JALとANA、燻いぶる経営けいえい統合とうごう案あん…ANA、経営けいえい危機ききの足音あしおと、政府せいふ保証ほしょう付つき融資ゆうしは実現じつげんせず

　業界ぎょうかい首位しゅいのANAホールディングス（HD、片かた野坂のさか真哉しんや社長しゃちょう）の20年ねん1～3月がつ期き連結れんけつ最終さいしゅう損益そんえきが587億おく円えんの赤字あかじになった。前年ぜんねん同期どうきは39億おく円えんの黒字くろじである。四半期しはんきとしての赤字あかじ額がくは開示かいじを始はじめた03年度ねんど以降いこうで最大さいだいとなった。ライバルの日本航空にほんこうくう（JAL、赤坂あかさか祐二ゆうじ社長しゃちょう）は229億おく円えんの最終さいしゅう赤字あかじ。ANAHDの赤字あかじはJALの2.56倍ばいだ。

　航空こうくう業界ぎょうかいは2月がつ後半こうはんから世界せかい各国かっこくが入国にゅうこく制限せいげんをし、全日本ぜんにほん空輸くうゆ（ANA、平子ひらこ裕志ひろし社長しゃちょう）の国際線こくさいせんは9割わり超ちょうの減げん便びん。国内線こくないせんも4月がつは5割わりの減げん便びんで、5月がつ以降いこうの減げん便びんはさらに広ひろがり、収入しゅうにゅうは激減げきげんした。

　東京とうきょう五輪ごりんやその後ごの訪日ほうにち客きゃく増ぞうなどを見込みこんでパイロットなどの採用さいようや新しん機材きざいの導入どうにゅうを増ふやしてきたため、人件じんけん費ひや航空機こうくうきのリース代だいなど毎月まいつき1000億おく円えんの固定こてい費ひがかかる。今春こんしゅんの羽田空港はねだくうこうの発着はっちゃく枠わく拡大かくだいを契機けいきに新しん路線ろせんの開設かいせつを計画けいかくしていた。夏なつのダイヤから中国ちゅうごく・深ふか圳、トルコ・イスタンブール、スウェーデンのストックホルムの3都市としに乗のり入いれる予定よていだった。日本にっぽんのエアラインとして初はじめての定期ていき路線ろせんである。加くわえてANAとして初はつのイタリア・ミラノ、ロシア・モスクワに就航しゅうこうさせるなど、一挙いっきょに14路線ろせんの新規しんき開設かいせつ・増便ぞうびん計画けいかくを進すすめていたが、コロナ禍かですべて暗転あんてんした。

　手元てもと資金しきんは3000億おく円えん近ちかくあるが、このまま収入しゅうにゅう減げんと固定こてい費ひ負担ふたん増ぞうが続つづけば、数カ月すうかげつで手元てもと資金しきんが枯渇こかつし、資金繰しきんぐりが破綻はたんしかねない危機ききに直面ちょくめんしている。ANAHDはメガバンクなど民間みんかん金融きんゆう機関きかん7行ぎょうの協調きょうちょう融資ゆうしで1000億おく円えんを調達ちょうたつ。日本にっぽん政策せいさく投資とうし銀行ぎんこう（DBJ）の制度せいども利用りようし3000億おく円えんを借かり受うけ、手元てもと資金しきんの確保かくほを目指めざした。

　さらにANAHDが水面すいめん下かで要請ようせいしたのが、政府せいふの保証ほしょう付つきの融資枠ゆうしわく（コミットメントライン）の確保かくほだ。DBJに1兆ちょう円えん、民間みんかん銀行ぎんこうに3000億おく円えんの融資枠ゆうしわくを求もとめる。

　政府せいふとの交渉こうしょう窓口まどぐちとなる定期ていき航空こうくう協会きょうかい（平子ひらこ裕志ひろし会長かいちょう＝ANA社長しゃちょう）は主力しゅりょくメンバーのANAHDとJALと協議きょうぎし、政府せいふ保証ほしょうでの無む担保たんぽ融資ゆうしの要請ようせいを決きめた。同どう協会きょうかいは減げん便びんが1年ねん程度ていどにわたれば業界ぎょうかいの減収げんしゅう幅はばが2兆ちょう円えん規模きぼになると試算しさんしている。ANAの減収げんしゅうは、その半分はんぶんの1兆ちょう円えんにのぼる。

JAL破綻はたんで利益りえきを享受きょうじゅしたANA

　19年ねん3月がつ期きのANAHDの固定こてい費ひは8807億おく円えん。JALは4872億おく円えんだから、およそ2倍ばいだった。19年ねん12月がつ末まつの有利子ゆうりし負債ふさい残高ざんだかはJALの1562億おく円えんに対たいしてANAは8481億おく円えん。JALの実じつに5.4倍ばいである。

　JALは2010年ねんの経営けいえい破綻はたん時じに5000億おく円えん規模きぼの借金しゃっきんを棒引ぼうびきしてもらった。ANAのトップは5000億おく円えん棒引ぼうびきの話はなしを今いまでも持もち出だすが、いまさらこれを持もち出だしても、ANAの借金しゃっきん膨張ぼうちょうのい訳いわけにはならない。「JALの経営けいえい破綻はたんで、最もっとも利益りえきを享受きょうじゅしたのはANAだった。JALをしり目めに国際線こくさいせんの拡大かくだいに邁進まいしんした」（航空こうくう業界ぎょうかいの長老ちょうろう）との歴史れきし的てき事実じじつがあるからだ。

　法的ほうてき整理せいりされたJALを尻目しりめにANAは国際線こくさいせんを次々つぎつぎと開設かいせつ、パイロットや客室きゃくしつ乗務じょうむ員いんら人材じんざいを大量たいりょう採用さいようし、固定こてい費ひが膨ふくらんでいった。この強気つよきの拡大かくだい路線ろせんが、コロナ・ショックで強烈きょうれつな逆ぎゃく回転かいてんをしているのである。

　ANAは安倍晋三あべしんぞう政権せいけん下かで事業じぎょうを拡大かくだいしてきた。政府せいふの人事じんじ案件あんけんであるNHK経営けいえい委員いいん会かいの経営けいえい委員いいん長ちょうに浜田はまだ健一郎けんいちろう・ANA総合そうごう研究所けんきゅうじょ会長かいちょうが就ついたのは象徴しょうちょう的てきな出来事できごとだった。19年ねん4月がつから、政府せいふ専用せんよう機きの整備せいびなどを担当たんとうする航空こうくう会社かいしゃはJALからANAに変かわった。安倍あべ政権せいけんと密接みっせつな関係かんけいにあるANAは完璧かんぺきな「安倍あべ銘柄めいがら」である。

　その人脈じんみゃくを頼たよりに、政府せいふ保証ほしょう付つき融資ゆうしに動うごいた。民間みんかん企業きぎょうの借金しゃっきんに政府せいふ保証ほしょうをつけることは禁きんじ手しゅ、ルール違反いはんである。「信用しんよう不安ふあんにならないためにも政府せいふ保証ほしょうは大事だいじ」とANAHD幹部かんぶは言いうが、政府せいふ保証ほしょうは「民間みんかん企業きぎょうが民間みんかん金融きんゆう機関きかんから資金しきんを借かり入いれるための仕組しくみではない」（財務省ざいむしょう幹部かんぶ）。

　安倍あべ首相しゅしょうは4月がつ16日にち、ANAHDの片かた野坂のさか社長しゃちょうら経営けいえい者しゃとテレビ会議かいぎで懇談こんだんし、新型しんがたコロナウイルスの感染かんせん拡大かくだいに伴ともない、各地かくちで不足ふそくしている医療いりょう機材きざいの生産せいさん拡大かくだいに向むけ協力きょうりょくを要請ようせいした。片野かたの坂ざか社長しゃちょうは「地上職ちじょうしょく員いんや乗務じょうむ員いんに余力よりょくがある」と述のべ、「医療いりょう用ようガウンの縫製ほうせい作業さぎょうの協力きょうりょくの準備じゅんびに入はいった」と説明せつめいした。

　ガウン製作せいさくに協力きょうりょくするのは一時いちじ帰休ききゅうするスタッフで、1日にちあたり最大さいだい30人にんを想定そうてい。医療いりょう用ようガウンを生産せいさんしている縫製ほうせい会社かいしゃのヴァレイ（奈良なら県けん北葛城きたかつらぎ郡ぐん、谷たに英えい希まれ代表だいひょう社員しゃいん）が指導しどうし、羽田空港はねだくうこう近隣きんりんにあるANAグループの総合そうごう訓練くんれん施設しせつで作業さぎょうをする。ANAでは客室きゃくしつ乗務じょうむ員いん（CA）の8割わりに当あたる約やく6400人にんの一時いちじ帰休ききゅうが始はじまった。現在げんざいでは間接かんせつ部門ぶもんやグループ会社かいしゃの地上ちじょう係員かかりいんにも対象たいしょうが広ひろがり、約やく2万まん人にんが一時いちじ帰休ききゅうの対象たいしょうとなっている。

「CAを人身御供ひとみごくうにして融資ゆうしの政府せいふ保証ほしょうを取とり付つけようと必死ひっしだ」（別べつの航空こうくう業界ぎょうかいの首脳しゅのう）と揶揄やゆされた。だが、政府せいふが4月がつ7日にちにまとめた緊急きんきゅう経済けいざい対策たいさくでは、政府せいふ保証ほしょうは見送みおくられた。減免げんめん・免除めんじょ措置そちを要請ようせいしていた着陸ちゃくりく料りょうや保留ほりゅう料りょうなどの空港くうこう使用しよう料りょうに関かんしても、盛もり込こまれたのは支払しはらい猶予ゆうよだけ。それも猶予ゆうよ期間きかんは最大さいだい半年はんとし程度ていど。「ゼロ回かい答こたえ」に近ちかいものだった。結局けっきょく、DBJによる融資ゆうし上限じょうげんなしの「危機きき対応たいおう融資ゆうし」を活用かつようして、ANAの資金繰しきんぐりを支援しえんすることになった。

ANAとJAL、経営けいえい統合とうごうはあるのか

　だが、コロナ禍かが長期ちょうき化かすると、ANAもJALもともに立たち行ゆかない状況じょうきょうになる。否応いやおうなしにANAとJALの統合とうごうの可能かのう性せいが出でてくる。「週刊しゅうかん現代げんだい」（講談社こうだんしゃ／2009年ねん2月がつ7日にち号ごう）の巻頭かんとうに有森ありもり隆たかしの署名しょめい入いりで『「JAL・ANA」大だい統合とうごうで日本にっぽんの空そらが変かわる！』を書かいた。

　2010年ねん1月がつ19日にち、JALは東京とうきょう地裁ちさいに会社かいしゃ更生こうせい法ほうを申請しんせいした。負債ふさい総額そうがくは2兆ちょう3221億おく円えん、事業じぎょう会社かいしゃとして戦後せんご最大さいだいの倒産とうさんとなった。JALが経営けいえい破綻はたんすることを見据みすえたかたちの記事きじだ。

＜再編さいへんのシナリオはいくつかある。最初さいしょのシナリオは（JALの行いき詰づまりを前提ぜんていに）ANAがJALを救済きゅうさいするというかたちになる。JALは分割ぶんかつされ、国際線こくさいせんはANAと統合とうごう。新しん会社かいしゃの名前なまえは「JANA」。貨物かもつ（JALカーゴサービス）は総合そうごう商社しょうしゃなどへ売却ばいきゃく。JALは国内線こくないせんだけになる＞

＜別べつのシナリオはJAL、ANA共どもに赤字あかじ転落てんらくした場合ばあいの国際線こくさいせんの統合とうごうだ。双方そうほう痛いたみ分わけとなり、形式けいしき上じょうは“対等たいとう統合とうごう”になるので、国際線こくさいせんの新しん会社かいしゃの名前なまえは、やはり「JANA」だろう。大だい不況ふきょうの中なかから新しん時代じだいを切きり開ひらく翼つばさが生うまれるのかもしれない＞（一部いちぶ、掲載けいさい時じと表現ひょうげん変更へんこう）

　発刊はっかん当時とうじは「大だいボラ、ガセネタ」という声こえがあった。現在げんざい、この「週刊しゅうかん現代げんだい」の11年ねん前まえの記事きじが、一部いちぶクロウト筋すじの間あいだで注目ちゅうもくされているのだ。ANAHDの片かた野坂のさか社長しゃちょうは「日経にっけいビジネス」（日経にっけいBP／4月がつ13日にち号ごう）のインタビューで、「仮かりにそうなっても救済きゅうさいされる立場たちばではなく、残のこる会社かいしゃでないといけない」と語かたる。ナショナル・フラッグ・キャリアはANAであって、JALを飲のみ込こむことになると宣言せんげんしたのと同おなじだ。

　現時点げんじてんでの統合とうごうの見通みとおしはこうだ。統合とうごうする場合ばあい、国内線こくないせんをどうするかだ。国内線こくないせんまで統合とうごうすると、事実じじつ上じょう、国内こくないの大手おおて航空こうくう会社かいしゃは1社しゃだけになってしまう。国際線こくさいせんのみ統合とうごうして「JANA」、あるいは「新しんANA」とし、国際こくさい、ANA国内こくない、JAL国内こくないの3社しゃにする案あんが水面すいめん下かで進行しんこうしている、との情報じょうほうもある。

「ANAはJJ統合とうごう（JALとJAS）の時ときに、会社かいしゃが潰つぶれる可能かのう性せいも想定そうていしたほどの危機きき感かんを持もった。だから、JALが破綻はたん後ご、必然ひつぜん的てきに規模きぼを縮小しゅくしょうし、ANAが規模きぼでJALを上回うわまわった時ときの社内しゃないの高揚こうようぶりはすごかった。その経緯けいいから考かんがえても、JALとの対等たいとう合併がっぺいは絶対ぜったいにNOのはずだ」（航空こうくう業界ぎょうかい担当たんとうのアナリスト）

　ANA首脳しゅのうと安倍あべ官邸かんていは「ANAがナショナル・フラッグ・キャリア」で押おし通とおそうとするだろうが、ことはそう簡単かんたんではない。「（今いまでも）日本にっぽんのナショナル・フラッグ・キャリアはJAL」と考かんがえる世界せかいのエアラインが少すくなくないからだ。

　折おりしも、豪ごう航空こうくう2位いのヴァージン・オーストラリア・ホールディグスが4月がつ21日にち、日本にっぽんの民事みんじ再生さいせい法ほうに相当そうとうする任意にんい管理かんり手続てつづきに入はいったと発表はっぴょう。事実じじつ上じょう、経営けいえい破綻はたんした。負債ふさいは約やく50億おく豪ごうドル（約やく3400億おく円えん）。2019年ねんの豪ごう国内線こくないせんのシェアはカンタス航空かんたすこうくう（60％）に次つぎ2位い（30％）。運航うんこうは継続けいぞくする。ヴァージンはANAと提携ていけいして日本にっぽん路線ろせんに参入さんにゅうする計画けいかくだったが、新型しんがたコロナの直撃ちょくげきで墜落ついらくした。豪ごうの現地げんち紙しは「ヴァージン・オーストラリアに対たいし、中国ちゅうごく東方とうほう航空こうくうと中国ちゅうごく南方なんぽう航空こうくう、中国ちゅうごく国際こくさい航空こうくうの大手おおて3社しゃが買収ばいしゅうを検討けんとうしている。検討けんとうは初期しょきの段階だんかいで、正式せいしきな交渉こうしょうには至いたっていない」と報ほうじた。

　世界せかいの航空こうくう業界ぎょうかいに経営けいえい破綻はたんに直結ちょっけつするような暴風雨ぼうふううが吹ふき荒あれ始はじめた。ポスト・コロナの世界せかいで生いき残のこる日本にっぽんの翼つばさはどっちだ。