元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きなYouTubeチャンネルは「国税庁動画チャンネル」です。
関東信越国税局が国税庁動画チャンネルで公開している動画が話題になっています。職員の不祥事や零細な納税者に優しくない税制度以外で、国税が一般の方の耳目を集めることは珍しい。税をもっとわかりやすく身近なものにしたいと思って学校で税金教室を行う身としては、このような活動をとても嬉しく思います。
ぼくが友人から連絡を受けて最初に見たのは『【ゲーム実況】Kakushin Simulator β版』です。ゲーム実況者が10円で買ったゲームをやり込む内容でした。どうやら関東信越国税局広報室がつくったようです。
ここで「国税局」という組織について紹介しておきます。
まず、国税庁という組織が、財務省の外局として存在します。その国税庁の下に11の国税局と沖縄国税事務所があります。そのさらに下に、税務署がたくさんあります。みなさんが確定申告や税金の相談をしに行くのは、この税務署ですね。
関東信越国税局は、埼玉や群馬などを所管する国税局です。ちなみに、ぼくは国税専門官採用試験を受けて、出身地である神奈川県を所管する東京国税局を志望しました。
今まで国税庁のYouTubeチャンネルで公開されていた動画は、普通に確定申告を紹介したり、マルサの仕事を紹介したり、地方のイベントを紹介したりするようなものが中心だったと思います(なるべく見るようにしていますが、ぼくの知らないファニーなものがあるかもしれません)。
そのようななかで今回の3つの動画は、前例のない奇抜さを有しています。平安時代より先例を重視してきた日本の公的機関が、これらの動画の企画を通したことは、とても大きな一歩だと感じます。
国税は他の公的機関と比較すると、非難を受けやすい存在です。だから、失敗を恐れるあまり、外に向けた発信や活動が保守的になってしまいがちです。関東信越国税局に続き、他の国税局もユニークな動画を公開して国税や税金を身近な存在にしてほしいと思います。その後に、「税金を考えるのってこんなに楽しいんだ」と一般の方に感じていただきたいです。
公開された3つの動画を紹介します。
【ゲーム実況】Kakushin Simulator β版
オフィスの中の机や書棚を調べてアイテムを集めるゲームをプレイする動画です。アイテムの集め方でエンディングが変わるという設定になっていて、ゲーム実況者が何度もプレイすることで複数の確定申告の方法を知ることができます。学びがあるというよりは、楽しい動画を見ていると、いつの間にか「◯◯で申告できるんだ」と知ることができます。
実況者のお芝居がとても上手でした。初めは、お金をたくさんかけてプロのゲーム実況者の方に依頼をしたと思って見ていましたが、おそらく国税職員が出演しています。YouTubeについてたくさん調べて、すこぶる考えて、時間を投入して編集したことがうかがえ、感動しました。
ずっと税金の仕事しかしていなかったのに、あんなに面白い企画をつくって、プロのようにおしゃべりできるなんて、素敵です。
【料理】これが噂の!ジンジャーポーク
生姜焼きをつくる料理動画です。テンションもYouTubeっぽく、国税職員が出ているとは思えない表現力を感じます。レシピもきちんとしていて、つくり方も丁寧に紹介されているので、生姜焼きのつくり方を本当に知りたい人にもおすすめです。調理する過程で確定申告に必要なものが登場します。その出し方も良かった。台本をつくった方の高いお笑いの能力を感じさせます。
【大食い】熱々大盛りチーズタッカルビ
YouTubeで大食い動画が地位を得ているとはいえ、確定申告の広報に使うという発想はなかなか生まれないと思います。製作者の狂気を感じました。ホットプレートでチーズタッカルビをつくったのは、若い女性に人気のメニューだからだと推察します。男性が好きそうな生姜焼きに対し、女性に人気のあるタッカルビ。さまざまな属性の人々に動画を見てもらおうと、しっかり考えられています。
出演されている女性のトークも滑らかで、BGMも軽快。3つのなかで一番おすすめします。企画を許可した国税局のキャリアの方々の懐の広さと、組織の時代へ対応する姿勢を見させていただきました。
国税庁YouTubeチャンネルでは、たくさんの楽しい動画を公開しています。Twitterの国税庁アカウントでも、さまざまな情報を発信しています。去年は「てすと」とツイートしたことで少し話題になっていました。
普段から税の話題に触れることで、皆さんの税への抵抗感は薄れます。困ったときに、急に税金について調べると、とてつもないストレスを感じるものです。今回の動画をきっかけに、税を身近な存在と捉えると将来の備えになると思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人:外部執筆者)