対話には、キャリアや人生を切り開く力がある。そして、本を読むことは、対話の中身を育てる自己投資なのだと僕は考えています。
本のジャンルにはこだわらず、好奇心のアンテナが反応した本はできるだけなんでも手に取って、貪欲に読むのが僕のスタイルです。
この『
美酒復権 秋田の若手蔵元集団「NEXT5」の挑戦
』(一志治夫著、プレジデント社)は、高知でおいしいお酒を飲んだことをきっかけに日本酒の世界に興味を持ち、ネットで検索してたまたま見つけた本でした。
40代の若い蔵元たちがタッグを組んで、傾きかけた酒蔵を復興させるために新しい挑戦をするリアルストーリーです。
秋田の蔵元5人が共同醸造酒を造り、やがて一つのブランドとなっていく。日本酒界をけん引するムーブメントを起こした「NEXT5」の軌跡を追ったノンフィクション
日本酒にはその地域ならではの食や人の文化が深くひもづいているので、好奇心の扉がどんどん開いていくんですよね。
日本酒の味や香り、ネーミングの響きやラベルの質感など、五感に訴えるものづくりの過程に立ち会えるような読み応えで、「番組」「映像コンテンツ」というものづくりとも通じる感覚がありました。
「お酒の知識って、全国どこに行っても共通言語になることもあり、コミュニケーションの取っ掛かりとして役立つことも多いんですよね」
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同じ業界人のものづくりの考え方にも、もちろん関心があります。
ものづくりの参考になったクセ強な本
最近読んだ本では、『
ありえない仕事術
』(上出遼平著、徳間書店)。著者は、深夜帯ながら熱烈なファンが定着した番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を企画したことで知られるテレビ東京のプロデューサーです。
ネタバレになるので詳しくは話せませんが、実はこの本、「仕事術」と銘打ったタイトルと実際の内容はちょっと違う、いい意味で“クセのある”本です。
「本の装丁にも仕掛けがあって見事です。ぜひ手に取って確認してみてください」
上出さんは番組作りにおいても、意図的に「入り口と出口を変える」仕掛けが巧みで『ハイパー〜』でも「世界のメシ」をテーマにしながら映像を通じて強く印象に残るのは、日本の日常ではなかなか知ることができない海外のスラムや宗教など複雑な事情であったりして。「本当に伝えたいことを、いかにエンタメとして多くの人に届けるか」という手法が勉強になります。
好きなジャンル以外でも、日ごろからコメントや発信を参考にしている方が薦めている本は迷わず買うことが多いですね。
SNSでフォローしている方が「この本は必読です」などと紹介している投稿を見つけたら、スクリーンショットを撮って保存しておきます。インタビュー中に話題になった本もチェックしています。
この本も、そうですね。
『
起業の天才!
』(大西康之著、東洋経済新報社)は、PIVOTに参画することになって、ビジネスをテーマにした番組プロデュースをする中で、勉強のために読んだ本です。
今やグローバルに事業を広げるリクルートの創業者・江副浩正さんの軌跡を描いた評伝で、リクルート事件がどういうものだったのかも改めて理解する視点を得ることができました。
「知っているようで知らない」「今さら聞けない」トピックについて、知りたいと思ったときにじっくりと学べるのも本の良さですよね。同じ著者が楽天グループCEO・三木谷浩史さんを追った『
最後の海賊
』(小学館)も非常に読み応えがありました。
貪欲に学ぼうとすると、どんどん読みたい本が増えていき、時間が足りないというのが最近の悩みです。
移動中のちょっとした隙間時間も活用して読み進められるよう、「kindle」の電子書籍も活用しながら、常に3冊くらいを同時進行で読んでいます。
仕事を終えて家に帰ってからじっくりと腰を据えて…といきたいところですが、まだ幼い息子の子育てにもしっかり関わりたいと思っているので、なかなか難しいんです、読書の時間をつくるのが。
たまに1人で入浴できる日があると、本を持ち込んで湯船に漬かり、ページがふやけるまで読んでしまいます。これができたときは、「幸せな自分時間を過ごせたな」と満足できるんです。
「この本もそうなんですが、お風呂に持って入った本はたいていふやけてしまっています(笑)。読書に没頭できるバスタイムは至福の時です」
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取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也