ネット上じょうで「無関係むかんけい」なのに正義せいぎ感かん振ふり回まわす人ひとたち…「みんな俺おれと同おなじ」と思おもい込こみ集中しゅうちゅう攻撃こうげき

「Thinkstock」より

　インターネット上じょうで起おきる“炎上えんじょう”は、「自分じぶんの意見いけんは正ただしい！」と思おもい込こんだ少数しょうすうの人ひとたちが、同おなじ意見いけんを何なん度ども書かき込こむことで引ひき起おこしている――。

　当とう連載れんさい前回ぜんかい記事きじでは、『ネット炎上えんじょうの研究けんきゅう』（勁草書房しょぼう／田中たなか辰雄たつお・山口やまぐち真一しんいち著ちょ）の共著きょうちょ者しゃで国際こくさい大学だいがくグローバル・コミュニケーション・センター助じょ教きょうの山口やまぐち真一しんいち氏しに話はなしを聞きき、そんなネット炎上えんじょうの実態じったいをお伝つたえした。

　では、本書ほんしょの調査ちょうさで浮うかび上あがった「子持こもちで年収ねんしゅう高たかめの男性だんせいが炎上えんじょうに加担かたんしている」というのは、どういうことなのか。山口やまぐち氏しの話はなしは続つづく。

なぜツイッターで正義せいぎ感かんを振ふりかざす人ひとが続出ぞくしゅつするのか

–本書ほんしょ内ないのアンケート結果けっかで、炎上えんじょう参加さんか者しゃに多おおい傾向けいこうとして「子持こもちで年収ねんしゅう高たかめの男性だんせい」とあります。「男性だんせい」はわかるのですが、「子持こもち」と「年収ねんしゅうが高たかい」は意外いがいですね。

山口やまぐち真一しんいち氏し（以下いか、山口やまぐち）　「年収ねんしゅうが高たかい」については、よく「なぜですか？」と聞きかれるのですが、個人こじん的てきには「頭あたまを良よく見みせたい型がた」の人ひとが多おおいのかなと思おもいます。

「頭あたまを良よく見みせたい」という願望がんぼうがあり、また政治せいじなどの主義しゅぎ主張しゅちょうがはっきりしている。そんな人ひとの多おおくは、いわゆる知識ちしき階級かいきゅうであり、収入しゅうにゅうが多おおくなるのだと思おもいます。

「子持こもち」については、例たとえば「保育園ほいくえん落おちた日本にっぽん死しね！！！」のような話題わだいに敏感びんかんに反応はんのうするのは、やはり子持こもちの人ひとのほうが多おおいのでしょう。

『ネット炎上えんじょうの研究けんきゅう』（勁草書房しょぼう／田中たなか辰雄たつお・山口やまぐち真一しんいち著ちょ）

–「子持こもちで年収ねんしゅうが高たかめ」が意外いがいに感かんじるのは、イメージと違ちがうからです。これまで、炎上えんじょう参加さんか者しゃといえば「非ひ正規せいき雇用こようあるいは無職むしょくなどで年収ねんしゅうは低ひくく、リアルのコミュニケーション能力のうりょくが乏とぼしいため友達ともだちも恋人こいびともおらず、鬱憤うっぷんをネットの世界せかいで晴はらしている……」という、かなり悲惨ひさんなイメージが共有きょうゆうされてきました。そもそも、なぜそんなイメージができ上あがってしまったのでしょうか。

山口やまぐち　「自分じぶんたちとは違ちがう人ひとたち」と思おもいたかったのではないでしょうか。「人生じんせいの負まけ組ぐみが、ネットで鬱憤うっぷんを晴はらしている」という固定こてい観念かんねんは、少すくなからずあったと思おもいます。

「炎上えんじょうに加担かたんしているのは、自分じぶんとは違ちがう人ひとたちだ」というのは、炎上えんじょうに参加さんかしない人ひとにしてみれば受うけ入いれやすいですよね。でも、実際じっさいはそうではない。その点てんが重要じゅうようだと思おもいます。

—ツイッターで嫌いやだなと思おもうのが、「聞きかれたことには必かならず答こたえないといけない」という雰囲気ふんいきです。特とくに一般人いっぱんじんから有名人ゆうめいじんに対たいしてですが、スキャンダルや不用意ふよういな発言はつげんで炎上えんじょうの渦中かちゅうにいる人ひとに対たいして、当事とうじ者しゃとすれば答こたえにくい質問しつもんをたくさん投なげかけて、「今いますぐに答こたえてくださいよ！」「なんで答こたえないんですか！」と妙みょうに高こう圧あつ的てきな態度たいどで詰問きつもんする人ひとを見みかけます。しかも、その人ひとから直接的ちょくせつてきな被害ひがいを受うけているのならまだしも、全然ぜんぜん関係かんけいない人ひとが詰問きつもんしていたりするんですよね。

山口やまぐち　そうなんです。ポイントは「全然ぜんぜん関係かんけいない少数しょうすうの人ひとが、正義せいぎ感かんから暴あばれ回まわっている」ということです。震災しんさいもそうですが、被害ひがいに遭あわれた方ほうがいて、その人ひとたちは全然ぜんぜん別べつのことを考かんがえているのかもしれないのに、外野がいやが勝手かってに「あの人ひとたちがかわいそうだ！　政府せいふやマスコミはダメだ！」とものすごく批判ひはんするじゃないですか。その正義せいぎ感かんが恐おそろしいですね。

10％が「ネット上じょうなら強つよい口調くちょうで非難ひなんしてもいい」と回答かいとう

–そういった「正義せいぎ感かんに燃もえている人ひと」をなんとかするのは難むずかしいのでしょうか？

山口やまぐち　本書ほんしょのアンケートの中なかに「インターネット上じょうなら強つよい口調くちょうで非難ひなんしあって良よいと思おもうか」という設問せつもんがあったのですが、これに「良よいと思おもう」と答こたえた人ひとは全体ぜんたいの10％くらいしかいませんでした。その10％の人ひとは、それ以外いがいの90％の人ひとよりも炎上えんじょうに加担かたんする傾向けいこうが見みられます。

「ネット上じょうなら強つよい口調くちょうで非難ひなんしあって良よいと思おもう」というのは、ちょっと特殊とくしゅな考かんがえですよね。そういう意味いみでは、解消かいしょうはなかなか難むずかしいのかなと思おもいます。この調査ちょうさでは「年収ねんしゅうが高たかい」や「子持こもち」の部分ぶぶんが話題わだいになっていますが、私わたしが本当ほんとうに気きになったのは、この部分ぶぶんです。

　対処たいしょとしては教育きょういくがあると思おもいます。今年度こんねんどから、ネットいじめや炎上えんじょうが教科書きょうかしょに載のるようになったと記憶きおくしています。小中学校しょうちゅうがっこうの教育きょういくはその後ごの人格じんかく形成けいせいに影響えいきょうを与あたえるので、このような地道じみちな対応たいおうは必要ひつようですね。

–中高生ちゅうこうせいあたりでは、ネット上じょうの過激かげきな意見いけんにかぶれる人ひとも多おおそうですね。炎上えんじょうしたら、どういう対策たいさくをとればいいのでしょうか？

山口やまぐち　「無視むししろ、ネットを見みるな、謝罪しゃざいしろ」という意見いけんが多おおいですが、謝罪しゃざいしたり取とり下さげたりするのは、自分じぶんに非ひがあると認みとめていることにもなります。非ひがないのに謝あやまってしまうと、相手あいては調子ちょうしに乗のりますし、まわりも「あの会社かいしゃ（あの著名ちょめい人じん）があの程度ていどで謝罪しゃざいするなら、うちも……」と、すぐに謝罪しゃざいや撤退てったいをするという空気くうきになってしまいます。すでに、そういう世よの中なかになってしまっていますよね。

　実際じっさい問題もんだいとして、炎上えんじょうした時ときには「考かんがえて」とお伝つたえしています。まず、炎上えんじょうの規模きぼを考かんがえる。小規模しょうきぼな炎上えんじょうなら、どうでもいいです。規模きぼの大小だいしょうの判断はんだん基準きじゅんは、まとめサイトに載のるかどうか。例たとえば、ツイッターのリツイート数すうがどんなに増ふえても、まとめサイトに載のらなければたいしたことはありません。しかし、載のった途端とたんに注目ちゅうもく度どが一気いっきに上あがります。

　もうひとつは、謝罪しゃざいしたり取とり下さげたりしないといけないほど自分じぶんに非ひがあるのかどうか考かんがえる、ということです。この判断はんだん材料ざいりょうとしては「擁護ようごコメント」があります。ある程度ていどの擁護ようごがあれば、謝罪しゃざいや取とり下さげをしなくてもいいと思おもいます。

　本書ほんしょでも例れいに挙あげていますが、厚生こうせい労働省ろうどうしょうがネットで公開こうかいした年金ねんきん漫画まんがのケースがあります。これは「年金ねんきん制度せいどの失策しっさくを社会しゃかい的てき背景はいけいのせいにしている」などと大だい炎上えんじょうしましたが、厚労省こうろうしょうは今いまも漫画まんがを公開こうかいしています。

–批判ひはんが集中しゅうちゅうしましたが、取とり下さげることはなかったのですね。

山口やまぐち　描えがき方かたや表現ひょうげんについては「まずいだろう」と思おもいましたが、言いっていることは嘘うそではないんですよね。「それを、わざわざ取とり下さげることはない」と厚労省こうろうしょうは判断はんだんしたのでしょう。結局けっきょく、騒動そうどうは沈静ちんせい化かして、今いまは批判ひはんしている人ひとはほとんどいません。このように、間違まちがっていないのであれば取とり下さげる必要ひつようはないのです。

厚生こうせい労働省ろうどうしょうやドコモも大だい炎上えんじょうした過去かこ

–あの時とき、厚労省こうろうしょうを叩たたいていた人ひとは、今いまは別べつの件けんを叩たたいているのでしょうね。ネットで嫌いやな思おもいをしないために、気きをつけることはありますか？

山口やまぐち　萎縮いしゅくしてしまってはよくないのですが、あらかじめ炎上えんじょうしやすい話題わだいを知しっておくことですね。「食たべ物もの」「宗教しゅうきょう」「社会しゃかい保障ほしょう」「格差かくさ」「災害さいがい」「政治せいじ」「戦争せんそう」……このあたりは炎上えんじょうしやすいです。

　次つぎにネットユーザーの規範きはんというか、彼かれらの中なかの「暗黙あんもくの規範きはん」を覚おぼえておくことです。それを知しらない企業きぎょうの広報こうほう担当たんとう者しゃが間違まちがった対応たいおうをして炎上えんじょうすることもあります。

　かつて、NTTドコモの“プッシュトーク事件じけん”というのがありました。新しんサービスの「プッシュトーク」をPRするためにSNS（ソーシャル・ネットワーキング・サービス）のmixiでコミュニティを開設かいせつしたのですが、コミュニケーション機能きのうを使つかわなかったのです。

　そのため、ユーザーから「mixiでPRをしているのに、ユーザーとコミュニケーションを図はからないとは何事なにごとだ！」と炎上えんじょうしました。そのツールならではの規範きはんを理解りかいした上うえで発信はっしんすることが必要ひつようです。

–「2ちゃんねる」でよく言いわれる「半年はんとしROMれ（半年はんとし間あいだは書かき込こまず、ほかの人ひとの書かき込こみを読よんで勉強べんきょうしろ）」というやつですね。

山口やまぐち　そうです。媒体ばいたいが変かわれば暗黙あんもくの規範きはんも変かわりますので。あとは、アンケート結果けっかでもあったように、「炎上えんじょう参加さんか者しゃは少すくない」と知しっておくこと。そうすると、気持きもちが楽らくになります。大だい多数たすうの人ひとが批判ひはんしているように見みえますが、実じつは、ごく少数しょうすうの人ひとが何なん度ども書かき込こんでいるだけですから。

–そもそも、炎上えんじょうしていること自体じたい知しらない人ひとのほうが多おおいですよね。ネットの狭せまい世界せかいの話はなしですし。

山口やまぐち　狭せまい世界せかいの話はなしであることを、つい忘わすれてしまうんですよね。ツイッターで政治せいじの話はなしをしている人ひとを見みると、「自分じぶんのまわりは、みんな俺おれと同おなじ意見いけんだ」みたいなことを平気へいきで言いう人ひとが多おおい。狭せまい世界せかいでつるんでいると、ほかの意見いけんもあることを認識にんしきできなくなってしまうのです。

　炎上えんじょうの解決かいけつ方法ほうほうは、簡単かんたんには見みつかりません。しかし、本書ほんしょ内ないでは「閲覧えつらんは誰だれでもできるが、発信はっしんは決きめられた人ひとしかできないようにする」といった、炎上えんじょうを防ふせぐ仕組しくみを提案ていあんしています。炎上えんじょうは、仕方しかたのないことではなく、解決かいけつすべき課題かだいであると考かんがえています。

–ありがとうございました。
（構成こうせい＝石徹白いとしろ未み亜あ／ライター）