アベノミクスの誤算ごさん〜円えん高だか進行しんこうで景気けいき減速げんそく？　銀行ぎんこうの国債こくさい放出ほうしゅつで高たかまる暴落ぼうらくの懸念けねん

　参議院さんぎいん選せんで自民党じみんとうが大勝たいしょうし、アベノミクスは国民こくみんの信任しんにんを得えたという報道ほうどうがなされています。この状況じょうきょうこそ、危険きけんな状況じょうきょうだと言いわざるを得えません。

　多おおくの国民こくみんは、アベノミクスの不安定ふあんていさと国際こくさい情勢じょうせいの危険きけんな動うごきを知しらないまま投票とうひょう所しょへ向むかいました。選挙せんきょに勝かったことで政府せいふ・自民党じみんとうの政策せいさくが正ただしいという結論けつろんが出でたわけではありません。逆ぎゃくに、国民こくみんの判断はんだんが間違まちがっていたことを思おもい知しらされる事態じたいが起おこる可能かのう性せいもあるのです。国際こくさい情勢じょうせいは多おおくの爆ばく弾だんを抱かかえながら推移すいいしています。日本にっぽんも間違まちがいなくその流ながれの中なかにあります。

　今回こんかいも、日本にっぽん国内こくないと海外かいがいの経済けいざい情勢じょうせいに注目ちゅうもくして、誰だれも気きづいていない「危険きけんな話はなし」をいたしましょう。

●円えん高だかにより、アベノミクスは“店みせじまい”になる

　政府せいふは認みとめようとしませんが、アベノミクスは「円えん安やす株かぶ高だか政策せいさく」です。口先くちさき介入かいにゅうで円えん安やすを誘導ゆうどうしたことにより、日本にっぽん政府せいふは外国がいこくからの非難ひなんにさらされ、1ドルに対たいし100円えんを超こえる円えん安やす誘導ゆうどうは難むずかしくなりました。そのため、一度いちど円えん高だかに傾かたむけば、一気いっきに円えんを買かう動うごきが高たかまる可能かのう性せいが出でてきました。

　現実げんじつに、為替かわせがドル安やすユーロ安やすになると、安全あんぜんを求もとめてお金かねが「円えん」に戻もどる動うごきがあります。円えんにも不安ふあん要素ようそがありますが、海外かいがいと比くらべるとまだ安全あんぜんと思おもわれているため、このようなことが起おこるのです。

　今後こんごのトレンドは「円えん高だか」であり、チャートの分析ぶんせきでは83円えんという説せつもあるほどです。円えん高だかになれば株かぶ安やすとなり、「円えん安やす株かぶ高だか政策せいさく」であるアベノミクスは“店みせじまい”となるでしょう。

　また、今年ことし4月がつ4日にちの日銀にちぎん・黒田くろだ総裁そうさいの「異い次元じげん緩和かんわ」の発表はっぴょうから、金利きんりは上昇じょうしょうを続つづけています。住宅じゅうたくローンや個人こじんの借入かりいれ金利きんりの基本きほんとなる「長期ちょうきプライムレート」の金利きんりも大おおきく上あがりました。このまま続つづけば、間違まちがいなく景気けいきは冷ひえ込こんでいきます。

　日銀にちぎんは事実じじつ上じょう、金利きんりを低ひくく抑おさえ続つづけることが不可能ふかのうになっています。そのため、国くにや地方自治体ちほうじちたいが保有ほゆうする国債こくさいに、莫大ばくだいな損失そんしつ「含ふくみ損そん」が出でることになります。さらに、金融きんゆう機関きかんや生命せいめい保険ほけん会社かいしゃが保有ほゆうする資産しさんも、損害そんがいを受うけることにもなります。

　最近さいきんは日本にっぽんの金利きんりも外国がいこくと歩調ほちょうを合あわせて、一気いっきに上昇じょうしょうする局面きょくめんが大変たいへん多おおいのです。

●国内こくない金融きんゆう機関きかんも国債こくさいを見捨みすてて始はじめた

　地方銀行ちほうぎんこうの代表だいひょうである横浜銀行よこはまぎんこうの寺澤てらさわ辰たつ麿まろ頭取とうどりは、某社ぼうしゃのインタビューで、黒田くろだ総裁そうさいの「異い次元じげん緩和かんわ」発表はっぴょう前後ぜんこうに5年ねんより長ながい満期まんきの国債こくさいは全部ぜんぶ売うり払はらったと語かたりました。今後こんごも満期まんきの長ながい国債こくさいの購入こうにゅうは慎重しんちょうにすると言いっています。

　日本にっぽん政府せいふがこれまで野放図のほうずに国債こくさいを発行はっこうできたのは、日本にっぽんの金融きんゆう機関きかんが文句もんくを言いわずに買かい取とっていたからです。しかし、これに反旗はんきを翻ひるがえすかのように国債こくさいを叩はたき売うる日本にっぽんの金融きんゆう機関きかんが出でてきたのです。まさに革命かくめいのようなことが現実げんじつに起おこっているわけです。 　

　国債こくさいを保有ほゆうする外国がいこく人じんも、日本にっぽん国債こくさいを売うる時期じきを虎視眈々こしたんたんと待まっています。ジョージ・ソロスも例外れいがいではありません。

　国債こくさいはいつ暴落ぼうらくしてもおかしくない状況じょうきょうですが、政府せいふにはほとんど危機きき感かんがありません。政府せいふに危機きき感かんがない時ときが最もっとも危険きけんな時ときです。サブプライム危機ききやリーマンショックの時ときも、兆候ちょうこうは見みえていたにもかかわらず、政府せいふには全まったく危機きき感かんがありませんでした。

●アメリカ、中国ちゅうごくが引ひき起おこすXデー

　それから、海外かいがいの危険きけんな状況じょうきょうも知しっておかなくてはなりません。

　アメリカの中央ちゅうおう銀行ぎんこうに当あたるFRB（連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かい）バーナンキ議長ぎちょうが金融きんゆう緩和かんわ縮小しゅくしょうの発言はつげんをしたことなどにより、アメリカの投資とうし家かは世界中せかいじゅうからお金かねを引ひき揚あげています。その結果けっか、中国ちゅうごく、インドネシア、インド、タイ、フィリピン、ブラジル、南みなみアメリカなどの新興しんこう国こくの株価かぶかや通貨つうかが下落げらくし、多おおくの国くにが資金繰しきんぐりに困こまっています。これはリーマンショックや1997～98年ねんのアジア・ロシア危機ききの状況じょうきょうにそっくりです。いつ破綻はたんが起おきてもおかしくないのです。

　特とくに中国ちゅうごくでは、銀行ぎんこう間あいだの莫大ばくだいな債務さいむ不履行ふりこうが表面ひょうめん化かし、今後こんご、経済けいざいの大だい混乱こんらんの引ひき金がねになりかねません。経済けいざいの大だい混乱こんらんは、必かならず政治せいじの混乱こんらんを引ひき起おこすことになり、日本にっぽんにも大おおきな影響えいきょうを与あたえるでしょう。

　アメリカ国内こくないでも大変たいへんな事態じたいが進行しんこう中ちゅうです。

　バーナンキ議長ぎちょうは、アメリカ当局とうきょくがコントロールできない金融きんゆう市場いちば「影かげの金融きんゆうシステム」が広ひろがっていると発言はつげんしました。ひとつは中国ちゅうごくが抱かかえる巨大きょだい闇やみ金融きんゆうのことですが、もうひとつは自分じぶんの国くにの中なかに抱かかえる闇やみの部分ぶぶんです。すなわち巨大きょだいファンドによる巨額きょがくの損失そんしつが生うまれているようなのです。さらにバーナンキ議長ぎちょうは、今後こんご資金しきん調達ちょうたつ困難こんなんな銀行ぎんこうが出でてくると発言はつげんしています。大変たいへんな金融きんゆう危機ききが水面すいめん下かで進行しんこうしており、それが一般いっぱん市民しみんには知しらされていないのです。

　この金融きんゆう危機ききには、ヨーロッパや日本にっぽんも巻まき込こまれていく可能かのう性せいが大おおいにあります。

　参議院さんぎいん選せんの勝利しょうりにより、アベノミクスの信任しんにんを得えたと勘違かんちがいする政治せいじ家かが増ふえましたが、この状況じょうきょうこそ危険きけんです。世界せかいで数すう多おおくの隠かくれた破綻はたんが進行しんこう中ちゅうで、国内こくないにおいてもアベノミクスの足元あしもとを揺ゆるがす事態じたいが進すすんでいます。私わたしたちはそれを忘わすれてはいけません。 　

　いつの時代じだいも、危機きき感かんを失うしなった政治せいじ家かが増ふえた時ときに、大変たいへんな事態じたいが起おこっているのですから。　
（文ぶん＝藤原ふじわら直哉なおや／経済けいざいアナリスト、シンクタンク藤原ふじわら事務所じむしょ会長かいちょう）

●藤原ふじわら直哉なおや（ふじわら・なおや）
経済けいざいアナリスト。シンクタンク藤原ふじわら事務所じむしょ会長かいちょう。特定とくてい非ひ営利えいり活動かつどう法人ほうじん日本にっぽん再生さいせいプログラム推進すいしんフォーラム理事りじ長ちょう。1960年ねん東京とうきょう生うまれ。東京大学とうきょうだいがく経済学部けいざいがくぶ卒業そつぎょう後ご、経済企画庁けいざいきかくちょう経済けいざい研究所けんきゅうじょ、ソロモン・ブラザーズなどを経へて独立どくりつ。著書ちょしょに『大震災だいしんさいを跳はね返がえせ!　日本にっぽん大だい転換てんかん革命かくめい』（あうん）等ひとし多数たすう。ウィズダム・スクールで『藤原ふじわら直哉なおやの最新さいしん世界せかい経済けいざい予測よそく』を配信はいしん中ちゅう。