(Translated by https://www.hiragana.jp/)
山内マリコ「選んだ孤独はよい孤独」書評 理不尽な世の中泳ぎぬく合言葉|好書好日
  1. HOME
  2. 書評しょひょう
  3. 山内やまうちマリコ「えらんだ孤独こどくはよい孤独こどく書評しょひょう 理不尽りふじんなかおよぎぬく合言葉あいことば

山内やまうちマリコ「えらんだ孤独こどくはよい孤独こどく書評しょひょう 理不尽りふじんなかおよぎぬく合言葉あいことば

評者ひょうしゃ宮田みやたたまおのれあさ新聞しんぶん掲載けいさい:2018ねん08がつ11にち
えらんだ孤独こどくはよい孤独こどく 著者ちょしゃ山内やまうち マリコ 出版しゅっぱんしゃ河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ ジャンル:小説しょうせつ

ISBN: 9784309026855
発売はつばい⽇: 2018/05/25
サイズ: 20cmせんちめーとる/173p

えらんだ孤独こどくはよい孤独こどく [ちょ山内やまうちマリコ

 山内やまうちマリコの小説しょうせつはいつもにつまされる。これまではおんな主人公しゅじんこうはなしおおかったが、今回こんかいはさまざまな境遇きょうぐうおとこたちが主人公しゅじんこうだ。本書ほんしょにはアフォリズムやのようなものもふくめて、19の短編たんぺんおさめられている。どの主人公しゅじんこう人生じんせいがうまくいっているとはがた普通ふつうおとこたちである。
 んで、ああ、とためいきれそうになった。
 おとこのクズっぷりをえが作家さっか筆致ひっち容赦ようしゃがない。
 行動こうどうともにする仲間なかまからいつも見下みくだされて苛立いらだちながらも、地元じもとからていくことができないおとこ(「男子だんしまちからない」)。
 自分じぶん愛想あいそかし部屋へやった彼女かのじょ。その理由りゆうがさっぱり理解りかいできないおとこが、彼女かのじょのその消息しょうそく偶然ぐうぜんネットでる「あるカップルのわかれの理由りゆう」。
 むかしいが10おくもうけたとき、どうすればもうけられるのかおしえてくれるよう懇願こんがんする「仮想かそう通貨つうか」。
 ゆめしあわせはいつだって、自分じぶんわきとおぎていく。なぜあいつにはやってきたしあわせが、自分じぶんのところにはやってこないのか。なぜあいつはゆめうことができて、自分じぶんはできないのか。なぜあいつらはいつもおれを見下みくだすのか。
 これらのおとこたちがクズなせいだと作者さくしゃいたいのではない。むしろえがかれているのはきていくことのやりきれなさだ。矛先ほこさきおとことおけ、この理不尽りふじんなかけられている。
 わたしどものころ大人おとなになるのがいやいや仕方しかたがなかった。ひとたび大人おとなになれば、定年ていねんまで40ねんはたらつづけなければならない。そのあいだやすみといえば週末しゅうまつとしに3大型おおがた(ちっとも大型おおがたおもえないが)連休れんきゅうだけで、間際まぎわまで重苦おもくるしい日々ひびつづくのだ。暗澹あんたんたる気分きぶんだった。ここにえがかれるのは、その絶望ぜつぼう地続じつづきのディストピアだ。
 だが希望きぼうはある。本書ほんしょのタイトルは、最近さいきんできそこないっぷりがますます加速かそくしているこのなかを、しなやかにおよぎぬくための合言葉あいことばなのである。
    ◇
 やまうち・まりこ 1980ねんまれ。作家さっか著書ちょしょに『ここは退屈たいくつむかえにて』『アズミ・ハルコは行方ゆくえ不明ふめい』など。

PROMOTION