『リハビリの夜よる』

痛いたいのは困こまる。気持きもちいいのがいい。

現役げんえきの小児科しょうにか医いにして脳性のうせいまひ当事とうじ者しゃである著者ちょしゃは、18歳さいのとき、それまで幼少ようしょう期きから毎日まいにち欠かかさず行おこなってきたリハビリをやめた。「健常けんじょうな動うごき」を目指めざすことを諦あきらめたのだ。
都会とかいで一人暮ひとりぐらしを始はじめた著者ちょしゃは、しかし意外いがいなことを発見はっけんする。《他者たしゃ》や《モノ》たちが、《私わたし》の身体しんたいを突とっき動うごかすのだった。
女子じょしとの腹這はらばい競争きょうそうに負まけたときに襲おそってきた強烈きょうれつな刺戟しげき、リハビリキャンプでトレーナーからの授さづけられた快感かいかんと恐怖きょうふ、初はじめて電動でんどう車くるまいすに乗のったときのめくるめく感覚かんかく――。
身体しんたい接触せっしょくをたよりに「官能かんのう的てき」に自みずからの運動うんどうを立たち上あげるまでを、鮮烈せんれつな文体ぶんたいで語かたり尽つくした驚愕きょうがくの書しょ。

熊谷くまがい 晋一郎しんいちろう

熊谷くまがい晋一郎しんいちろうさん＝32歳さいは脳性のうせいまひ当事とうじ者しゃ。東京大学とうきょうだいがく医学部いがくぶ卒業そつぎょう後ご、小児科しょうにか医いとして病院びょういん勤務きんむ。2009年ねん秋あきより東京大学とうきょうだいがく先端せんたん科学かがく技術ぎじゅつ研究けんきゅうセンター特とく任にん講師こうしも兼任けんにん。

はじめに

序章じょしょう リハビリキャンプ
第だい一いち章しょう 脳性のうせいまひという体験たいけん
1 脳のう内ないバーチャルリアリティ
2 緊張きんちょうしやすい体からだ
3 折おりたたみナイフ現象げんしょうの快楽かいらく
4 動うごきを取とり込こみ、人ひとをあやつる
第だい二に章しょう トレイナーとトレイニー
1 ほどかれる体からだ
2 まなざされる体からだ
3 見捨みすてられる体からだ
4 心しんへの介入かいにゅうが体からだをこわばらせる
5 体たいへの介入かいにゅうが暴力ぼうりょくへと転てんじるとき
6 女子大じょしだい生せいトレイナーとの「ランバダ」
第だい三さん章しょう リハビリの夜よる
1 夕暮ゆうぐれ
2 歩ほかない子この部屋へや
3 歩あるく子この部屋へや
4 女じょ風呂ふろ
5 自慰じいにふける少年しょうねん
第だい四よん章しょう 耽ふけり
1 対比たいひに萌もえる
2 取とり込こめないセックス
3 規範きはん・緊張きんちょう・官能かんのう
4 打うたれる少女しょうじょ
第だい五ご章しょう 動うごきの誕生たんじょう
1 モノと作つくり上あげる動うごき
2 人にんと作つくり上あげる動うごき
3 「大枠おおわくの目標もくひょう設定せってい」が重要じゅうような理由りゆう
4 世界せかいにそそぐまなざしの共有きょうゆう
5 助たすけ合あいから暴力ぼうりょくへ
第だい六ろく章しょう 隙間すきまに「自由じゆう」が宿やどる――もうひとつの発達はったつ論ろん
1 両生類りょうせいるいと爬虫類はちゅうるいの中間ちゅうかんくらい？
2 便意べんいという他者たしゃ
3 身体しんたいに救すくわれる
4 むすんでひらいてつながって
5 衰おとろえに向むけて
注ちゅう
文献ぶんけん
あとがき