安倍あべ政権せいけんの偏向へんこう税制ぜいせい　一部いちぶ業種ぎょうしゅを突出とっしゅつして優遇ゆうぐう、控除こうじょ適用てきよう額がくに28倍ばいの開ひらきも

　法人ほうじん実効じっこう税率ぜいりつは2015年度ねんどから32.11％に、16年度ねんどから31.33％に引ひき下さげられる。安倍晋三あべしんぞう政権せいけんの成長せいちょう戦略せんりゃくの一環いっかんとして、外資がいし企業きぎょうを誘致ゆうちするためだ。確たしかにシンガポール（17％）やイギリス（23％）などと比較ひかくし、日本にっぽんの法人ほうじん税ぜいの水準すいじゅんは低ひくくはない。国際こくさい競争きょうそう力りょくをつけるためには、20％を目指めざさなくてはならないだろう。しかし、このたびの法人ほうじん減税げんぜいには異論いろんも多おおい。

「今回こんかいの法人ほうじん減税げんぜいは実施じっしすべきではない」

　3月25日にち、参議院さんぎいん本ほん会議かいぎで代表だいひょう質問しつもんに立たった民主党みんしゅとうの尾立おだて源みなもと幸みゆき議員ぎいんは、安倍あべ政権せいけんの法人ほうじん減税げんぜい政策せいさくに疑問ぎもんを呈ていした。理由りゆうは、2年間ねんかんの法人ほうじん減税げんぜい先行せんこうにより4120億おく円えんの歳入さいにゅう欠損けっそんが生しょうじることに加くわえ、復興ふっこう特別とくべつ法人ほうじん税ぜいの廃止はいしでさらに6453億おく円えんが減税げんぜいされ、合計ごうけい1兆ちょう円えんが歳入さいにゅう削減さくげんになることだ。

　財務省ざいむしょうは15年度ねんど予算よさんで、前年度ぜんねんどに比くらべて4.5兆ちょう円えんの増収ぞうしゅうを見込みこんでいる。これなら1兆ちょう円えんの法人ほうじん減税げんぜいなどは、容易よういに増収ぞうしゅう分ぶんで吸収きゅうしゅうできるように思おもえる。何なにより安倍あべ政権せいけんの経済けいざい政策せいさくは、企業きぎょうの業績ぎょうせきを向上こうじょうさせることによって賃金ちんぎん上昇じょうしょうを実現じつげんすることを目指めざしているのだから、この減税げんぜい分ぶんはやがては国民こくみんに広ひろく及およぶことになる。だが、その通とおりに事ことが運はこぶのだろうか。

　実際じっさいにその内容ないようを見みると、「いびつさ」があることは否定ひていできない。尾立おだて氏しは、それを指摘してきしている。

「昨年さくねん、個人こじんの負担ふたん、すなわち復興ふっこう特別とくべつ所得しょとく税ぜいは残のこしたまま、復興ふっこう特別とくべつ法人ほうじん税ぜいだけ前倒まえだおしして廃止はいしした。（略りゃく）そもそも復興ふっこう特別とくべつ税ぜいは、『復興ふっこうを国民こくみんみんなで成なし遂とげるために財源ざいげんもみんなで負担ふたんしよう』と決きめたものだ。これを無視むしして企業きぎょうを優遇ゆうぐうしようという安倍あべ政権せいけんの姿勢しせいは正ただしいのか」（尾立おだて氏し）

　さらに、減税げんぜいの恩恵おんけいを受うける法人ほうじん間あいだにも偏かたよりが見みられる。特定とくてい分野ぶんやの産業さんぎょうへの優遇ゆうぐうが目立めだつのだ。13年度ねんど分ぶんの財務省ざいむしょう「租税そぜい特別とくべつ措置そちの適用てきよう実態じったい調査ちょうさの結果けっかに関かんする報告ほうこく書しょ」によれば、製造せいぞう業ぎょうの税額ぜいがく控除こうじょ案件あんけんは1万まん8058件けんで、適用てきよう金額きんがくは5879億おく円えん。1件けんあたり3256万まん円えんの計算けいさんになる。その中なかでも輸送ゆそう用よう機械きかい器具きぐ製造せいぞう業ぎょうについては、1255件けんに対たいして2338億おく円えんも適用てきようされ、1件けんあたりの適用てきよう金額きんがくは1億おく8629万まん円えんと断だんトツに高額こうがくになる。

　一方いっぽうでサービス業ぎょうでは、税額ぜいがく控除こうじょ案件あんけんは1万まん3290件けんと製造せいぞう業ぎょうの74％だが、適用てきよう額がくは212億おく円えんと製造せいぞう業ぎょうの3.6％にすぎない。1件けんあたりの適用てきよう金額きんがく160万まん円えんと、製造せいぞう業ぎょうに比くらべて極きわめて低ひくい水準すいじゅんだ。

　これを見みると日本にっぽんは近代きんだい以降いこう、重厚じゅうこう長大ちょうだい産業さんぎょうに対たいして保護ほごを与あたえて輸出ゆしゅつを増ふやして「富国ふこく」を目指めざしてきたが、いまだにその傾向けいこうは続つづいているといえる。

　となれば、「外国がいこく企業きぎょうを誘致ゆうちするための減税げんぜい」という名目めいもく自体じたいにも疑念ぎねんを感かんじざるを得えない。
（文ぶん＝安積あさか明子あきこ／ジャーナリスト）