元国税職員、さんきゅう倉田です。好きな贈与税がかからない財産は「年末年始の贈答」です。
ジャニーズ事務所と関連会社が、所属するタレントに渡していた「お年玉」が、税務調査で否認されたと報道されました。総額は2018~22年の5年間で約9000万円、不納付加算税を含む追徴税額は4000万円だったそうです。
会社は、社長や役員の名前が入った封筒に現金を入れてタレントに渡していて、それを「交際費」として損金にしていましたが、税務調査の結果、この支出が社長の個人的支出とみなされ、追徴課税が発生しました。
会社で交際費として処理していたものが社長の個人的な支出とされると、どうなるのか
この場合、支払った金額は社長に対する「役員給与」となります。
一般的に、社長が個人的に使ったお金を会社が代わりに出せば、会社が社長に給与を支払ったとみなされます。ただし、どこからが社長の個人的な支出で、どこからが会社の交際費となるかは、判断の難しいところだと思います。
報道では明らかになっていない詳細な調査内容を見ることができれば、「ああ、それは個人的な支出だな」と思う内容なのかもしれません。
修正申告が済んでいるということなので、見解の相違はあったものの会社は東京国税局側の説明に納得したと思われます。
なお、役員に対して毎月支払う給与や事前に届け出た賞与は会社の損金にできますが、税務調査の結果、役員給与して処理されると損金にできません。そのため、その金額は会社の所得になり、納める法人税が増えます。今回の報道では、法人税について言及がありませんでした。何らかの理由で、法人税の税額が変わらなかったのかもしれません。
また、役員 “給与”なので、一般的な会社員の給料と同じように、所得税の源泉徴収が必要です。これが、4000万円の大部分を占めていると考えられます。さらに、源泉所得税は給与を支払う会社が国に納めます。今回は調査が行われた後に納めたため、不納付加算税が賦課されました。
今後のお年玉についての選択肢は、
(1)お年玉は渡さない
(2)社長や役員の方のポケットマネーで渡す
(3)社長や役員の方が関わらないところで会社から渡す
以上の3つだと思います。
お年玉は経費になるのか
タレントは芸能事務所に所属していますが、「社員」として給与をもらう人は少数で、ほとんどが「個人事業者」として報酬をもらっています。
平たく言えば、芸能事務所にとってタレントは「取引先」なので、交際費に該当する支出もあるでしょう。ただ、今回のお年玉については、交際費に該当するようなものではなかったというわけです。
なお、「交際費等」については、次のように定められています。
<交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの>
また、会社から従業員にお年玉をあげる場合は「給与」として扱い、源泉徴収が必要になると考えられます。ぼくが高校生だった頃、アルバイト先の店長が、元日に出勤した従業員に500円ずつ配っていました。このような場合は店長個人の資産を配っているので、給与ではありません。
なお、会社から従業員に対して支払われても、給与として扱われないものがあります。例えば、香典や見舞金です。社会的地位や関係に照らし社会通念上相当と認められる範囲であれば、所得税がかかりません。
一般的な税務調査の結果が報道されることはほとんどありませんが、報道されたからといって、誰かが悪いことをしていたわけではありません。このような見解の相違は、会社を経営していればよくあることだと思います。
また、社長からのお年玉は、年末年始の贈答で社会通念上相当な金額ならば、もらったタレントの方に贈与税はかかりません。もちろん、みなさんがもらったり、あげたりするお年玉も同様です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)