今、東京のあちこちで進む大規模な再開発。現場をぐるりと覆う仮囲いの向こうでどんな工事が進んでいるのか。あるいは、姿を現した新たなランドマークはどのように街を変えていくのか。新刊『東京大改造2030 都心の景色を変える100の巨大プロジェクト』から紹介します。第9回は「高輪築堤」編です。(記事は同書のベースとなった日経クロステック連載「東京大改造」より転載・一部変更)
JR東日本は2023年5月31日、東京・高輪で進めている大規模再開発プロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY」の計画地から出土した日本初の鉄道開業時の構造物「高輪築堤」を27年度にも現地公開すると発表した。高輪築堤跡は21年9月17日に、国の史跡に指定された。
「TAKANAWA GATEWAY CITY」内に設ける公園の地下から「高輪築堤跡」を眺めるイメージ(出所:JR東日本)
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「複合棟Ⅱ」の2階プロムナードから眺めるイメージ(出所:JR東日本)
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「文化創造棟」の3階テラスから眺めるイメージ(出所:JR東日本)
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複合棟Ⅱの完成イメージ(出所:JR東日本)
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文化創造棟の完成イメージ。北側の公園と一体になった、らせん状の低層な建物になる予定。緑と木で形づくるスパイラルのファサードが特徴で、外装デザインアーキテクトは隈研吾建築都市設計事務所が担当(出所:JR東日本)
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日本で初めて鉄道が走った土地の記憶と歴史的価値を継承し、保存・公開する方法をJR東日本は有識者と検討してきた。そして文化財保護法に基づき、保存活用計画を策定。23年5月26日に文化庁長官の認定を受けた。
鉄道会社であるJR東日本にとって、国の史跡にもなった高輪築堤跡は新街区のシンボルになる「宝」だ。出土後にはTAKANAWA GATEWAY CITYの計画の一部を見直し、建物の配置を変えた。そして新街区のランドスケープの一部に組み込んでいく計画だ。TAKANAWA GATEWAY CITYは25年3月から順次開業を迎えるが、高輪築堤跡はその約3年後である27年度の現地公開を目指す。
TAKANAWA GATEWAY CITYは計画地を4つのエリアに分け、合計5棟のビルを建てる。現場公開する高輪築堤跡は、3街区に建つ複合棟Ⅱの西側にある「第7橋梁部」と2街区にできる文化創造棟の北側に設ける公園に隣接する「公園部」の2カ所を検討(出所:JR東日本)
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高輪築堤跡の現地保存範囲。現地公開を予定しているのは、3街区の第7橋梁部と2街区の公園部。第7橋梁部は同じく再開発が進む泉岳寺駅に近い(出所:JR東日本)
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27年度の現地公開に向けた保存のための検討・対策ステップ(出所:JR東日本)
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高輪築堤を構成する杭や築石の腐朽・塩類析出対策などの保存科学や高輪築堤の構造安定性などについて、有識者の指導の下、適切な保存対策および継続的な維持管理を行うことで現地公開が可能になった。現在は劣化を防ぐため、地中に埋め戻している。
高輪築堤跡の保存対策対象。図は検討を進めている実施イメージ(出所:JR東日本)
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景観の再現にVR/ARの活用も検討
策定した保存活用計画に基づいて取り組みを検討する内容は、以下のような項目だ。
まず、発掘時に既に滅失していた欠損部築石や盛り土、バラスト(砂利)、レール、橋梁(きょうりょう)などの再現を検討する。また、かつての築堤ライン上は現地で発掘された築石を活用したランドスケープとし、歴史を感じられる空間を街区内に創出する。TAKANAWA GATEWAY CITYの街の一部になるわけだ。
公開に当たっては、VR/AR(仮想現実/拡張現実)などの技術を使い、開業当時の鉄道が走る景観の再現も検討する。
複合棟Ⅱの1階から第7橋梁部を眺めるイメージ。VR/ARを使い、当時の様子を仮想的に再現することも検討する(出所:JR東日本)
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そもそも高輪築堤とは、1872年に日本で初めて鉄道が東京・新橋と横浜の間で開業した際、高輪海岸沿いの海上に鉄道を走らせるため敷設された鉄道敷の遺構である。発掘調査の結果、第7橋梁の橋台を含む開業当初の高輪築堤の構造物が残っていることが判明した。
記録保存調査を進めたところ、日本の交通の近代化や当時の土木技術を知るうえで重要な遺跡と分かった。21年9月に第7橋梁部(約80m分)および公園部(約40m分)が、既に指定されていた「旧新橋停車場跡」に追加される形で、「旧新橋停車場跡及び高輪築堤跡」として史跡指定された経緯がある。
現地公開に向けて、鉄道開業当初の新橋~横浜間、約29kmの史資料調査や研究成果の収集・整理を実施する。その知見を踏まえ、高輪築堤や鉄道の歴史を国内外の来街者に情報発信していく。
TAKANAWA GATEWAY CITYは、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅前に完成する新街区だ。南北に約1kmある細長い敷地が特徴である。JR東日本はTAKANAWA GATEWAY CITYの全体デザイン構想に、米ピカード・チルトンと隈研吾建築都市設計事務所(東京・港)を起用した。
TAKANAWA GATEWAY CITYの全体イメージ(出所:JR東日本)
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チルトンは4分割した街区の建物を日本列島の島々に見立て、「アーキペラーゴ(列島)」というコンセプトを提示した。「列島に沿って歩行者デッキを整備し、フロー(流れ)をつくる」というものだ。その後、計画地から高輪築堤が出土し、かつてこの場所が本当に日本列島の海岸線沿いだったことが判明した。
[日経クロステック 2023年6月12日付の記事を転載・一部変更]
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2030
年までに
東京の
景色が
大きく
変わります。
都内の
主要な
街に
次々と
大型施設が
誕生、
新しい
街まで
生まれようとしています。
日経BPの
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総力をあげて
取材した
東京の
未来を
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日経クロステック、
日経アーキテクチュア、
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編)、
日経BP、3520
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税込み)