(Translated by https://www.hiragana.jp/)
立岩真也「愚かでない「景気対策」」
繰り返すが、ほんとうに経済が困るというのはどんなことか。ものがなくなる。生産する人がいなくなる。この二つだけである。資源の問題は大切だが、今のところなんとかなっている。人はいる。だから経済の悪化は別の事情による。起こらなくてもよいことが起こっている。それがわかったからといってすぐには役にたない。だがわかっておく必要はある。
なんでそうなるのか。社会科の教科書に書いてあるのは、ものを作りすぎ、売れなくなり、不景気になり、そのうち在庫がはけると上向くという過程だが、むろんこのごろものはそう単純ではない。
一つ、誰もが知るように今回のことは日本がまねをしてきた米国の仕組みの失敗が絡んでいる。
例えば、金を右から左に動かして稼ぐ人がいて、税が安く手元に多く残る仕組みの下でおおいに稼いだ。例えば「改革」によって経済的に脆弱にされてしまった層に住宅ローンの金を貸して稼いだ。そして貸し倒れになった。貸す側にいた一部は、今回職や収入を失ったのではあるが、それ以上の負担をしたわけではない。
こんなことがすくなくとも一つの要因である。それでどうしようということになっているのか。
一つに、金を撒くことであり、減税することである。
減税に効果がある場合があることは認めよう。しかし日本は当時の英米のまねをして累進性を弱くした後、さらに景気対策として所得税の「定率」減税を行った(一九九九年)。それでさらに、市場でたくさん得た人はたくさん税を払う度合が減った。そして長い間そのままにしておいた。それで税収が減り、税金を使ってすべきことができなくなってしまった。所得保障、労働政策、福祉・医療に金をかけないできた。その結果、今、職を失う人、低収入の人がますます増えても、それに対応できないことになってしまっている。
こんな時、第一に、一律に金を給付するとか一律に減税するといったことは、言うまでもなく、愚かだ。第二に、こういう時には、どさくさにまぎれて、結局、勢力の大きな部分の声が通ってしまうことが多いが、これもいけない。
消費を増やすべきという主張を受け入れるとしよう。ならば、今困っていて、すぐに使ってもらえる人に直接に渡すのが最も効果的である。公共的な仕事、福祉・医療の仕事に就く人を雇う、収入を多くすることを含む労働政策、一時的失業者を含む所得保障にまわすのが最も効果的である。
◆2008/10/04 「社会経験生かす大学院」
『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」1
◆2008/10/11 「「障老病異」個々で探究」
『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」2
◆2008/10/18 「良い死?」
『朝日新聞』2008-10-18朝刊・京都:31 コラム「風知草」3
◆2008/11/08 「経済を素朴に考えてみる」
『朝日新聞』2008-11-8朝刊・京都:31 コラム「風知草」4,
◆2008/11/29 「税金の本義」
『朝日新聞』2008-11-29朝刊・京都:31 コラム「風知草」5
◆2008/12/13 「「税制改革」がもたらしたもの」
『朝日新聞』2008-12-13朝刊・京都:31 コラム「風知草」6,
◆2008/12/20 「愚かでない「景気対策」」
『朝日新聞』2008-12-20朝刊・京都:31 コラム「風知草」7,
◆2009/01/10 「前に行くために穿り返す」
『朝日新聞』2008-1-10朝刊・京都:31 コラム「風知草」8
↓
◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 2009/09/10 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon]/[kinokuniya] ※ t07,