「地図ちずから消きえた島々しまじま」書評しょひょう　謎なぞまた謎なぞ、“山師やまし”たちの夢ゆめの跡あと

評者ひょうしゃ：荒俣あらまた宏ひろし／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2011年ねん07月がつ03日にち

地図ちずから消きえた島々しまじま幻まぼろしの日本にっぽん領りょうと南洋なんよう探検たんけん家かたち（歴史れきし文化ぶんかライブラリー）著者ちょしゃ：長谷川はせがわ亮一りょういち出版しゅっぱん社しゃ：吉川弘文館よしかわこうぶんかんジャンル：エッセイ・自伝じでん・ノンフィクション

ISBN: 9784642057226
発売はつばい⽇：
サイズ: １９ｃｍせんちめーとる／２６０ｐ

地図ちずから消きえた島々しまじま　幻まぼろしの日本にっぽん領りょうと南洋なんよう探検たんけん家かたち　［著ちょ］長谷川はせがわ亮一りょういち

　日本にっぽん近海きんかいは「まぼろしの島しま」の宝庫ほうこといえる。もし無人島むじんとうを発見はっけんし標柱ひょうちゅうを証拠しょうこに建たてた場合ばあい、「無主むしゅ地ち先占せんせん」の定さだめにより領有りょうゆうできるため、島しまが多おおい太平洋たいへいようは先陣せんじん争あらそいの舞台ぶたいとなった。本書ほんしょは帰属きぞく問題もんだいに揺ゆれる日本にっぽん周辺しゅうへんの島々しまじまをも絡からめながら、真しんにまぼろしとなって地図ちずから消きえた島々しまじま、実在じつざいするが奇き怪かいな騒動そうどうに巻まき込こまれた島々しまじまの秘史ひしを語かたる。
　たとえば小笠原諸島おがさわらしょとうだが、江戸えど期きにこの開拓かいたくを願ねがい出でた「小笠原おがさわら貞さだ頼よりゆきの子孫しそん」を幕府ばくふが「証拠しょうこも権利けんりもない」と門前払もんぜんばらいにした。ところが幕末ばくまつに西洋せいよう人じんが住すみ着つき、ペリーが島しまに米国べいこく旗きを掲かかげると、虚偽きょぎと決きめつけたはずの小笠原おがさわら家か文書ぶんしょを掘ほり返かえして急遽きゅうきょ（きゅうきょ）「小笠原おがさわら島とう」領有りょうゆうの証拠しょうこにした。かと思おもえば、太平洋戦争たいへいようせんそうの重要じゅうよう地点ちてんとなったミッドウェー環礁かんしょうは、１９世紀せいき末まつにアホウドリ猟りょうの日本人にっぽんじんが住すみ着ついたにもかかわらず、アメリカ政府せいふが日本にっぽんに「この島しまの領有りょうゆう権けんを主張しゅちょうする気きがあるのか」と打診だしんした際さい、なんと「その気きなし」と返事へんじしたのだ。島しまの領有りょうゆうをめぐる物語ものがたりはまさにミステリーの連続れんぞくである。
　実在じつざいを確認かくにんできないが地図ちずにはある島しまを「疑うたぐ存そん島とう」と称しょうし、典型てんけい例れいとして本書ほんしょに詳述しょうじゅつされるのが、「中なかノ鳥とり島とう」である。そもそもの発端ほったんは、地球ちきゅう内部ないぶに大だい空洞くうどうがあり南北なんぼく両極りょうきょくに通路つうろがあるという奇き説せつ「地球ちきゅう空洞くうどう説せつ」である。その関かかわりから出でたガンジス島とうなる正体しょうたい不明ふめいの島しまを、明治めいじ期きに某ぼう日本人にっぽんじんが「発見はっけん」し開拓かいたく申請しんせいした（この某ぼう日本人にっぽんじんもじつに興味深きょうみぶかい人物じんぶつだ）。政府せいふは「中なかノ鳥とり島とう」と名なづけ領有りょうゆうを宣言せんげん、島しまのリン鉱こうは５億おく円えんだという噂うわさ話ばなし（うわさばなし）が流ながれ山師やましや冒険ぼうけん家かを吸引きゅういんしたが、結局けっきょく「不ふ存在そんざい」として削除さくじょされた。ところが今いまでも法令ほうれいの１カ所かしょに消けし忘わすれで島名しまなが生いきているそうだ。これら南進なんしんの痕跡こんせきを本書ほんしょは「“山師やまし”たちの夢ゆめのあと」と呼よぶが、太平洋たいへいようの船旅ふなたびを十じゅう倍ばいおもしろくしてくれる一いち冊さつだ。
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吉川弘文館よしかわこうぶんかん・１８９０円えん／はせがわ・りょういち　７７年ねん生うまれ。著書ちょしょに『「皇国こうこく史観しかん」という問題もんだい』。