東工大とうこうだいと東京医科歯科大とうきょういかしかだいの統合とうごう協議きょうぎで到来とうらいか？東京とうきょうの国立こくりつ大学だいがくに迫せまる“合従連衡がっしょうれんこう時代じだい”

　東京工業大学とうきょうこうぎょうだいがくと東京医科歯科大学とうきょういかしかだいがくが、2022年ねん8月がつ9日にち、統合とうごうに向むけた協議きょうぎを始はじめる方針ほうしんを正式せいしき発表はっぴょうした。この都内とないの2大学だいがくは理工りこう学がく系けいと医療いりょう系けいでそれぞれ国内こくないトップクラスだけに、特とくダネ争あらそいを繰くり広ひろげるマスコミにとっては、ビッグニュースになった。報道ほうどうされた後のちに、両りょう大学だいがくはそれぞれのウェブサイトにて統合とうごう協議きょうぎ開始かいしを正式せいしき発表はっぴょうした。現時点げんじてんでは決定けっていされた事項じこうはなく、最終さいしゅう決定けっていに至いたるまでは今後こんごの両りょう法人ほうじんによる協議きょうぎに委ゆだねられることになる。

　ともに国立こくりつ大学だいがくトップクラスの指定してい国立こくりつ大学だいがく法人ほうじんだけに、確たしかにビッグニュースである。指定してい国立こくりつ大学だいがく法人ほうじんは、2021年ねんの時点じてんでは、東北大学とうほくだいがく、筑波大学つくばだいがく、東京大学とうきょうだいがく、東京医科歯科大とうきょういかしかだい、東京工業大とうきょうこうぎょうだい、一橋大学ひとつばしだいがく、東海とうかい国立こくりつ大学だいがく機構きこう名古屋大学なごやだいがく、京都大学きょうとだいがく、大阪大学おおさかだいがく、九州大学きゅうしゅうだいがくの10校こうである。

　歴史れきしと伝統でんとうを有ゆうする両りょう法人ほうじんの統合とうごう検討けんとうは多面ためん的てきな検証けんしょうを要ようする判断はんだんが必要ひつようで、両りょう法人ほうじんの構成こうせい員いんが広ひろく参加さんかした議論ぎろんと検証けんしょうが不可欠ふかけつであることを、ともに強調きょうちょうし、今後こんごの統合とうごうに向むけた検討けんとうを加速かそく化かするために両りょう大学だいがくの構成こうせい員いんに統合とうごう協議きょうぎ開始かいしを報告ほうこくしたとしている。いつまでに何なにを決定けっていするか、具体ぐたい的てきな日程にっていは定さだかではないが、今後こんごはより多おおくの構成こうせい員いんの意見いけんを聞ききながら集中しゅうちゅう的てきに協議きょうぎを進すすめていくとしている。

　この構想こうそうの背景はいけいには、政府せいふの10兆ちょう円えん規模きぼの大学だいがくファンド（基金ききん）による支援しえんを受うけられる「国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがく」の指定していを目指めざすことがある。国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがくとは、世界せかいトップレベルの研究けんきゅう力りょくを目指めざす大学だいがくを支援しえんする大学だいがくファンドの選定せんてい校こうである。そのファンドでは10兆ちょう円えん規模きぼの公的こうてき資金しきんを原資げんしに年間ねんかん3000億おく円えんの運用うんよう益えきを出だし、その資金しきんを活用かつようして、選定せんていした国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがくに支援しえんする。計画けいかく通どおりに進すすめば、2024年度ねんどから、国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがく1校こうあたり数すう百ひゃく億おく円えん規模きぼのファンド運用うんよう益えきを配分はいぶんすることになる。

　この国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがくを選えらぶ基準きじゅんとして、（1）国内外こくないがいの優秀ゆうしゅうな博士はかせ課程かていの学生がくせいを獲得かくとく、（2）世界せかいトップクラスの研究けんきゅう者しゃが集つどう研究けんきゅう領域りょういきの創出そうしゅつ・育成いくせい、（3）若手わかて研究けんきゅう者しゃが独立どくりつして活躍かつやくできる場ばの提供ていきょう――などが挙あげられている。

　支援しえんが決きまった大学だいがくは、主おもに学外がくがい者しゃらでつくる経営けいえい意思いし決定けってい機関きかんを新あらたに設もうける。その監督かんとく下かで、独自どくじに行おこなう企業きぎょうとの共同きょうどう研究けんきゅうによる民間みんかん資金しきんの確保かくほや寄付きふ金きんなどによる外部がいぶ収入しゅうにゅうなどを活用かつようして、年利ねんり3％の事業じぎょう成長せいちょうが求もとめられる。確たしかに、その大学だいがくにとって、数すう十じゅう億おく円えん以上いじょうの資金しきんを研究けんきゅう活動かつどうに使つかえるメリットは大おおきい。国立こくりつ大だいでは、現在げんざいのところ、他たに東京農工大学とうきょうのうこうだいがくが名乗なのりを上あげている。私立しりつ大だいでは早稲田大学わせだだいがくの総長そうちょうが応募おうぼすることを公言こうげんしている。果はたして選考せんこう結果けっかがどうなるか、興味深きょうみぶかい。

　ただ、指定してい国立こくりつ大学だいがく法人ほうじんといい、この国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがくといい、批判ひはんも多おおい。ともに大学だいがく政策せいさくにおける「選択せんたくと集中しゅうちゅう」政策せいさくで、地方ちほう国公立こっこうりつ大だいや私立しりつ大だいを実質じっしつ的てきに軽視けいしすることになるからだ。地方ちほう創そう生せいの主役しゅやくと期待きたいされる地方ちほう国立こくりつ大だいにとっては、「大学だいがく間あいだ格差かくさの固定こてい化かにつながる」という懸念けねんが残のこる。

完全かんぜん統合とうごうより「アンブレラ方式ほうしき」の可能かのう性せい大だい？

　国立こくりつ大だいの統合とうごうでは、大阪大学おおさかだいがくと大阪外国語大学おおさかがいこくごだいがくのような完全かんぜん統合とうごうや、経営けいえいは統合とうごうするが教育きょういく研究けんきゅうは独立どくりつ性せいを保たもち複数ふくすう大学だいがくが存立そんりつする、いわゆるアンブレラ方式ほうしきがある。後者こうしゃは一ひとつの大学だいがく経営けいえいのもとに複数ふくすう大学だいがくが所属しょぞくするので、傘かさすなわちアンブレラと名付なづけられている。

　この方式ほうしきで、2020年ねんに名古屋大学なごやだいがくと岐阜大学ぎふだいがくが運営うんえい法人ほうじんを統合とうごうして東海とうかい国立こくりつ大学だいがく機構きこうを、2022年ねんに小樽商科大学おたるしょうかだいがく、帯広畜産大学おびひろちくさんだいがく、北見工業大学きたみこうぎょうだいがくの北海道ほっかいどうの3大学だいがくが運営うんえい法人ほうじんを統合とうごうして北海道ほっかいどう国立こくりつ大学だいがく機構きこうを立たち上あげ、また同年どうねんに奈良教育大学ならきょういくだいがくと奈良女子大学ならじょしだいがくが経営けいえい統合とうごうした。

　東京工業大とうきょうこうぎょうだいと東京医科歯科大とうきょういかしかだいの統合とうごうが実現じつげんするなら、このアンブレラ方式ほうしきの方ほうが可能かのう性せいは高たかいだろう。完全かんぜん統合とうごうより研究けんきゅう・教育きょういくの独立どくりつ性せいが高たかいので、教員きょういんの抵抗ていこうも少すくないからである。その上うえ、アンブレラ方式ほうしきなら、のちに別べつの国立こくりつ大学だいがく法人ほうじんが参加さんかすることも可能かのうになるからだ。

　東京工業大とうきょうこうぎょうだいは理学りがく院いんや工学こうがく院いん、生命せいめい理工りこう学院がくいん、情報じょうほう理工りこう学院がくいん、物質ぶっしつ理工りこう学院がくいんなどを擁ようし、約やく5000人にんの学部がくぶ生せいと大学院生だいがくいんせい約やく5500人にんが在籍ざいせきしている。医学部いがくぶと歯学部しがくぶを持もつ東京医科歯科大とうきょういかしかだいの学生がくせいは、約やく1400人にんである。

　2021年度ねんどに国くにが国立こくりつ大学だいがく法人ほうじんに拠出きょしゅつした運営うんえい費ひ交付こうふ金きんは、東京工業大とうきょうこうぎょうだいが218億おく円えん、東京医科歯科大とうきょういかしかだいは138億おく円えんだった。統合とうごうすれば「理系りけいの総合大学そうごうだいがく」が誕生たんじょうすると、前ぜん評判ひょうばんは高たかい。もともと総合大学そうごうだいがくとは、人文じんぶん科学かがく・社会しゃかい科学かがく・自然しぜん科学かがくの3つの学問がくもん領域りょういきがあり、総合そうごう的てきな教育きょういく研究けんきゅうを行おこなう大学だいがくのことであったが、今いまでは複数ふくすうの違ちがう領域りょういきの学部がくぶを擁ようしていれば総合大学そうごうだいがくと呼よぶことも多おおい。

　しかし、データサイエンスなど文理ぶんり融合ゆうごう型がたの領域りょういきが拡大かくだいしていく中なかで、理系りけいにこだわっているようでは突破とっぱ力りょくが弱よわい。社会しゃかい科学かがく系けいや外国がいこく語ごを含ふくむ人文じんぶん・社会しゃかい科学かがく系けいなどの大学だいがくの参画さんかくがあってこそ、異種いしゅ効果こうかが望のぞめる。長期ちょうき的てき視点してんから考かんがえても、国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがく応募おうぼという短期たんき的てきな視点してんより、異い領域りょういきの分野ぶんやの大学だいがくが参入さんにゅうできるアンブレラ方式ほうしきの方向ほうこうが、教育きょういく研究けんきゅうの上じょうでもメリットが大おおきい。

東大とうだいに対抗たいこう？20年ねん前まえの「4大学だいがく連合れんごう」

　2004年度ねんどからの国立こくりつ大学だいがく法人ほうじん化かを控ひかえていた当時とうじ、トップクラスの国立こくりつ大だいも含ふくめ、国立こくりつ大だい関係かんけい者しゃは将来しょうらいに不安ふあんを抱かかえていた。当時とうじの東京外国語大とうきょうがいこくごだい、東京工業大とうきょうこうぎょうだい、一橋大ひとつばしだいの学長がくちょうが会合かいごうで話はなし合あいの場ばを持もつうち、「単科大学たんかだいがくが連携れんけいすればおもしろいことができるのではないか」という思おもいで一致いっちした。その後ご、東京医科歯科大とうきょういかしかだいと東京芸術大学とうきょうげいじゅつだいがくの学長がくちょうも加くわわって、1999年ねん秋あきには、この5大学だいがくの学長がくちょうによる大学だいがく連合れんごう構想こうそうが公表こうひょうされた。

　マスコミも「東京とうきょう大学だいがくを上回うわまわる多彩たさいな新しん大学だいがくの誕生たんじょうか？」と大騒おおさわぎになった。しかし、個性こせい的てきな教員きょういんの多おおい東京とうきょう芸術げいじゅつ大だいの教授きょうじゅ会かいが反対はんたいし、次つぎに東京外国語大とうきょうがいこくごだいも学内がくないで反対はんたいが多おおく、意見いけんがまとまらない。共通きょうつうしているのは、それぞれの分野ぶんやで東京大学とうきょうだいがくのライバルとなる学部がくぶがないことだ。東京大学とうきょうだいがく芸術げいじゅつ学部がくぶ構想こうそうもあり、東京芸大とうきょうげいだいには選択肢せんたくしがいろいろあったこともあり、あまり東大とうだいへの対抗たいこう意識いしきがなかったのではなかろうか。

　その点てん、残のこる東京工業大とうきょうこうぎょうだい・一橋大ひとつばしだい・東京医科歯科大とうきょういかしかだいは、東大とうだいだけでなく他ほかの旧きゅう帝みかど大系たいけいの総合大学そうごうだいがくとの競争きょうそう力りょくにおいても、法人ほうじん化かで危機きき感かんが共有きょうゆうされたと思おもわれる。

　2001年ねんになり、東京外国語大とうきょうがいこくごだいが復帰ふっきし「四よん大学だいがく連合れんごう憲章けんしょう」が各かく大学だいがくの学長がくちょうにより調印ちょういんされ、四よん大学だいがく連合れんごうが正式せいしきに始はじまった。教育きょういく・研究けんきゅう・国際こくさい化かについて各かく大学だいがくが協力きょうりょくし、連合れんごうによる事業じぎょうが実現じつげんした。4大学だいがく間あいだで行おこなわれる複ふく合あい領域りょういきコース（特別とくべつ履修りしゅうプログラム）で、コース履修りしゅう生せいが他た大学だいがくでもっと学まなびたいという場合ばあいのために、複数ふくすう学士がくし号ごうの制度せいどができた。5～6年ねんかければ2つの学士がくしが取とれる、ダブルディグリーの国内こくない変形へんけい版ばんといえるかもしれない。

　こうした実績じっせきと背景はいけいがあったからこそ、今回こんかいの東京工業大とうきょうこうぎょうだいと東京医科歯科大とうきょういかしかだいの統合とうごう構想こうそうが生うまれたのであろう。

東京とうきょうの国立こくりつ大だいに合従連衡がっしょうれんこう時代じだいが来くるか

　ただ、この動うごきは両りょう大学だいがくの経営けいえい統合とうごうだけでは収おさまらないという見方みかたも強つよい。2019年ねんに大学だいがく統合とうごうが注目ちゅうもくされたときに、「週刊しゅうかん朝日あさひ」（朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん）の取材しゅざいに、元もと東京外国語大とうきょうがいこくごだい学長がくちょうの亀山かめやま郁夫いくお・現げん名古屋なごや外国がいこく語ご大学だいがく学長がくちょうは次つぎのように語かたっている。

「カリスマ的てきな学長がくちょうが現あらわれれば、統合とうごうはありうる。4大学だいがくに限かぎらず、東京芸術大とうきょうげいじゅつだい、東京農工大とうきょうのうこうだい、電気通信大でんきつうしんだい、東京学芸大とうきょうがくげいだいも巻まき込こんでもよいのではないか。統合とうごうができるところから始はじめればよい。文部もんぶ科学かがく省しょうや財務省ざいむしょうの主導しゅどうではなく、ビジョンを持もった学長がくちょうが主導しゅどうするべきです」

　実じつは、このうち東京農工大とうきょうのうこうだいの千葉ちば一裕かずひろ学長がくちょうは、大学だいがくファンドの国際こくさい卓越たくえつ研究けんきゅう大学だいがくに応募おうぼすることを明言めいげんしている。しかし、カリスマ的てきな学長がくちょうの登場とうじょうを待まっているのでは遅おそいし、プライドの高たかい大学だいがく教員きょういんを総そう結集けっしゅうするには時間じかんと政治せいじ力りょくが必要ひつようだ。

　それより教育きょういく研究けんきゅうの上うえで他た大学だいがくと連携れんけいした方ほうが効率こうりつ的てきという判断はんだんで、実績じっせきを積つみ重かさねていく方ほうが現実げんじつ的てきだろう。たとえば、東京工業大とうきょうこうぎょうだいは新あたらしいエネルギー社会しゃかいを変革へんかく・デザインする卓越たくえつ人材じんざいの育成いくせいプランを持もっているし、東京医科歯科大とうきょういかしかだいはAI創そう薬やくなどのプログラムを展開てんかいするためにデータサイエンス系けいの人材じんざいを育成いくせいしようとしている。

　これらの人材じんざい育成いくせいも、アンブレラ方式ほうしきで他た大学だいがくとの経営けいえい統合とうごうが実現じつげんすれば、よりスムーズに進すすむであろう。