徴用ちょうよう工こう個人こじんの損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう権けんは消滅しょうめつしていない…日本にっぽんによる奴隷どれい的てき強制きょうせい労働ろうどうこそ問題もんだいの本質ほんしつ

　土壇場どたんばで軍事ぐんじ情報じょうほう包括ほうかつ保護ほご協定きょうてい（GSOMIA）が「条件じょうけん付つき延長えんちょう」となったものの、その発表はっぴょう内容ないようをめぐって韓国かんこくが日本にっぽんに抗議こうぎするなど、いまだ日にち韓かん関係かんけいは波乱はらん含ふくみの展開てんかいだ。その元凶げんきょうとなった元もと徴用ちょうよう工こう訴訟そしょうについても解決かいけつの道筋みちすじは見みえておらず、今後こんごは韓国かんこくが差さし押おさえた日本にっぽん企業きぎょうの資産しさんが売却ばいきゃくされる動うごきも取とり沙汰ざたされている。

　徴用ちょうよう工こう問題もんだいについて「人権じんけん侵害しんがいの問題もんだいであり、被害ひがい者しゃ個人こじんの損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう権けんは消滅しょうめつしていない。そのため、日本にっぽん側がわは過去かこの植民しょくみん地ち支配しはいも含ふくめて十分じゅうぶんな謝罪しゃざいと賠償ばいしょうを行おこなうべき」と語かたるのは、弁護士べんごしで日本にっぽん弁護士べんごし連合れんごう会かい（日弁連にちべんれん）元もと会長かいちょうの宇都宮うつのみや健児けんじ氏しだ。徴用ちょうよう工こう問題もんだいの本質ほんしつと日にち韓かん関係かんけいがこじれる理由りゆうについて、宇都宮うつのみや氏しに聞きいた。

安倍あべ政権せいけん、日本にっぽん企業きぎょうの自発じはつ的てきな賠償ばいしょうを妨害ぼうがい行為こうい

――昨年さくねん10月がつの韓国かんこく大法たいほう院いんの判決はんけつから1年ねん以上いじょうが過すぎましたが、事態じたいは膠着こうちゃく状態じょうたいのままです。同どう判決はんけつについては、どう見みていますか。

宇都宮うつのみや健児けんじ氏し（以下いか、宇都宮うつのみや）　徴用ちょうよう工こう問題もんだいの本質ほんしつは人権じんけん侵害しんがいの問題もんだいであり、元もと徴用ちょうよう工こうの方々かたがたの救済きゅうさいを最さい優先ゆうせんに考かんがえるべきです。そこで大事だいじになるのは、謝罪しゃざいと賠償ばいしょうです。

　新日鉄しんにってつ住金すみきんを訴うったえた元もと徴用ちょうよう工こうは、感電かんでん死しの危険きけんがあるなかで溶鉱炉ようこうろにコークスを投入とうにゅうするなどの過酷かこくな労働ろうどうを強しいられ、それにもかかわらず賃金ちんぎんが支払しはらわれていません。与あたえられる食料しょくりょうは少すくなく粗末そまつで、外出がいしゅつも許ゆるされず、逃亡とうぼうを企くわだてたとして体罰たいばつを受うけるなど、極きわめて劣悪れつあくな環境かんきょうに置おかれていました。これは、強制きょうせい労働ろうどう（ILO第だい29号ごう条約じょうやく）や奴隷どれい制せい（1926年ねん奴隷どれい条約じょうやく）に該当がいとうする重大じゅうだいな人権じんけん侵害しんがいです。

　そのため、徴用ちょうよう工こう問題もんだいでは被害ひがい者しゃ個人こじんの被害ひがいが回復かいふくされなければならず、被害ひがい者しゃや社会しゃかいが受うけ入いれることのできない国家こっか間あいだの合意ごういは、真しんの合意ごういとはなり得えません。また、元もと徴用ちょうよう工こうなど個人こじんの損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう権けんを国家こっか間あいだの協定きょうていによって消滅しょうめつさせることができないということは、今いまや国際こくさい人権じんけん法ほう上じょうの常識じょうしきです。

――しかし、日本にっぽん政府せいふは「日にち韓かん請求せいきゅう権けん協定きょうていで解決かいけつ済ずみ」との姿勢しせいを貫つらぬいています。

宇都宮うつのみや　誤あやまった認識にんしきに基もとづく対応たいおうです。また、日本にっぽんの姿勢しせいの背景はいけいには、朝鮮半島ちょうせんはんとうの植民しょくみん地ち支配しはいについて真摯しんしな反省はんせいがなされていないという問題もんだいもあるでしょう。そもそも、安倍晋三あべしんぞう政権せいけんは近年きんねんのなかでもっとも右翼うよく的てきな政権せいけんであり、文ぶん在ざい寅とら政権せいけんは革新かくしん派はです。両者りょうしゃは水みずと油あぶらのようなもので、相容あいいれない性質せいしつであることが対立たいりつを深ふかめているという事情じじょうもあります。

　一方いっぽうで、過去かこには日本にっぽんの政府せいふや最高さいこう裁判所さいばんしょも、日にち韓かん請求せいきゅう権けん協定きょうていによっても実体じったい的てきな個人こじんの請求せいきゅう権けんは消滅しょうめつしていないという解釈かいしゃくをしています。たとえば、1991年ねん8月がつ27日にちの参議院さんぎいん予算よさん委員いいん会かいでは、外務省がいむしょうの柳井やない俊二しゅんじ条約じょうやく局長きょくちょう（当時とうじ）がそのような主旨しゅしの答弁とうべんをしています。

　また、最高裁さいこうさいは2007年ねん4月がつ27日にち、中国人ちゅうごくじんの強制きょうせい連行れんこう被害ひがい者しゃが西松建設にしまつけんせつに賠償ばいしょうを求もとめた裁判さいばんの判決はんけつで、個人こじんの請求せいきゅう権けんについて「実体じったい的てきに消滅しょうめつさせることまでを意味いみするものではなく、当該とうがい請求せいきゅう権けんに基もとづいて訴求そきゅうする権利けんりを失うしなわせるにとどまる」との判断はんだんを下くだしています。結果けっか的てきに、勝訴しょうそした西松建設にしまつけんせつは自発じはつ的てきに原告げんこくとの和解わかいに応おうじ、謝罪しゃざいと賠償ばいしょうを行おこなっています。この最高裁さいこうさいの解釈かいしゃくは徴用ちょうよう工こう問題もんだいにも当あてはまります。そのため、日本にっぽん企業きぎょうが自発じはつ的てきに賠償金ばいしょうきんを支払しはらうことは法的ほうてきに可能かのうであり、日にち韓かん請求せいきゅう権けん協定きょうていは法的ほうてき障害しょうがいにはなり得えないのです。

――韓国かんこくにとっては、日にち韓かん請求せいきゅう権けん協定きょうていを持もち出だすこと自体じたいが的外まとはずれということですね。

宇都宮うつのみや　この裁判さいばんの控訴こうそ審しんでは、04年ねん7月がつ9日にちに広島ひろしま高等こうとう裁判所さいばんしょが「外国がいこく人じんの加害かがい行為こういによって被害ひがいを受うけた者ものが個人こじんとして加害かがい者しゃに対たいして有ゆうする損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう権けんは固有こゆうの権利けんりであって、その属ぞくする国会こっかいが他たの国家こっかとの間あいだに締結ていけつした条約じょうやくをもって放棄ほうきさせることは原則げんそくとしてできず、日本にっぽん政府せいふと中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく政府せいふの共同きょうどう声明せいめい第だい5項こうは、そこに明記めいきされていない同国どうこく国民こくみん個人こじんの有ゆうする損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう権けんの放棄ほうきまでも含ふくむものではない」として、西松建設にしまつけんせつに対たいして被害ひがい者しゃ1人にん当あたり550万まん円えんの支払しはらいを命めいじています。私わたしは、この広島ひろしま高裁こうさいの判決はんけつのほうが最高裁さいこうさいの判決はんけつより説得せっとく力りょくがあると考かんがえています。

　この西松建設にしまつけんせつのほか、花岡はなおか事件じけんや三菱みつびしマテリアル事件じけんなどの事例じれいを見みても、日本にっぽん企業きぎょうには被害ひがい者しゃ個人こじんに対たいする謝罪しゃざいと賠償ばいしょうの意思いしがあることは明白めいはくです。しかし、安倍あべ首相しゅしょうや閣僚かくりょうらは「日にち韓かん請求せいきゅう権けん協定きょうていで解決かいけつ済ずみ」と繰くり返かえしており、実質じっしつ的てきに企業きぎょうの自発じはつ的てきな賠償ばいしょうを妨害ぼうがいしているのが現実げんじつです。これは国くにの越権えっけん行為こういに当あたると考かんがえます。

――それらの例れいを踏ふまえると、安倍あべ政権せいけんは事実じじつ誤認ごにんをしているのでしょうか。それとも、意図いと的てきにミスリードしているのでしょうか。

宇都宮うつのみや　徴用ちょうよう工こう問題もんだいを政治せいじ利用りようしているのではないでしょうか。一連いちれんの発言はつげんは、安倍あべ政権せいけんのコア支持しじ層そうである日本にっぽん会議かいぎなど保守ほしゅ層そうに向むけたものと見みています。嫌いや韓かん感情かんじょうを煽あおって、政権せいけん浮揚ふようにつなげたいのが狙ねらいでしょう。

徴用ちょうよう工こう像ぞうや慰安いあん婦ふ像ぞうを国会こっかい議事堂ぎじどう前まえに

――11月には、来日らいにちした韓国かんこくの文ぶん喜き相しょう国会こっかい議長ぎちょうが日にち韓かん両国りょうこくの企業きぎょうと個人こじんから寄付きふを募つのって基金ききんを創設そうせつする案あんを提唱ていしょうしましたが、韓国かんこく側がわからも反発はんぱつがあったようです。

宇都宮うつのみや　元もと徴用ちょうよう工こうの方々かたがたから話はなしを聞きいていないからで、中途半端ちゅうとはんぱな提案ていあんといえます。従軍じゅうぐん慰安いあん婦ふ問題もんだいにおける日にち韓かん合意ごういで元もと慰安いあん婦ふの方々かたがたへの支援しえんを目的もくてきにした財団ざいだんが設立せつりつされましたが、結果けっか的てきに解散かいさんしました。これと同おなじく、仮かりに実現じつげんしても失敗しっぱいに終おわる可能かのう性せいが高たかいでしょう。本来ほんらいであれば、文政ぶんせい権けんは元もと徴用ちょうよう工こうの方々かたがたを青瓦台チョンワデに呼よんで話はなしを聞きき、当事とうじ者しゃの意見いけんを反映はんえいした政策せいさくを立たてるべきです。

　そもそも、日本にっぽん企業きぎょうは元もと徴用ちょうよう工こうに慰謝いしゃ料りょうを支払しはらう意思いしがあるのですから、政府せいふはそれを阻止そしすべきではありません。安倍あべ政権せいけんは歴史れきし修正しゅうせい主義しゅぎ者しゃによって構成こうせいされていると言いっても過言かごんではないでしょう。少すくなくとも、中国人ちゅうごくじんの強制きょうせい連行れんこう被害ひがい者しゃと同等どうとうの補償ほしょうを行おこなうべきです。

――ほかに、解決かいけつ策さくとしてはどのような選択肢せんたくしがありますか。

宇都宮うつのみや　戦後せんご補償ほしょうの問題もんだいについては、ドイツの取とり組くみを見習みならうべきです。00年ねん8月がつ、ナチス・ドイツによる強制きょうせい労働ろうどう被害ひがいに関かんしてドイツの政府せいふと企業きぎょう約やく6400社しゃが「記憶きおく・責任せきにん・未来みらい」基金ききんを創設そうせつし、これまで約やく100カ国かこくの166万まん人にん以上いじょうに対たいして約やく44億おくユーロの賠償金ばいしょうきんを支払しはらっています。同おなじように、日本にっぽんの政府せいふと企業きぎょうが基金ききんを創設そうせつし、元もと徴用ちょうよう工こうに直接的ちょくせつてきな謝罪しゃざいや補償ほしょうを行おこなうという方法ほうほうが望のぞましいです。

　また、謝罪しゃざいと賠償ばいしょうに加くわえて「記憶きおくの継承けいしょう」も重要じゅうようです。ドイツでは首都しゅとベルリンの中心ちゅうしん地ちに、ナチスに殺ころされた600万まん人にん以上いじょうのユダヤ人じんのための追悼ついとうモニュメントが設置せっちされています。これは、同おなじような過あやまちを繰くり返かえさず若わかい世代せだいに語かたり継ついでいくというドイツ人じんの決意けついの表あらわれです。日本にっぽんも同様どうように、徹底てっていした教育きょういくや広報こうほうを行おこなうとともに、慰安いあん婦ふの少女しょうじょ像ぞうや徴用ちょうよう工こう像ぞうを国会こっかい議事堂ぎじどうの前まえなどに設置せっちすべきだと考かんがえています。

――日にち韓かん関係かんけい改善かいぜんのためには、抜本ばっぽん的てきな対応たいおうが必要ひつようになりそうですね。

宇都宮うつのみや　私わたしが日弁連にちべんれんの会長かいちょうを務つとめていた10年ねん12月11日にち、日弁連にちべんれんと大韓たいかん弁護士べんごし協会きょうかい（大韓たいかん弁べん協きょう）は、日本にっぽんによる植民しょくみん地ち支配しはい下かでの韓国かんこく民みんに対たいする人権じんけん侵害しんがい、特とくにアジア太平洋戦争たいへいようせんそう時じの人権じんけん侵害しんがいによる被害ひがいと被害ひがい回復かいふくに関かんして、共同きょうどうシンポジウムを開催かいさいしました。その成果せいかを踏ふまえて、慰安いあん婦ふ問題もんだいや強制きょうせい動員どういん被害ひがいの救済きゅうさいのために「共同きょうどう宣言せんげん」を発表はっぴょうしました。

　日にち韓かん関係かんけいが戦後せんご最悪さいあくと言いわれる今いまこそ、日弁連にちべんれんと大韓たいかん弁べん協きょうは新あらたな「共同きょうどう宣言せんげん」を発表はっぴょうするなど、問題もんだい解決かいけつに向むけて共同きょうどう活動かつどうを行おこなうべきではないかと考かんがえています。