(Translated by https://www.hiragana.jp/)
アリス・マンローを悼む もがく女たち、容赦ない眼差しで|好書好日
  1. HOME
  2. コラム
  3. アリス・マンローをいたむ もがくおんなたち、容赦ようしゃない眼差まなざしで

アリス・マンローをいたむ もがくおんなたち、容赦ようしゃない眼差まなざしで

カナダのノーベル文学ぶんがくしょう作家さっかアリス・マンロー=2009ねん、AFP時事じじ

 いちさんねん短篇たんぺん(たんぺん)の名手めいしゅ」としてノーベル文学ぶんがくしょう受賞じゅしょうしたアリス・マンローが、五月ごがついちさんにちくなった。享年きょうねんきゅうさい

 マンローはいちきゅうさんいちねん、カナダ、オンタリオしゅう南西なんせい田舎町いなかまちまれた。ちちいとな毛皮けがわ動物どうぶつ養殖ようしょく破綻はたん(はたん)し、はははパーキンソンびょう発症はっしょうしたため、長女ちょうじょとしてはやくから家事かじ介護かいごになった。成績せいせき抜群ばつぐんで、奨学しょうがくきんしゅうない大学だいがくへ。学内がくない投稿とうこうした短篇たんぺん好評こうひょうはくしたものの、年間ねんかん奨学しょうがくきんれると学費がくひ工面くめんできず、都会とかい裕福ゆうふく家庭かてい出身しゅっしん同窓生どうそうせいジム・マンローの求婚きゅうこん承諾しょうだくして退学たいがく、バンクーバーで新居しんきょかまえた。よんにんむすめみ(障害しょうがいのあっただい誕生たんじょう当日とうじつ死亡しぼうそだてながら、家事かじ合間あいま短篇たんぺんき、ラジオの朗読ろうどく番組ばんぐみ採用さいようされ、やがてさんななさいはつ短篇たんぺんしゅう『ピアノ・レッスン』を刊行かんこう、カナダ最高さいこう文学ぶんがくしょう総督そうとく文学ぶんがくしょう受賞じゅしょうして世間せけん注目ちゅうもくあつめた。おっとジムはつま文学ぶんがくてき才能さいのうたか評価ひょうか執筆しっぴつ応援おうえんしたが、出自しゅつじちがいからくる生活せいかつ感覚かんかくのズレや思想しそう不一致ふいっちから夫婦ふうふあいだ亀裂きれつしょうじ、ついには離婚りこん。マンローはその大学だいがく時代じだい友人ゆうじん再婚さいこんして故郷こきょうちかまちうつみ、つづけた。

 マンローは短篇たんぺんしかいていない(さつ連作れんさく短篇たんぺんしゅうはあるが)。隙間すきま時間じかんでの執筆しっぴつてきしているからと選択せんたくしたフォームが結局けっきょく自分じぶんいているとさとり、短篇たんぺん技術ぎじゅつきわめていったのだ。作品さくひん舞台ぶたい知悉ちしつ(ちしつ)している故郷こきょう子育こそだてした西海岸にしかいがん登場とうじょうするのは市井しせい人々ひとびと自身じしんんだははをはじめ家族かぞくもモチーフとしているが、あくまで小説しょうせつ素材そざいとしてあつかっている。かずじゅうページに長篇ちょうへんいちさつぶん凝縮ぎょうしゅくする、とひょうされるその作品さくひんは、時間じかん自在じざいし、はなし行先ゆくさき見通みとおせず、おもいもよらないところへれていかれて平凡へいぼん日常にちじょうひそむドラマの面白おもしろさに瞠目どうもく(どうもく)させられる。真似まね(まね)ができない、と仲間なかま作家さっかたちが文章ぶんしょうは、簡潔かんけつながら行間ぎょうかん奥行おくゆきがあり、ひとしん複雑ふくざつさをそのままとらえていて、かえすたびにちがったものがかんでくる。マンローは女性じょせいかたもっとはげしく変化へんかした時代じだいき、従来じゅうらい家族かぞくかん価値かちかんくずれていくなかでもがくおんなたちをえがいてきた、容赦ようしゃない(まなざ)しで。読者どくしゃ作品さくひんのどこかで自分じぶん発見はっけんし、うらひょう冷徹れいてつあばかれているからこそ、かえって人生じんせい直視ちょくしする勇気ゆうきもらえ(もら)える。

 マンローはスポットライトをけるひとだった。書評しょひょういたことはなく、教職きょうしょく一時期いちじきだけでこりてその教壇きょうだんにはたなかった。インタビューは極力きょくりょくことわり、ブックツアーもおことわり。はちさんねんにカナダ勲章くんしょう授与じゅよはなしたが、作品さくひんたいするしょうけるが自身じしんたいするものはけないとことわり、軽視けいしされがちな短篇たんぺんをひたすらいてきた。これが最後さいご、とってからさつ作品さくひんしゅうしたが、度目どめ断筆だんぴつ宣言せんげんのあとは本当ほんとういちさく発表はっぴょうしなかった。最後さいごじゅうねんほどは、作品さくひん題材だいざいにしたこともある認知にんちしょうわずらっていたという。

 「おんな一生いっしょう」を稀有けう(けう)な作家さっかとしてきたマンローの短篇たんぺんは、これからもずっとわたしたちとともにある。=朝日新聞あさひしんぶん2024ねん5がつ29にち掲載けいさい

PROMOTION