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今の円安は危険、日本円からの逃避で国力低下?1970年代の貧しさに逆戻り | ビジネスジャーナル
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加谷かたに珪一のっとくエコノミーろん

いまえんやす危険きけん日本円にほんえんからの逃避とうひ国力こくりょく低下ていか?1970年代ねんだいまずしさに逆戻ぎゃくもど

ぶん加谷かたに珪一/経済けいざい評論ひょうろん
今の円安は危険、日本円からの逃避で国力低下?1970年代の貧しさに逆戻りの画像1
「Getty Images」より

 為替かわせ市場いちばえんやすすすんでいる。米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうインフレ懸念けねん背景はいけいとしたうごきであり、本来ほんらいならえんだかになってもおかしくない。一般いっぱんてきえんやす日本にっぽん経済けいざいにとってプラスとされるが、今回こんかいえんやす日本円にほんえんからの逃避とうひはじまりだとすると、はなし単純たんじゅんではない。

米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうでドルだかという違和感いわかん

 このところ外国がいこく為替かわせ市場いちばえんやすドルだかすすんでいる。9月まで1ドル=110えん前後ぜんこうだったドルえん相場そうばは、あっというげ、10月にはいって1ドル=114えん突破とっぱした。米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうすすんだことからドルがわれたとの解釈かいしゃく一般いっぱんてきだが、「どうも釈然しゃくぜんとしない」という感想かんそうったひとおおいだろう。

 日本にっぽんでは、米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうするとあめりかドルでの運用うんよう有利ゆうりになるので、ドルがわれえんられるという説明せつめいをよくみみにする。だが名目めいもく金利きんり為替かわせうごくというのはごくかぎられた条件下じょうけんかにおける現象げんしょうでしかなく、一般いっぱんろんとまではいえない。むしろ過去かこ値動ねうごきを長期ちょうきてき分析ぶんせきすれば、基本きほんてき為替かわせレートというのは購買こうばいりょく平価へいか沿ってうごくので、金利きんり上昇じょうしょうやそれにともなうインフレはむしろ通貨つうか価値かち毀損きそんする(つまり米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうすればドルやすになる)。ニクソンショック以降いこう現実げんじつのドルえん相場そうばについても、米国べいこく金利きんり上昇じょうしょうとインフレによるドルの下落げらくでほとんどすべての説明せつめいく。

 あるくに名目めいもく金利きんり上昇じょうしょうすることで通貨つうかだかになるというのは、両国りょうこくのファンダメンタルズがほぼおな状態じょうたいで、なんらかの理由りゆう金利きんりいたときなどに発生はっせいしやすい。ただファンダメンタルがほぼおなじであれば、原理げんりてき金利きんりおおきなくことはないので、ある程度ていど時間じかん経過けいかするともと状態じょうたいもどる。べい金利きんり上昇じょうしょうえんやすというのは、こうしたうごきを見越みこした市場いちば投機とうきてきうごきであり、長期ちょうきてきなトレンドを形成けいせいするものではないとかんがえたほうがよい。

 セオリーに沿ってかんがえた場合ばあい米国べいこく金利きんりがりインフレ懸念けねん台頭たいとうしている場合ばあい、ドルの価値かちがる可能かのうせいたかく、ぎゃく景気けいき順調じゅんちょう拡大かくだいして物価ぶっか金利きんりがるならドルはわれる。

 現時点げんじてんではインフレがなにをもたらすのか完全かんぜん予想よそうできない状況じょうきょうにある。べいバイデン政権せいけんはコロナ対策たいさくとAI(人工じんこう知能ちのう)や再生さいせい可能かのうエネルギーなど次世代じせだい投資とうしねた巨額きょがく財政ざいせい出動しゅつどう計画けいかくしており、米国べいこく経済けいざい成長せいちょう加速かそく期待きたいするこえがある。

 米国べいこく経済けいざい順調じゅんちょう成長せいちょうすれば当然とうぜん金利きんり上昇じょうしょうし、物価ぶっか順当じゅんとうがるので、インフレはすすむものの、経済けいざいわる影響えいきょうあたえない。これはいインフレであり、むしろドルの評価ひょうかにつながるだろう。米国べいこくでの投資とうし機会きかいもとめておおくの資金しきんあつまるのでドルだかになってもなん不思議ふしぎはない。

コストプッシュ・インフレがスタグフレーションを誘発ゆうはつ

 一方いっぽうで、現在げんざい進行しんこうちゅうのインフレは資源しげん価格かかく資材しざい価格かかく高騰こうとうによるコストプッシュ・インフレなので、経済けいざいたいしてぎゃく効果こうかという見方みかたもある。昨年さくねん10がつ時点じてんで1バレル=40ドル前後ぜんこうだった原油げんゆ価格かかくは80ドルを突破とっぱしており、1ねんやく2ばいになった。このほか金属きんぞくるい半導体はんどうたいなど、あらゆる資源しげん原材料げんざいりょう値上ねあがりしており、各国かっこく企業きぎょうはコスト対策たいさく苦慮くりょしている。

 資源しげん価格かかく急騰きゅうとうしているのは、コロナ景気けいき回復かいふく期待きたいたかまり、企業きぎょう先行せんこう投資とうしえたことが原因げんいんだが、背景はいけいにはもっと複雑ふくざつ事情じじょうがある。

 これまでの世界せかい経済けいざいはグローバルによるビジネス市場いちば統合とうごうすすみ、かく企業きぎょうぜん世界せかい網羅もうらする広範囲こうはんいなサプライチェーンを構築こうちくしていた。だが、こうした巨大きょだいなサプライチェーンは新型しんがたコロナウイルスなど感染かんせんしょうたいして脆弱ぜいじゃくであり、コロナ危機きき発生はっせいから2ねん経過けいかしたいまでも物流ぶつりゅう混乱こんらんつづいている。

 かく企業きぎょう巨大きょだいぎるサプライチェーンをリスク要因よういんなしはじめたことにくわえ、べいちゅう対立たいりつ激化げきか世界せかい経済けいざいのブロック急激きゅうげきすすはじめた。今後こんご近隣きんりんエリアからの調達ちょうたつえるのは確実かくじつであり、こうしたうごきはぜん世界せかいてき供給きょうきゅう制限せいげんにつながる。つまり、各国かっこく資材しざい争奪そうだつせんはじまっており、このうごきは今後こんご長期ちょうきてきなトレンドになる可能かのうせいたかまっているのだ。

 もしこのうごきが本物ほんものであれば、典型てんけいてきなコストプッシュ・インフレになるため、景気けいきにはむしろぎゃく効果こうかとなり、場合ばあいによってはスタグフレーション不景気ふけいきのインフレ)におちい可能かのうせいもある。もし市場いちば世界せかい経済けいざいのブロック予想よそうしているのであれば、世界中せかいじゅう拡散かくさんしていたドル資金しきん米国べいこくもどってくるだろう。インフレによる通貨つうか価値かち毀損きそんリスクがあっても、ポジションの縮小しゅくしょう優先ゆうせんするため、やはりドルだかすすむというシナリオもかんがえられる。

 今回こんかいのドルだかえんやす)がこうしたうごきを背景はいけいとしたものだった場合ばあい世界せかいてき為替かわせ市場いちばにおけるえん役割やくわりおおきく後退こうたいせざるをない。ドル資金しきん一時いちじてきざらという役割やくわりうしなえば、えん需要じゅようおおきく減少げんしょうするため、えんやすすすむことになる。

 日本にっぽん経常けいじょう収支しゅうし変化へんかもこのうごきを後押あとおししている。戦後せんご日本にっぽん経済けいざい輸出ゆしゅつによる貿易ぼうえき黒字くろじ経常けいじょう収支しゅうし源泉げんせんとなっており、資本しほん蓄積ちくせきすすんだのちは、投資とうし運用うんようえき所得しょとく収支しゅうし)もこれにくわわるかたちになった。とく貿易ぼうえき黒字くろじ場合ばあい外貨がいかった日本にっぽん企業きぎょうはドルを日本円にほんえんえる必要ひつようがあるため、恒常こうじょうてきにドルえんいの実需じつじゅ存在そんざいした。ところが近年きんねん輸出ゆしゅつ競争きょうそうりょく低下ていか貿易ぼうえき黒字くろじ減少げんしょうしている。しかも、投資とうし収益しゅうえき場合ばあい獲得かくとくした利益りえき日本にっぽんにはもどさずさい投資とうしするケースがおおいため、えんいの需要じゅよう発生はっせいしないのだ。

日本にっぽんはすでに1970年代ねんだいまずしさ

 日本円にほんえん国際こくさい金融きんゆうシステムのなか相応そうおう地位ちいたもってきたが、それは日本にっぽん世界せかいだい2経済けいざい大国たいこくだった時代じだいながつづき、しかも米国べいこくへの輸出ゆしゅつによって大量たいりょうのドルをるという特殊とくしゅ地位ちいがそうさせてきためんおおきい。世界せかい経済けいざいのブロックすすみ、米国べいこく欧州おうしゅう中国ちゅうごくという経済けいざいけん集約しゅうやくされた場合ばあい日本にっぽんのぞむとのぞまざるとにかかわらず、アジア地域ちいき周辺しゅうへんこくにならざるをない。

 そうなれば、従来じゅうらい日本円にほんえん国際こくさい金融きんゆう市場いちばっていたプレゼンスは維持いじされなくなるだろう。

 為替かわせというのは、完全かんぜん市場いちばメカニズムでうごいておりメジャーな通貨つうかであるほど、取引とりひき条件じょうけん有利ゆうりになる。マイナーな通貨つうか転落てんらくした場合ばあいいの価格かかく(スプレッド)がおおきくなってコストがえることにくわえ、取引とりひきりょうるので、ちょっとした要因よういん為替かわせレートがうごいてしまう。

 これまではドルがられた場合ばあい日本円にほんえんにはざらとしての役割やくわりがあったが、こうしたニーズがなくなれば、単純たんじゅん日本にっぽん経済けいざい実状じつじょうわせてえんいされる。そうなると現時点げんじてんでの為替かわせレート今後こんご維持いじされる保証ほしょうはまったくない。

 日本円にほんえん為替かわせレートはしばらく安定あんていてき状態じょうたいつづいていた。だが為替かわせレートが変化へんかしなくても、海外かいがい物価ぶっか上昇じょうしょうすれば、それはえんやすになったこととおな効果こうかをもたらす。日本にっぽん経済けいざい過去かこ30年間ねんかんでほとんど成長せいちょうできず、物価ぶっか賃金ちんぎんよこばいだったが、しょ外国がいこくおな期間きかん経済けいざい規模きぼを1.5ばいから2ばい拡大かくだいさせ、賃金ちんぎん物価ぶっか上昇じょうしょうつづいてきた。

 海外かいがい物価ぶっかがれば、為替かわせわらなくても日本にっぽん輸入ゆにゅうする商品しょうひん価格かかく値上ねあがりする。製品せいひん価格かかく転嫁てんかできないメーカーは、内容ないようりょうらして価格かかく維持いじするという、いわゆるステルス値上ねあげを実施じっししてきたものの、それも限界げんかいたっしつつある。ここで日本にっぽん国力こくりょく低下ていかともなえんやす本格ほんかくした場合ばあい、ただでさえ上昇じょうしょうしていた輸入ゆにゅう物価ぶっかがさらにがり、日本人にっぽんじん実質じっしつてき購買こうばいりょく一気いっき低下ていかしてしまう。

 しょ外国がいこくとの賃金ちんぎんなどから計算けいさんすると、現時点げんじてんにおいて日本にっぽんはすでに1970年代ねんだい水準すいじゅん逆戻ぎゃくもどりしており、もう一段いちだんえんやすすすめば、さらにむかしまずしい時代じだいちかづくことになる。

ぶん加谷かたに珪一/経済けいざい評論ひょうろん

加谷珪一/経済評論家

加谷かたに珪一/経済けいざい評論ひょうろん

1969ねん宮城みやぎけん仙台せんだいまれ。東北大学とうほくだいがく工学部こうがくぶ原子核げんしかく工学科こうがっか卒業そつぎょう日経にっけいBPしゃ記者きしゃとして入社にゅうしゃ野村證券のむらしょうけんグループの投資とうしファンド運用うんよう会社かいしゃてんじ、企業きぎょう評価ひょうか投資とうし業務ぎょうむ担当たんとう独立どくりつは、中央ちゅうおう省庁しょうちょう政府せいふけい金融きんゆう機関きかんなどたいするコンサルティング業務ぎょうむ従事じゅうじ現在げんざいは、経済けいざい金融きんゆう、ビジネス、ITなど多方面たほうめん分野ぶんや執筆しっぴつ活動かつどうおこなっている。著書ちょしょ著書ちょしょに『貧乏びんぼうこくニッポン』(幻冬舎げんとうしゃ新書しんしょ)、『おくまん長者ちょうじゃへのみち経済けいざいがくいてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『かんじる経済けいざいがく』(SBクリエイティブ)、『ポストしん産業さんぎょう革命かくめい』(CCCメディアハウス)、『教養きょうようとしてにつけたい戦争せんそう経済けいざい本質ほんしつ』(総合そうごう法令ほうれい出版しゅっぱん)、『中国ちゅうごく経済けいざい属国ぞっこくニッポン、マスコミがわない隣国りんごく支配しはい戦略せんりゃく』(幻冬舎げんとうしゃ新書しんしょ)などがある。
加谷かたに珪一公式こうしきサイト

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