政府がDXのキーとして進める「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの活用」。今国会で審議中のマイナンバー法の改正で、行政側による個人のマイナンバーの参照や利用内容が大きく緩和される。今後どんなことが起きるのか?特集『企業・銀行・官公庁・ITベンダー・コンサルが大騒ぎ! ヤバいDX 2023』(全13回)の#7では、マイナンバー制度の制定に関わった専門家らがマイナンバー制度の問題点を指摘する。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
「マイナンバーカード反対デモ」も登場
法改正を前に広がる大混乱
「保険証を人質に、窓口負担を増やしてまで、カードの取得・利用を強要することは許されない」
4月14日、マイナンバー法の改正法案が国会審議入りした。保険証を統合する、年金受け取り用の銀行口座を拒否申請がない限りは自動でマイナンバーにひも付ける、などの改正点が野党の反発を呼んだ。18日には保険証とマイナンバーカードとの統合に反対する国会前のデモまで行われた。
政府が「国民サービスのDXのキーになる」として、合計2兆円余りの予算を費やして普及を進めるマイナンバーカード。現在全国民の76.6%にまで普及したが、マイナンバーおよびマイナンバーカードを巡るさまざまな反対意見や怒りの声は今日もインターネットやSNSで渦巻き続け、一向に鎮火しそうにない。
そもそも、マイナンバーを巡る議論や懸念には誤解や混乱が多い。
まず第一に、「マイナンバー」と「マイナンバーカード」の議論は別だ。
マイナンバーは、2016年1月以降すでに全国民に振られている番号で、私たちは意識していないが、国や自治体の行政処理の現場では日常的に使用されている。マイナンバーカードを返納したところでマイナンバー制度から離脱することは、もちろんできない。
第二に、マイナンバーがあれば、自分の納税額から住所、社会保険料や戸籍情報まで、全ての個人情報が集まるスーパーデータベースから情報が芋づる式に引き出せるわけではない。国民の個人情報を管理するデータベースは従来通り各省庁や自治体が個別に管理しており、マイナンバーはそれらを「名寄せ」するためのタグなのだ。
例えば国税庁の納税者データベースに、マイナンバー123456789の鈴木洋子という神奈川県川崎市在住の人が登録されているとする。この人の納税データを、社会保険データベースを持つ厚生労働省が、保険料の支払いの事務作業で確認したいが、厚労省データベースでは同名で東京都在住の人が登録されており、同一人物かどうか分からない。だが、番号123456789が同じなので、同一人物だと突合できた――などのように使える。確実に本人だと確認するための振り番が、マイナンバーだ。
つまり誰かのマイナンバーが手に入ったところで、その納税データを悪意を持った外部の人が抜くためには、国税庁の納税データベースにハッキングをかけて成功する必要がある。
そしてマイナンバーカード。これも、単なるマイナンバーの情報のみならずさまざまな機能が複合的に搭載されたカードなのだ。
券面とICチップ内の(1)マイナンバー情報に加えて、カードを持つ人が確かに利用者本人であると電子的に証明したり、送付する電子文書が本物である証拠の署名を行ったりする(2)電子証明書機能が付いている。さらに、自治体や国、民間企業が認可を受ければ自由に利用できる(3)空き領域もある。会員証や入館証、社員証やポイントカードなど、用途はかなり自由だ。
ちなみに(1)のマイナンバー自体は、この後説明するように利用用途と利用を許される人・機関が法律で定められている。一方、(2)および(3)に関しては、認可を受ければ国や自治体のみならず民間企業団体でも自由に使える、という設計だ。ざっくり言えば「マイナンバー」の利用には今のところ規制がかかっているが、「マイナンバーカード」の利用はかなり広く一般に公開されている。
マイナンバーカードという名称からはこの(2)(3)の存在も見えないし、これらの機能とマイナンバーの関係は非常に分かりにくい。
ただでさえ構造的に理解が難しいマイナンバーとマイナンバーカードだが、これらの「存在意義」を分かりやすい形で示すことなく、国はカードの普及とマイナンバー活用にひたすらアクセルを踏んでいる。
そこへきて現在国会で審議中の改正マイナンバー法だ。これが成立すると、具体的に何が変わるのか。そこには現在あまり注目されていない点もあまた隠れている。次ページから解説していこう。