ひとはなぜ病気びょうきになるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡きせきくすり化学かがく兵器へいきからまれた、医療いりょうドラマではえがかれない手術しゅじゅつのリアル、医学いがくよわくてはかな人体じんたいささえる…。外科医げかいけいゆうとして、ブログ累計るいけい1000まんPVちょう、X(twitter)でやく10まんにんのフォロワーを著者ちょしゃ(@keiyou30)が、医学いがく歴史れきしひと病気びょうきになるしくみ、人体じんたい驚異きょういのメカニズム、くすりやワクチンの発見はっけんをめぐるエピソード、人類じんるいおびやかすやまいとのたたかい、古代こだいからすさまじい進歩しんぽげた手術しゅじゅつ歴史れきしなどを紹介しょうかいする『すばらしい医学いがく』が発刊はっかんされた。池谷いけがや裕二ゆうじ東京大学とうきょうだいがく薬学部やくがくぶ教授きょうじゅのう研究けんきゅうしゃ)「づけばみふけってしまった。“よくっていたはずの自分じぶんからだについてじつなにらなかった”という番狂ばんくるわせに快感かいかん神経しんけい刺激しげきされまくるから」と絶賛ぜっさんされたその内容ないよう一部いちぶ紹介しょうかいします。

【毒と薬は表裏一体】モルヒネより8倍も効果が高く、世界的に大ヒットしたが、「強い依存性」があったため、今や使用や所持が禁止される「不正麻薬」となった薬とは?Photo: Adobe Stock

植物しょくぶついた

いたみ」というのは、わたしたちにとってきわめて不快ふかい感覚かんかくだ。

 紀元前きげんぜんから、医学いがくはこの「いたみ」にさまざまな方法ほうほういどみ、それをやわらげる手段しゅだんしてきた。アヘンは、まさにその好例こうれいだ。アヘンからまれたモルヒネは、いまなお医療いりょう現場げんば使用しようされる鎮痛ちんつうやくである。

 一方いっぽう現在げんざい家庭かていでもひろ使用しようされるいためといえば、ロキソニン(ロキソプロフェン)やボルタレン(ジクロフェナク)、イブプロフェンなどをおもかべるひとおおいはずだ。このタイプのくすりは「ステロイドせいこう炎症えんしょうやく」とばれるが、じつはそのルーツも植物しょくぶつにある。

 古代こだいギリシャの時代じだいから、ヤナギの樹皮じゅひいたみをやわらげる効果こうかがあることはよくられていた。だが、ヤナギもまたアヘンと同様どうように、なに鎮痛ちんつう作用さようつのかはじゅうきゅう世紀せいきまでられていなかった。

 ヤナギの有効ゆうこう成分せいぶん抽出ちゅうしゅつされ、ヤナギの学名がくめい「Salix(サリクス)」にちなんで「サリチル酸さりちるさん」とづけられたのは、いちはち〇〇年代ねんだいになってからである。

 とはいえサリチル酸さりちるさんそのものは副作用ふくさようつよく、くすりとして安全あんぜん使用しようするのはむずかしかった。いちはちきゅうきゅうねん、ドイツの製薬せいやく会社かいしゃバイエルは、サリチル酸さりちるさん化学かがく構造こうぞうすこ変化へんかさせた「アセチルサリチルさん」を商品しょうひんし、販売はんばいにこぎつけた。商品しょうひんめいは、「アスピリン」である。

 アスピリンは爆発ばくはつてきれた。魔法まほうくすりともてはやされたアスピリンは、世界せかいでもっともれた鎮痛ちんつうやくとしてギネスブックに掲載けいさいされ、バイエルしゃ世界せかいてきなメガファーマとなった。

アスピリンは、炎症えんしょうおさえる物質ぶっしつ

 アスピリンは、炎症えんしょうかかわるプロスタグランジンのさんせい阻害そがいすることで、いたみや発熱はつねつ抑制よくせいする。この作用さよう解明かいめいしたイギリスの薬理やくり学者がくしゃジョン・ロバート・ヴェインは、いちきゅうはちねんにノーベル医学いがく生理学せいりがくしょう受賞じゅしょうした

 アスピリンと同様どうよう作用さようつ「ステロイドせいこう炎症えんしょうやく」は次々つぎつぎ開発かいはつされ、いまではドラッグストアでもえる大衆たいしゅうやくとなっているのだ。

 いちきゅうきゅうきゅうねん、アスピリン発売はつばいひゃく周年しゅうねん記念きねんし、たかいちメートルのバイエル本社ほんしゃビルがアスピリンのパッケージに変身へんしんした。ラインがわ背景はいけいにそびえ巨大きょだいな「アスピリン」は、「世界一せかいいちおおきなパッケージ」としてふたたびギネスブックに登録とうろくされたのである。

いためのくら歴史れきし

いたみ」とのたたかいの歴史れきしは、華々はなばなしい勝利しょうりばかりではない世界せかいてきなベストセラー「アスピリン」開発かいはつ裏側うらがわで、バイエルしゃ研究けんきゅうしゃハインリッヒ・ドレーザーは、モルヒネの改良かいりょう目指めざしていた。

 ドレーザーがをつけたのは、モルヒネの化学かがく構造こうぞうすこ変化へんかさせた「ジアセチルモルヒネ」であった。しくもアセチルサリチルさんどうじ、「アセチル」という化学かがく反応はんのう改良かいりょうされたこの化合かごうぶつは、まさにめいくすりえた。

 モルヒネよりはちばい効果こうかたかく、持続じぞく時間じかんみじかいため、あじい。かならずや、モルヒネにわるヒット商品しょうひんになるはずだ――。

 バイエルしゃは、この「ジアセチルモルヒネ」を商品しょうひんし、いちはちきゅうはちねん販売はんばい開始かいしした。ギリシャ英雄えいゆう「ヘロス」にちなみ、この商品しょうひんは「ヘロイン(Heroin)」とづけられた。ちからいてきて、ヒーローのような気分きぶんになれたからだ。

 いちはちきゅうきゅうねんには年間ねんかんいちトンという膨大ぼうだいりょうのヘロインが合成ごうせいされ、世界中せかいじゅう大々的だいだいてきされた。だがじゅう世紀せいきはいり、ヘロインの危険きけんせいあきらかになった。ヘロインには、つよ依存いぞんせいがあったのだ。くすりとして安全あんぜん使つかえる代物しろものではなかったのである

 濫用らんよう問題もんだいになったヘロインは、いちきゅういちさんねん製造せいぞう中止ちゅうしされ、いま使用しよう所持しょじ禁止きんしされる不正ふせい麻薬まやくとなった。開発かいはつ当時とうじは、製薬せいやく臨床りんしょう試験しけんなどのシステムがいまほど確立かくりつされておらず、このような事態じたい発展はってんしてしまったのだ。

 ちなみに、モルヒネから「メチル」という化学かがく反応はんのうてできる「メチルモルヒネ」は「コデイン」のられ、モルヒネより作用さようよわくマイルドだ。

 現在げんざい一般いっぱんてきに、せきめとして使用しようされている。わずかな化学かがく構造こうぞう人体じんたいおよぼす影響えいきょうは、これほどまでにおおきい。

 まさに、どくくすり表裏一体ひょうりいったいなのである。

ほん原稿げんこうは、山本やまもとけんじんちょすばらしい医学いがく抜粋ばっすい編集へんしゅうしたものです)

訂正ていせい記事きじ初出しょしゅつより以下いかのように修正しゅうせいしました。2段落だんらく「アスピリンは、炎症えんしょううなが物質ぶっしつ」を「アスピリンは、炎症えんしょうおさえる物質ぶっしつ」に修正しゅうせいしました。読者どくしゃ皆様みなさまにおびいたします。(2024ねん6がつ24にち15:00 書籍しょせきオンライン編集へんしゅう
山本やまもとけんじん(やまもと・たけひと)

2010ねん京都きょうと大学だいがく医学部いがくぶ卒業そつぎょう博士はかせ医学いがく
外科げか専門医せんもんい消化しょうかびょう専門医せんもんい消化しょうか外科げか専門医せんもんい内視鏡ないしきょう外科げか技術ぎじゅつ認定にんてい感染かんせんしょう専門医せんもんい、がん治療ちりょう認定にんていなど。運営うんえいする医療いりょう情報じょうほうサイト「外科げか視点してん」は1000まんちょうのページビューを記録きろく時事じじメディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載れんさい。Twitter(外科医げかいけいゆう)アカウント、フォロワーやく10まんにん著書ちょしょに19まんのベストセラー『すばらしい人体じんたい』(ダイヤモンド社だいやもんどしゃ)、『医者いしゃおしえるただしい病院びょういんのかかりかた』(幻冬舎げんとうしゃ)、『もったいない患者かんじゃ対応たいおう』(じほう)ほか多数たすう新刊しんかんすばらしい医学いがく』(ダイヤモンド社だいやもんどしゃ)は3まん8000のベストセラーとなっている。
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