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■■ はじめに・・・ ■■  *当とうブログは2人組にんぐみで運営うんえいしております。*内容ないようは男性だんせい同士どうしの恋愛れんあい等とうをメインに取とり扱あつかった一いち次じ創作そうさくです。 BLなどのご理解りかいを頂いただけていない方ほう、嫌悪けんお感かんを抱いだかれる方ほうは回まわれ右みぎでお願ねがい致いたします。 ま

水晶すいしょうの涙なみだ174

ローヴァン王国おうこくには様々さまざまな素材そざいがそろっているからと、カースがアルスに対たい雷かみなり属性ぞくせい魔道まどう具ぐを作つくってくれた。おかげでずいぶん楽らくになった。以前いぜんから使つかっていた青あおい髪かみ紐ひもとそっくりに作つくってくれたそれは、魔力まりょくを高たかめるだけでなく雷かみなりに対たいして無効むこう化かとまではいかなくと

水晶すいしょうの涙なみだ

◆水晶すいしょうの涙なみだ◆ ── とある王国おうこく 神しんの子こが禁忌きんきを犯おかし、居いなくなってから長ながい年月としつきが過すぎ去さった……。 辺境へんきょうの村むらで少年しょうねん2人にんは、いつも通とおり平穏へいおんに暮くらしていたはずだった。 *赤あか&ra

水晶すいしょうの涙なみだ173

ローヴァン王国おうこくはそれなりに大おおきな都市としだった。高たかい城壁じょうへきに囲かこまれた町まちは寒さむい土地とちにも関かかわらず見みるからに繁盛はんじょうしている風ふうだ。「この場所ばしょは島しまを挟はさんでさらに大おおきな国くに、カルフォン王国おうこくとそしてかつてのモーティナ神殿しんでんのあるモーティル島とうに囲かこまれたようなものだか

水晶すいしょうの涙なみだ172

だがフォルアはファインを見みてきた後のちに「行いっても問題もんだいない」と呟つぶやいてくる。「え？ あ、あ。っていうか今いまオレの心しん読よんだのか？」 突然とつぜん言いわれ、ファインは少々しょうしょう動揺どうようした。アルスやカースに言いわれても動揺どうようまではしないだろうが、基本きほん無む反応はんのう無口むくちなフォルアだけ

水晶すいしょうの涙なみだ171

とりあえず話はなしたところでアルスの調子ちょうしがよくなるわけでもなく、結局けっきょくファインはなるべく変へんなことを考かんがえないようにしながらアルスを抱だきしめて眠ねむった。 以前いぜんだったら下手へたすれば一睡いっすいもできず朝あさを迎むかえるところだが、一応いちおう眠ねむれたので我わがながら多少たしょうは成長せいちょうしている

水晶すいしょうの涙なみだ170

アルスはもしかして実じつは本当ほんとうに頭あたま、悪わるいとかじゃないだろうな。 思おもわずそんな心配しんぱいしてしまうのも無理むりはないとファインは自分じぶんにい聞いきかせるように思おもった。本当ほんとうに何なにをい出いだすのか。心底しんそこ「こいつ大丈夫だいじょうぶか」とさすがのファインでも思おもってしまう。「襲おそってみて

水晶すいしょうの涙なみだ169

「え、っと……ごめん」 勢いきおいなどに圧倒あっとうされながらもアルスが謝あやまると、ファインはハッとしたような顔かおになり、またアルスを抱だきしめてきた。「いや。オレが悪わるい。声こえ荒あらげてごめん。あと調子ちょうし悪わるくて寒さむいっつってんのに体からだ離はなしてごめん

水晶すいしょうの涙なみだ168

抜ぬこうかと言いった後のち、まるでこの場ばの時間じかんが止とまったかのようにファインの反応はんのうが一切いっさい「無む」になった。何なにも言いわないどころか身動みうごきすらなく、息いきをしているかも怪あやしい。「ファイン？ 大丈夫だいじょうぶか？」「……、…&he

水晶すいしょうの涙なみだ167

ファインを意識いしきしているのは嘘うそじゃない。ただそれが、ずっと昔むかしから一緒いっしょだった幼馴染おさななじみに言いわれたせいなのか、アルスも実じつはファインのことを憎にくからず思おもっているからなのか、わからない。 皆みな、どうやって誰だれかのことがそういう意味いみで好すきだってわかるんだろ。

水晶すいしょうの涙なみだ166

とはいえ一緒いっしょの部屋へやだからこそ、今こんアルスが言いった言葉ことばをもっと掘ほり下さげ真剣しんけんに話はなし合あいたいと思おもいつつも、やりにくさしかない。「……ジレンマ」「え？」「ぶは」 思おもわず口くちから勝手かってに漏もれた言葉ことばにポカンとしているアルスに対たいし

水晶すいしょうの涙なみだ165

心しんの中なかでひたすら「かわいいかわいい」とファインは先さきほどから悶もだえているが、さすがに表ひょうに出だすわけにいかない。気持きもちはばれているとはいえ、ちょっとしたことで絶たえず「かわいい」と思おもってしまうところまでばれてしまうのはさすがに引ひかれる気きがする。それ

水晶すいしょうの涙なみだ164

「そっか、アルスは水みず属性ぞくせいだっけか」 普段ふだんあまり属性ぞくせい云々うんぬん気きにしてないからピンとこなかったよ、とカースが苦笑くしょうしている。ハーフとはいえエルフの血ちが混まじっているカースはどうやらファインたちとは魔法まほうの使つかい方かたもやはり違ちがうようだ。「やっぱカースの魔法まほうって

水晶すいしょうの涙なみだ163

ということで気きづけば翌朝よくあさだった。 寝ね落おちるの、早はやすぎない？ 俺おれ。 考かんがえ、悩なやんでいたとは思おもえない。いや、夜よるは考かんがえるのをやめようと決きめたからこそ一旦いったんすっきりして眠ねむろうとは思おもった。思おもったが、それでも早はやすぎないだろうか。 こういうとこだぞ。 アル

水晶すいしょうの涙なみだ162

とりあえずわからないながらに意識いしきしてしまっているからだろうか。夜よる、ファインと二に人にんきりで眠ねむるのがこんなに落おち着つかなかったことはないなとアルスはひたすら思おもっていた。 今日きょうファインから流ながれでだが「欲望よくぼうを押おしつける」的てきなことを言いわれた時ときも妙みょうな意識いしき

水晶すいしょうの涙なみだ161

とりあえずファインと仲直なかなおりというか、変へんなわだかまりも失しつくせたようでアルスはホッとした。自分じぶんの至いたらない言動げんどうのせいでファインを傷きずつけたり勘違かんちがいされるのは本望ほんもうじゃない。 ……勘違かんちがい、かぁ。 アルスがファインに対たいして嫌いや

水晶すいしょうの涙なみだ160

多分たぶん困こまっているのだろう。元々もともとアルスは口くちがうまいわけではない。 困こまらせたままとか情なさけないだろ、オレ。「アルス。ほんと、気き、つかうな。オレは大丈夫だいじょうぶだ」「違ちがうんだ」 また「違ちがう」をいただいた。何なにが違ちがうと言いうのか。ここは困こまっているのをわかりつつア

水晶すいしょうの涙なみだ159

息いきを切きらせながらアルスが近ちかづいてきた。「ファイン、ここ、にいた、んだ」「……あ、ああ。風呂ふろ、入はいる前まえにちょっと散歩さんぽしようかなって」 風呂ふろへ入はいってくると告つげて部屋へやを出でていたため、アルスが今いまここへ来きたということはいっ

水晶すいしょうの涙なみだ158

ファインの気持きもちに答こたえるまでいかなくとも、少すくなくともアルスは受うけ止とめてくれた。それがとても嬉うれしかったが、やはり無理むりさせていたのだろう。 気持きもちを切きり替かえるためもあり、ファインは宿やどを出でてその辺あたりを歩あるきながら、結局けっきょく先さきほどのアルスについて考かんがえてい

水晶すいしょうの涙なみだ157

じゃあ、とアルスは今いまさらながらに気きづいた。 ファインが言いってた「欲望よくぼう押おしつける」って、そういう？ いや、欲望よくぼうって言いってんだしそういうことだろうと漠然ばくぜんとどこかで多分たぶん思おもっていたかもだけど、えっと……子こ作づくり的てきなこと、

水晶すいしょうの涙なみだ156

フォルアが一いち通とおり演奏えんそうし終おえるのを待まって、食堂しょくどうで今後こんごのことを話はなしながら食事しょくじした。 あいにくフォルアの歌うたを聞きいて何なにか情報じょうほう提供ていきょうしてくる者ものは残念ざんねんながらいなかったが、歌うたや演奏えんそうはかなりお気きに召めした者ものが多おおかったようだ。カースの用意よういした袋ふくろには客きゃくから得えたチ

水晶すいしょうの涙なみだ155

ファインの口くちから明確めいかくに「一生いっしょう薄うすれない」と聞きいたとたん、アルスの中なかで表現ひょうげんしがたいほどふわふわとした弾はじけるような何なにかが広ひろがった。「何なにだろ。何なにかふわふわする」「ふわふわ？」「うん。何なにだろな。気持きもちが上あがる、っぽい感かんじっていうか」「&hellip

水晶すいしょうの涙なみだ154

動揺どうようが全然ぜんぜん隠かくせていなかったのだろう。少すこしだけ黙だまってアルスを見みていたファインが苦笑くしょうしてきた。「いいって。言いったろ。お前まえはお前まえのままでいいと」「聞きいたっ、けど、すごく優やさしいこと、言いってくれてる、けど！ でもそれじゃあ」「いい。いいんだ。アルス

水晶すいしょうの涙なみだ153

カースに言いわれて少すこしポカンとしていたアルスだが、ファインが「問題もんだいねえ。大丈夫だいじょうぶだから食堂しょくどう先さき行いってて。すぐ行いく」と口くちにしたことでハッとなった。 珍めずらしい……か。確たしかにそういえば俺おれとファインって多少たしょうい合いあうことはあって

水晶すいしょうの涙なみだ152

どういう意味いみだと聞きかれ、アルスは正直しょうじき戸惑とまどった。押おさえつけられなくとも話はなすし逃にげないと言いった。それにもちろん逃にげるつもりはないが、話はなそうにも言葉ことばがうまく浮うかばない。「意味いみ、って……た、単たんに嫌いやじゃなかった、って、だ

水晶すいしょうの涙なみだ151

食堂しょくどうに集あつまることになっているから、いくら何なんでもこんな状況じょうきょうで気きづけばアルスを押おし倒たおしているなんてことはない。 それがまさかのフラグだなんて誰だれが思おもおうか。少すくなくともファインは思おもわない、というか思おもいたくない。 だが今いま、間違まちがいなくファインはアルス

水晶すいしょうの涙なみだ150

思おもえばカースが加くわわってからよりもずっと前まえのフォルアが加くわわって以来いらい、ファインとアルスは昔むかしのように二人ふたりきりでくっついて眠ねむったりしてこなかったように思おもう。 いや、セルゲイの城しろでは二人ふたりで同おなじ部屋へやだったが、なるべく狭せまい部屋へやを希望きぼうしたもののそれでも二に

水晶すいしょうの涙なみだ149

アルスが一応いちおういつものように元気げんきになると、カースが「君きみがいてくれてよかった」とアルスに笑わらいかけていた。「フォルアやファインはまた別べつだけど、俺おれみたいに基本きほん魔法まほうで戦たたかうタイプには相当そうとう戦たたかいにくい相手あいてだったよ」「そうなんだ」「アルスも気きづいてたようだ

水晶すいしょうの涙なみだ148

打破だはしたいが、普段ふだんの戦闘せんとうでもギルドの仕事しごとでも、大抵たいていカースやフォルアがいればあっという間まにどうとでもなる。 そりゃもちろん、フォルアやカースの力ちからはとてつもなくありがたいし、二人ふたりがいなかったら俺おれとファインはとっくにディロックにやられてたかもだ

水晶すいしょうの涙なみだ147

「ディロックゥ……ッ」 おもわず出でたファインのい方いかたが気きに食くわなかったようで、ルビアはますますこちらが凍こおりつきそうな表情ひょうじょうで「私わたしの弟おとうとを舐なめた風ふうに呼よぶとは」と睨にらんでいる。「いや、舐なめてねえ、けど…&he

水晶すいしょうの涙なみだ146

アルスの声こえに反応はんのうしたファインは転ころがるようにとはいえ、よくとっさに避さけられたなとアルスは思おもった。一瞬いっしゅんの内うちに体勢たいせいを変かえるのは案外あんがい難むずかしい。 やっぱファインって魔法まほう系けいなのに運動うんどう能力のうりょくも結構けっこうあるよなあ。 しみじみ思おもってから、そんなことを考かんがえている暇ひまは

水晶すいしょうの涙なみだ145

「そういや今いまも勇者ゆうしゃたちって水晶すいしょうのままってことなのか？ モーティナも眠ねむりについたままなのか？」 ふと思おもってファインが聞きくと、カースは「多分たぶん」と頷うなずいてきた。「多分たぶん？」「俺おれはフォルアに聞きいた話はなししか知しらないから。フォルアさえ知しらない内うちにもしかしたら

水晶すいしょうの涙なみだ144

翌日よくじつ、知しり合あいとなった人ひとたちに改あらためて別わかれを告つげてからファインたちはルナール王国おうこくを後のちにした。 王国おうこくから少すこし南みなみに下くだったところにあるセルデスという町まちから、島しまであるローヴァン王国おうこくへ向むかう船ふねが出でている。ギルドでそれを確認かくにんし、そこへ向むかおうとファイン

水晶すいしょうの涙なみだ143

勇者ゆうしゃたちの願ねがいを受うけ入いれるにはかなりの勇気ゆうきが必要ひつようだっただろう。だがモーティナも勇者ゆうしゃの一人ひとりだ。迷まようことなく決意けついした。 モーティナはまず自みずからの魂たましいを二ふたつに分わけた。そして片割かたわれを他たの勇者ゆうしゃたちとともに水晶すいしょうへ封印ふういんする。そして片割かたわれである魂たましいの半身はんしんは永遠えいえん

水晶すいしょうの涙なみだ142

セルゲイは言いっていた。「あれはそれこそ真実しんじつについて表現ひょうげんしています。モーティナの神話しんわでは神かみの子こを放棄ほうきした少女しょうじょは禁忌きんきを犯おかして逃にげ、そして世界せかいが犠牲ぎせいになったとありますが、本当ほんとうはそれは関係かんけいなく、ただし勇者ゆうしゃたちが自みずからを犠牲ぎせいにして世界せかいを守まもってくれてい

水晶すいしょうの涙なみだ141

「記憶きおく、っていうのは？」 アルスが聞きくとカースはにっこり微笑ほほえんできた。「歌うたかな」「歌うた？」「そう。英雄えいゆうの真実しんじつ」「ああ……」 ファインが頷うなずいている。アルスにとっては話はなしの断片だんぺんを聞きいているようで、全体ぜんたい図ずが見みえてこない。と

水晶すいしょうの涙なみだ140

これはやはり、罰ばちなのかな。 少女しょうじょは途方とほうもない時間じかんが経過けいかしても、死しを迎むかえ転生てんせいされることも許ゆるされず、ひたすら眠ねむり続つづけている。フォルアはそれをずっと目まの当あたりにしたまま、同おなじく死しんで転生てんせいするどころか少女しょうじょのように眠ねむりにつくことさえできない。 どち

水晶すいしょうの涙なみだ139

四よん度目どめの出会であいも街まち中ちゅうだった。「君きみは神かみの子こだというのに、護衛ごえいもつけず一人ひとりで歩あるいていいの？」 勇気ゆうきを出だしてフォルアが声こえをかけると、少女しょうじょは少すこしだけいたずらっ子このような笑えみを浮うかべた。「ご褒美ほうびなの」「ご褒美ほうび？」「ええ」 頷うなずくと少女しょうじょはフォルアを共犯きょうはん

水晶すいしょうの涙なみだ138

モーティルは神殿しんでんのある町まちだったからか、神殿しんでんのある島しまそのものだったからか、どの国くによりも信仰しんこうにあつかった。そしてその恩恵おんけいか偶然ぐうぜんか、住民じゅうみんは強つよい魔力まりょくを持もつ者ものが多おおかった。 そこで生うまれたフォルアも、親おやに連つれられて祈いのりに行いくことはたびたびあった。だが

水晶すいしょうの涙なみだ137

アルスとしては、あまりややこしい話はなしだと頭あたまに入はいってこないため、いつもなら大抵たいていファインに任まかせていた。申もうし訳わけないとは多少たしょう思おもうものの、難むずかしい案件あんけんに対たいしてだと頭あたまがうまく働はたらかないアルスが下手へたに対応たいおうするより絶対ぜったいいいに決きまっているため、そこは遠慮えんりょしたこと

水晶すいしょうの涙なみだ136

今回こんかいは食糧しょくりょう庫こを空そらにする勢いきおいまではいかなかったものの、皆みな存分ぞんぶんに食たべて飲のんだ。ファイン的てきにはそこまで大たいした仕事しごとをしたわけでもないのに過分かぶんな報酬ほうしゅうだと思おもう。 思おもうだけで遠慮えんりょはしねえけどな。 今いままでルートの元もとで働はたらいたり旅たびを続つづけてきたりと社会しゃかい経験けいけんを積せき

水晶すいしょうの涙なみだ135

「アキシンナイトって石いしがどんな石いしかわからなかったけど、その後ご何なにとか調しらべたよ。……美うつくしい褐色かっしょくの石いしだった」「あなたの耳みみにつけている石いし、やっぱりアキシンナイトだったんだな」 給仕きゅうじとしてナージフに接せっした時ときにファインが思おもっ

水晶すいしょうの涙なみだ134

「私わたしがそんなこと、言いったりしたりすると思おもうかい？」 ファインが何なにか言いいかけるとナージフは苦笑くしょうしながらそっと頭あたまを振ふっている。「まあ……確たしかにあなたはいい人じんだし頭とうもよさそうだし……」「はは

水晶すいしょうの涙なみだ133

ナージフはその笑顔えがおを「なるほど？」と怪訝けげんに思おもっていたアルスにも向むけてくる。「誘さそってくれてありがとう、アルス。嬉うれしいけど遠慮えんりょしておくよ」「そ、そっか」 断ことわられてホッとしている自分じぶんがいる。ファインはああ言いってくれたが、やはり自分じぶんは性格せいかく悪わるいので

水晶すいしょうの涙なみだ132

数日すうじつ滞在たいざいし、その間あいだフォルアは一いち日にち何なん度どか例れいの曲きょくを弾ひき歌うたっていた。それが人ひとづてで広ひろまったのか、店みせはわりと盛況せいきょうしている。「あなた方かたは私わたしの神様かみさまだ」 オーナーは心底しんそこ嬉うれしそうにしていたし、宿泊しゅくはくや飲食いんしょくがただどころか、報酬ほうしゅうも上乗うわのせしてくれていた。そろそろ

水晶すいしょうの涙なみだ131

今いまのファインとしては、どう考かんがえても自分じぶんの都合つごういいように考かんがえてしまう気きもする。 だってそうだろ。家族かぞくみたいであって、オレとアルスは実際じっさい本物ほんものの家族かぞくじゃねぇし……もしかしたらオレだってアルスとカースが急きゅうにやたら親密しんみつに

水晶すいしょうの涙なみだ130

アルスと反対はんたい側がわで眠ねむっているカースを気きにしながら、ファインは背せを向むけていたアルスへそっと向むき直なおった。くっつかれていたので寝返ねがえりを打うちにくいかと思おもったが、ファインが動うごくとアルスは素直すなおに腕うでを緩ゆるめてくる。 ……目めは覚さめ

水晶すいしょうの涙なみだ129

ファインがカースとい合いあっていたら「もういいよ。とりあえず寝ねよう」とアルスがため息いきつきながら遮さえぎってきた。「お、おぅ」 呆あきれられたのだろう。そういえばカースにアルスへの気持きもちがばれてから、というかとっくにばれていたことを知しってから、ファイン

水晶すいしょうの涙なみだ128

「演奏えんそうしたがってた、ってよりはさ。ほら、フォルアって真実しんじつとやらを伝つたえるために吟遊詩人ぎんゆうしじんをしてるみたいなこと、セルゲイさんも言いってただろ」 ファインの言葉ことばでアルスも思おもい出だした。しばらく滞在たいざいさせてもらっていた辺境へんきょう伯はくセルゲイがモーティル教きょうの話はなしと共ともに

水晶すいしょうの涙なみだ127

捕つかまった者ものたちをアルスもこっそり見みせてもらったが、二人ふたりはファインやカースが言いっていたようにその辺あたりに溶とけ込こみそうな目立めだたないおとなしそうな外見がいけんをしていた。こんな外見がいけんの人ひとが人身じんしん売買ばいばいのため誘拐ゆうかいを目論見もくろみ、実行じっこうしているなど、実際じっさい捕つかまっていても信しんじら

水晶すいしょうの涙なみだ126

「ぶは」 ファインの説明せつめいを聞きいてカースはおかしげに笑わらっている。「そりゃアルスが疑うたがうのも無理むりないね」「いや、何なんでだよ。オレにその気きねぇっつーの」「でも、何なんでファインってそういう人ひとから興味きょうみもたれやすんだろ」 ファインにその気きがないというのなら何なに

水晶すいしょうの涙なみだ125

いい話はなしが聞きけたのもあり、ナージフが帰かえる時ときも店みせの入口いりくちまでファインは見送みおくった。「オレはもう多分たぶんあなたにつくことはないと思おもうけど、会あえてよかったよ」 見送みおくる時ときには声こえも戻もどっていたのもあり、ファインは敬語けいごも取とり払はらってナージフに笑わらいかける。「&hel

水晶すいしょうの涙なみだ124

「変へんな客きゃく？ 最近さいきんよく来きていたごろつきのことですかね」 客きゃくの言葉ことばにファインは首くびを傾かしげ聞きいた。「最近さいきん来きていたとかは初はじめて来店らいてんしただけにわからないけど……姿すがたは見みえてないんだ。ほら、半はん個室こしつのようなものだろう、ここって」「

水晶すいしょうの涙なみだ123

本当ほんとうなら裏方うらかたの仕事しごとはファインがしていた。そして仕事しごとしつつき込きこみなどをするつもりだった。 だが実際じっさいは接客せっきゃくする羽目はめになり、裏方うらかたはアルスとフォルアだ。そちらからの情報じょうほうは申もうし訳わけないがあまり期待きたいしないほうがいいだろうとファインは早々そうそうに諦あきらめた。 ど

水晶すいしょうの涙なみだ122

実際じっさい店てんの手伝てつだいをすることになり、アルスはファインが何故なぜ不満ふまんそうだったのか理解りかいした。「ファインって俺おれからしたらそれなりに綺麗きれいでかわいい顔かおしてると思おもったんだけどな」 カースがおかしそうに笑わらっている。「……うるせぇ。

水晶すいしょうの涙なみだ121

「……かえってご迷惑めいわくをおかけして申もうし訳わけない……。全額ぜんがく支払しはらうのは難むずかしそうだけど、払はらえる限かぎりは……」 困こまり果はてたようなオーナーに、よそ行いき用ようの顔かおになったファイン

水晶すいしょうの涙なみだ120

叫さけび声ごえなどが聞きこえた途端とたん、今いままでのどかに飲のみ食くいしていたアルスたちは剣けんを手てにしていた。これはもう、習性しゅうせいと言いうものかもしれない。 だが普通ふつうに考かんがえてこういった店内てんないに魔物まものが出でるわけもなく、おそらくは酔よっぱらった客きゃくが暴あばれたか何なにかだろうと次つぎの瞬間しゅんかんに

水晶すいしょうの涙なみだ119

ギルドでいくつか仕事しごとも請うけ、四よん人にんは派手はでな照明しょうめいが目めに優やさしくない店みせの一ひとつに来きていた。その店みせを選えらんだことに理由りゆうは特とくにない。この辺あたりにあるどの店みせも似にたような雰囲気ふんいきだったので、正直しょうじきどれも同おなじだとファインは思おもったくらいだ。 カースに「俺おれがおごってやるか

水晶すいしょうの涙なみだ118

ルナール王国おうこくには二に日にち後ごに到着とうちゃくした。砂すなだらけの砂漠さばくの中なかにある王国おうこく都市としは城壁じょうへきに囲かこまれ、緑みどりに溢あふれている。そしてとても活気かっきがあった。「ねえねえファイン、見みた？ さっきのお姉ねえさん。あんな恰好かっこうしちゃってさ。布ぬの面積めんせき少すくなすぎだよね最高さいこう。顔かおもスタイルもよか

水晶すいしょうの涙なみだ117

ところでさ、とカースがファインに笑顔えがおを向むけてきた。 船ふねでこちら側がわに着ついてからルナール王国おうこくへ向むけて歩あるいているところだった。ただその日ひのうちに到着とうちゃくというわけにいかず、今日きょうはテントを張はって休やすむことにしていた。 海うみの近ちかくはまだ緑みどりがあったものの、内うち

水晶すいしょうの涙なみだ116

トリンカから海岸かいがん沿ぞいまで出でるのに要ようした時間じかんは一いち日にちくらいだったが、海うみに出でてからはむしろフォルアやカースの魔法まほうの力ちからによっておそらくかなり早はやく向むこう岸ぎしに着ついた。距離きょりだけだとはっきりわからないが、トリンカから海岸かいがん沿ぞいへ来くるまでよりあったかもしれな

水晶すいしょうの涙なみだ115

「そのほうがいいんじゃない？ もしフォルアがかかっちゃったら俺おれも悲かなしいし」「おいおい。オレらはかかっても悲かなしくねえってか？」 ファインが微妙びみょうな顔かおをカースへ向むけている。「大丈夫だいじょうぶだ、ファイン。ちゃんと悲かなしいから。でもフォルアはまた別べつ」 相変あいかわら

水晶すいしょうの涙なみだ114

その後ご小ちいさな町まち、トリンカというところに四よん人にんはしばらく滞在たいざいした。フィール王国おうこくもそうだったが、この辺あたりは地ちの精霊せいれいの土地とちだからか、もちろんトザットやアクアード、ヒュアード王国おうこくなどの土地とちと比くらべものにはならないが、そこそこ寒さむい。ただ雷かみなりの土地とちに比くらべる

水晶すいしょうの涙なみだ113

そもそもファインとアルスだけだったなら容易たやすく倒たおせなかっただろう。頭あたまは悪わるそうにしか見みえないが、ディロッはかなり強つよかった。ファインすらよくわからないような魔法まほうを使つかってきて対応たいおうしにくかったのもあるが、魔力まりょくも相当そうとう強つよかったはずだった。初はじめて遭遇そうぐうした

水晶すいしょうの涙なみだ112

カースが共ともに旅たびをすることに、ファインもアルスも特とくに反対はんたいする理由りゆうはなかった。特とくにファインとしては普段ふだん突つっ込こみ役やくというか、天然てんねんボケとほんのりボケに囲かこまれ対応たいおうせざるを得えない状況じょうきょうが少々しょうしょう変かわるかもしれないと期待きたいさえした。カースの性格せいかくなどはまだあまり

水晶すいしょうの涙なみだ111

経験けいけんと言いわれてファインはまた少すこし怪訝けげんな気持きもちになった。もちろん一人ひとり旅たびをしている間あいだにたくさんの魔物まものなどと戦たたかってきたのかもしれない。だがファインたちとそう変かわらない年齢ねんれいのフォルアだけに、十じゅう歳さいそこそこから二に人にんで旅たびに出でるしかなかったファインたちと

水晶すいしょうの涙なみだ110

カースは一旦いったんフォルアに「知しり合あった頃ころのこととかお前まえのこと、話はなしていい？」と聞きいている。フォルアは迷まようことなくコクリと頷うなずいた。セルゲイの時ときも制限せいげんしてくることもなく「セルゲイに聞きいてくれ」と言いっていたことを思おもい、今いまさらながらに自分じぶんたちのことを

水晶すいしょうの涙なみだ109

フォルアとのことを話はなそうとしたが客きゃくがやって来きたのもあり、結局けっきょくまた改あらためて落おち合あうことにして、アルスたちは一旦いったんカースの店みせから離はなれた。ファインの「とりあえず宿やどとりに行いくか」との言葉ことばに頷うなずき、三さん人にんはそのままいくつかある宿やどの中なかの一ひとつに部屋へやをとる。そし

水晶すいしょうの涙なみだ108

少すこし大おおきめの橋はしを渡わたり、右みぎ方向ほうこうへ行いけばコンティという町まちがあるようだったが、ここはとりあえず左ひだり方向ほうこうを目指めざした。森もりを抜ぬければフィール王国おうこくがある。 アルスたちがずっと過すごしてきたヴァレアグート郡ぐんのトーレンス王国おうこく領りょうに比くらべると少すこし肌寒はだざむい時ときはある。とは

水晶すいしょうの涙なみだ107

あれほど暑あつくてたまらなかった、加護かごのない土地とちは気きづけばもうそろそろ春はるになろうとしていた。まだ冬ふゆの跡あとがあちらこちらに残のこってはいるが、ところどころで春はるの気配けはいがする。季き節ぶしそのままが気候きこうにも出でるからか、咲さく花はななども春はるに似合にあいそうなものが多おおい気きがし

水晶すいしょうの涙なみだ106

アルスとキスしてしまった。ファインの頭あたまの中なかは今いまそれでいっぱいだった。出発しゅっぱつが明日あしたでよかったと思おもう。とりあえず一人ひとりになって落おち着つきたいと思おもったファインはあの後のち適当てきとうなことをもにょもにょと口こうにして人ひとのいなさそうな場所ばしょにまで来きていた。関係かんけいないが戦時せんじ

水晶すいしょうの涙なみだ105

アルスとキスしてしまった。 ファインの頭あたまの中なかは今いまそれでいっぱいだった。出発しゅっぱつが明日あしたでよかったと思おもう。とりあえず一人ひとりになって落おち着つきたいと思おもったファインはあの後のち適当てきとうなことをもにょもにょと口こうにして人ひとのいなさそうな場所ばしょにまで来きていた。 関係かんけいないが

金木犀きんもくせいの夢ゆめ45

 *R-18指定していあり注意ちゅうい今回こんかいのお話はなしは性的せいてき表現ひょうげんが含ふくまれる部分ぶぶんがございます。18歳さい以上いじょうでR指定してい大丈夫だいじょうぶな方ほうのみおすすみ下ください。 

金木犀きんもくせいの夢ゆめ

◆金木犀きんもくせいの夢ゆめ◆ 金木犀きんもくせいの香かおりはいつも何なにかが頭あたまを過よぎる。 それは大切たいせつな誰だれかのこと。 そして怖こわいという感情かんじょうで…… 鳴海なるみ 秋あき李り（なるみ しゅり）と星ほし羽わ 悠ゆう犀さい（せわ ゆうせい

金木犀きんもくせいの夢ゆめ44

気きづけば秋あき李りも悠ゆう犀さいも十じゅう八はち歳さいになっただけでなく、高校こうこうを卒業そつぎょうし大学生だいがくせいになる。秋あき李りはふと「あの事件じけんの時ときの桃もも史しにいと同おなじ歳としどころか、追おい抜ぬいちゃってるんだな」と思おもい、複雑ふくざつな気持きもちになった。 相変あいかわらず捕つかまった男おとこはあの事件じけんに関かんしてしらばっくれている

金木犀きんもくせいの夢ゆめ43

かけがえのない人ひとだった。 ずっとそばにいて、小ちいさな頃ころから一緒いっしょに笑わらったり怒おこったりするのが当あたり前まえだった。それこそ兄弟きょうだいのように近ちかしい人ひとだった。だがいつしか友愛ゆうあいだけでなく恋愛れんあいとして、航こう太ふとは桃もも史しをかけがえのない大切たいせつな人ひとと見みるようになっていた。それ

金木犀きんもくせいの夢ゆめ42

秋あき李りを襲おそおうとしていた男おとこは捕つかまった。近所きんじょに親おやと住すむ無職むしょくの男おとこだ。昔むかしから住すんでいる家いえなので秋あき李りだけでなく悠ゆう犀さいも顔見知かおみしりではある。その上うえ男おとこは桃もも史しや航こう太ふとしと同級生どうきゅうせいだった。小ちいさかった頃ころはそれなりに姿すがたを見みていたが、気きづけば見みかけることはなくなっていた。

金木犀きんもくせいの夢ゆめ41

航こう太ふとしが病室びょうしつから出でて少すこし。悠ゆう犀さいは一人ひとりで待まっていたが、やはり秋あき李りのことが気きになっていた。我わがながら過保護かほごだとは思おもう。秋あき李りは別べつにか弱よわい子こどもや女性じょせいではない。一般いっぱん男子だんしだ。過去かこのことがあっても、記憶きおく障害しょうがいがあっても、基本きほん的てきに明あかるくて健康けんこう的てきな男子だんしとも言いえ

金木犀きんもくせいの夢ゆめ40

記憶きおく回復かいふくしてから悠ゆう犀さいに連つれていってもらい、秋あき李りは桃もも史しの見舞みまいへはすでに一いち度ど訪おとずれている。だが今いまだけとはいえ地元じもとへ戻もどってきているのもあり、改あらためて桃史ももじの見舞みまいへ行いくということで見舞みまい品ひんをきちんと用意よういしたかった。 悠ゆう犀さいには「何なに買かっても桃史ももじ兄けい、食たべ

金木犀きんもくせいの夢ゆめ39

本当ほんとうはあんなこと、するつもりなかった。それだけは嘘うそじゃない。 当時とうじ、近所きんじょに住すむ同級生どうきゅうせいのことが好すきで仕方しかたなかった。だがその人ひとは優やさしくて明あかるくて人気にんき者しゃで、その人ひとの周まわりにいる人間にんげん誰だれもがその人ひとを好すきなのではないかと嫉妬しっとしない日ひはなかった。 思おもい切き

金木犀きんもくせいの夢ゆめ38

あっという間まに気きづけば二人ふたりは高校こうこうを卒業そつぎょうしていたし、大学だいがくもお互たがい無事ぶじ合格ごうかくしていて、春休はるやすみが終おわると大学生だいがくせいだ。 せっかく高校こうこうで一緒いっしょの学校がっこうへ通かよえたというのに、大学だいがくはまた別べつの学校がっこうになる。それは悠ゆう犀さいにとって結構けっこう残念ざんねんだが仕方しかたない。それに今いまは別べつの学校がっこうで

金木犀きんもくせいの夢ゆめ37

 *R-18指定していあり注意ちゅうい今回こんかいのお話はなしは性的せいてき表現ひょうげんが含ふくまれる部分ぶぶんがございます。18歳さい以上いじょうでR指定してい大丈夫だいじょうぶな方ほうのみおすすみ下ください。 

金木犀きんもくせいの夢ゆめ36

すごく大切たいせつで大事だいじな人ひとだというのは昔むかしから変かわっていない。残念ざんねんながら記憶きおく障害しょうがいがあって忘わすれてはいたが、回復かいふくした今いまは昔むかしと変かわらず秋あき李りは悠ゆう犀さいが大好だいすきだ。 でも……今いまはそれにプラス、恋人こいびととしても大好だいすきだ。 まさか自分じぶんが男おとこを

金木犀きんもくせいの夢ゆめ35

ぽかんとしている秋あき李りに怪訝けげんな顔かおを向むけると「お前まえが怪訝けげんそうに見みるな」と言いわれた。「でも」「びっくりくらい、するだろ。何なんでいきなり自分じぶんのほっぺ殴なぐんだよ」「これは……理性りせいが崩壊ほうかいしそうだったから」「え？」「秋あき李りがあんま

金木犀きんもくせいの夢ゆめ34

秋あき李りの前まえで泣ないて以来いらい、悠ゆう犀さいはようやく多少たしょうなりともふっきれてきたかもしれない。面めんと向むかってあの時ときの罪悪ざいあく感かんなどと共ともに秋あき李りに謝あやまれたからだろうか。 悠ゆう犀さいも今いままでずっと自分じぶんが悪わるいのではないと理性りせいではわかっていながらも、感情かんじょうで納得なっとくできなかった。後悔こうかいと

金木犀きんもくせいの夢ゆめ33

「ご、ごめん。変へんなこと聞きいた」「……いや。まあ何なにでそんなことって思おもったけど……。あの、俺おれは秋あき李りが好すきです」「あ、は、はい」 好すきですと言いわれ、思おもわず秋あき李りもかしこまったような反応はんのうになった

金木犀きんもくせいの夢ゆめ32

記憶きおくが回復かいふくすれば自分じぶんはどうなるのだろうかと、秋あき李りは昔むかしから何なん度どともなく考かんがえたことはある。誰だれしもが幼おさない頃ころのことを完璧かんぺきに覚おぼえているわけでなく、自分じぶんの場合ばあいはその覚おぼえていない部分ぶぶんが人ひとよりくっきりしているだけだと秋あき李りは記憶きおく障害しょうがいのことをそう思おもってみたり

金木犀きんもくせいの夢ゆめ31

記憶きおくが回復かいふくした秋あき李りは、しばらくの間あいだフラッシュバックに悩なやまされていたらしい。本人ほんにんからではなく、秋あき李りの母親ははおやから悠ゆう犀さいは教おしえてもらった。 あの頃ころのことを思おもい出だしたと知しった秋あき李りの両親りょうしんや悠ゆう犀さいの両親りょうしんは大だい喜よろこびしたし、大人おとなだということも忘わすれて大おおいに泣ないてい

金木犀きんもくせいの夢ゆめ30

一緒いっしょに入はいる、という秋あき李りの言葉ことばに、悠ゆう犀さいが動揺どうようしたように秋あき李りを見みてきた。「な、に言いって……秋あき李りも、冗談じょうだん……」「冗談じょうだんじゃないし。悠ゆう犀さいは一緒いっしょに入はいんの、い」「嫌いやじゃない」 嫌いやなのか、と言いおうと

金木犀きんもくせいの夢ゆめ29

桃史ももじのことを聞きいて、秋あき李りは罪悪ざいあく感かんとショックと恐怖きょうふに苛さいなまれつつ、ほんの少すこしだけ安堵あんどもあった。 生いきてた……。 記憶きおくを取とり戻もどしてまず浮うかんだのが、あの瞬間しゅんかんだった。 桃もも史しから落おちながら、目めの前まえで橙だいだいと緑みどりが赤あかへと染そまって

金木犀きんもくせいの夢ゆめ28

桃史ももじのことを話はなしても大丈夫だいじょうぶだろうかと心配しんぱいはあった。だが秋あき李りは真剣しんけんな表情ひょうじょうで「教おしえてくれ」と頼たのんできた。頷うなずくと、悠ゆう犀さいは主おもに桃もも史しについて、秋あき李りが記憶きおくを失うしなった後のちのことを話はなした。秋あき李りは時折ときおり苦くるしげな表情ひょうじょうになったりしたが、黙だまって最後さいごまで聞きいていた。「こ