桜美林大学おうびりんだいがく、文科ぶんか省しょうが禁止きんしする“授業じゅぎょう外注がいちゅう化か”強行きょうこう…解雇かいこ恐おそれる講師こうしとの団体だんたい交渉こうしょうを拒否きょひ

　大学だいがくで英語えいごなどの授業じゅぎょうを「外注がいちゅう化か」と称しょうして民間みんかんに丸まる投なげすることは、文部もんぶ科学かがく省しょうが禁止きんししている。にもかかわらず、外注がいちゅう化かを試こころみようとする大学だいがくが後こうを立たたない。今年ことしも大だい規模きぼな外注がいちゅう化かを決定けっていした大学だいがくが現あらわれた。それは、東京とうきょう都と町田まちだ市しにある桜美林大学おうびりんだいがくだ。

　桜美林大学おうびりんだいがくは今年ことし7月がつ、2020年ねんから芸術げいじゅつ文化ぶんか学がく群ぐんの英語えいごの授業じゅぎょうをすべて外注がいちゅう化かすると、突然とつぜん学内がくないに通知つうちした。授業じゅぎょうは全部ぜんぶで72コマあり、非常勤ひじょうきん講師こうしがすべての授業じゅぎょうを担当たんとうしているが、講師こうしたちの処遇しょぐうがどうなるのか、11月に入はいっても何なにも明あきらかにされていない。

　それどころか、首都しゅと圏けん大学だいがく非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいと、外国がいこく人じん講師こうしが所属しょぞくする全国ぜんこく一般いっぱん東京とうきょうゼネラルユニオンの2組合くみあいが団体だんたい交渉こうしょうを要求ようきゅうしても、いまだに1度ども開催かいさいされていないのだ。

　10月がつ下旬げじゅん、桜美林大学おうびりんだいがくの対応たいおうは不当ふとう労働ろうどう行為こういだとして、2つの組合くみあいは東京とうきょう都とと神奈川かながわ県けんの労働ろうどう委員いいん会かいに救済きゅうさいを申もうし立たてた。非常勤ひじょうきん講師こうしの大量たいりょう解雇かいこに発展はってんする可能かのう性せいがある、桜美林大学おうびりんだいがくの現状げんじょうを取材しゅざいした。

約やく20人にんの非常勤ひじょうきん講師こうしが解雇かいこの危機ききか

「英語えいごの授業じゅぎょうを外注がいちゅう化かすることだけがわかっていて、削減さくげんされる授業じゅぎょうのコマ数すうや、授業じゅぎょうを担当たんとうしている非常勤ひじょうきん講師こうしの処遇しょぐうがどうなるのかなどは、まったく明あきらかにされていません。大学だいがくから説明せつめいがないままで、講師こうしたちは大おおきな不安ふあんを抱かかえています」

　桜美林大学おうびりんだいがくで働はたらく非常勤ひじょうきん講師こうしが置おかれた立場たちばの異常いじょうさを訴うったえたのは、首都しゅと圏けん大学だいがく非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいと全国ぜんこく一般いっぱん東京とうきょうゼネラルユニオンだ。両りょう組合くみあいは10月29日にち、神奈川かながわ県庁けんちょうで記者きしゃ会見かいけんし、学校がっこう法人ほうじん桜美林学園おうびりんがくえんと桜美林大学おうびりんだいがくの不当ふとう労働ろうどう行為こういに対たいする救済きゅうさい申もうし立たてを、東京とうきょう都とと神奈川かながわ県けんの労働ろうどう委員いいん会かいに申もうし立たてたことを明あきらかにした。

　問題もんだいが発覚はっかくしたのは今年ことし7月がつ8日にち。大学だいがくは英語えいごを担当たんとうする教員きょういん向むけのニュースレターで、来年度らいねんどから芸術げいじゅつ文化ぶんか学がく群ぐんの英語えいごの授業じゅぎょうを、ベネッセグループ傘下さんかで英会話えいかいわ教室きょうしつなどを運営うんえいするベルリッツ・ジャパンに外注がいちゅう化かすることと、その結果けっかとして担当たんとう科目かもくに大幅おおはばな変更へんこうが生しょうじることを通知つうちした。

　芸術げいじゅつ文化ぶんか学がく群ぐんの英語えいごの授業じゅぎょうは72コマあり、非常勤ひじょうきん講師こうしが担当たんとうしている。担当たんとうする授業じゅぎょうがなくなれば、講師こうしは解雇かいこされる恐おそれがある。ところが大学だいがくは、外注がいちゅう化かを通知つうちして以降いこう、削減さくげんするコマ数すうの規模きぼや講師こうしの処遇しょぐうなど、何なにも説明せつめいしていないのだ。

　非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいによると、72コマの授業じゅぎょうがすべて外注がいちゅう化かされた場合ばあい、約やく20人にんの非常勤ひじょうきん講師こうしが解雇かいこされる恐おそれがあるという。非常勤ひじょうきん講師こうしの多おおくは無期むき雇用こよう化かされており、桜美林大学おうびりんだいがくで長ながく勤務きんむしてきた外国がいこく人じん講師こうしも多おおい。「外注がいちゅう化かするからといって、詳細しょうさいを明あきらかにしないまま解雇かいこすることは許ゆるされない」という非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいの主張しゅちょうは当然とうぜんだろう。

団体だんたい交渉こうしょうの拒否きょひは違法いほう行為こうい

　問題もんだい発覚はっかくから10日にちほどが経過けいかした7月がつ19日にちに、非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいと東京とうきょうゼネラルユニオンは団体だんたい交渉こうしょうを申もうし入いれた。桜美林大学おうびりんだいがくは「9月がつ下旬げじゅんまで待まってほしい」と回答かいとう。理由りゆうも示しめさずに2カ月かげつ以上いじょうも先さき延のばしにするのは異例いれいだとして、非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいは8月がつ中ちゅうの開催かいさいを求もとめたが、結局けっきょく9月がつ24日にちに初はじめての団交だんこうがセッティングされた。

　ところが、この日ひの団交だんこうは、当日とうじつになって反故ほごにされた。組合くみあい側がわは当事とうじ者しゃも含ふくめて20人にん程度ていどが参加さんかする予定よていだったが、場所ばしょが決きまっていなかったため大学だいがくに問とい合あわせると、数すう人にんしか入いれない会場かいじょうを指定していしてきた。

　組合くみあい側がわが大おおきな会場かいじょうに変更へんこうするように求もとめると、大学だいがく側がわはいったんは「変かえます」と答こたえたが、やはり小ちいさな会場かいじょうで開催かいさいすると述のべ、参加さんかする人数にんずうを調整ちょうせいしない場合ばあいは延期えんきすると通告つうこく。組合くみあい側がわは可能かのうな限かぎり多おおくの人ひとを会場かいじょうに入いれようとしたが、大学だいがく側がわは「こんな大人おとな数すうでは交渉こうしょうできない」として退出たいしゅつしてしまった。

　さらに、外国がいこく人じん講師こうしが加入かにゅうする東京とうきょうゼネラルユニオンと大学だいがく側がわは、10月9日にちに団交だんこうを予定よていしていたが、大学だいがく側がわは交渉こうしょうは日本語にほんごだけで、5人にんまでしか入場にゅうじょうできないと一方いっぽう的てきに決きめた。ユニオン側がわは1回かい目めは譲歩じょうほするけれども、英語えいごでも対応たいおうするように団交だんこうの席せきで協議きょうぎすることを提案ていあんしたが、大学だいがく側がわは拒否きょひ。結局けっきょく折おり合あわず、団交だんこうは開ひらかれていない。

　大学だいがくが一方いっぽう的てきに日本語にほんごだけで対応たいおうすることを決きめて、組合くみあいが応おうじなければ団交だんこう自体じたいを拒否きょひする行為こういは、過去かこに東京学芸大学とうきょうがくげいだいがくが行おこなって、2016年ねんに東京とうきょう都と労働ろうどう委員いいん会かいから不当ふとう労働ろうどう行為こういだと認定にんていされたことがある。ユニオン側がわは桜美林大学おうびりんだいがくの対応たいおうは不当ふとう労働ろうどう行為こういにあたるとして、10月28日にち、東京とうきょう都と労働ろうどう委員いいん会かいに救済きゅうさいを申もうし立たてた。

　そもそも、団交だんこうを拒否きょひすることは、労働ろうどう組合くみあい法ほうに違反いはんする行為こういといえる。非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいは組合くみあい員いんの多おおくが神奈川かながわ県けんに居住きょじゅうしていることもあり、10月29日にちに神奈川かながわ県けん労働ろうどう委員いいん会かいに救済きゅうさいを申もうし立たてた。これが現在げんざいまでの状況じょうきょうだ。

外注がいちゅう化かは大学だいがく教育きょういくの民間みんかん企業きぎょうへのバラ売うり

　非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいによると、桜美林大学おうびりんだいがくは以前いぜんは組合くみあいとの団交だんこうに誠実せいじつに応おうじてきたという。今回こんかい交渉こうしょうに応おうじようとしないのは、外注がいちゅう化かを強引ごういんに進すすめようとしているからではないかと感かんじている。

　筆者ひっしゃは桜美林大学おうびりんだいがくに取材しゅざいし、2つの組合くみあいが労働ろうどう委員いいん会かいに救済きゅうさいを申もうし立たてたことをどのように受うけ止とめているのか聞きいた。広報こうほう担当たんとう者しゃは「団交だんこうを拒否きょひしているわけではない」と説明せつめいする。

「首都しゅと圏けん大学だいがく非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいとの団体だんたい交渉こうしょうについては、慣例かんれいの通とおり、組合くみあいのしかるべき代表だいひょう者しゃと、学園がくえんのしかるべき担当たんとう者しゃとの間あいだで、落おち着ついた状態じょうたいで話はなし合あいたいと考かんがえています。また東京とうきょうゼネラルユニオンについては、ルールが定さだまっていない中なかでは交渉こうしょうはできませんとお伝つたえしています。ルールが整ととのえば、団体だんたい交渉こうしょうをさせていただきたいと考かんがえています」

　大学だいがく側がわは団交だんこうに参加さんかする人数にんずうやルールなどを理由りゆうにして、団交だんこうに応おうじない姿勢しせいをいまのところ崩くずしていない。しかし、本質ほんしつ的てきな問題もんだいは、団交だんこうの開催かいさいではなく、外注がいちゅう化かによる非常勤ひじょうきん講師こうしの雇用こようへの影響えいきょうを説明せつめいしていないことと、外注がいちゅう化かが果はたして適切てきせつなのかどうかということではないだろうか。

　文部もんぶ科学かがく省しょうは英語えいごの授業じゅぎょうの外注がいちゅう化かが認みとめられる例れいとして「英語えいごの授業じゅぎょう全体ぜんたいを専任せんにん教員きょういんが進行しんこうしつつ、コミュニケーション部分ぶぶんを外部がいぶ講師こうしに担当たんとうさせる」ことを想定そうていしている。全面ぜんめん的てきな外注がいちゅう化かは認みとめていないのだ。この点てんについても大学だいがく側がわからの説明せつめいはない。首都しゅと圏けん大学だいがく非常勤ひじょうきん講師こうし組合くみあいの志田しだ昇のぼる委員いいん長ちょうは、桜美林大学おうびりんだいがくでこのまま外注がいちゅう化かが強行きょうこうされた場合ばあい、他たの大学だいがくでも一気いっきに外注がいちゅう化かが進すすむ恐おそれがあると警鐘けいしょうを鳴ならす。

「外注がいちゅう化かは桜美林大学おうびりんだいがくだけの問題もんだいではありません。人件じんけん費ひを抑制よくせいするため、日本にっぽん中ちゅうのかなりの大学だいがくができることなら英語えいごの授業じゅぎょうを外注がいちゅう化かしたいと考かんがえているはずです。大学だいがくの教育きょういくが、営利えいり企業きぎょうにバラ売うりされようとしているのです。

　これは延期えんきが決きまった大学だいがく入学にゅうがく共通きょうつうテストの英語えいご民間みんかん試験しけんと同おなじ構図こうずともいえます。外部がいぶの営利えいり企業きぎょうに授業じゅぎょうや試験しけんを丸まる投なげしようとする大おおきな流ながれがあるのは間違まちがいありません。国くにや大学だいがくが責任せきにんを持もって教育きょういくをすべきだということも、改あらためて訴うったえていく必要ひつようがあると考かんがえています」

　桜美林大学おうびりんだいがくが団交だんこうに応おうじるのか、団交だんこうに関係かんけいなく外注がいちゅう化かについて説明せつめいをするのかは現時点げんじてんでは不明ふめいだ。来年度らいねんどの契約けいやくについて話はなし合あう時期じきが近ちかづくなか、非常勤ひじょうきん講師こうしの大量たいりょう解雇かいこという事態じたいに発展はってんするのかどうか、注視ちゅうしする必要ひつようがある。

（文ぶん＝田中たなか圭太郎けいたろう／ジャーナリスト）