住友商事すみともしょうじ、巨額きょがく減損げんそんは防ふせげなかったのか？企業きぎょうが誤あやまった意思いし決定けってい行おこなうメカニズムと防止ぼうし策さく

　9月29日にち、大手おおて商社しょうしゃの住友商事すみともしょうじが2005年ねん3月がつ期きの連結れんけつ業績ぎょうせき見通みとおしを下方かほう修正しゅうせいした。米べいシェールガス事業じぎょうの売却ばいきゃく等とうを受うけて、約やく2400億おく円えんの減損げんそんが発生はっせいしたためだ。シェールガス開発かいはつ事業じぎょうについては当初とうしょ、隣接りんせつ地域ちいきでの良好りょうこうな生産せいさんに対たいする社内外しゃないがいの評価ひょうかを基もとに収益しゅうえき化かの確度かくどは高たかいと考かんがえられた。しかし、複雑ふくざつな地質ちしつ等とうを背景はいけいにコストが想定そうてい以上いじょうに膨ふくらむと判断はんだんされ、このたび減損げんそんを発表はっぴょうしたのだが、この減損げんそんは防ふせぐことができなかったのだろうか。

　今回こんかいの減損げんそんは経営けいえい戦略せんりゃくの失敗しっぱいとされており、減損げんそんの規模きぼ的てきにも住友商事すみともしょうじの“熱狂ねっきょう的てき”なまでのシェールガス開発かいはつ事業じぎょうへの肩入かたいれすら感かんじられる。特とくに、地質ちしつに関かんする判断はんだんを誤あやまるという点てんは、初期しょき段階だんかいでの戦略せんりゃく策定さくていに不備ふびがあった可能かのう性せいを示唆しさする。資源しげん開発かいはつを進すすめた経営けいえい陣じんの脳裏のうりには、シェールガス革命かくめいの恩恵おんけいを享受きょうじゅしたいという強つよい動機どうきがあったのだろう。

　ミクロ（企業きぎょう経営けいえい）の視点してんから考かんがえると、注目ちゅうもくを浴あびているシェールガス開発かいはつへの投資とうしは、企業きぎょう価値かちの向上こうじょうのためにも重要じゅうようだろう。他社たしゃが注力ちゅうりょくをしているのであれば、出遅でおくれは許ゆるされないという動機どうきも働はたらきやすいめ、意思いし決定けっていを阻はばむ非合理ひごうり的てきな要素ようそは見みいだしづらかったのではないだろうか。ここに戦略せんりゃく策定さくていの難むずかしさがある。ミクロの視点してんにフォーカスすれば、競争きょうそう優位ゆうい性せいやシェア拡大かくだいにつながり得える事業じぎょうは正当せいとう化かされやすいからだ。

●ミクロとマクロの視点してんの融合ゆうごう

　では、戦略せんりゃくの失敗しっぱいを防ふせぐために有効ゆうこうな方策ほうさくはあるのか。

　その一いち例れいが、ミクロとマクロの視点してんの融合ゆうごうだろう。ミクロで考かんがえた戦略せんりゃくをマクロ経済けいざいの動うごきに当あてはめ、リスク要因よういんの見落みおとしや矛盾むじゅんがないのかを検証けんしょうする作業さぎょうは、より客観きゃっかん的てきな判断はんだんを導みちびく。ミクロの視点してんで考かんがえると、競合きょうごう他社たしゃとのシェア競争きょうそうは経営けいえい陣じんに大おおきなコミットメント（目標もくひょう達成たっせいへの約束やくそく）を課かす。ただ、そのコミットメントが企業きぎょうの中長期ちゅうちょうき的てきかつ持続じぞく的てきな成長せいちょうにとって常つねに合理ごうり的てきとは限かぎらない。自社じしゃに最適さいてきであると判断はんだんしても、世界せかい経済けいざいはその通とおり動うごくとは限かぎらない。そして、世界せかい経済けいざいの動向どうこうが需要じゅようを左右さゆうする可能かのう性せいも高たかい。多角たかく的てきな視点してんは、適正てきせいな投資とうし規模きぼ・期間きかん、コスト評価ひょうかにつながると期待きたいされる。環境かんきょう変化へんかへの柔軟じゅうなん性せい、適応てきおう力りょくなしにリスクに対応たいおうすることは困難こんなんだ。

　今回こんかいの住友商事すみともしょうじのケースでいえば、新興しんこう国こくの経済けいざい成長せいちょうの安定あんてい化か傾向けいこうを十分じゅうぶんに検討けんとうできていたのかという点てんに疑問ぎもんが残のこる。新興しんこう国こくの需要じゅよう低迷ていめいは、資源しげん価格かかくの重石おもしになりやすい。そうしたリスクシナリオを認識にんしきしていれば、より慎重しんちょうな投資とうし戦略せんりゃくを策定さくていすることも可能かのうだったのではないか。当然とうぜん、地質ちしつ調査ちょうさ以前いぜんに、シェールガス開発かいはつのブームに踊おどらされてしまった心理しんりも省かえりみられるべきだろう。

　入念にゅうねんなリサーチがなされていれば、今回こんかいの減損げんそんは防ふせぐことができたかもしれない。短期たんき的てきな熱狂ねっきょうに駆かられるあまり、人々ひとびとは理性りせいを失うしなう。それは環境かんきょう変化へんかへの柔軟じゅうなんな対応たいおう力りょくを削そぐ。米国べいこくの利上りあげ観測かんそく、地政学ちせいがくリスクなどの不ふ確実かくじつ性せいを抱かかえる環境かんきょうだけに、住友商事すみともしょうじは冷静れいせいな状況じょうきょうの把握はあくと柔軟じゅうなんな戦略せんりゃく策定さくてい能力のうりょくの重要じゅうよう性せいを見直みなおす必要ひつよう性せいが高たかいといえる。
（文ぶん＝真壁まかべ昭夫あきお／信州大学しんしゅうだいがく経済学部けいざいがくぶ教授きょうじゅ）