとわれたとおもう」、それから「成功せいこうりつたかい」という2てんです。その一方いっぽうで、リスクとしてげられているのは、「ピンク色ぴんくいろになる」、「視野しやせまい」、「まぶたをじられず、まばたきができない」、「虹彩こうさい摘出てきしゅつする」、「根元ねもとほねからき、それにレンズをれる」というものであり、そのいずれもが「ピンとこなかった」とっています。医師いしから質問しつもんがないかとわれたときも、「質問しつもんってわれたって、どこがどうなるんかかれへんのにね」とっておられます。
 さらに注目ちゅうもくしたいのはこのつぎです。確立かくりつされた治療ちりょうほうではないというものの、その当時とうじ再生さいせい医療いりょうによる治療ちりょうほう大学だいがくこころみられていることをごぞんじだったたちばなさんは、自分じぶんがその手術しゅじゅつけられるかどうかについて医師いし質問しつもんしています。これにたいして、医師いしからは無理むりだとこたえられています。これは診察しんさつ結果けっかあきらかになった事実じじつなのでしょうし、それをつたえたのですから、なに問題もんだいないはずです。また手術しゅじゅつ先立さきだっての口腔こうくう外科げか診察しんさつ結果けっか犬歯けんし虫歯むしばになっていて、手術しゅじゅつ使つかえるが1ほんしかのこっていないことがつたえられます。これも診察しんさつ結果けっかあきらかになった事実じじつなのでしょう。しかし、これら2てんのことから、たちばなさんはえるようになりたいのであれば、この手術しゅじゅつ以外いがい方法ほうほうはなく、しかもこの手術しゅじゅつけるのであれば、まよっているひまはないとめられることになりました。医師いし説明せつめいには、たちばなさんを、手術しゅじゅつけさせようと誘導ゆうどうする意図いとられず、診察しんさつ結果けっかとしての医学いがくてき事実じじつ正確せいかくつたえたのみだとおもわれます。しかし、その事実じじつ結果けっかてきにはたちばなさんにおいてこのような状況じょうきょう創出そうしゅつしていたのです。とりもなおさず、たちばなさんはえるようになりたいのです。にもかかわらず、たちばなさんは、「やっぱりけようか、やめようか」となやんでいます。
 この状況じょうきょうたちばなさんは不安ふあんうったえています。医師いしからの説明せつめいに、「成功せいこうりつたかい」というものがあります。これにたいし、たちばなさんは「成功せいこうりつたかいといっても、手術しゅじゅつけるものとしては失敗しっぱいがゼロではないので1番目ばんめはいやだった」とかんがえています。そして診察しんさつに、たちばなさんはわらばなしとして、「先生せんせい、やめよかなぁ」「いやぁ、1番目ばんめやろ。2番目ばんめか3番目ばんめにしてほしい」とっています。それにたいして医師いしは、「だれかが1ばんにせなあかんことやろ」とこたえたということです。これはわらばなしなかでのやりとりだというので、冗談じょうだんふくみにいたとしても、たちばなさんの不安ふあん冗談じょうだんではありませんでした。わらばなしというかたちにするので質問しつもんできるのであって、まじめになったら質問しつもんできないということもあるでしょう。つぎかたりからそれが推測すいそくされます。
 「わたしもね、手術しゅじゅつ、迷てるときに、先生せんせいに、先生せんせいおくさんがもしおな病気びょうきやったら、先生せんせい手術しゅじゅつしますかってよっぽどこうかとおもえたん」。
 ところが、「きたかったのだけど、わたし、ようかんかってん」とっておられます。ついぞはっせられることのなかったこの質問しつもんにおいて、たちばなさんがもとめていたこたえとは、ひょう1にあるような、医師いしとしての説明せつめいではないことはあきらかです。ならば、医師いし以外いがい相手あいてにこの質問しつもんければよかったのですが、OOKP 手術しゅじゅつ国内こくないはつだったためにそのような相手あいてがいなかったのです。
 たちばなさんが、手術しゅじゅつへとかっていったのは、こうしてされるようにしてというだけではありません。このさなかに、たちばなさんの実父じっぷくなりました。そのときにおやかおられなかったことが、たちばなさんは心残こころのこりだったといいます。そしてまだ健在けんざいだった実母じつぼのことをおもってたちばなさんはつぎのようにかんがえました。「すえがこんなんなってたらおやもつらいから、おやもやっぱり安心あんしんさせなあかんし、ま、自分じぶんのためでもあるし、まんいち成功せいこうしたらそれはそれでええかな。失敗しっぱいしたら、もう、どうせえへんかったもんやから、それはそれでもうわたしうんがなかったとおもってあきらめたらええわ」。たちばなさんは、今回こんかい手術しゅじゅつはなしが、そもそも自分じぶん発言はつげんはしはっするものであるという「いいだしっぺの責任せきにん」をかんじています。しかし、そうはいうものの、それだけではなく、もう一度いちどえるようになりたいというつよ気持きもちもありました。そしてどもがうらないをいてきて、手術しゅじゅつけるのであれば、としけてからがよいとわれたといいます。それらがあいまって、たちばなさんは OOKP 手術しゅじゅつけることを決断けつだんし、そのむね医師いしつたえたのでした。
 こうしてたちばなさんは手術しゅじゅつけ、手術しゅじゅつ成功せいこうしました。手術しゅじゅつたちばなさんの状態じょうたいについてはひょう2にあるとおりです。ごらんいただけると、一目瞭然いちもくりょうぜんにおかりいただけるように、利益りえき上回うわまわすうおおくの不利益ふりえきしるされています。これだけの不利益ふりえきがもたらされることについて、手術しゅじゅつまえ説明せつめいされていたなら、手術しゅじゅつけたかと報告ほうこくしゃうと、「そんときはえるのであれば、そら、手術しゅじゅつはしてたんちゃう」とたちばなさんはこたえられました。このように、手術しゅじゅつけたと推測すいそくしながらも断言だんげんしないところが、いまたちばなさんの手術しゅじゅつたいする評価ひょうか
あらわれているのだとおもいます。
 それではだいしょう結論けつろんです。治療ちりょうもとめることが別様べつよう自分じぶんかおうとするものである以上いじょう、そこではつねいまここにある自分じぶんかくからしさはおびやかされます。ベネフィットとリスクの説明せつめいと、それを基盤きばんにした IC は、そのように本人ほんにん家族かぞくかくからしさが動揺どうようしているなか遂行すいこうされます。PTSD を認定にんていする過程かていでは、その原因げんいんになったとされる出来事できごと記憶きおく真偽しんぎや、いくつもある出来事できごとのどれが原因げんいんになったかの確定かくていもとめられます。過去かこのその出来事できごと本当ほんとうにあったことなのかをたしかめることができず、また記憶きおくというものがいかようにでも想起そうき可能かのうであり、変容へんよう可能かのうであるために認定にんてい場面ばめんでは記憶きおく承認しょうにんをめぐってのポリティカルなあらそいが発生はっせいします。
 これに対比たいひしてうなら、ベネフィットとリスクの説明せつめいとそれを基盤きばんにした IC は、不確ふたしかで、いかようにでも見積みつもり可能かのう記憶きおく将来しょうらい予測よそくを、測定そくていしうるたしかなものであるかのように設定せっていすることによって成立せいりつします。記憶きおく予測よそくという不確ふたしかなものを、たしかなものとしてその基盤きばん設定せっていすることで可能かのうになる IC は、PTSD がその認定にんていにおいてポリティカルなあらそいを生起せいきする概念がいねんであることと共通きょうつうする困難こんなんかかえた概念がいねんだといえます。
 たちばなさんが医師いしに OOKP を紹介しょうかいされてから、手術しゅじゅつけるまでについてのかたりと IC 概念がいねん対照たいしょうさせることで、その両者りょうしゃあいだのずれをしめすことができたとおもいます。先端せんたん医療いりょうまえにしたとき、その本人ほんにんにとって想像そうぞうもできない手術しゅじゅつけるかかの決断けつだんをするということ、しかもそれが雑多ざった日常にちじょうなかいとなまれることは、IC が基盤きばんとするようなベネフィットとリスクの総和そうわとしては言及げんきゅうるものではないのです。
 最後さいごみっつのエピソードを紹介しょうかいします。ひとです。手術しゅじゅつによって視力しりょく回復かいふくしたたちばなさんは、手術しゅじゅつまえどもが祈祷きとうしてもらったというおてら親子おやこでお礼参れいまいりにかれました。それからふたです。今回こんかい報告ほうこく先立さきだって、ひょう1と2について、たちばなさんにその内容ないよう確認かくにんしていただきました。そのさいていただいたひょう2には、利益りえき分類ぶんるいなかに「快適かいてきらした」という記述きじゅつはいっていました。たちばなさんはこの記述きじゅつ削除さくじょもとめてこられました。みっです。報告ほうこくしゃは、たちばなさんとおなじくスティーブンスジョンソン症候しょうこうぐんによって、後遺症こういしょうのこし、現在げんざい状態じょうたい手術しゅじゅつけるまえたちばなさんの状態じょうたいとおおよそおなじとおもわれます。そのことはたちばなさんもごぞんじです。そのうえで、たちばなさんは報告ほうこくしゃうたびに、手術しゅじゅつけるになったかとうてこられます。このようにたちばなさんにとって手術しゅじゅつけたことの評価ひょうかは、いまもなおさだまらないままなのでしょうし、それが想像そうぞうできなかった手術しゅじゅつけたという経験けいけんなのだとおもいます。
 これでわたし報告ほうこくわります。ご清聴せいちょうどうもありがとうございました(拍手はくしゅ)。

佐藤さとう) 植村うえむらさん、どうもありがとうございました。プログラムの変更へんこうをおつたえしていなかったので、このりておつたえします。アラン・ヤング先生せんせいがおつかれということもあり、研究けんきゅう報告ほうこくふたわったのちにすぐ休憩きゅうけいをまたり、先生せんせいのコメントは最後さいごにまとめるというかたちにさせていただこうとおもっております。ですので、もう一人ひとり櫻井さくらいさんのおはなしわったのち休憩きゅうけいにさせていただきます。
 それでは、つづきまして、本学ほんがく先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう櫻井さくらい浩子ひろこさんに「NICU においておやがどのように関係かんけいせいきずいていくのか―18 トリソミーおやかたりから―」ということでおねがいいたします。


立命館大学りつめいかんだいがくグローバルCOEプログラム「生存せいぞんがく創成そうせい拠点きょてん 20080229 『PTSDと「記憶きおく歴史れきし」――アラン・ヤング教授きょうじゅむかえて』立命館大学りつめいかんだいがく生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター,生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく1,157p. ISSN 1882-6539


UP:20100409 REV:
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