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Laing, Ronald David[R・D・レイン]
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Laing, Ronald David

[R・D・レイン]
1927〜1989

last update:20110602
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著書ちょしょ ◆Laing, Ronald David 1960,1969 The Divided Self : An Existential Study in Sanity and Madness Tavistock =19710930 阪本さかもと健二けんじ志貴しき春彦はるひこ笠原かさはら よしみ わけ『ひきかれた自己じこ――分裂ぶんれつびょう分裂ぶんれつびょうしつ実存じつぞんてき研究けんきゅう,みすず書房しょぼう,304p. ISBN-10: 4622023423 ISBN-13: 978-4622023425 2940 [amazon][kinokuniya] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 1961,1969 Self and Others,Tavistock,160p. =19750915 志貴しき 春彦はるひこ笠原かさはら よしみ わけ自己じこ他者たしゃ,みすず書房しょぼう,231p. ASIN: B000JA1B04 [amazon] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David & Esterson,A. 1964 Sanity,Madness,and The Family:Familiy of Schizophrenics,Tavistock =19720625 笠原かさはら よしみわけ , 狂気きょうき家族かぞく,みすず書房しょぼう,362p. ISBN-10: 462202344X ISBN-13: 978-4622023449 [amazon][kinokuniya] ※ m m01b f04
◆Laing, Ronald David 1967 The Politics of Experience and The Bird of Paradise,Penguin Books,160p. =19731115 笠原かさはら よしみ塚本つかもと よしみ寿ことぶき やく経験けいけん政治せいじがく,みすず書房しょぼう,214p. ASIN: B000J9OIS2 [amazon] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 1969 The Politics of the Family,CBC Publications,160p. =197901 阪本さかもと 良男よしお笠原かさはら よしみ わけ, 家族かぞく政治せいじがく,みすず書房しょぼう,196p. ISBN-10:4622023490 ISBN-13: 978-4622023494 [amazon][kinokuniya] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 1970 Knots,Tavistock,160p. =19731125 村上むらかみ 光彦みつひこ やく, むすぼれ』,みすず書房しょぼう,157p. ISBN-10: 4622023466 ISBN-13: 978-4622023463 [amazon][kinokuniya] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 1976 Do You Love Me?: An Entertainment in Conversation and Verse,Penguin Books, =19780225 村上むらかみ 光彦みつひこ やく き?き?大好だいすき?――対話たいわのあそび』,みすず書房しょぼう,164p. ISBN-10: 4622023482 ISBN-13: 978-4622023487 \2415 [amazon][kinokuniya] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 1976 The Facts of Life:An Essay in Feelings,Facts,and Fantasy,Pantheon, =19790929 塚本つかもと よしみ寿ことぶき笠原かさはら よしみ わけ , なま事実じじつ,みすず書房しょぼう,242p. ASIN: B000J8E630 [amazon] ※ m m01b
◆Laing, Ronald David 198509 Wisdom, Madness and Folly: The Making of a Psycoiatrist,McGraw-Hill,160p.=198608 中村なかむら 保男やすおやく『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち岩波書店いわなみしょてん→ 19900309 中村なかむら 保男やすお やくr,『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち』,岩波書店いわなみしょてんどう時代じだいライブラリー 13,321p.ISBN-10: 4002600130 ISBN-13:978-4002600130 \1155 [amazon][kinokuniya] ※→20020215 中村なかむら 保男やすお やく,『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち』,岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ現代げんだい文庫ぶんこ,332+vip.  ISBN-10: 4006000782 ISBN-13: 978-4006000783 \1100 [amazon][kinokuniya] ※ m.

言及げんきゅう笠原かさはら よしみ 1976 「レインのはん精神せいしん医学いがくについて」,『臨床りんしょう精神せいしん医学いがく』5-5

p675
はん精神せいしん医学いがくとは)
 はん精神せいしん医学いがくとは、一言ひとことでいえば、伝統でんとうてき正統せいとうてき主流しゅりゅうてき精神せいしん医学いがく狂気きょうきかんたいする根本こんぽんてき異議いぎもうてである。
つまり、伝統でんとうてき精神せいしん医学いがくが19世紀せいき以来いらい身体しんたい医学いがく枠組わくぐみ概念がいねんをそのまま踏襲とうしゅうし、狂気きょうきイコール疾患しっかんとみなしつづけてきたとしての意義いぎもうてである。

p675(1960年代ねんだいはん精神せいしん医学いがく全体ぜんたい特徴とくちょう
@狂気きょうき不当ふとうにも病気びょうき仕立したてげるのに、精神せいしんもふくめて社会しゃかい成員せいいんがひそかに暴力ぼうりょくをふるってきたという認識にんしきであり、その内部ないぶ告発こくはつである。
・「狂気きょうき医学いがく批判ひはん」(Manoni)
・「狂気きょうき社会しゃかい共謀きょうぼういんモデル」(Siegler,M)
A今日きょう正気しょうきがもはや体験たいけんできなくなった真理しんり狂気きょうきのなかに見出みいだしうるとする
狂気きょうき復権ふっけんてき狂気きょうきれいさんてき主張しゅちょう
狂気きょうきのサイケデリック・モデル(Siegler,M)
 
p675(はん精神せいしん医学いがくともせい
・Szazzの「精神せいしん医学いがく神話しんわ」(1961)
・Laingの「分裂ぶんれつびょうとはなにか」(だい1かい国際こくさい社会しゃかい精神せいしん学会がっかいでの公演こうえん/1964)
・CooperのVilla21の開設かいせつ(1965)
・Laingのキングスレイホールの開設かいせつ(1965)
・Cooperの「精神せいしん医学いがくはん精神せいしん医学いがく」(1967)

背景はいけいてき理由りゆう
@現代げんだい管理かんり体制たいせい人間にんげんせい
A個人こじん人権じんけん自由じゆうへの渇望かつぼう増大ぞうだい
B青年せいねん勢力せいりょくの抬頭
Cはん理性りせいろんはん科学かがくろん
 いち個別こべつ科学かがくでありながら精神せいしん医学いがくはん科学かがくてき思潮しちょうひとつの突出とっしゅつてんとなったについては、それなりの歴史れきし理由りゆうがあったとみてよかろう。この学問がくもん分野ぶんやはそのあつか対象たいしょう性質せいしつじょうはやくから分析ぶんせきてき理性りせい限界げんかい直面ちょくめんし、直感ちょっかんてき全体ぜんたい認識にんしきのための方法ほうほうろんについて真剣しんけん模索もさくしなければならなかった。
Dこう精神せいしんやく治療ちりょう
 こう精神せいしんやく出現しゅつげんによる治療ちりょうじょう進歩しんぽ一段落いちだんらくし、こう精神せいしんやく出現しゅつげんによって一時いちじしょうじた幻想げんそうたい反動はんどうてき失望しつぼうしょうじだした時期じきにこれがあたるということである。
いかえれば、こう精神せいしんやく出現しゅつげんによってある程度ていどまでの治療ちりょうてき進歩しんぽ達成たっせいされたうえにおいてでなければ1960ねんはん精神せいしん医学いがくてき発想はっそうしょうじなかったのではないかということである。
かりにのよりひろ社会しゃかいてき思想しそうてき条件じょうけんじゅくしていたとしても、緊張きんちょう性病せいびょうぞうおもで、医療いりょうしゃはその治療ちりょうさい自己じこ防衛ぼうえいをまずもってかんがえなければならないようなこう精神せいしんやく以前いぜん自体じたいにあったとしたら、はん精神せいしん医学いがくてき発想はっそうはこれほどのともせいをもって世界せかいてきしょうじなかったのではなかろうか。

p677(レインのはん精神せいしん医学いがく特徴とくちょう@社会しゃかい共謀きょうぼういんせつ
 社会しゃかい共謀きょうぼういんせつ従来じゅうらいからある社会しゃかいいんせつ混同こんどうされてはならない。従来じゅうらいからある分裂ぶんれつびょう社会しゃかいいんせつ貧困ひんこん過密かみつ欠損けっそん家庭かてい教育きょういく欠如けつじょとう可視かしてき問題もんだいをとりあげるのにたいし、社会しゃかい共謀きょうぼういんせつ問題もんだいにするのは家族かぞく精神せいしんやソーシャルワーカーや、そして「しばしば仲間なかま患者かんじゃたちもくわわっての」一致いっちした、しかし、だれにとってもけっして意図いとてきならざる連携れんけいてき共謀きょうぼう行為こういである。
それが集団しゅうだんのなかの一人ひとり人間にんげんをスケープゴードとして疎外そがいし、そこに分裂ぶんれつびょうといわれる結果けっかうまれるとかんがえる。
    ↓
この仮説かせつ前身ぜんしんは「家族かぞくいんせつ
 つまり家族かぞくいんせつ狂気きょうき病理びょうり病人びょうにんの「個人こじん内部ないぶ」にあるとする、これまでの常識じょうしきやぶり、んでいるのはいわば家族かぞく全体ぜんたいであり、それが種々しゅじゅ事情じじょうからメンバーの一人ひとりをえらんであらわれたとかんがえることにより、常識じょうしきてき医学いがくてき疾患しっかんかん挑戦ちょうせんした
    ↓
  Sullivanの系譜けいふ

p678(レインのはん精神せいしん医学いがく特徴とくちょうA狂気きょうきれいさんてきなサイケデリックモデル「分裂ぶんれつびょう旅路たびじせつ」)
 ようするに、条件じょうけんさえととのえば、狂気きょうき分裂ぶんれつびょう)とは、よりのぞましい仕方しかた正気しょうきへと帰還きかんしてくるはずのひとつの内面ないめんてき旅路たびじ」であるとかんがえる。
(…)狂気きょうきにはその自然しぜんなシークエンスをたどれば正気しょうきへとえんたまきてき帰還きかんしてくる旅路たびじという可能かのうせいがある。
(…)「いまわれわれが必要ひつようとしているのは各種かくしゅ熱心ねっしん治療ちりょうほうをおこなう精神せいしん病院びょういんよりも、この内面ないめん旅路たびじ完遂かんすいするのをたすける場所ばしょである」。

p679(レインのはん精神せいしん医学いがく特徴とくちょうB/キングスレイホールの実践じっせん
・1965〜1971ねんごろの実践じっせん(ロンドン)
病人びょうにんであるなしにかかわらず、まただれからの強制きょうせいもなしに、しかも自分じぶんこの期間きかんだけここにみ、一連いちれんのスケジュールにくわわることがゆるされた
(…)スケジュールとしては絵画かいが教室きょうしつやヨガから専門せんもんてき各種かくしゅ講義こうぎまでがある。
(…)キングスレイの特色とくしょくはここではだれもが医者いしゃでもなくだれもが患者かんじゃでもなく、だれ狂気きょうきだれ正気しょうきかの区別くべつまったくされない。
・1969ねん5がつ時点じてんで、収容しゅうよう可能かのう人数にんずうは14にん、4年間ねんかんに113めい老若男女ろうにゃくなんにょ投宿とうしゅくし、滞在たいざい日数にっすうは3にちから最長さいちょう4ねん。その7わりがかつて病人びょうにんといわれたひとであり、入院にゅういんれきのあるひと半数はんすう。キングスレイをってこうさい入院にゅういんしたひとは12にん

p680(はんはん精神せいしん医学いがく/はん精神せいしん医学いがく問題もんだいてん))
Eyのごとき理性りせいてき立場たちばからの反論はんろんのみならず、より経験けいけんてきレベルからの反論はんろんもまたはん精神せいしん医学いがくたいして数多かずおおくなされた。
@医学いがくてき診断しんだん狂気きょうきへの適用てきよう根本こんぽんてき疑義ぎぎをさしはさむはん疾病しっぺいろんてき傾向けいこう
A医学いがくてき科学かがくてきかんがえられる治療ちりょう一般いっぱんへの疑問ぎもんという意味いみでのはん治療ちりょうてき傾向けいこう
B狂人きょうじん病人びょうにんとして社会しゃかいから疎外そがいすることにをかす今日きょう精神せいしん病院びょういん批判ひはんという意味いみでのはん収容しゅうよう主義しゅぎ傾向けいこう
    ↓
共謀きょうぼうといっても、それが隠然いんぜんたる相互そうご作用さよう(interaction)である以上いじょう、あくまで仮説かせつにとどまり証明しょうめいしにくい。
かり家族かぞくないでの共謀きょうぼういんせつみとめられたとしても、家族かぞくというしょうサイズの集団しゅうだんないでの暴力ぼうりょく原理げんりをただちに拡大かくだいして、家族かぞくというしょう集団しゅうだんでの暴力ぼうりょく原理げんりをただちに拡大かくだいして、家族かぞくというしょう集団しゅうだんとは本来ほんらい異質いしつな、社会しゃかいというだい集団しゅうだんにおける、
しかもきわめて巨大きょだい暴力ぼうりょく現象げんしょう仮定かていするという方法ほうほうたして妥当だとうか。
定型ていけい精神病せいしんびょうでは「旅路たびじせつ」は適用てきようしやすいが、正真正銘しょうしんしょうめい分裂ぶんれつ病者びょうしゃにも適用てきようできるか。……

◆『集団しゅうだん精神療法せいしんりょうほう基礎きそ用語ようご』20030930 日本にっぽん集団しゅうだん精神療法せいしんりょうほう学会がっかい 監修かんしゅう,北西ほくせい憲二けんじ小谷おたに英文ひでふみ 編集へんしゅう 金剛こんごう出版しゅっぱん

 「スコットランドのグラスゴーまれ。虐待ぎゃくたいするちち病弱びょうじゃくははあいだまれた。
 Laing.R.D.は、おさなころから恐怖きょうふ憤怒ふんぬ感情かんじょうからのがれるため、精神せいしんてききこもりを実践じっせんしていたという。
 14さいごろまでに心理しんりがく哲学てつがく神学しんがく関心かんしんいだき、17さいごろまでにはヴォルテール、ダーウィン、ミル、ハックスレーをむさぼるようにみ、ギリシャ哲学てつがくしょみこなしていた。
 グラスゴー大学だいがく進学しんがく医学いがくこころざし、精神せいしん分析ぶんせき興味きょうみつようになる。
 1951ねんから56ねんまで、最初さいしょ軍用ぐんよう病院びょういんで、さらにグラスゴー王立おうりつ病院びょういん重症じゅうしょう患者かんじゃ病棟びょうとう女性じょせい患者かんじゃ対象たいしょう統合とうごう失調しっちょうしょう研究けんきゅうはじめた。
 この体験たいけんから、1960ねんかれた自己じこ』を出版しゅっぱん家族かぞくなか統合とうごう失調しっちょうしょうがつくられていくプロセスをえがき、精神せいしん学会がっかいはげしい論争ろんそうんだが、英国えいこくちゅうでベストセラーとなった。
 そのかれはロンドンのタビストック・クリニックのスタッフにくわわり、Winnicott,D.WやKlein.M.らとともに分析ぶんせきくわわり、Esterson,A.との家族かぞくかんする共同きょうどう研究けんきゅうおこない、『狂気きょうき家族かぞく』(1963)、『経験けいけん政治せいじがく』(1967)を次々つぎつぎ発表はっぴょうした。
 1965ねん精神病せいしんびょう治療ちりょう改革かいかく目指めざすグループ、フィラルデルフィア協会きょうかいのほかのメンバーと共同きょうどうで、イースト・ロンドンのキングスリー・ホールで独自どくじ治療ちりょう活動かつどう開始かいしした。
それは、はん精神せいしん医学いがく理論りろん実践じっせんするための治療ちりょう共同きょうどうたいで、みちまよい「くるった」人々ひとびとが「社会しゃかいからの十分じゅうぶんはげましと承認しょうにんて、うちなる空間くうかん時間じかんなかみちびかれる」ことによって快癒かいゆするという信念しんねんもとづくものであり、「人間にんげん崩壊ほうかいふたた助長じょちょうする工場こうじょう」である精神せいしん病院びょういんたいするアンチテーゼでもあった。
 キングスリー・ホールでは、患者かんじゃいちじるしい退行たいこう許容きょようされ、看護かんご退行たいこうした患者かんじゃにオムツをあてがい、哺乳ほにゅうびんでミルクをませ、身体しんたいいてやった。毎夜まいよ9時半じはんになると、Laingによって仕切しきられるディナーがはじまり、ながいテーブルをかこんで、Laingが哲学てつがく医学いがく宗教しゅうきょうなどについていたという。
 真夜中まよなかにはテーブルをはらい、夜明よあけまで自由じゆうなダンスがひろげられた。
 キングスリー・ホールはロンドンのはん体制たいせい文化ぶんか活動かつどう中心ちゅうしんとなり、わかはん精神せいしん医学いがくしゃたちだけではなく、ロック・グループ、実験じっけんてき演劇えんげきグループ、画家がか詩人しじんはん体制たいせい学生がくせいなどおおくの有名ゆうめい無名むめい人々ひとびとまりとなった。
 患者かんじゃなかには、画家がかメアリー・バーンズのような有名ゆうめい患者かんじゃてきた。
 しかし、テレビドラマや映画えいが演劇えんげきにもなり、時代じだい先端せんたん文化ぶんかてきシンボルともてはやされたキングスレー・ホールも1971ねんには分解ぶんかい、LaingはCooper.D.やEsterson.Aらとも決別けつべつ、Bark.J.とSchatzman.MもLaingとたもとかってべつ治療ちりょう共同きょうどうたいアーバーズ協会きょうかいつくることになった。
 スリランカ、インド、日本にっぽんへとながたびたLaingは、70年代ねんだいには政治せいじてき立場たちばて、ヨガ、菜食さいしょくあたらしい分娩ぶんべん様式ようしき信奉しんぽうしゃとして文筆ぶんぴつにいそしむ毎日まいにちとなった。
 1989ねん、フランスの避暑ひしょあたらしいつまとテニスちゅうおそった心臓しんぞう発作ほっさかれは62ねん生涯しょうがいじた。」(武井たけい麻子あさこ

◆19900309 「R・D・レインの」(『レイン わが半生はんせい解説かいせつ),Laing[1985=1986→1990]*→中井なかい[19950922:201-222]
*Laing, Ronald David 198509 Wisdom, Madness and Folly: The Making of a Psycoiatrist,McGraw-Hill,160p.=198608 中村なかむら 保男やすおやく『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち岩波書店いわなみしょてん→ 19900309 中村なかむら 保男やすお やくr,『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち』,岩波書店いわなみしょてんどう時代じだいライブラリー 13,321p.ISBN-10: 4002600130 ISBN-13:978-4002600130 \1155 [amazon][kinokuniya] ※→20020215 中村なかむら 保男やすお やく,『レイン わが半生はんせい――精神せいしん医学いがくへのみち』,岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ現代げんだい文庫ぶんこ,332+vip.  ISBN-10: 4006000782 ISBN-13: 978-4006000783 \1100 [amazon][kinokuniya] ※ m.

 「<0209<
 英国えいこく陸軍りくぐん軍医ぐんい精神せいしん医学いがくは、なん患者かんじゃはなしかけることをきんじていた。かれは、中尉ちゅういという地位ちい利用りようしてこれにさからい、患者かんじゃかたりかける。つづ軍隊ぐんたい精神せいしん医療いりょうの「テントのなかてき体験たいけんはレインののち実験じっけん病棟びょうとうキングズリ・ホールにつうじているかもしれない。一見いっけんやなさんはくのような雑駁ざっぱく施設しせつ運用うんようできる実務じつむ能力のうりょくは、しばしば軍隊ぐんたい経験けいけんあたえるものだ。除隊じょたいしたかれはグラスゴーの王立おうりつ精神せいしん病院びょういん勤務きんむし、院長いんちょう婦長ふちょう支持しじしたじゅういちにん患者かんじゃえらんで最初さいしょ実験じっけん病棟びょうとうつくっている。この成功せいこうが「わが生涯しょうがいもっと感動かんどうてき体験たいけんであった」。いちねんはんのうちに全員ぜんいん退院たいいんしたが、そのいちねんには全員ぜんいんさい入院にゅういんしていた*。これが、かれ分裂ぶんれつびょう社会しゃかいいんせつ示唆しさしたのではないか。それまでのかれは、神経しんけいがく精神せいしん医学いがく統合とうごうのほうにけていた科学かがくてき青年せいねん医師いしだったのである。
  * サリヴァンは、すでにいちきゅう年代ねんだいに、精神病せいしんびょうとうない雰囲気ふんいき改善かいぜん退院たいいん社会しゃかいとの落差らくさおおきくし、さい入院にゅういんりつたかめることを指摘してきしていた。

 レインの精神病せいしんびょう恐怖きょうふはあとまでいているとおもう。『ひきかれた自己じこ』は、分裂ぶんれつびょう破壊はかいてきめん陰影いんえい恐怖きょうふかんをもってえがき、そのあまり、このやめいの生命せいめい維持いじてき自然しぜん回復かいふくてきめんおおわれている。精神せいしん医学いがく理論りろん患者かんじゃにこびる羊頭ようとういぬ肉的にくてきなものであってよいわけはないが、いたずらに患者かんじゃ(あるいは医師いし)を絶望ぜつぼうさせるのもよい医学いがく理論りろんではない。「自己じこがバラバラになっている」とか「自己じこ」とかいっぱなしにしてよいものだろうか。精神せいしん医学いがく理論りろんはどこか患者かんじゃ納得なっとくさせ、患者かんじゃのためになるようなもののほうよりいいとわたしおもう。<0210<
 実践じっせんてき楽観らっかん主義しゅぎとでもいうべきものが治療ちりょう必要ひつようであるとは、統計とうけいしめすところである。分裂ぶんれつびょうなおるとかんがえている医師いし治癒ちゆりつは、なおらないとかんがえている医師いし治癒ちゆりつよりたしかにたかい。おそらく、前者ぜんしゃこのましい自説じせつ確証かくしょうかんがえ、悪化あっか一時いちじてき現象げんしょうとみるであろう。後者こうしゃは、ぎゃくに、改善かいぜん一時いちじてき現象げんしょうとみるであろう。このちがいが長期ちょうきてきにはおおきなむとしても不思議ふしぎではない。
これは、かみ存在そんざいけるほうが利益りえきおおきいといたパスカルのけとおな論理ろんりである。 わたしにとってレインはむしろ僚友りょうゆうてき存在そんざいだが、同時どうじにそのどくによって精神せいしんあるいは患者かんじゃ萎縮いしゅくしないことをのぞんでいる。

  *

 ここまでの文章ぶんしょうは、いちきゅうはちきゅうねんなつのレインのさいして、『朝日あさひジャーナル』よりもとめられた「追悼ついとうぶん」である。このたび、レインの自伝じでんの「解説かいせつ」としてさいろくすることをもとめられたけれども、これはとうてい解説かいせつではない。らせをいておもいのさまようままをつらねたもので、けっしてレインの業績ぎょうせき解説かいせつになっていない。舌足したたらずであったところをおぎなって、解説かいせつえて参考さんこうまでに、ほぼどう時代じだいいち精神せいしん感慨かんがいつたえるものとして掲載けいさい承諾しょうだくした次第しだいである。多少たしょう補足ほそく事情じじょう説明せつめいくわえておきたい。
 レインの追悼ついとうのおはちわたしにまわってくるということ自体じたいが、レインのかれている現在げんざい位置いち雄弁ゆうべん物語ものがたっている。もし、じゅうねんまえといわずとも、じゅうねんあまりまえであったならば、追悼ついとうしゃにもかい<0211<説者にも事欠かなかったであろう。
 なるほど、いかなる作家さっかも、死後しごじゅう乃至ないしじゅうねんはいったん忘却ぼうきゃくされる。これを地獄じごくえんにある「リンボ」(「えん」という意味いみであるが)にはいったとフランスではいうそうである。しかし、レインは、きながらにしてわすれられたようにみえる。レインはすこ長生ながいきしすぎたのだろうか。ろくじゅういちさいという年齢ねんれいは、通常つうじょう意味いみでは、そうではない。それでは、レインはもはやりこえられたのだろうか。あるいは、誤謬ごびゅうふちしずんでしまったのだろうか。レインはもう復活ふっかつしないのだろうか。
 あるいはそうかもしれない。しかし、いかなる意味いみにおいてか。
 わたしはレインを「僚友りょうゆう」といた。これはどういう意味いみかときかれたことがある。これまでわたしはレインをくちにしたことさえほとんどないからである。
 レインを精神病せいしんびょう理学りがくしゃとしては評価ひょうかするが、実践じっせんとしては評価ひょうかしないというかたがある。わたしかんかたは、おおむね反対はんたいである。かれ著作ちょさくわたしには衝撃しょうげきてきでなかった。『ひきかれた自己じこ』さえも。のいくらかをすこし面白おもしろいとおもう。どう時代じだいのビートルズとらしあうものがあるともおもうが、とうていビートルズにおよばない。にしても、その著作ちょさくにしても、ひどく生焼なまやけのままをひとだとおもった*。それをこのひともあり、おのれに馴染なじまないとおもひともあるだろう。
  * 『ひきかれた自己じこ』で一躍いちやく有名ゆうめいになったのちのレインには出版しゅっぱんしゃひとしかけ、まだかたちをとっていない著作ちょさくのためにどんと札束さつたばんだそうである(当時とうじ英図えいと在住ざいじゅう精神せいしんSはなし)。「これはいかん」とわたしおもった。

<0212<
 じゅうななさい若書わかがき『ひきかれた自己じこ』は、本国ほんごく英国えいこくでも日本にっぽんでも熱烈ねつれつ歓迎かんげいされた。不毛ふもうであった英国えいこく精神病せいしんびょう理学りがく新進しんしん気鋭きえいのスターがあらわれたと、おおくのひとおもった。そう、レインはスターであった。スターは回顧かいこされても復活ふっかつはしない。あるいは、スターとして出発しゅっぱつしたことにレインの不幸ふこうとはいわずとも不運ふうんがあったのかもしれない。スターになった精神せいしんははなはだくまい。おおくの患者かんじゃ苦悩くのうのままにきながら、おのれのみが脚光きゃっこうびることは、精神せいしん均衡きんこうむであろう。ことにレインはそういうひとであったろう。そのかれ彷徨ほうこうは、この均衡きんこうからの自己じこ救済きゅうさいだけではないにしても、一般いっぱん患者かんじゃでなく自己じこ救済きゅうさい動機どうきとしてまれたのではないかとわたしおもう。かれ永遠えいえん求道きゅうどうしゃであるというかたをするひとは、そのめんひかりててのことであろう。もっとも、わたしには、みちもとめるひとというよりも、すくいを模索もさくするひとえる。しかし、かれが、ラカンのような「導師どうし」でなかったことは、わたしにすればかれ不名誉ふめいよではない。
 『ひきかれた自己じこ』だけは、若書わかがきのつねとして、野心やしんてきであり、自己じこ承認しょうにん社会しゃかいせま秀才しゅうさい青年せいねん勉強べんきょう成果せいかといういちめんつ。当時とうじ英国えいこく精神せいしん医学いがくきょいたのである。大陸たいりく精神せいしん医学いがく、アメリカ精神せいしん医学いがく、その基礎きそをなす実存じつぞん哲学てつがく、フロイトの思想しそう――こういうものは、その英国えいこく精神せいしん医学いがく摂取せっしゅしたところのものである。また、現象げんしょうがくてき視点してん分裂ぶんれつびょうしつろん自我じが心理しんりがく対人たいじん関係かんけいろん家族かぞく精神せいしん医学いがく――これらが『ひきかれた自己じこ』にきらびやかに総合そうごうされている。これは、その平均へいきんてき折衷せっちゅうてき精神せいしんあたま同居どうきょするようになった混合こんごうぶつ代表だいひょうてき構成こうせい物件ぶっけんである。まわりの精神せいしん見回みまわせばよい。 <0213<
 もちろん、衝撃しょうげきりょくおおくのひとにとってつよいものであった。英国えいこくでも、このほんによって精神せいしんになったひとおおい、わたしもそうだと、かれのある追悼ついとうぶんべる。わがくにでも、いち世代せだいわか精神せいしんが、いかにねつっぽく、このほんにしてわたし議論ぎろんをしかけてきたことか(わがくにではDivided Selfを「分割ぶんかつされた自己じこ」でなく強調きょうちょうてきに「ひきかれた自己じこ」としたために、いっそう強烈きょうれつ印象いんしょうまれた)。そうであっても、精神分裂病せいしんぶんれつびょう患者かんじゃといわれてきたひとたち、あるいは分裂ぶんれつびょうしつといわれるひとたちから世界せかいれば、とく対人たいじん世界せかいれば、このように不安定ふあんていであって、かれらのきようとする努力どりょく自己じこ破壊はかいわりがちなことを、おおくの精神せいしんは、このほんによってった。精神せいしん分裂ぶんれつびょう患者かんじゃ分裂ぶんれつびょうしつひとを、ひとごとでなく、わがこととしてかんじるような視点してん変換へんかんである。ある友人ゆうじんは、レインをんではじめて、分裂ぶんれつびょう治療ちりょうしようという勇気ゆうきてたとかたっている。もうひとつ、レインの重要じゅうよう読者どくしゃには患者かんじゃたちがいる。かれ著書ちょしょによって患者かんじゃははじめて自己じこ正当せいとう根拠こんきょ見出みいだした。レインは患者かんじゃ弁護士べんごしであった。いささか弁護べんご対象たいしょう過剰かじょう自己じこ同一どういつした弁護士べんごしであったとしても、そもそも患者かんじゃ弁護士べんごしすくないのである。
 わたしが、レインを「僚友りょうゆう」と表現ひょうげんしたのには、目下めした精神せいしん医学いがくかいにおいてはなはだ不評ふひょうであるレインのためにいささか挑発ちょうはつてき言辞げんじろうしたくなった気味きみがあるけれども、レインが直面ちょくめんしていたものとわたし直面ちょくめんしていたものとがおおむねおなじであるという感覚かんかくである。
 かれ自身じしんが、相当そうとう挑発ちょうはつしゃであった。かれ精神せいしんたちを、社会しゃかいを、家族かぞくおこらせようとしていためんがある。しかし、レインという現象げんしょうは、精神せいしん医療いりょう現実げんじつとかけはなれた絵空事えそらごとではない。わたしはレ<0214<インをその面で評価する。
 たとえば、患者かんじゃは、社会しゃかい無意識むいしき共謀きょうぼうによって精神分裂病せいしんぶんれつびょうになるとかれ挑発ちょうはつした。今日きょうでは社会しゃかい条件じょうけんのいかんによって「事例じれい case」として析出せきしゅつするかどうかがまるという。
 病者びょうしゃは、精神せいしん看護かんご、そのそのによって患者かんじゃ仕立したてげられるとかれ挑発ちょうはつした。今日きょうでは病院びょういん環境かんきょう医療いりょうしゃ応対おうたい家族かぞく態度たいどその病状びょうじょうを、おおいに決定けっていするという。
 患者かんじゃ家族かぞくのスケープゴートであるとかれ挑発ちょうはつした。今日きょう家族かぞく研究けんきゅうは、患者かんじゃを、家族かぞくという複雑ふくざつあみなか患者かんじゃ指定していされたものという。家族かぞく精神せいしん医学いがくでは、患者かんじゃといわず、IP(identified Patient 患者かんじゃとされたもの)というのである。
 かれは、患者かんじゃ治療ちりょうしゃ区別くべつ撤廃てっぱいし、挑発ちょうはつてき実験じっけん病棟びょうとう――一種いっしゅ避難ひなんしょ共同きょうどうたいつくった。現在げんざい治療ちりょう共同きょうどうたいという概念がいねん市民しみんけん種々しゅじゅのアジールが、さまざまなのもとにまれている。
ヴォランティアが参加さんかするようになった。
 精神分裂病せいしんぶんれつびょうは、より積極せっきょくてきせいへの旅路たびじであるとかれ挑発ちょうはつした。この旅路たびじが、一部いちぶわれているようなこころよいフーガからは程遠ほどとおく、途中とちゅう力尽ちからつきるものおおいとしても、これは、やめいの重要じゅうよう意味いみづけであり、今日きょう伴侶はんりょてき精神療法せいしんりょうほう概念がいねんは、なによりもまず、患者かんじゃやまいいの旅路たびじ伴侶はんりょという意味いみであるはずである。
 かれは、症状しょうじょう精神せいしんつくすものだといい、自分じぶん患者かんじゃはほとんど症状しょうじょうかたらないと挑発ちょうはつした。ロールシャッハ検査けんさにおいて、異常いじょう反応はんのうをよくさせる検査けんさしゃとそうでない検査けんさしゃとがあるよ<0215<うに、症状の意識化は治療関係によって左右される部分が予想外に大きい。そもそも、症状から生へと焦点を移動させることが、治療の成功の尺度である。
 精神分裂病せいしんぶんれつびょう資本しほん主義しゅぎ所産しょさんだとかれ挑発ちょうはつした。わたし歴史れきしてきにみて賛成さんせいしないが、産業さんぎょう革命かくめい以後いごであるというせつがさまざまな論拠ろんきょげて存在そんざいしつづけている。
 結局けっきょく、レインのどくうすめられたかたち今日きょう精神せいしん医学いがくにずいぶんりこまれている。
 もし、ひとを、その最低さいていてん評価ひょうかすれば、レインをてることはやさしい。しかし、そのもっとも有意義ゆういぎてんもっ評価ひょうかするならば、レインの出発しゅっぱつした精神せいしん医療いりょう現実げんじつは、ほぼ、われわれの出発しゅっぱつした現実げんじつであり、わたしもそこから出発しゅっぱつした。わたしのことはともかくとして、だれもまだレインを嘲笑ちょうしょうできるほどには、この現実げんじつ解消かいしょうしていないとわたしおもう。また、レインの著作ちょさくには、患者かんじゃがレインをとおしてかたっているようなところがある。それは、精神せいしん医学いがくが、おおくの患者かんじゃ現状げんじょう棚上たなあげにして自己じこ満足まんぞくおちいらないための有用ゆうようどくであるとわたしおもう。レインの肉体にくたい地上ちじょうはなれた。テニスコートでの突然とつぜんであったというから、いちおう幸福こうふくであろう。レイン個人こじんについてはそうであるが、レインが地上ちじょうのこしたどくをもはや精神せいしん医学いがく必要ひつようとしなくなっているかどうか。そうなるときには、レインはやすんじて度目どめぬのであるまいか。」(中井なかい[1986:210-216])

中井なかい久夫ひさお ★ 「ロナルド・D・レイン『ひきかれた自己じこ』」,中井なかい[★→20051124]
」*
中井なかい 久夫ひさお 20051124 関与かんよ観察かんさつ,みすず書房しょぼう,333p. ISBN-10:4622071754 ISBN-13: 978-4622071754  2730 [amazon][kinokuniya] ※ m.
立岩たていわ しん也 2011/06/01 「社会しゃかいさき・8――連載れんさい 67」,『現代げんだい思想しそう』39-8(2011-6):- 資料しりょう


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