「毒の強さ」はヤマカガシ以下、それでもハブが「国内最強」のワケ…複雑怪奇な毒性分とは？【専門家が解説】写真しゃしんはイメージです　Photo:PIXTA

ハブは日本にっぽん最強さいきょうの蛇へびだ。咬かまれると、激はげしい痛いたみが走はしり、20～30分ふんで毒どくが回まわる。患部かんぶが異常いじょうに腫はれ、血管けっかん、筋肉きんにくが破壊はかいされ、血行けっこう障害しょうがいから筋肉きんにく壊死えしが起おきるケースもあるという。奄美あまみにある東京大学とうきょうだいがく医科いか学がく研究所けんきゅうじょ奄美あまみ病害びょうがい動物どうぶつ研究けんきゅう施設しせつで40年間ねんかん働はたらいていた著者ちょしゃが、ハブ毒どくの“真しんの怖こわさ”を解説かいせつする。※本稿ほんこうは、服部はっとり正策しょうさく著ちょ『奄美あまみでハブを40年ねん研究けんきゅうしてきました。』（新潮社しんちょうしゃ）の一部いちぶを抜粋ばっすい・編集へんしゅうしたものです。

昭和しょうわ初期しょきの死亡しぼう率りつは10％
人々ひとびとが恐おそれるハブ毒どくの威力いりょく

　国内こくない最大さいだい級きゅうの蛇へびであるハブだが、ハブがアオダイショウのように無毒むどくであれば、4メートルあっても人ひととの関係かんけい性せいは変かわっていたかもしれない。やはり、人々ひとびとを怯おびえさせるのはハブの持もつ毒どくにある。

　ハブは獲物えものを狙ねらう時ときはまず咬かみつく。目めと鼻はなの間あいだにあるピット器官きかんと呼よばれるセンサーで、生いき物ものの体温たいおんを感かんじて咬かみつくため、人ひとも不用意ふよういに近ちかづくと咬かまれる。まず咬かみつくのは、餌えさをかみ砕くだけないので、丸呑まるのみするために、餌えさになる動物どうぶつを毒どくで殺ころす必要ひつようがあるからだ。

　ハブと人ひととの関かかわりの記録きろくをひもとくと、江戸えど時代じだい末期まっきにハブ1匹ひきを玄米げんまい1升しょうでお上かみが買かい上あげたとする文献ぶんけんが残のこっている。当時とうじの奄美あまみの生活せいかつ水準すいじゅんを考かんがえるとこれはかなり高額こうがくで、人々ひとびとがハブの存在そんざいにいかに頭あたまを悩なやませていたかがわかる。

　それもそのはずだ。当時とうじ、ハブに咬かまれた者ものの過半かはんは死しんだとの記載きさいもあり、昭和しょうわ初期しょきの死亡しぼう率りつは10％を超こえている。死亡しぼう率りつを考かんがえれば、怖こわがるなというのが無理むりな話はなしである。

　それではハブの毒どくはどのくらい危険きけんなのだろうか。致死ちし率りつはどれくらいなのか。

　結論けつろんから言いうと、ハブの猛毒もうどく性せいは世界せかいの毒蛇どくへびでも下したから数かぞえた方ほうが早はやい。

　毒蛇どくへびの毒性どくせいを比較ひかくする際さいによく用もちいられるのが半数はんすう致死ちし量りょう（LD50）だ。これは、ある一定いっていの条件下じょうけんかで動物どうぶつに試験しけん物質ぶっしつを投与とうよした場合ばあいに、対象たいしょうとなる動物どうぶつの半数はんすうを死亡しぼうさせる試験しけん物質ぶっしつの量りょうを示しめす。少すくなければ少すくないほど毒性どくせいが強つよいことになる。

　インターネット上じょうにはこのLD50を用もちいた毒蛇どくへびランキングがいくつも掲載けいさいされている。端はし的てきに言いえば、マウスを殺ころすのに何なんマイクログラムの蛇へび毒どくが必要ひつようかを比くらべているのだが、これらがどこまで正ただしいかは私わたしには判断はんだんが付つかない。

　チェックできないし、おそらくデータが追加ついか更新こうしんされることもない。というのも、動物どうぶつ愛護あいごの精神せいしんから倫理りんり上じょう、そうした実験じっけんを実施じっししたところで結果けっかを公表こうひょうできないし、どこに論文ろんぶんを送おくろうが受うけ付つけてくれないからだ。そもそも、今いまは大学だいがくや研究けんきゅう機関きかんでは動物どうぶつ実験じっけんの事前じぜんの審査しんさシステムがあるので「マウスがどのくらいの毒どく量りょうで死しぬのか試ためそうと思おもいます」と実験じっけん計画けいかくを立たてたところで、認みとめられない。