俳優の渡辺徹さんが11月28日、敗血症のため亡くなった。61歳という若すぎる死に、各方面から悲しみの声が後を絶たない。所属事務所の発表によると11月20日に発熱、腹痛などの症状が現れ、都内の病院を受診したところ細菌性胃腸炎と診断され入院。その後、敗血症と診断され治療を受けていたが回復せず、残念な結果となった。
敗血症による死は決して珍しいことではないが、その病態については広く知られていない。敗血症について、竹内内科小児科医院院長の五藤良将医師に聞いた。
敗血症とは
「敗血症とは、感染症が原因となって起きる、二次的な症状です。なんらかの菌やウイルスに感染したとき、そのウイルスや細菌が増殖して炎症が全身に広がり、その結果として重大な臓器障害が起きることをいいます。急速に他臓器に広がり、最悪の場合、命を落とすこともあります」(五藤医師)
原因となるウイルスや細菌は、さまざまだという。
「代表的なものは、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌などがあり、どれも私たちの周りにあります。健康な成人であれば問題ありませんが、乳幼児や、高齢者、糖尿病などの基礎疾患がある人やがんなどの治療中で免疫力が低下している人は、感染症をきっかけに敗血症を起こすリスクが高いといえます」
亡くなった渡辺徹さんは長年にわたって糖尿病の治療を行っており、敗血症になるリスクが高い状態であったと考えられる。
「糖尿病は白血球の免疫機能低下を来すことから細菌感染にかかりやすくなるため、敗血症にもなりやすい傾向にあります。健康な人の場合には、なんらかの菌に感染しても血液中の免疫細胞が働き、炎症が広がらないように防御されていますが、糖尿病の患者さんは感染しやすく、血流障害や神経障害などのために、侵入した菌にとって増殖しやすい環境になってしまいます」
ウイルスと敗血症
コロナ禍の現在、糖尿病などの基礎疾患を持つ人や高齢者にとっては敗血症になるリスクが高い状況であり、注意が必要だという。
「実は、新型コロナウイルスに感染し重症化した患者さんのなかには、敗血症となり臓器不全が引き起こされ、死に至った例も報告されています。これは新型コロナウイルスに限ったことではなく、ほかのウイルスや細菌でも、感染がきっかけとなり敗血症を発症することがあります。コロナ禍が続く現在、高リスクの方は感染対策を十分にしてほしいと思います」
敗血症の治療と予防
「敗血症の治療は、感染症の原因となる菌やウイルスを特定し、抗菌薬や抗ウイルス薬を投与します。急速に進行している場合には、検査結果を待たず抗菌薬を投与することもありますが、耐性菌の問題もあり、どの抗菌剤を使用するかは十分に検討する必要があります。また、敗血性ショックが起きている場合は血圧を上げる必要があり、点滴治療を行います」
しかしながら、敗血症の進行が早く一刻を争う場合も少なくない。そうならないためには、敗血症を招く感染症を予防することが重要である。
「手洗いやうがいを習慣づけ、栄養と睡眠を十分に取り、インフルエンザや新型コロナウイルスなどのワクチン接種も感染症の予防に有効です。また、糖尿病の方は、治療をしっかりと行うことが大切です」
コロナ禍で感染症対策はすっかり定着した感があるが、基礎疾患がある方や、身近に高齢者や基礎疾患を持つ方がいる場合には、今後も感染対策を続けていただきたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)