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安田 真之「学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題――日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察」
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■報告要旨
安田 真之(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
「学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題――日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察」
本報告では、100名以上の障害学生が在籍し、全国的にもその取り組みが注目されてきた日本福祉大学(以下、日福と記す)における障害学生支援の状況を取り上げ、学生による無償のボランティア活動を中心とした障害学生支援の課題を明らかにする。
報告者は2009年3月まで日福に在籍し、障害学生として様々な支援を受けてきた一方、支援活動の担い手としても活動してきた。日福においては、支援を必要とする障害学生が自ら支援者を探し、必要な支援を依頼することが原則となっている。点訳・音訳・パソコンテイク、ビデオ教材の字幕付けといった障害学生支援の諸活動の大半は学生による無償のボランティア活動によって担われており、学内に設置された「障害学生支援センター」を中心に、大学もそういった学生による諸活動を支援している。しかしそのなかで、障害学生は、支援の量的・質的不十分さ、不安定で流動的な支援、履修する授業の選択の制限といった深刻な課題に直面しており、そのような状況が慢性化している。また支援活動を担う学生は、慢性的な支援者不足のなかでの過剰負担、「ボランティア」が原則であるにも関わらず支援を断ることができないといった課題に直面している。それら諸課題が生み出される背景には、支援を必要とする多数の障害学生を学内の学生のみで支援することの限界性、学業と支援活動の両立の限界性、支援の大半が友人関係や助け合い精神に基づいて行われていること等を挙げることができる。また、今日の日福の障害学生支援の取り組みの多くは、支援活動を通した学びあい・育ちあい、すなわち、「福祉の心」や「心のバリアフリー」、障害学生の自立の力の涵養といったことが重視されるあまり、障害学生の支援ニーズを充足するものとは必ずしもなっていない。
以上を踏まえ、本報告では、無償のボランティアを中心とする障害学生支援が障害学生の支援ニーズを十分に充足し得ないことを示したうえで、障害学生支援を担う主体とその役割のあり方について検討する。
■報告原稿
学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題――日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察
安田 真之(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 20090926-27
障害学会第6回大会 於:立命館大学
はじめに
全国の約半数の大学に何らかの障害のある学生が在籍1)しているとされている今日、高等教育機関における障害学生支援は注目されてきている。障害学生が在籍する大学のなかには、障害学生支援センター等、障害学生支援に関わる専門の部署を設置し、障害学生支援に積極的に取り組む所も徐々に見られるようになってきた。今日各大学で行われている障害学生支援の状況を見ると、実施されている支援の内容、支援活動の担い手、費用負担等、その仕組みは多様である。
本報告では、そういった大学のなかから、100名以上の障害学生が在籍し、全国的にもその取り組みが注目されてきた日本福祉大学(以下、日福と記す)における障害学生支援2)の状況を取り上げ、学生による無償のボランティア活動を中心とした障害学生支援の課題を明らかにする。
報告者は2005年4月から2009年3月まで日福に在籍し、障害学生として、教材の点訳をはじめとする様々な支援を受けてきた一方、ビデオ教材の字幕付けをはじめとする障害学生支援実践の担い手として活動してきた。また、2007年度及び2008年度には、美浜キャンパスにある障害学生支援センターにおいて、障害学生支援に関する諸活動の運営補助等を行う学生スタッフとして活動した。
本報告では、まず、学生ボランティアを中心とした日福における障害学生支援の概要を述べる。次に報告者が実際に直面してきた障害学生支援に関わる課題のうち、支援の量的不足、障害学生自らが支援者を探すことに関わる問題、奪われる学びの主体性について詳述する。続いて、それら諸課題が生み出される要因として、学生生活と支援活動の両立の限界性、学生の流動性の2点を挙げたうえで、日福において学生ボランティアを中心とした障害学生支援が進められる背景について述べる。最後に、障害学生支援を担う主体とその役割という観点から、障害学生の支援ニーズを充足しうる支援のあり方について検討する。
1.日福における障害学生支援の概要
日福は、愛知県にある4年制の私立大学である。美浜・半田・名古屋の3キャンパスを有し、社会福祉、経済、福祉経営、国際福祉開発、子ども発達、健康科学、情報社会科学の各学部及び通信教育部が設置され、また社会福祉学、医療・福祉マネジメント、国際社会開発、福祉経営・人間環境、福祉社会開発の各研究科が設置されている。通信教育部及び大学院を除く全学生数は5351名である。そのうち障害学生が145名在籍しており、さらにそのなかで94名が障害学生支援センターに登録している3)。
現在、障害学生支援活動のほとんどは学生が無償のボランティアで担っている4)。その活動は大変活発であり、学内には、点訳、音訳、パソコンテイク、ビデオ教材の字幕付け等を行うサークル(以下、支援団体と記す)が組織され、それぞれ大きな役割を担っている。支援団体は、障害学生支援センターを通して教員や障害学生から支援の依頼を受け、それらに組織的に対応している。一方、肢体不自由学生の生活介助等、学生による活動が組織化されていない活動を中心に、友人関係に基づく個人的な支援も多く行われている。
障害学生支援に関わる学内機関としては、1998年に設置された障害学生支援センター(以下、支援センターと記す)がある。現在支援センターでは、ノートテイク・パソコンテイク・手話通訳・ビデオ教材の字幕付け・点訳・音訳・肢体不自由学生の生活介助等の支援活動の推進とその環境整備に取り組んでいる。また、障害学生奨学金の支給、障害学生支援ボランティアの要請及びボランティア登録制度の運営、受講支援奨励制度の運営、障害学生支援に関するオリエンテーションの実施、学内の施設点検や支援センター利用者の懇談会の実施等の事業5)を行っている。また、障害学生が直面する勉学・生活上の諸問題、非障害学生・教員が直面する障害学生支援に関する課題等の相談の対応窓口ともなっている。
何らかの支援を必要とする障害学生は、自ら支援者を探し、必要な支援を依頼することが原則とされている。支援センターは支援活動そのものを行う機関とはなっておらず、支援活動を側面から支援し、支援活動に必要な環境を整備するとともに、障害学生が自ら支援を得るための諸活動を支援する役割を担っている。
このように、日福における障害学生支援は、主に学生による活発なボランティア活動によって担われており、支援センターをはじめとする大学組織がそれらインフォーマルな活動を側面から支援することにより、障害学生の大学生活を支えている。日福は、その前進である中部社会事業短期大学として1953年に開学した当初から障害のある学生を受け入れてきた。学生や教職員によるインフォーマルな支援は、開学当初から続いている、日福の特徴的な伝統でもある6)。
2.直面する課題
一方、こうした活発な取り組みが行われるなかにあっても、障害学生が深刻な課題に直面し続けている状況がある。ここでは、報告者が障害学生として直面してきた課題を中心に述べる。
(1)支援の量的不十分さ
まず、支援の量的不十分さについて、授業で使用される教材に関わる報告者の状況を例に述べる。報告者が日福において4年間で履修した授業のうち、テキストが指定されていた科目は30科目であった。そのうち、大学の費用負担により当該書籍が点訳されたものは2科目であり、大学組織や教員を通して当該書籍のテキストデータを受け取ることができたものは7科目であった。その他のものについては、点字図書館等に利用できる媒体の書籍が所蔵されているもの等を除き、報告者自身が7)、必要に応じて点訳・音訳・テキストデータ化(以下、点訳等と記す)を依頼する等、何らかの対応8)をしなければならなかった。日福には学内に点訳サークル・音訳サークルがあるが、それらサークルに所属する学生の人数では、書籍のように量の膨大なものの点訳等に対応することが困難であった。少量のものであっても、語学や理数系のものを中心に、学生のスキルでは、教材として活用するに十分な質の点訳等を行うことが困難である場合が多くあった。そこで主に学外の団体へ依頼することとなるが、多くの視覚障害者から多数の依頼を引き受けている学外団体の状況を考慮すると、一人で1度に多数の書籍の点訳等を依頼することは困難であった。さらに作業には一定の時間がかかることから、依頼しても作業が授業に間に合わないと考えられたものも多くあった。そのため、実際に点訳等を依頼することができたものは、概ね授業開始の数ヶ月前に使用することが確定しているものに限られ、30科目中8科目のテキストについては、自ら利用できる媒体のものを入手することができなかった9)。
(2)自ら支援者を確保することによる負担
次に、障害学生が自ら必要な支援者を確保することに関する課題について述べる。日福においては、多数の学生が障害学生支援活動を担っている10)ものの、在籍する全ての障害学生の支援ニーズを充足するには至っていない。支援を担う学生が慢性的に不足するなかで、障害学生が自らに必要な支援の担い手を確保するための活動に奔走する様子が日常的に見られた。
日福に入学した障害学生のうち、報告者を含め何らかの支援を必要とする学生は、入学直後、新入生を対象としたオリエンテーションにおいて登壇する機会があった11)。そこで、支援を必要とする障害学生の大半が、ともに入学した同学部・学科の学生に対して自己紹介を行い、支援への協力を呼びかけていた。また報告者を含め、支援を必要とする障害学生は、必要な支援を確保するため、日常的に、友人等身近な学生に支援を依頼したり、他の学生に支援者探しの協力を求めたり、所属しているサークル等のメンバーに対して支援への協力を呼びかけたりと、多様な手段を駆使して支援者の確保に取り組まなければならなかった。なかでも聴覚障害学生がノートテイカーの確保に奔走せざるを得ない状況は深刻であった。ノートテイカーが慢性的に不足するなか、毎学期の初めには、限られたノートテイカーの確保をめぐって、一部の学生から「ノートテイカーの奪い合い」と称されるほどの熾烈な戦いが繰り広げられていた。このように、必要な支援者を自ら探すという原則のもとで、必要な支援を受けることができないリスクを負わされた日福の障害学生は、自らの大学生活を確立するために、非障害学生に比して多大な負担を強いられていた。
(3)奪われる学びの主体性
障害学生のなかには、自らが履修したい、あるいは履修しなければならない授業よりも、支援を受けられる、あるいは受けやすい授業を優先して履修しているものがいた。報告者は、同じ授業を他の視覚障害学生が受講するか否か、必要な資料・文献を利用可能な媒体で入手できるか否かといったことが、履修する科目を決定するうえでの重要な要素となったことが少なからずある。前者は、自ら支援者を確保できなかったり、確保した支援者が欠席したりした場合であっても、他の視覚障害学生が確保した支援者から必要な支援を得ることが可能であったためである。また後者は、一定のまとまったニーズがあれば、支援団体に対する点訳等の依頼が行いやすく、そういったものについては優先的に作業が進められる傾向にあったためである。
一方、聴覚障害学生の状況を見ると、ある聴覚障害学生が特定の授業でのノートテイカーを確保した場合、他の聴覚障害学生も、確実にノートテイクを受けることができる当該授業に集まるということがあった12)。前項で述べたように、ノートテイカーが慢性的に不足する日福では、毎学期のはじめ、ノートテイカーの確保をめぐる聴覚障害学生の熾烈な戦いが繰り広げられていた。そういったなかで、自らのノートテイカーを個別に確保することは、聴覚障害学生にとって大きな負担なのである。
このように、障害学生が、自らが履修したい、あるいは履修しなければならない授業を必ずしも履修できていないという実態があった。友人関係による支援が「当たり前」となっていた日福において、学生間でのこういった履修科目の調整は、障害学生にとって「ごく普通のこと」であった。そういったなかで、障害学生の時間割は、必要な支援を受けることができないリスクを軽減するものとして規定される側面を有することがあったと考えられる。
3.課題の要因と背景
では、こういった深刻な課題はなぜ生み出され、慢性化しているのであろうか。ここでは、障害学生支援を主に学生ボランティアが担っていることに着目して考えてみたい。
(1)学生生活と支援活動の両立の限界性
まず、支援を担う学生がその支援活動と自らの学生生活を両立させることの限界性を挙げることができる。日福の学生の多くは、進級するに従って学生生活が多様化・多忙化する傾向にある。進級するに従って各専門分野毎に授業が細分化され、授業の難易度も上昇する。また3年次〜4年次には、学外で長期間の実習を行ったり、就職活動や卒業研究、資格試験の受験勉強等に追われるようになる。こうした状況のなかで、障害学生支援に関わる学生は、進級に従って相対的に減少する傾向がある。報告者が1年次に比べて2年次以降支援者の確保に苦労することとなったのも、そのためであろう。
学生の生活が多忙な時期は、障害学生も多忙となり、多くの支援が必要となる。一方、障害学生支援に関わる学生も多忙となり、徐々に障害学生支援に関わることが困難になる。よって、学生のみで支援を担っている現状においては、障害学生の支援ニーズが増えるほど、その支援の担い手が不足するという状況が慢性化していると考えられる。
(2)学生の流動性
また、支援を担う学生が絶えず流動することも、これらの課題を生み出す要因であると考えられる。学生が大学に在籍するのは原則として4年間である。そのなかで、学生が障害学生支援の諸活動に積極的に取り組むことのできる機関が極めて限られていることは、前項で述べた学生生活の状況からも明らかである。その限られた期間のなかで、学生が障害学生支援に必要な十分なスキルを獲得することは決して容易ではない。なかには高い支援スキルを獲得する学生もいるが、そういった学生も、程なく障害学生支援の第一線を退き、卒業していくことになる。このように、絶えず流動する学生のみで支援を担っている現状においては、量的にも質的にも十分な一定水準の支援を安定的・継続的に実施することが困難であると考えられる。
(3)学生が無償のボランティアで障害学生支援を担う意義
そもそも日福においては、なぜ学生ボランティアを中心とした障害学生支援が行われているのであろうか。その背景としては、「障害学生も、非障害学生も、教職員も、ともに学び育ちあう」という障害学生支援の理念が重視されていることを挙げることができる。報告者は日福への入学以来、様々な困難に直面しつつも、周囲の多くの学生に助けられながら大学生活を送ってきた。入学当初は非障害学生から距離を置かれることもあったが、報告者から積極的に他の学生とコミュニケーションをとり、そのなかで自らの障害の状況を説明し、必要な支援を求めていった。入学当初「自分はボランティアはしたことがないので」と報告者との関わりに消極的だった非障害学生たちは、いつしか「自分は今、何か特別なボランティアをしているという意識はない」と述べるようになった。そうして彼らは、報告者が何らかの支援を必要とするときに大変有効な支援をしてくれる、貴重な存在となっていったのである。
障害学生支援を通して、非障害学生の障害に対する理解を深め、「心のバリアフリー」や「助け合い精神」、「福祉の心 」といったものを涵養する。その一方で、自らの大学生活における自己実現のために自ら考え行動するという、障害学生の力を育む。これが、日福における、ともに学び育ちあう障害学生支援の構図である13)。
このように、日福の障害学生支援においては、障害学生の支援ニーズに基づく対応とは異なる、いわば教育的なねらいがあるとされ、そのなかで学生ボランティアによる障害学生支援が活発に行われている。
しかし、障害学生の支援ニーズへの対応において、支援の担い手が全て学生ボランティアでなければならないという必然性はない。支援を通した学びあいや育ちあいを否定するものではないが、それらは障害学生の支援ニーズへの対応という障害学生支援の本来の目的を果たすなかで副次的に生み出される効果であったとしても、学生ボランティアによる障害学生支援を必然化するものではない。現に、学生ボランティアに依存した障害学生支援の仕組みのなかで、慢性的な支援者不足やそれに伴う様々な課題が生み出されてきている。よって、障害学生の支援ニーズを十分に充足するためには、学生ボランティアに依存しない仕組みやそのあり方について検討する必要があるであろう。
4.障害学生支援の主体と役割
最後に、これまでに述べた課題やその背景を踏まえ、障害学生の支援ニーズを充足しうる支援のあり方について、障害学生支援を担う主体と役割に着目して検討することとしたい。
(1)日福における障害学生支援の主体と役割
青木は、「大学における障害学生支援にかかわるサービスを、@具体的に誰が提供するのかということと、A誰が(供給・コーディネートに)責任をもつのかということと、B誰が費用負担に責任をもつのかという問題は、それぞれ分けて考えてもよいし、同じでなくてはならない必然性はない」14)と指摘している。日福の障害学生支援の状況を見ると、@は大部分を非障害学生が無償のボランティアで担っている。Aについては一部の例外を除きそれを担う主体が不明確である。Bについては、一部を大学が負担する場合もあるが、原則として費用負担が発生しない仕組みとなっており、発生した場合は障害学生本人が負担することもある。
これまで述べてきたように、日福における障害学生支援は、障害学生が自ら必要な支援者を確保することが原則とされているが、その活動は慢性的な支援者不足のなかで困難を極めている。では、必要な支援者を確保し、障害学生の支援ニーズを安定的・継続的に充足しうる仕組みを、どのように考えていけばよいであろうか。
(2)支援活動の直接的な担い手
ここで重要となる視点は、「障害者が学ぶことは権利であり、その権利を保障する義務は、大学にとどまらず社会にある」15)ということである。すなわち、障害学生支援の全てを大学が担うのではなく、社会全体で担うものとして捉えることである。
そのうえで、まず支援活動の直接的な担い手について考えてみたい。支援者が慢性的に不足している日福は、他大学と比較して全学生に占める障害学生の割合が高い。また、3.で述べたように、学生のみで障害学生の支援ニーズを充足しうる十分な支援を行うことは困難であると考えられる。よって、支援活動の直接的な担い手に関しては、学内にとどまらず、学外からも確保することが必要であろう。しかし日福においては、最も多くの学生が在籍する美浜キャンパスをはじめ、障害学生支援を担いうる機関や人材が大学の周囲に少ないという状況がある。従って、学外から支援者をどのように確保するかについては検討しなければならない。今日学内において活発に行っている支援者要請の取り組みを地域へと展開し、学外における障害学生支援を担う人材等の育成を行うといったことも、考えられるであろう。
(3)支援の調整(コーディネート)と費用負担
次に、支援の調整と費用負担についてである。個々の障害や支援内容によって異なるが、一般に、障害学生支援の諸活動を学外の機関に依頼すると、無償のサービスである場合を除いて多額の費用が必要となる。そこで、大学が学外の機関へ支援を依頼すると、費用も大学が負担しなければならないという認識があるとするならば、それが障害学生支援の担い手を学生による無償のボランティアに限定し、障害学生支援を調整することを障害学生本人に求める一つの要因ともなっていることが考えられる。
しかし、大学が障害学生への支援を調整する責任を負うことは、それにかかる費用を負担する責任をも同時に負うことを意味するものではない16)。なぜなら、障害学生が大学で学ぶことを権利として認識し、その権利を保障する役割が広く社会にあるという立場に立てば、全ての費用を大学のみが負担することが必ずしも適当ではないと考えられるからである。
よって、障害学生支援に必要な費用については、それを社会の役割として、公的に負担していく仕組みを整備することが必要であろう。そういった費用負担の仕組み無しには、大学は「支援の調整を引き受ける=費用がかかる」という認識から脱却することができず、障害学生支援を調整する(コーディネートする)ことに積極的になることも困難であろう。さらに、多数の障害学生が在籍する日福においては、学生による無償のボランティアに依存した支援から脱却することも難しいであろう。但しここで、費用負担を公的に担う仕組みの未整備が、学生ボランティアに依存した障害学生支援のなかで生み出されている諸課題の容認を意味しないことは、強調しておかなければならない。
おわりに
本報告では、報告者が在籍していた日福における障害学生支援の状況を手がかりとして、学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題について検討した。日福においては、学生ボランティアによる障害学生支援が活発に行われているが、報告者はそのなかで様々な課題に直面してきた。それら課題の多くは、支援活動の担い手が学生ボランティアに限られていることに伴う課題であったと言える。学生ボランティアのみで障害学生支援を担うことには、学生生活に関わって生じる特有の困難がある。そういったなかで、障害学生の支援ニーズを充足しうる支援を実現するには、全てを学内で簡潔させるような仕組みとどまらず、障害学生支援を広く社会の役割と捕らえたうえで、そのあり方を検討し、各方面に必要な働きかけを行っていくことが必要である。
最後に、障害学生支援を通した学びあい・育ちあいについてふれておきたい。日福においては障害学生支援を通した学びあい・育ちあいが重視されている。そのことによって、既に述べたように、障害学生の支援ニーズが置き去りにされている実態がある。それに伍して問題であるのは、その学びあいや育ちあいのなかで涵養されるものが、自ら積極的に行動することによって困難に対応し自己実現をする、学び多きボランティア活動が障害学生の大学生活を支えうるといった、極めて貧困な自立観・障害観であるということである。そういった自立観・障害観のもとでは、障害者の直面する様々な諸課題を生み出す環境や社会的・文化的文脈に目が向かず、その結果貧困な自立観や障害観が再生産され続けることとなるであろう。最高学府である大学から巣立った学生たちは多方面で活躍し社会を担っていく。大学における「障害」を問い、障害学生支援を充実させることによって、障害学生が支援を受けながら自立した大学生活を送ることのできる環境を整備することは、大学における障害学生の支援ニーズの充足にとどまらない、大きな社会的意義を有すると言えよう。
注及び文献
1)日本学生支援機構,2008,『平成19年度(2007年度)大学・短期大学・高等専門学校における障害学生の修学支援に関する実態調査結果報告書』日本学生支援機構.
2)日福は、日本学生支援機構が2006年10月に開始した「障害学生就学支援ネットワーク」の拠点校となっている。
3)以下を参照。
日本福祉大学,「在学生数」,http://www.n-fukushi.ac.jp/01/0103.htm,2009年9月21日現在.
日本福祉大学,「障害学生支援センター」,http://www.n-fukushi.ac.jp/shiencenter/index.htm,2009年9月21日現在.
4)大学主催のオリエンテーションやガイダンスへの手話通訳の派遣、必修のクラス制科目の教科書の点訳等、一部大学の費用負担により行われているものもある。また、障害学生奨学金の支給という形で、障害により学習上特別に要した費用の一部を大学が担う制度もある。
5)日本福祉大学,「障害学生支援センター」,前掲.
6)木戸利秋,2007,『日本福祉大学の歴史』第10講(オンデマンド講義資料).
7)同じ書籍の点訳等を依頼する視覚障害学生がいるばあい、分担して学外団体に依頼することもあった。
8)スキャナとOCRソフトウェアを活用して自力で読む、親しい友人に部分的に読んでもらうといった対応をすることもあった。
9)この他に、ごく少数であるが、点訳等を行っても当該書籍の活用が報告者にとって有益でないと判断し、点訳等の依頼を行わなかったものがある。
10)例年200名以上の学生が障害学生支援センターにボランティアとして登録している他、ボランティア登録を行わずに支援活動を行っている学生も非常に多い。
11)例年、全ての新入生を対象として学部別に行われるオリエンテーションの一環として、支援センターの進行により、障害学生支援に関するオリエンテーションが行われている。
12)同じ授業を聴覚障害学生が複数履修する場合、ノートテイクの内容をモニターに映し出すシステムを利用すること等により、限られたノートテイカーでノートテイクによる情報保障を行うことができる。
13)2003年度に、日福が申請した「学生とともにすすめる障害学生支援−障害学生とともに全学生が成長しあう教育システム−」が、文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された。
14)青木慎太朗,2007,「大学における障害学生支援の現在――障害学生支援研究と実践の整理・覚書――」『NIME研究報告』33,p.20.
15)同上論文,p.21.
16)同上.
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