驚異きょういのプジョーe-2008、ピュア電気でんき自動車じどうしゃながらガソリン車しゃらしさも堪能たんのうできるレア物ぶつ

　2020年ねん東京とうきょうオリンピックは延期えんきされたが、クルマの電動でんどう化かへの動うごきはまったなしとなった。すでにご存ぞんじの通とおり、菅かん義よし偉えら首相しゅしょうが1月がつ18日にちの施政しせい方針ほうしん演説えんぜつにおいて、「2035年ねんまでにすべての新車しんしゃ販売はんばいを電気でんき自動車じどうしゃ（EV）やハイブリッド車しゃをはじめとした電動でんどう車しゃへ転換てんかんする」と明言めいげん。さらに東京とうきょう都とは国くによりも約やく5年ねん前倒まえだおしして、2030年ねんまでに都内とないで販売はんばいされる新車しんしゃすべてを電動でんどう車しゃに切きり替かえるという方針ほうしんを示しめしている。

　もちろんこれは、現在げんざい乗のっているガソリン車しゃが乗のれなくなるということではない。あくまでも、新車しんしゃ販売はんばいされるクルマを電動でんどう車しゃにすべしということであり、さらにここでいう電動でんどう車しゃとは、ハイブリッド車しゃ、プラグインハイブリッド車しゃ、電気でんき自動車じどうしゃ(EV）、そして燃料ねんりょう電池でんち車しゃ（FCV）などを指さす。決けっして、BEVと呼よばれるピュア電気でんき自動車じどうしゃだけということではないのである。

　しかし、そのBEVの胎動たいどうは2020年ねんから始はじまっており、日産にっさんリーフやメルセデス・ベンツEQC、BMW i3、ジャガーI-PACE、テスラなどに加くわえて、新あらたに国産こくさん車しゃでは台数だいすう限定げんてい付つきという条件じょうけんながら、レクサスUX300e、ホンダe。そして輸入ゆにゅう車しゃではプジョーe-208、同おなじくプジョーe2008、シトロエンのサブブランド・DSオートモビルズのDS3 クロスバック e-TENSE、アウディe-tronスポーツバック、さらにポルシェタイカン……といったBEVが、黒船くろふね襲来しゅうらいのように日本にっぽん市場いちばに導入どうにゅうされた。

　今回こんかい、そうした輸入ゆにゅう車しゃBEVのなかから、プジョーe-2008に試乗しじょうできたので、インプレションを紹介しょうかいしてみようと思おもう。

日本にっぽんの立体りったい駐車ちゅうしゃ場じょうに入はいる、優秀ゆうしゅうなコンパクトSUVであるプジョー2008シリーズ

　プジョー2008は、全長ぜんちょう4305mm×全幅ぜんはば1770mm×全高ぜんこう1550mmと、日本にっぽんの都市とし部ぶに多おおい立体りったい駐車ちゅうしゃ場じょうに対応たいおうしたボディサイズのコンパクトSUV。最高さいこう出力しゅつりょく130ps、最大さいだいトルク230Nmを発生はっせいする1.2L直列ちょくれつ3気筒きとうターボ＋8速そくATを搭載とうさいするガソリン車しゃのプジョー2008と、最高さいこう出力しゅつりょく136ps、最大さいだいトルク260Nmを発生はっせいし、満まん充電じゅうでん時じの走行そうこう距離きょりがJC08モードで385kmというBEVのプジョーe-2008の2種類しゅるいをラインアップし、車両しゃりょう本体ほんたい価格かかくは、2008が299万まん～338万まん円えん、e-2008は429万まん～468万まん円えんとなっている。ボディサイズでは、トヨタC-HR、日産にっさんキックス、ホンダヴェゼル、マツダCX-30などとほぼ同おなじであり、国産こくさんSUVのなかでも最もっとも人気にんきの高たかいクラスに、フランスから挑戦ちょうせん状じょうが叩たたきつけられた形かたちとなったわけだ。

　今回こんかい試乗しじょうしたのは、プジョーe-2008の上級じょうきゅうグレードであるGT Lineだ。BEVだけでなく、ガソリン車しゃの2008のほうも、プジョーが属ぞくするPSA最新さいしんのコンパクトプラットフォームであるCMPを採用さいよう。先代せんだいに比くらべて、全長ぜんちょうで+145mm、全幅ぜんぷくで+30mm、全ぜん高こうで-20mmというロー＆ワイドのフォルムを採用さいようしながら、ホイールベースを+70mm延長えんちょうしたことで、キャビンスペースと共ともに、ラゲージスペースはクラストップレベルの434L（5人にん乗車じょうしゃ時じ）を確保かくほ。さらに、リアシートをすべて倒たおすと最大さいだい1467Lまで拡大かくだいする広大こうだいなスペースを実現じつげんするなど、優すぐれたパッケージングが魅力みりょくだ。立体りったい駐車ちゅうしゃ場じょうにも対応たいおうしたボディサイズで、かつこれほどのラゲージ容量ようりょうを確保かくほする国産こくさんコンパクトSUVは、全長ぜんちょうが4395mmのマツダCX-30やMX-30しかない。それだけでも、プジョー2008のパッケージングが優すぐれているということがわかるだろう。

プジョーe-2008は、ガソリン車しゃの良よさをしっかりと受うけ継ついでいる稀有けうなBEV

　今回こんかい試乗しじょうしたe-2008 GT-Lineをはじめとした2008シリーズは、ADASと呼よばれる先進せんしん運転うんてん支援しえんシステムを装備そうびし、国産こくさん車しゃにもまったく遅おくれを取とっていない。アクティブセーフティブレーキと呼よばれる被害ひがい軽減けいげんブレーキをはじめ、高速こうそく道路どうろなどでの追従ついしょう走行そうこうが可能かのうなアダプティブクルーズコントロール、レーンポジショニングアシストなど、9つの先進せんしん運転うんてん支援しえん機能きのうも搭載とうさいしている。この点てんは、先代せんだいモデルから大おおきく進化しんかしているポイントだ。それでは、実際じっさいに乗車じょうしゃした際さいのインプレッションを紹介しょうかいしていこう。

　これまで筆者ひっしゃは、テスラをはじめ、日産にっさんリーフ、ジャガーI-PACEなどさまざまなBEVに試乗しじょうしてきたが、従来じゅうらいのガソリン車しゃとは異ことなるBEV特有とくゆうの刺激しげき――加速かそくフィール、ペダル感覚かんかく――などといった点てんに目めを奪うばわれてしまい、クルマそのものの乗のり味あじやポテンシャルを捉とらえにくかった。それだけ、モーターによる加速かそく性能せいのうやペダルワークが印象いんしょう的てきということだ。

　しかし、このプジョーe-2008は、そうしたこれまで試乗しじょうしたBEVとはまったく違ちがった。すでにガソリン車しゃの2008も試乗しじょうしていたのだが、BEVらしいシームレスな加速かそく性能せいのうはもちろんあるのだが、その一方いっぽうで、しっかりと動うごいて仕事しごとをするサスペンションや、思おもい通どおりにクルマを動うごかせる一方いっぽうで非常ひじょうに素直すなおなステアリングフィールなどは、ガソリン車しゃである2008の良よさをしっかりと受うけ継ついでいるのである。ガソリン車しゃとは搭載とうさいしているパワートレインは異ことなるのだが、加速かそくフィールや静粛せいしゅく性せいといった部分ぶぶんを除のぞけば、ドライバーの運転うんてんしている感覚かんかくはガソリン車しゃとBEVとではそれほど変かわらない。

　つまりこのe-2008は、ガソリン車しゃに慣なれた身みにも、ごく自然しぜんに運転うんてんができる。もちろんアクセルペダルひとつで思おもいのままに加減かげん速そくできるという意味いみではガソリン車しゃとは大おおきく異ことなるのではあるが、ステアリングフィールやフラット感かんのあるサスペンションなどを考かんがえると、BEVが特別とくべつなモノではないという感覚かんかくを覚おぼえる。それくらい、“体からだに馴染なじむ”のである。これは、これまで乗のったBEVとは明あきらかに異ことなり、高たかく評価ひょうかできるポイントだ。もちろんBEVを堪能たんのうするには自宅じたくに充電じゅうでん器きを設置せっちしなければいけないわけだが、しかし、それでもこのe-2008は、「これなら乗のってもよいかも」と初はじめて思おもわされたBEVであった（買かえるか買かえないという問題もんだいは別べつにして……）。

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、BEVなどがひとつの車種しゃしゅのなかで“選択せんたく”できる時代じだいが到来とうらい

　さらに、プジョーにおいてはこれまで遅おくれ気味ぎみであった運転うんてん支援しえんシステムのADASも、一気いっきにモダン化かしている。ステアリングコラムに設置せっちされた操作そうさスイッチは改善かいぜんの余地よちがあるように思おもわれるが、機能きのう面めんでは問題もんだいなし。i-コクピットと呼よばれるプジョー独自どくじのメーターパネルも3D化かされ、ADASの作動さどう状じょう況きょうも表示ひょうじできるようになっている。

　というわけで、これまでBEVというと、どうしてもガソリン車しゃとは異ことなる運転うんてんフィールが強調きょうちょうされてきたが、2020年ねんに登場とうじょうしたこのプジョーe-2008は、モーター駆動くどうのよさと、これまでのガソリン車しゃで培つちかってきた乗のり味あじや操作そうさ感かんを見事みごとに融合ゆうごうさせたモデルに仕上しあがっているといえよう。これならば、多少たしょうの価格かかく差さはあるものの、ガソリン車しゃとBEVのどちらを選えらぼうか……と真剣しんけんに悩なやむ気きにもなってくる。

　どうも政治せいじの世界せかいでは、今後こんごのクルマのパワーソースは「BEV一択いったく」という雰囲気ふんいきが漂ただよっている。しかし個人こじん的てきには、まったくそうは思おもえないのだ。自分じぶんのクルマの使つかい方かた、走行そうこう距離きょりなどに合あわせて、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、BEV――といったパワートレインが、ひとつの車種しゃしゅのなかで選択せんたくできる時代じだいになるのではないかと考かんがえている。まさに、今回こんかい試乗しじょうしたプジョーe-2008のようなラインアップこそが、そうした今後こんごの商品しょうひん展開てんかいにおける“スタンダード”といえるのではなかろうか。

（文ぶん＝萩原はぎはら文博ふみひろ／自動車じどうしゃライター）