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英語圏の研究にみる「ケアの地理学」の射程
日本にっぽん地理ちり学会がっかい発表はっぴょう要旨ようししゅう
2019年度ねんど日本にっぽん地理ちり学会がっかい秋季しゅうき学術がくじゅつ大会たいかい
セッションID: 406
会議かいぎ情報じょうほう

発表はっぴょう要旨ようし
英語えいごけん研究けんきゅうにみる「ケアの地理ちりがく」の射程しゃてい
*ほとりひる 和希かずき
著者ちょしゃ情報じょうほう
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抄録しょうろく

日本にっぽんにおける福祉ふくし地理ちりがくは,少子しょうし高齢こうれいとサービス経済けいざいという社会しゃかい環境かんきょう変化へんかおうじて,おも介護かいご保育ほいくというふたつの福祉ふくしサービスの領域りょういきにおいて議論ぎろんすすめられてきた。1990年代ねんだいまではいずれも施設しせつ最適さいてき立地りっち近接きんせつせい自治体じちたいあいだのサービス需給じゅきゅう格差かくさ検討けんとうされてきたが,介護かいご保険ほけん制度せいど児童じどう福祉ふくしほう改正かいせいつうじた規制きせい緩和かんわ制度せいど改革かいかくによる福祉ふくし供給きょうきゅう体制たいせい再編さいへんけ,よりミクロなスケールにおける福祉ふくしサービス需給じゅきゅう地域ちいきあつかった研究けんきゅう蓄積ちくせきされている。

 介護かいご保育ほいくといった福祉ふくしサービスは広義こうぎにはケア・サービスとして位置付いちづけられ,英語えいごけんでは「ケアの地理ちりがく」(Geography of care)のなかであつかわれ,発展はってんしてきた。ほん報告ほうこくでは,英語えいごけんにおける1990年代ねんだい以降いこうの「ケアの地理ちりがく」の研究けんきゅう動向どうこう概観がいかんするとともに,今後こんご日本にっぽんにおける研究けんきゅう課題かだい考察こうさつする。

 「ケアの地理ちりがく」は,施設しせつ家庭かていにおいておこなわれるケアの実践じっせんによってつくされる特定とくてい空間くうかん社会しゃかい構造こうぞう着目ちゃくもくしており,分野ぶんやとしての登場とうじょうおおむね2000年代ねんだい以降いこうであった。福祉ふくしサービス需給じゅきゅうかんする研究けんきゅうは,1990年代ねんだいまではおも医療いりょう地理ちりがく(Medical Geography)の分野ぶんや蓄積ちくせきされており,福祉ふくし国家こっか転換てんかんともな医療いりょう保健ほけんサービスのリストラクチャリングや地方ちほう分権ぶんけんつうじて顕著けんちょとなった,行政ぎょうせいいき単位たんいでの医療いりょう福祉ふくしサービスの需給じゅきゅう格差かくさあきらかにされた。

 一方いっぽう,2000年代ねんだい以降いこう研究けんきゅうでは,福祉ふくし供給きょうきゅう体制たいせい変化へんかともない,しん自由じゆう主義しゅぎにおける家庭かていでのケア責任せきにんやケア労働ろうどうのジェンダーてき側面そくめんつよ指摘してきされるようになった。ワークフェアの趨勢すうせいのなかでどもや高齢こうれいしゃへのケアは家庭かてい領域りょういきへともどされることとなり,ケアのしゅたるになである女性じょせいのワークライフバランスの確立かくりつ困難こんなんである状況じょうきょう示唆しさされている。

 近年きんねん動向どうこうとしては,おもにケア労働ろうどうりょく移動いどう供給きょうきゅう焦点しょうてんてられ,グローバル・ケア・チェーンの拡大かくだいげられる。とくにケア労働ろうどうりょくとしての移民いみんく,格差かくさ搾取さくしゅかんする問題もんだい注目ちゅうもくされつつある。また,女性じょせい労働ろうどう市場いちば参入さんにゅう強化きょうかとともに,ケア・さい生産せいさん活動かつどうかんする女性じょせい意思いし決定けってい政策せいさくにより統制とうせいされ,個人こじん就労しゅうろう生活せいかつ経済けいざい基盤きばん不安定ふあんていとなりつつあるなかで,家族かぞく親族しんぞくあいだでのケアの実践じっせんやインフォーマルなケアサービスの必要ひつようせいわれつつある。

 欧米おうべいではケアのになとしての移民いみん労働ろうどうりょく所与しょよ存在そんざいであり,移民いみんケア労働ろうどうしゃ移動いどう労働ろうどう問題もんだいかんする論考ろんこうおお見受みうけられる。くわえてしん自由じゆう主義しゅぎにおける福祉ふくし供給きょうきゅう体制たいせい再編さいへんにより,家族かぞく内外ないがいでのケア責任せきにんやインフォーマルな支援しえん強化きょうか議論ぎろんされている。同様どうよう日本にっぽん福祉ふくし供給きょうきゅう体制たいせい規制きせい緩和かんわつうじて民間みんかん参入さんにゅうとう活発かっぱつしたが,これは結果けっかとして外部がいぶサービスに依存いぞんするかたちでケアの社会しゃかいすすめた。

 喫緊きっきん政策せいさく課題かだいとしてげられるケア労働ろうどうりょく確保かくほについても,外部がいぶサービス需要じゅよう前提ぜんていとした専門せんもんしょくとしての労働ろうどうりょく焦点しょうてんてられている。今後こんごはこのような外部がいぶサービスのにな専門せんもんしょくとしてのケア労働ろうどうりょく需給じゅきゅう構造こうぞう影響えいきょうあたえる,労働ろうどうしゃ主体性しゅたいせい考慮こうりょすることが必要ひつようであるといえる。また家族かぞく世帯せたい構造こうぞう地域ちいきせいくわえ,ケアを文化ぶんか制度せいど規範きはんといったよりミクロな地域ちいきてき文脈ぶんみゃく追究ついきゅうすることで,かく家庭かていにおける育児いくじ介護かいご戦略せんりゃくといった「ケアの実践じっせん」の全体ぜんたいぞうとらえ,労働ろうどう市場いちばやサービス市場いちばとの関係かんけいせいあきらかにしていくことももとめられる。

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© 2019 公益社こうえきしゃだん法人ほうじん 日本にっぽん地理ちり学会がっかい
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