「杉森すぎもりくんを殺ころすには」ほか子こどもにオススメの3冊さつ　取とりもどしていく、心しんと関係かんけい

「杉森すぎもりくんを殺ころすには」

　「杉森すぎもりくんを殺ころすことにしたの」。高校こうこう１年生ねんせいのヒロは、兄あにのミトさんに電話でんわし、そう決意けついを伝つたえる。自分じぶんのやり残のこしたことをちゃんとやっておくことと、裁判さいばんの証拠しょうこになるから杉森すぎもりくんを殺ころす理由りゆうをきちんとまとめておくようにアドバイスをうけたヒロは、自分じぶんの気持きもちにむきあい記しるしはじめる。杉森すぎもりくんを殺ころさなければならない理由りゆうが１５個こ、書かき出だされる。

　なんというタイトルだろう！　鮮烈せんれつなはじまり。読よみ進すすめていくうちに読者どくしゃが目まの当あたりにする驚おどろきの事実じじつ。しかし、いつしか繊細せんさいな心しんの揺ゆれに寄より添そって読よみ込こんでいることに気きづく。書かくことによって少すこしずつ自分じぶんを取とりもどしていくヒロの心情しんじょうから、目めが離はなせなくなってくる。バラバラになった心しんや人ひととの関係かんけい性せいが、だんだんとつながっていく。

　人ひととの距離きょり感かんや寄より添そい方かたには正解せいかいがない。人間にんげん関係かんけいや生いきることに悩なやみ多おおい世代せだいに、いますぐ読よんでもらいたい。ヒロがなぜ、どうしても杉森すぎもりくんを殺ころさなくてはならなかったのか、その理由りゆうをぜひ考かんがえてみてほしい。（長谷川はせがわまりる作さく、おさつ絵え、くもん出版しゅっぱん、１５４０円えん、中学生ちゅうがくせいから）【丸善まるぜん丸まるの内うち本店ほんてん児童じどう書しょ担当たんとう　兼けん森もり理恵りえさん】

「暗くらやみに能面のうめんひっそり」

　小学しょうがく４年生ねんせいの宗そう太ふとしは夏休なつやすみ、母ははの出張しゅっちょうのため、京都きょうとでくらす能面のうめん師しのおじいちゃんのところで過すごすことになった。最初さいしょは緊張きんちょうしたが、着ついてみると京都きょうとの古ふるいくらしぶりが新鮮しんせんでわくわくしてきた。壁かべにかかっているいろいろな表情ひょうじょうの能面のうめんを見みているうちに、おじいちゃんの手仕事てしごとに興味きょうみを持もった宗そう太ふとしは教おそわりながら能面のうめんを打うたせてもらうことに。伝統でんとう工芸こうげいの技術ぎじゅつを通とおして、おじいちゃんと孫まごの触ふれ合あう姿すがたがほほえましい。能のうというあまりなじみのない世界せかいを身近みぢかに感かんじさせてくれる物語ものがたり。（佐藤さとうまどか作さく、アンマサコ絵え、ＢＬ出版しゅっぱん、１７６０円えん、小学校しょうがっこう中学年ちゅうがくねんから）【ちいさいおうち書店しょてん店長てんちょう　越こし高こう一夫かずおさん】

「その絵えときたら！　新あたらしい絵本えほんの時代じだいをつくったコールデコット」

　アメリカで最もっともすぐれた絵本えほんの画家がかに贈おくられるコールデコット賞しょうは、イギリス生うまれの画家がかランドルフ・コールデコットの名なを冠かんしている。彼かれは小ちいさい時ときから暇ひまさえあれば絵えを描えがいていたが、父親ちちおやはそれが気きに入いらず息子むすこを銀行ぎんこうに就職しゅうしょくさせる。それでも彼かれはあきらめない。体からだは病弱びょうじゃくだったが、当時とうじとしては画期的かっきてきな、勢いきおいや動うごきのある絵えを次々つぎつぎに描えがいていく。この伝記でんき絵本えほんにはコールデコット自身じしんの絵えも何なん点てんか入はいり、巻末かんまつには資料しりょうがあり、楽たのしい訳わけがついている。コールデコット賞しょうに輝かがやく画家がかたちが登場とうじょうするページもあるよ。（Ｍ・マーケル作さく、Ｂ・マクリントック絵え、福本ふくもと友美子ゆみこ訳やく、ほるぷ出版しゅっぱん、２６４０円えん、小学校しょうがっこう中学年ちゅうがくねんから）【翻訳ほんやく家か　さくまゆみこさん】

「魔女まじょの一いち日にち」　心しんのほうき持もって、空想くうそう楽たのしんで

　絵本えほん「魔女まじょの一いち日にち　魔女まじょになるための秘密ひみつ」（飯島いいじま都と陽子ようし作さく、山村やまむら浩二こうじ絵え、金かねの星ほし社しゃ）は、等身とうしん大だいの魔女まじょの姿すがたを伝つたえる。

　ページをめくると、魔女まじょの生活せいかつが少すこしずつ明あきらかになっていく。夜明よあけ前まえに森もりでハーブを集あつめ、病気びょうきに効きく薬くすりを作つくる。熱心ねっしんに魔術まじゅつの勉強べんきょうをする。ほうきにまたがって空そらを飛とぶ……ことができず何なん度ども落おちて足腰あしこしを痛いためる。地道じみちに努力どりょくする日々ひびが見みえてくる。

　作者さくしゃの飯島いいじまさんは「なにごとも、時間じかんをかけないとうまくできないことを描えがきたかった」と話はなす。主人公しゅじんこうは６８０歳さいくらいだという。「魔女まじょの世界せかいではやっと一人前いちにんまえとして認みとめられるくらいの、これからという年頃としごろです」

　絵えを手てがけた山村やまむらさんは世界せかい的てきなアニメーション作家さっか。魔女まじょはかぎ鼻ばなでイボがあり、少すこし近寄ちかよりがたい風貌ふうぼう（ふうぼう）に。夜明よあけ前まえや月明つきあかりの色いろみは繊細せんさいなグラデーションで描えがき出だす。

　作中さくちゅうの「魔女まじょの素質そしつ」チェックリストには〈いつでも物語ものがたりの世界せかいへ飛とんでいける心しんのほうきを持もっている〉という項目こうもくがある。「物語ものがたりを楽たのしみ、空想くうそうできる人ひとは、目めに見みえない世界せかいのことも信しんじられる。自分じぶんを解放かいほうし、縛しばられずにいることが魔女まじょになるための道みちです」と飯島いいじまさんは語かたった。（田中たなか瞳子とうこ）＝朝日新聞あさひしんぶん2023年ねん10月がつ28日にち掲載けいさい