【対談たいだん　村瀬むらせ俊朗としろう×篠田しのだ真貴子まきこ（後編こうへん）】なぜ“人ひとの話はなしが聞きけないリーダー”が職場しょくばに増ふえるのか？

ここ数すう年ねんのうちで、最もっとも注目ちゅうもくを集あつめた人事じんじ関連かんれんのキーワードである「心理しんり的てき安全あんぜん性せい」――。実際じっさいのところ、この考かんがえ方かたは日本にっぽん企業きぎょうにどんなインパクトを与あたえたのだろうか？ この問題もんだい意識いしきの下した、このたび村瀬むらせ俊朗としろうさん（早稲田大学わせだだいがく 准じゅん教授きょうじゅ）と篠田しのだ真貴子まきこさん（エール株式会社かぶしきがいしゃ 取締役とりしまりやく）による特別とくべつ対談たいだんが行おこなわれた（＊）。この概念がいねんの第一人者だいいちにんしゃでもある村瀬むらせさんは、2021年ねんより富士通ふじつうの「心理しんり的てき安全あんぜん性せいプロジェクト」でアドバイザーを務つとめてきた。3年間ねんかんにわたるそのプロジェクトの集大成しゅうたいせい『Fujitsu心理しんり的てき安全あんぜん性せいPlaybook』を振ふり返かえりつつ、篠田しのださんが抱だいてきたさまざまな疑問ぎもんを、村瀬むらせさんにぶつけてもらった。（全ぜん2回かいのうち後編こうへん　撮影さつえい／疋田ひきた千里せんり、構成こうせい／藤田ふじた悠ゆう）

＊　特別とくべつ対談たいだんは、富士通ふじつう株式会社かぶしきがいしゃが企画きかくし、実施じっし。

※本稿ほんこうは「【対談たいだん 村瀬むらせ俊朗としろう×篠田しのだ真貴子まきこ（前編ぜんぺん）】優秀ゆうしゅうなリーダーほどハマる“心理しんり的てき安全あんぜん性せいのジレンマ”とは？」の続つづきです。

「NG行動こうどうの監視かんしゲーム」になってはいけない

篠田しのだ真貴子まきこ（以下いか、篠田しのだ）　私わたしが取締役とりしまりやくをやっているエールという会社かいしゃでは、企業きぎょうの方々かたがたに対たいして、外部がいぶ人材じんざいによるオンライン1on1を提供ていきょうしているのですが、そのサービスの1つに、企業きぎょう幹部かんぶやリーダー層そうの「聴きく力ちから」を養成ようせいする「聴きくトレ」があります。その中なかで、お客きゃくさまのほうが上司じょうし役やく、当社とうしゃサイドが部下ぶか役やくになって、ふだんどおりの1on1をやっていただき、あとでこちらからフィードバックをお伝つたえするメニューがあるんですね。

　ある中堅ちゅうけん企業きぎょうの社長しゃちょうさんに「聴きくトレ」を受うけていただいたのですが、終了しゅうりょう後ごにその方ほうがとても印象いんしょう的てきなことをおっしゃっていました。というのも、その社長しゃちょうさんは「返事へんじが早はやすぎます」というフィードバックを受うけ取とったそうなんですね。つまり、「ご自身じしんの意見いけんを言いうのが早はやすぎるせいで、部下ぶかが自分じぶんの考かんがえを言いいづらくなっていませんか？」という指摘してきでした。

　その方ほうは、会社かいしゃの代表だいひょうとして「早はやく決きめて、早はやく動うごかすこと」をずっと大切たいせつにしてきたそうです。だから、部下ぶかから相談そうだんを受うけたときにも、できるかぎりその場ばですぐに答こたえを出だすようにしてきたと。でも、よかれと思おもってのその行動こうどうが、かえって組織そしきの心理しんり的てき安全あんぜん性せいを引ひき下さげていたかもしれないと気きづいて、かなりびっくりしていらっしゃったんです。

村瀬むらせ俊朗としろう（以下いか、村瀬むらせ）　そういうパターンはあるでしょうね。ただ、一方いっぽうで注意ちゅういが必要ひつようなのは、「こういうことをやってはいけません」という禁止きんしルールを定さだめるのはやめたほうがいいということです。行動こうどうとして表出ひょうしゅつしている部分ぶぶんだけをチェックして、「これはOK」「これはダメ」というような取とり締しまりをはじめると、働はたらく人ひとにとってはむしろ心配しんぱいの種たねにしかなりませんから。

　心理しんり的てき安全あんぜん性せいの本質ほんしつはそこではなくて、あくまでも行動こうどうの背後はいごにあるもの、つまり相手あいてに向むき合あうときの価値かち観かんだったりケアの心しんだったりなんですよね。

村瀬むらせ俊朗としろう（むらせ としお）

早稲田大学わせだだいがく 商学部しょうがくぶ 准じゅん教授きょうじゅ

1997年ねんに高校こうこうを卒業そつぎょう後ご、渡米とべい。2011年ねん、University of Central Floridaで博士はかせ号ごう取得しゅとく（産業さんぎょう組織そしき心理しんり学がく）。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士はかせ研究けんきゅう員いん（ポスドク）をつとめた後のち、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭きょうべんを執とる。2017年ねん9月がつから現職げんしょく。専せん門もんはリーダーシップとチームワーク研究けんきゅう。「心理しんり的てき安全あんぜん性せい」の提唱ていしょう者しゃであるエイミー・C・エドモンドソン（ハーバード大学だいがく）の著書ちょしょ『恐おそれのない組織そしき』（英治えいじ出版しゅっぱん）でも解説かいせつ者しゃを務つとめ、日本にっぽん国内こくないで「心理しんり的てき安全あんぜん性せい」概念がいねんを普及ふきゅうさせてきた第一人者だいいちにんしゃ。

 

篠田しのだ真貴子まきこ（しのだ まきこ）

エール株式会社かぶしきがいしゃ 取締役とりしまりやく

慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく経済学部けいざいがくぶ卒そつ、米べいペンシルバニア大学だいがくウォートン校こうMBA、ジョンズ・ホプキンス大学だいがく国際こくさい関係かんけい論ろん修士しゅうし。日本長期信用銀行にっぽんちょうきしんようぎんこう、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティス、ネスレを経へて、2008〜2018年ねんほぼ日にち取締役とりしまりやくCFO。退任たいにん後ご、約やく1年ねんにわたる「ジョブレス」期間きかんののち、管理かんり職しょくの聴きく力ちから向上こうじょうプログラム「YeLL｜聴きくトレ」と組織そしき変革へんかくに伴走ばんそうする「伴走ばんそうYeLL」を提供ていきょうするエール株式会社かぶしきがいしゃに取締役とりしまりやくとして参画さんかく。
ケイト・マーフィ『LISTEN――知性ちせい豊ゆたかで創造そうぞう力りょくがある人ひとになれる』（日経にっけいBP）、リード・ホフマンほか『ALLIANCE――人ひとと企業きぎょうが信頼しんらいで結むすばれる新あたらしい雇用こよう』（ダイヤモンド社だいやもんどしゃ）など監かん訳やくのほか、櫻井さくらい将すすむ『まず、ちゃんと聴きく。――コミュニケーションの質しつが変かわる「聴きく」と「伝つたえる」の黄金おうごん比ひ』（JMAM）にて巻頭かんとう言げんを執筆しっぴつ。