三沢みさわ空港くうこうから青あおい森もり鉄道てつどう・三沢みさわ駅えきまで歩あるいてみた…米べい軍ぐん基地きちの異国いこく感かんとさびれた昭和しょうわ感かんの同居どうきょ

【註：本ほん記事きじの内容ないようは、2019年ねんに取材しゅざいされたものです。】

　青森あおもり県けんは、津軽つがる地方ちほうと南部なんぶ地方ちほうに大おおきく分類ぶんるいされる。室町むろまち時代じだいは南部なんぶ氏しが現在げんざいの青森あおもり県けんのほぼ全域ぜんいきを所領しょりょうとしていたが、戦国せんごく時代じだい、家臣かしんだった大浦おおうら為信ためのぶ（津軽つがる為信ためのぶ）が謀反むほんを起おこし、独立どくりつ。江戸えど時代じだいは津軽つがる地方ちほうが津軽つがる氏しの弘前ひろさき藩はん（支ささえ藩はんの黒石くろいし藩はんを含ふくむ）、南部なんぶ地方ちほうは南部なんぶ藩はんの所領しょりょうとなっていた。

　そうした設立せつりつの経緯けいいから、江戸えど時代じだいの両りょう藩はんは犬猿けんえんの仲なかとなり、檜山ひやま騒動そうどうや相馬そうま大作だいさく事件じけんなど諍いさかいも起おこった。さらに戊辰戦争ぼしんせんそうで、早々そうそうに弘前ひろさき藩はんが新しん政府せいふ軍ぐんに下くだったことで、野辺地のへじ戦争せんそうでは両りょう藩はんは直接ちょくせつ槍やりを交まじえるに至いたる。そうした長年ながねんの対立たいりつが残のこっているのか、同おなじ県けんとなったあとも方言ほうげんや風習ふうしゅうなど、文化ぶんかの相違そういが少すくなくない。

「青森あおもり県けん」の成立せいりつ時じ、県庁けんちょうが旧きゅう弘前ひろさき藩はんの弘前ひろさきでも、南部なんぶ藩はんの八戸はちのへでもなく、青森あおもり市しに置おかれたのも、両りょう藩はんの融和ゆうわを図はかる意図いとがあったのだろう。とはいえ青森あおもりは旧きゅう弘前ひろさき藩はん領りょうだったため、その影響えいきょうは残のこった。現在げんざいでは、港湾こうわん都市としとして発展はってんした青森あおもりと、旧藩きゅうはんの中心ちゅうしん地ちである弘前ひろさき、八戸はちのへの3市しで、青森あおもり県けんの人口じんこうの過半数かはんすうを超こえる。

　前置まえおきが長ながくなったが、実じつは空港くうこうも青森あおもり県けんには2つ存在そんざいする。青森あおもり市しと弘前ひろさき市しに近ちかい青森あおもり空港くうこうと、八戸はちのへ市しに近ちかい三沢みさわ空港くうこう（三沢みさわ飛行場ひこうじょう）だ。今回こんかいは三沢みさわ空港くうこうから、青あおい森もり鉄道てつどうの三沢みさわ駅えきまで歩あるいてみた。

　三沢みさわといえば空港くうこうのまちというより、基地きちのまちというイメージを持もつ人ひとが多おおいかもしれない。1941年ねんに旧きゅう海軍かいぐんの航空こうくう隊たいが置おかれ、戦後せんごは米べい軍ぐんが接収せっしゅう。1952年ねんには民間みんかん機きを受うけ入いれて軍民ぐんみん共用きょうようとなったが、1965年ねんに米べい軍ぐんと自衛隊じえいたいの基地きちに戻もどり、1975年ねんに再ふたたび民間みんかん機きの運航うんこうが開始かいしされている。

　1965年ねんから1975年ねんまでの10年間ねんかん、三沢みさわに代かわって民間みんかん航路こうろが発着はっちゃくしていたのが、現在げんざいの海上かいじょう自衛隊じえいたい八戸はちのへ航空こうくう基地きち（八戸はちのへ飛行場ひこうじょう）だった。この体制たいせいが続つづけば、八戸はちのへ市街しがいから直線ちょくせん距離きょりで5kmほどと、八戸はちのへ市民しみんにとっては実じつに利便りべん性せいが高たかい空港くうこうだった。

　八戸はちのへ飛行場ひこうじょうを使つかい続つづけなかった理由りゆうは、拡張かくちょう性せいの問題もんだいにある。滑走かっそう路ろが2250mしかなく、ジェット機じぇっときへの対応たいおうが難むずかしかったが、両りょうサイドを鉄道てつどう（東北本線とうほくほんせん＝現在げんざいの青あおい森もり鉄道てつどう線せんと、八戸はちのへ臨海りんかい鉄道てつどう線せん）が走はしっていたため、延伸えんしんができなかった。そのため、米べい軍ぐんの保安ほあん上じょうの問題もんだいが解消かいしょうされたことで、三沢みさわへ再さい移転いてんされている。

　三沢みさわ空港くうこうと八戸はちのへを結むすぶアクセス手段しゅだんはバスが一般いっぱん的てきだ。2020年ねん7月がつ現在げんざい、三沢みさわ空港くうこうは日本航空にほんこうくうの東京とうきょう羽田はねだ便びんが1日にち3往復おうふく、大阪おおさか伊丹いたみ便びんが1往復おうふく、札幌さっぽろ丘珠おかだま便びんが1往復おうふくしており（函館はこだて便びんは運休うんきゅう中ちゅう）、本ほん八戸はちのへ駅えきおよび八戸はちのへ中心ちゅうしん部ぶの八日ようか町まちと空港くうこうとを結むすぶ路線ろせんバスがアクセスしている。

　一方いっぽうで、空港くうこうから路線ろせんバスで三沢みさわ駅えきへ向むかうルートもあるのだが、こちらは連絡れんらくが悪わるい。出発しゅっぱつ・到着とうちゃく時刻じこくと、日にち中ちゅうは1時じ間あいだに1本ほん程度ていどと運行うんこう本数ほんすうが少すくない青あおい森もり鉄道てつどうのダイヤがかみ合あわず、30分ふん～1時じ間あいだ弱じゃくを駅えきで待またなければならないケースがある。夏場なつばはともかく、寒さむさの厳きびしい冬場ふゆばは大変たいへんなので、注意ちゅういが必要ひつようだ。

　今回こんかいは三沢みさわ空港くうこうから徒歩とほで三沢みさわ駅えきまで歩あるいてみた。実践じっせんしたのは2019年ねん夏なつ。日にち中ちゅうは35度どを超こえ、歩あるくにあたっては非常ひじょうに過酷かこくな気候きこうだった。

三沢みさわ空港くうこうから、青あおい森もり鉄道てつどうの三沢みさわ駅えきまで4.6kmを歩あるいてみた

　三沢みさわ空港くうこうのターミナルは実じつにコンパクト。1階かいにカウンターとレンタカーの窓口まどぐちが、2階かいには売店ばいてんとレストラン、有料ゆうりょうのラウンジが1カ所かしょずつと、シンプルな設計せっけいとなっている。特筆とくひつすべきものはないが、米べい軍ぐん関係かんけい者しゃとその家族かぞくとみられる外国がいこく人じんが多おおかったのが印象いんしょう的てきだった。

　外そとに出でたが、駐車ちゅうしゃ場じょうもコンパクトなサイズ。周辺しゅうへんには、青森あおもり県立けんりつ三沢みさわ航空こうくう科学かがく館かんや幼少ようしょう期きを三沢みさわで過すごしたという歌人かじん・詩人しじんである寺山てらやま修司しゅうじの記念きねん館かんの看板かんばんがあるのだが、徒歩とほで向むかうのは厳きびしいので断念だんねんした。

　さらに三沢みさわ空港くうこう温泉おんせんという温泉おんせん施設しせつが目めの前まえに現あらわれたが、さほど汗あせをかいていなかったため、今回こんかいは寄よらず。入湯にゅうとう料りょうは大人おとなで350円えんとリーズナブルで、フライト前後ぜんこうの時間じかん調整ちょうせいで汗あせを流ながすにはぴったりの施設しせつといえそうだ。

　200mほど直進ちょくしんし、信号しんごうを右折うせつすると、住宅じゅうたくやカーディーラー、スーパーや飲食いんしょく店てんなどが並ならぶ、郊外こうがい的てきな風景ふうけいが連つらなる。さらに1kmほど直進ちょくしんすると、右手みぎてに米べい軍ぐんの三沢みさわ基地きちが現あらわれた。もちろん中なかには入いれないので素通すどおりするが、基地きち独特どくとくの雰囲気ふんいきが漂ただよっている。

　基地きちの前まえから街並まちなみが賑にぎわいだし、向むかいには大おおきなショッピングセンターがあった。「スカイプラザミサワ」というこの施設しせつは、アメリカンな雰囲気ふんいきが漂ただよっており、扱あつかっている品物しなものも米べい軍ぐん関係かんけい者しゃと日本人にっぽんじん向むけのものが半々はんはんといったところだ。

　実じつはこの日ひ、三沢みさわ市し中心ちゅうしん部ぶでは「みさわ七夕たなばたまつり」が開催かいさいされており、スカイプラザの前まえや商店しょうてん街がいなど至いたるところに露天ろてんが並ならび、イベントが行おこなわれていた。そのため、普段ふだんの三沢みさわ市街しがいがどれほどの賑にぎわいを見みせているのかはわからなかった。

　スカイプラザを出でてさらに直進ちょくしんするが、商店しょうてん街がいにはどことなく異国いこく情緒じょうちょただようデザインの建物たてものが並ならんでいるのがおもしろい。しかし、300mほど進すすむと、おしゃれな建物たてものから昭和しょうわの商店しょうてん街がいへと、唐突とうとつに光景こうけいが変化へんかする。祭まつりの日ひにもかかわらず、ほとんどの店みせがシャッターを降おろし、明あきらかに活気かっきがない。

　昭和しょうわの玩具おもちゃやポスターなど、ガラス越ごしに面白おもしろそうな商品しょうひんが見みえる店みせもあったのだが、すでに閉店へいてんしている様子ようす。閉とじられたシャッターの上うえから古ふるびたポスターが貼はられた店みせもあり、閉店へいてんから年月としつきがたっていることが想像そうぞうできた。

　大型おおがたスーパーまでの400mほどにわたって続つづく、アメリカ国旗こっきや飛行機ひこうきが描えがかれたシャッターや外壁がいへきは、三沢みさわらしさがつまっていておもしろいのだが、商店しょうてん街がいとしての「現役げんえき感かん」は薄うすい。アーケードが途切とぎれると、左右さゆうの光景こうけいも普通ふつうの住宅じゅうたく街がいへと変化へんかした。

　ここからは長ながい下くだり坂ざかが続つづく。この連載れんさいの常つねだが、駅えきから空港くうこうへ向むかうより、空港くうこうから駅えきへ向むかったほうが格段かくだんに楽らくだ。周辺しゅうへん障害しょうがい物ぶつを避さけるため、多おおくの空港くうこうは山やまの上うえなど高たかい位置いちにあるため、駅えきまでの道みちが下くだり坂ざかになることが多おおい。

　坂さかを下くだって左ひだりに曲まがると、旅館りょかんや民宿みんしゅくが数すう軒けん見みえてくる。祭まつりの山車だしが車庫しゃこで整備せいびされていたが、これはこの日ひの祭まつりのためではなく、8月がつ下旬げじゅんの「三沢みさわまつり」に向むけたものだろう。山車だしの車庫しゃこを右みぎに回まわると、三沢みさわ駅えきが見みえてきた。

　全ぜん行程こうていは4.6kmの道みちのりだったが、市しの中心ちゅうしん部ぶを通とおるため、飽あきのこないルートだった。ただ、バスのタイミングが合あわないからといって、安易あんいに歩あるける距離きょりではない。特とくに雪ゆきの積つもる冬場ふゆばは厳きびしいだろう。

　実じつは、今回こんかい歩あるいたルートの一部いちぶには、鉄道てつどうの路線ろせんが平行へいこうしていた。かつて三沢みさわ駅えきから米べい軍ぐん基地きちまでは専用せんよう線せんが存在そんざいし、駅えきから基地きちの入いり口くち付近ふきんまでは現在げんざいも線路せんろが残のこされている。

　需要じゅようがなくて廃はい線せんとなった以上いじょう、この路線ろせんが復活ふっかつする可能かのう性せいは極きわめて低ひくいだろう。まして三沢みさわ空港くうこうのターミナルまでは、さらに3km弱じゃくのルートを新設しんせつしなければならない。1日にち6往復おうふくの空港くうこうのために造つくるのは、現実げんじつ的てきではない。

　むしろ検討けんとうすべきは、再ふたたび民間みんかん機きの就航しゅうこうを八戸はちのへ飛行場ひこうじょうに戻もどすことではないだろうか。2002年ねんに東北新幹線とうほくしんかんせんが八戸はちのへまで開業かいぎょうしたことで、三沢みさわ空港くうこうの需要じゅようは激減げきげんした。2001年ねんの利用りよう客数きゃくすうが約やく58万まん人にんであったのに対たいし、2003年ねんは約やく39万まん人にん。ちなみに2018年ねんは約やく29万まん人にんだ。

　これまでも伊丹空港いたみくうこうや関西かんさい空港くうこう、新しん千歳空港ちとせくうこうや函館はこだて空港くうこうなどへの運航うんこうは、開始かいししてはすぐ休止きゅうししたりと、需要じゅようが不安定ふあんていな状況じょうきょうだ。北海道ほっかいどう新幹線しんかんせんが札幌さっぽろまで開通かいつうすれば、さらにニーズが鉄道てつどうに奪うばわれる可能かのう性せいは高たかい。

　それならば、八戸はちのへ市街しがいに近ちかい八戸はちのへ飛行場ひこうじょうへ民間みんかん機きを再々さいさい移転いてんしたほうが、発展はってんの可能かのう性せいはあるように感かんじる。かつてネックだった滑走かっそう路ろの長ながさも、2250mと地方ちほう空港くうこうとしては十分じゅうぶんな長ながさだ。ジャンボジェットを飛とばすわけでなし、現在げんざいのジェット機じぇっときなら問題もんだいなく離着陸りちゃくりくできるだろう。

　三沢みさわは基地きちの街まちとして、地元じもとと上手うまく融合ゆうごうしているように見みえる。アクセスの不便ふべんな立地りっちで、米べい軍ぐん・自衛隊じえいたい・民間みんかんの複雑ふくざつな管制かんせいを行おこなうくらいなら、八戸はちのへと棲すみ分わけをするのもいいのではないかと感かんじた。

（文ぶん＝渡瀬わたせ基樹もとき）