生存せいぞん率りつ5％の起業きぎょう、経験けいけん者しゃだからわかる「失敗しっぱいしない方法ほうほう」…会社かいしゃを辞やめる前まえにすべきこと

「Gettyimages」より

　私わたしは2003年ねんに起業きぎょうして、およそ16年ねんになります。過去かこを振ふり返かえってみるとずいぶん、いろんなビジネスを手てがけました。ほとんどが失敗しっぱいでそれなりに手てごたえのあった事業じぎょうは数かぞえるほどしかありません。何なん度ども痛いたい目めに遭あいましたが、嬉うれしいことのほうが多おおかったように思おもいます。生うまれ変かわったら事業じぎょうをやるかと聞きかれれば、間違まちがいなく「はい」と答こたえます。友達ともだちにも自分じぶんの子供こどもたちにも事業じぎょうを興おこすことを勧すすめます。

　起業きぎょうの道みちに踏ふみ入いれたことのない人ひとにとっては、かなり難むずかしい、怖こわい世界せかいに見みえると思おもいます。データを見みてみると新規しんき創業そうぎょうした会社かいしゃは1年ねん後ごには半分はんぶんになり、3年ねん後ごには3割わりに、10年ねん後ごには5％といわれています。10年ねん経たつと20社しゃに1社しゃしか残のこっていない計算けいさんです。この数字すうじを見みるだけで怖こわいというのもわかります。

　では実際じっさいどれくらい怖こわいのかといいますと、ウィルソン・ハレルという人ひとが書かいた『起業きぎょう家かの本質ほんしつ』（日本語にほんご翻訳ほんやく版ばんは英治えいじ出版しゅっぱん）という本ほんに面白おもしろいエピソードが紹介しょうかいされています。ハレル氏しは何なん十じゅうもの会社かいしゃをつくり、キャリアの最後さいごの頃ころには「インク」というビジネス誌しの発行はっこう人じんとなり、急きゅう成長せいちょう企業きぎょうを経営けいえいする社長しゃちょうの全米ぜんべい組織そしきである「成長せいちょう企業きぎょう協議きょうぎ会かい」の名誉めいよ議長ぎちょうとして活躍かつやくした人物じんぶつです。

　ハレル氏しは事業じぎょう家かになる前まえは、アメリカ軍ぐんのパイロットとして第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんで戦闘せんとう機きに乗のっていました。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんの終おわりごろ、彼かれの乗のっていた飛行機ひこうきはフランスの上空じょうくうでドイツ軍ぐんに撃うち落おとされました。彼かれはコックピットから脱出だっしゅつし、紐ひもを引ひいてパラシュートを開ひらき、なんとか着地ちゃくちしました。全身ぜんしんに大だいやけどを負おって地面じめんに横よこたわっていたところを、フランスのレジスタンスに助たすけられました。レジスタンスは、ハレル氏しを、彼かれ曰いわくたいへんにユニークな方法ほうほうでかくまいました。その方法ほうほうとは、息いきができるようにと水道すいどうのホースを彼かれの口くちに突つっ込こんで、トウモロコシ畑はたけの土中どちゅうに埋うめて隠かくすことでした。

　初はじめて埋うめられた時とき、彼かれは土どの中なかで4時じ間あいだ過すごしました。この4時じ間あいだの間あいだに彼かれは、ありとあらゆる悲惨ひさんな状況じょうきょうを想像そうぞうしたといいます。ドイツ兵へいが先さきに刃物はものがついている銃剣じゅうけんで土どの上うえから彼かれを突つき刺さす、機関きかん銃じゅうで畑中はたなかをハチの巣すにする、誰だれかが偶然ぐうぜんホースを蹴飛けとばす、あるいは水道すいどうの蛇口じゃぐちを開ひらくといった、口くちにするのもはばかられるような最悪さいあくの状況じょうきょうです。彼かれは食事しょくじなどのために一いち日にちに何なん度どか土どの中なかから出でることはできましたが、結局けっきょく11日間にちかん埋うめられていました。

　そのあと彼かれは助たすけ出だされ、アメリカ本国ほんごくに送還そうかんされました。彼かれは極限きょくげんの恐怖きょうふを体験たいけんし、さらにそれを克服こくふくしたと信しんじ込こんでいました。

　その後ご、彼かれは起業きぎょう家かの道みちを歩あゆみ始はじめました。しかし、そのあとに体験たいけんする恐怖きょうふは、この時ときに感かんじた恐怖きょうふよりもさらにひどいものだったと語かたっています。

「恐怖きょうふクラブへようこそ」

　私わたしはハレル氏しのような生死せいしにかかわる経験けいけんはしていませんが、事業じぎょうを起おこした後のち、それを拡大かくだいしていく過程かていで、さまざまな恐怖きょうふが訪おとずれることを身みを持もって体験たいけんしています。彼かれは起業きぎょうの道みちに入はいることを「恐怖きょうふクラブへようこそ」というい方いかたをしていますが、決けっして大おおげさな表現ひょうげんではないと私わたしは思おもいます。

　しかし、なぜ恐怖きょうふクラブであることがわかっているにもかかわらず、起業きぎょう家かは自みずからその道みちを選えらび、それを続つづけ、さらには他たの人ひとにも恐怖きょうふクラブへの入会にゅうかいを勧すすめるのでしょうか。

　それは、それを補おぎなって余あまりある楽たのしいことがあるからです。何なん日にちも寝付ねつけないほどの恐怖きょうふの体験たいけんも、脳のうみそをフル回転かいてんさせて解決かいけつ策さくを考かんがえ、適切てきせつな人ひとの力ちからを借かりながら行動こうどうすることで事態じたいはプラスの方向ほうこうに進すすんでいきます。そうするとこの経験けいけんが自分じぶんの糧かてになり、事業じぎょう家かとして強つよくなります。同おなじ過あやまちを繰くり返かえさないよう、リスクマネジメントの能力のうりょくが身みにつくだけでなく、怖こわれに対たいして耐たえる力ちから、耐たい性せいができてきます。大だいなり小しょうなり、修羅場しゅらばを潜くぐり抜ぬけてきた経験けいけんが、起業きぎょう家かを強つよくするのです。

　先さきほど新規しんき創業そうぎょうした会社かいしゃは1年ねん後ごには半分はんぶんになり、3年ねん後ごには3割わりになると言いいましたが、起業きぎょう家かワールドから退出たいしゅつする理由りゆうの多おおくが、この恐怖きょうふ心しんを克服こくふくすることができなかったことにあると、私わたしは思おもいます。

　そして、その次つぎの理由りゆうが、そもそも最初さいしょに考かんがえた商品しょうひんやサービスがお客きゃくさんになると考かんがえていた人ひとたちに受うけ入いれられるものではなかった、つまりどうやっても売うれない商品しょうひん・サービスだったというものです。

　事業じぎょう家かとしての経験けいけんを積つんだ人ひとであれば、最初さいしょの検討けんとう段階だんかいでモノになるかどうかはすぐに判断はんだんできます。検討けんとう段階だんかいでモノになると思おもっても、実際じっさいやってみるとうまくいかないことも多おおくありますが、それでも修正しゅうせいし、売うれるものに変かえていくこともできます。

　しかし、起業きぎょうして最初さいしょに手掛てがけるビジネスは失敗しっぱいしないほうがいいに決きまっています。ただでさえ少すくない資金しきんが尽つきてしまうと、リカバリーするのに相当そうとうの時間じかんがかかります。場合ばあいによっては再起さいき不能ふのうに陥おちいってしまうことでしょう。

　ですから、ここで私わたしは最初さいしょのビジネスを失敗しっぱいしない方法ほうほうについてお話はなししたいと思おもいます。ほとんどの起業きぎょう家かは今いま勤つとめている会社かいしゃを辞やめて創業そうぎょうすると思おもいます。これからお話はなしする方法ほうほうは、会社かいしゃを辞やめる前まえにやる必要ひつようがあることです。ここ最近さいきんは副業ふくぎょうを許可きょかする会社かいしゃが増ふえていますので、それも後押あとおしになるとは思おもいます。

第だい一いち関門かんもんと第だい二に関門かんもん

　最初さいしょにお伝つたえしたいことは、アイデアだけではビジネスにならないということです。私わたしが経験けいけん上じょういえることは、アイデアが100あったとして、実際じっさいに事業じぎょうとして成立せいりつするのは1つあるかないかくらいです。ですから、会社かいしゃを辞やめて貯金ちょきんを全部ぜんぶはたいて事業じぎょうを始はじめる前まえに、テストをしてください。それも、できるだけお金かねのかからない方法ほうほうで試ためしてください。

　どんな商品しょうひんでもお客きゃくさんに手てに取とってもらうためには、この商品しょうひんにしかない特徴とくちょうが必要ひつようです。それを専門せんもん用語ようごでUSP－Unique Selling Pointと言いいますが、まずこの製品せいひんのUSPは何なにかを考かんがえてください。もちろん、USPは当然とうぜん考かんがえているという人ひともいるかもしれませんが、お客きゃくさんが「これはすごい！」と言いわなければ意味いみがありません。

　まずはサンプルを用意よういしてください。モノであればサンプル商品しょうひんを、サービスであれば体験たいけん会かいのようなものを準備じゅんびしてください。この段階だんかいでは完璧かんぺきな製品せいひんは必要ひつようありません。機械きかいであれば配線はいせんむき出だしの試作しさく品ひんでもいいですし、サービスであれば貸かし会議かいぎ室しつで十分じゅうぶんです。場合ばあいによっては手書てがきのスケッチやパワーポイントの資料しりょうでも構かまいません。重要じゅうようなことは、これから出だそうとしている商品しょうひんやサービスがなんなのか、それがどう役やくに立たつのかを相手あいてに一目いちもくでわかるようにすることです。

　それが準備じゅんびできたら、サンプルを少すくなくとも20人にんに見みせてください。気きを使つかって本音ほんねを話はなしてくれない可能かのう性せいがある人ひとは、除外じょがいしてください。対象たいしょうはもちろんその商品しょうひん・サービスのお客きゃくさんになり得える人ひとです。知しり合あいに声こえをかける、街頭がいとうで声こえをかける、インターネットで集あつめるなど、いろんな方法ほうほうが考かんがえられますが、とにかく最低さいてい20人にんを集あつめてください。ここで20人にん程度ていどを集あつめられないようであれば、商品しょうひんに対たいする思おもい入いれが小ちいさすぎるか、営業えいぎょう力りょくがなさすぎるか、あるいはその両方りょうほうかです。テストマーケティングの第だい一いち関門かんもん以前いぜんの問題もんだいがありますので、この時点じてんでギブアップした方ほうがよいでしょう。

　さて、話はなしを聞きいてくれる人ひとが集あつめられたとします。もし大だい部分ぶぶん、そうですね8割わり以上いじょうの人ひとが「すばらしい、こういうのが欲ほしかった！」と言いわないなら、そこでこのプロジェクトは中止ちゅうしです。あなたの考かんがえているものは、取とるに足たらないものだということがわかったのです。まだ仕事しごとに就ついていますし、貯金ちょきんも残のこっています。これは失敗しっぱいではありません。きっぱり諦あきらめて次つぎの企画きかくを練ねりましょう。

　しかし、8割わり以上いじょうの人ひとが「すばらしい！」と言いってくれるならば、第だい一いち関門かんもんはクリアしたことになります。そうしたら、次つぎの質問しつもんをしてください。

「いくらならこれを買かいますか」とできるだけ具体ぐたい的てきな値段ねだんを言いってもらうように頼たのみます。そして、もしこれが相手あいての言いう値段ねだんで手てに入はいるとしたらどうするかを次つぎの3つの選択肢せんたくしから選えらんでもらってください。

・必かならず買かう
・今いま使つかっているものの代かわりとして買かう
・買かわない

　さらに質問しつもんを続つづけます。一いち年ねんで何なん回かいくらい買かうのか、今いま使つかっているモノは何なにか、今いま使つかっているもので満足まんぞくしているか、不満ふまんがあるとしたら何なにかなど、考かんがえ付つく限かぎりの質問しつもんをします。そこで得えられた答こたえを、きちんと記録きろくします。

　あらかた聞ききたいことを聞きき終おえたら、ひと呼吸こきゅうおいてこう尋たずねてみてください。

「実じつはこれを開発かいはつするために資金しきんが必要ひつようです。その一部いちぶで構かまいませんから投資とうしする気きはありますか」

　この質問しつもんに、イエスという人じんがいなければ、口くちではすごいと言いってはいるものの、内心ないしんではそれほどでもないと考かんがえているということです。この第だい二に関門かんもんをクリアできないとすれば、やはりこれはうまくいかない商品しょうひんと考かんがえたほうがよいでしょう。

見みえている範囲はんいのリスクはすべて潰つぶす

　一人ひとりでも「投資とうししたい」と言いってくれる人ひとがいたら、まだ可能かのう性せいが残のこっています。買かってもいいと言いってくれた値段ねだんを一番いちばん高たかいものから低ひくいものに並ならべて、真まん中なかの8割わりの値段ねだんの平均へいきん値ちを計算けいさんします。これが、仮かりの販売はんばい価格かかくです。

　そうしたら、次つぎは原価げんか計算けいさんです。これは商品しょうひんなのかサービスなのかによって違ちがいますし、商品しょうひんでもカテゴリーによって異ことなりますから一概いちがいにはいえませんが、ざっといえばモノなら仮かりの販売はんばい価格かかくの25％以内いないでつくることができるかを考かんがえてください。

　それができる可能かのう性せいがあれば、最初さいしょの商品しょうひんを少すこしだけつくります。少量しょうりょうですので高たかくつくと思おもいますが、量産りょうさんした時ときに25％以内いないに収おさまるのであれば問題もんだいではありません。つくったら試ためしにどこかのお店みせに置おかせてもらってください。インターネットで売うることも考かんがえられますが、きれいなウェブページをつくったり、広告こうこく費ひがかさんだりと、意外いがいにお金かねと手間てまがかかります。ですから、その商品しょうひんを売うるのが得意とくいそうな人ひとに、マージンを払はらって代かわりに売うってもらってください。

　ここである程度ていど売うれるようであれば、いよいよ会社かいしゃを辞やめて独立どくりつするかどうかを検討けんとうする段階だんかいに初はじめて入はいることができます。

　起業きぎょう家かは大おおきなリスクを取とっていると思おもわれがちですが、実じつはこのようなテストを繰くり返かえすことでリスクを最小限さいしょうげんにしています。そして熱あつい気持きもちを持もちつつも冷静れいせいな判断はんだんをし、無理むりとわかったらきっぱり諦あきらめます。ただでさえ恐怖きょうふでいっぱいの起業きぎょう家かワールドですから、見みえている範囲はんいのリスクはすべて潰つぶすことで、乗のり越こえているのです。

　起業きぎょうを考かんがえている方ほうは、くれぐれも慎重しんちょうに最初さいしょの一いち歩ほは踏ふみ出だすことをお勧すすめします。それがうまくいけば、本当ほんとうに楽たのしい世界せかいが待まっています。
（文ぶん＝山崎やまざき将すすむ志こころざし／ビジネスコンサルタント）