JR、事故死じこしの認知にんち症しょう老人ろうじんの遺族いぞくに7百ひゃく万まん円えん請求せいきゅう…85歳さい妻つまは要よう介護かいご者しゃ、最高裁さいこうさいがNO

JR東海道とうかいどう本線ほんせん313系けい（「Wikipedia」より／JKT-c）

　最高裁判所さいこうさいばんしょが二に審しんの判決はんけつを破棄はきしてJR東海とうかい側がわの請求せいきゅうを棄却ききゃく、家族かぞく側がわが逆転ぎゃくてん勝訴しょうそ――。

　2007年ねん、愛知あいち県けん大府おおぶ市しで認知にんち症しょうの91歳さい男性だんせいが列車れっしゃにはねられて死亡しぼうした事故じこをめぐる裁判さいばんの話はなしだ。JR東海とうかいは列車れっしゃの遅延ちえんなどを理由りゆうに、家族かぞくに約やく720万まん円えんの損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめた。一いち審しんの名古屋なごや地方裁判所ちほうさいばんしょは、男性だんせいの妻つまと長男ちょうなんに対たいして全額ぜんがくの支払しはらいを命めいじ、二に審しんの名古屋なごや高等こうとう裁判所さいばんしょは、妻つまにのみ約やく360万まん円えんの賠償ばいしょう責任せきにんを認みとめていた。

　しかし、最高裁さいこうさいで一いち審しん、二に審しんの判決はんけつが覆くつがえり、家族かぞく側がわが勝訴しょうそという判決はんけつが下くだされた。今後こんご、増加ぞうかすると予想よそうされる認知にんち症しょう患者かんじゃの事故じこに関かんする判決はんけつが大おおきく揺ゆれた背景はいけいには、なにがあるのか。以下いか、弁護士べんごし法人ほうじんALG＆Associates執行しっこう役やく・弁護士べんごしの山岸やまぎし純じゅん氏しが解説かいせつする。

判決はんけつがバラバラだった法的ほうてきな背景はいけいとは

　今回こんかいの最高裁さいこうさいの判断はんだんは、端はし的てきにいえば「民法みんぽう714条じょうは、法律ほうりつ上じょう、責任せきにん無能力むのうりょく者しゃを監督かんとくする義務ぎむがある者もの（以下いか、『監督かんとく義務ぎむ者しゃ』）は、その責任せきにん無能力むのうりょく者しゃが第三者だいさんしゃに加くわえた損害そんがいを賠償ばいしょうする責任せきにんを負おうと定さだめているが、妻つまや長男ちょうなんはこの監督かんとく義務ぎむ者しゃにはあたらない」「民法みんぽう714条じょうに言いう監督かんとく義務ぎむ者しゃにあたらなくても、事実じじつ上じょう、責任せきにん無能力むのうりょく者しゃの監督かんとくを行おこなっており、監督かんとく義務ぎむを引ひき受うけたと考かんがえられる事情じじょうがあるなら民法みんぽう714条じょうが類推るいすい適用てきようされるが、今回こんかいの場合ばあい、妻つまや長男ちょうなんには類推るいすい適用てきようはされない」というものです。

　しかし、なぜ一いち審しん、二に審しん、最高裁さいこうさいで結論けつろんが異ことなったのでしょうか。まず、一いち審しんは「妻つまは監督かんとく義務ぎむ者しゃにはあたらないが、夫おっとが線路せんろ内ないに迷まよい込こむことを予想よそうすることが可能かのうだったとして、妻つま自身じしんの責任せきにん（民法みんぽう709条じょう）として損害そんがい賠償ばいしょうを認みとめる。また、長男ちょうなんは事実じじつ上じょうの監督かんとく義務ぎむ者しゃであったのだから、民法みんぽう714条じょうの類推るいすいによる責任せきにんとして損害そんがい賠償ばいしょうを認みとめる」というものでした。

　次つぎに二に審しんは、「妻つまは監督かんとく義務ぎむ者しゃにあたるから民法みんぽう714条じょうの責任せきにんとして損害そんがい賠償ばいしょうを認みとめる。しかし、長男ちょうなんは、監督かんとく義務ぎむ者しゃにはあたらないから民法みんぽう714条じょうの責任せきにんも負おわないし、線路せんろ内ないに迷まよい込こむことを予想よそうすることも不可能ふかのうだったから、長男ちょうなん自身じしんの責任せきにん（民法みんぽう709条じょう）も負おわない」としました。

　要ようするに、一いち審しんでは「妻つま：709条じょうの責任せきにん／長男ちょうなん：714条じょう類推るいすいの責任せきにん」が認みとめられ、二に審しんでは「妻つま：714条じょうの責任せきにん／長男ちょうなん：無責任むせきにん」となり、最高裁さいこうさいでは「妻つま：無責任むせきにん（709条じょうも714条じょうも適用てきようなし）／長男ちょうなん：無責任むせきにん（同どう）」となったわけです。

　そもそも、民法みんぽうは「未成年みせいねん者しゃで自分じぶんの行動こうどうの善悪ぜんあくの判断はんだんがつかない者もの」や、「認知にんち症しょうなど、病気びょうきにより自分じぶんの行動こうどうの善悪ぜんあくの判断はんだんがつかない者もの」による違法いほう行為こういは、責任せきにんを問とわない（損害そんがい賠償ばいしょうを認みとめない）としています（712条じょう、713条じょう）。