【中国ちゅうごく映画えいがコラム】なぜ「リトル・フォレスト」が大人気だいにんきなのか？“TOP250”から読よみ解とく、中国ちゅうごくでウケる映画えいがの傾向けいこう

第だい18回かいに続つづき、ソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」の話はなしを続つづけさせていただきます。前回ぜんかいは「Douban」の特徴とくちょうや歴史れきし、そして影響えいきょう力りょくをメインに紹介しょうかいさせていただきました。いかがでしたか？　映画えいが業界ぎょうかいに与あたえる影響えいきょう力りょくは、本当ほんとうに驚おどろくばかりです。今回こんかいは「Douban」の映画えいがに関かんするデータを見みてみましょう！　中国ちゅうごくの観客かんきゃくはどんな作品さくひんが好すきなのか？　好すきな日本にっぽん映画えいがは？　解説かいせついたしましょう！

「Douban」には、どのくらいのデータがあるのか――実じつはこの疑問ぎもん、中国ちゅうごくでも度々たびたび話題わだいになっているんですが、現時点げんじてんでは公式こうしき発表はっぴょうはありません。だから、数字すうじはずっと謎なぞのまま。噂うわさによれば、映画えいがに加くわえて、ドラマ、テレビアニメなどを含ふくめると、総計そうけい10万まんの作品さくひんページが作つくられているらしいです。いずれにせよ、巨大きょだいなデータベースであることは間違まちがいありません。

まずは“巨大きょだいデータの迷宮めいきゅう”の核かくともいえるオールタイムベスト（映画えいが版ばん）を見みてみましょう。「Douban」は、世界せかい最大さいだい級きゅうの映画えいがデータベース「IMDb」と同おなじく、各かく作品さくひんの点数てんすう、鑑賞かんしょう人数にんずうなどのデータを総合そうごう的てきに判断はんだんし、TOP250のランキングをリアルタイムで更新こうしんし続つづけています。これをチェックすれば、中国ちゅうごくの観客かんきゃくが好すきな映画えいが作品さくひんを把握はあくすることができますし、傾向けいこうも分析ぶんせきできます。まずは、TOP10（6月がつ20日はつか時点じてん）をチェックしてみましょう！

この結果けっか、実じつは「IMDb」のランキング（https://www.imdb.com/chart/top）とかなり違ちがうんです。最もっとも大おおきな特徴とくちょうは、作品さくひんの公開こうかい年ねんが、全すべて“1990年代ねんだい以降いこう”であること。最もっとも古ふるい作品さくひんの「さらば、わが愛あい　覇王はおう別べつ姫ひめ」でさえ、93年ねん公開こうかい（日本にっぽんは94年ねん公開こうかい）。ある意味いみ、中国ちゅうごく市場いちばの“若わかさ”の証明しょうめいでもあります。「IMDb」TOP10の常つね連作れんさく「ゴッドファーザー」「十じゅう二に人にんの怒おこれる男おとこ」が入はいっていない代かわりに、中国ちゅうごく、フランス、イタリア、日本にっぽんの作品さくひんが、それぞれ1本ほんずつランクイン。ハリウッド映画えいが主導しゅどうの「IMDb」と比くらべると、より“国際こくさい的てき”と言いえます。とはいえ、TOP250の全すべてを確認かくにんしてみると、一番いちばん作品さくひん数すうが多おおいのはハリウッド映画えいがとなっています。

写真しゃしん：AFLO

「ショーシャンクの空そらに」は、最早もはや説明せつめい不要ふようですよね。殿堂でんどう入いりの名作めいさく。長年ながねん「IMDb」の1位いに君臨くんりんしています。映画えいがに興味きょうみを持もった人ひとであれば、大抵たいてい見みているはずです。「Douban」の作品さくひんページでは、約やく300万まん人にんが“見みた”をチェックし、点数てんすうは満点まんてんに近ちかい9.7。6位いの「タイタニック（1997）」には、逸話いつわがあるんです。97年ねんの中国ちゅうごく映画えいが市場いちばは、年間ねんかん100億おく円えん程度ていどの小規模しょうきぼな市場いちばでしたが、当時とうじの年間ねんかん興きょう収おさむの約やく3割わりが「タイタニック（1997）」の稼かせぎによるもの。同どう作さくがきっかけとなり、多おおくの人々ひとびとが初はじめて映画えいが館かんで映画えいがを見みることになりました。つまり、中国人ちゅうごくじんとっての“映画えいがとの最初さいしょの邂逅かいこう”と言いってもいいでしょう。

写真しゃしん：Everett Collection/アフロ

写真しゃしん：Photofest/アフロ

3位いの「フォレスト・ガンプ　一期一会いちごいちえ」、8位いの「シンドラーのリスト」ですが、実じつは中国ちゅうごくで一般いっぱん公開こうかいされていません。ですが、海賊版かいぞくばんの黎明れいめい期きである90年代ねんだいに見みることができました。この体験たいけんは、おそらくアメリカ人じんが「ゴットファーザー」を見みた時ときと同おなじような特別とくべつなものだったので、中国人ちゅうごくじんの記憶きおくの奥おくに残のこされているのでしょう。これは、4位いの「レオン（1994）」にも言いえること。初はじめて大衆たいしゅうが知しることができたフランス映画えいが――“永遠えいえんの13歳さい”ナタリー・ポートマンの笑顔えがおを、中国ちゅうごくの映画えいがファンは一生いっしょう忘わすれることができないんです。

2位い「さらば、わが愛あい　覇王はおう別べつ姫ひめ」は、年としを重かさねるごとに“伝説でんせつ化か”が進すすんでいます。現時点げんじてんで唯一ゆいいつのカンヌ国際映画祭かんぬこくさいえいがさいパルムドールを獲得かくとくした中国ちゅうごく映画えいが。レスリー・チャンの名演めいえん。多おおくの中国人ちゅうごくじんが“史上しじょう最高さいこうの中国ちゅうごく映画えいが”として認みとめています。新作しんさく「TENET テネット」が控ひかえるクリストファー・ノーラン監督かんとくは、中国ちゅうごくでは「メメント」の時点じてんで注目ちゅうもくを集あつめ、「ダークナイト」で人気にんきが爆発ばくはつ。9位い「インセプション」で“神かみの領域りょういき”に入はいり、TOP250には7本ほんの作品さくひんがランクイン。監督かんとく別べつランキングでは、堂々どうどうの1位い。ノーラン監督かんとくの新作しんさくは、1年ねんのなかで最もっとも注目ちゅうもくされる作品さくひんになるんです。

実じつはもうひとり、TOP250に7本ほんの作品さくひんが入はいった監督かんとくがいます。中国ちゅうごくでは“アニメの神様かみさま”とも呼よばれている宮崎駿みやざきはやお監督かんとくです。19年ねんに初はじめて一般いっぱん公開こうかいされた「千せんと千尋ちひろの神隠かみがくし」は、18年ねんに上映じょうえいされた「となりのトトロ」（1億おく7368万まん元げん：27億おく6000万まん円えん）を抜ぬき、4億おく8800万まん元げん（75億おく6000万まん円えん）を記録きろく。同年どうねんに中国ちゅうごくで公開こうかいされた日本にっぽん映画えいがの興きょう収おさむ1位いとなりました。

「千せんと千尋ちひろの神隠かみがくし」も「となりのトトロ」も、中国ちゅうごくではリアルタイムでの公開こうかいが実現じつげんしていません。これまで“宮崎みやざきアニメ”を鑑賞かんしょうするには、海賊版かいぞくばんというルートを頼たよるしかなかったんです。ジブリ作品さくひんに魅みせられた人々ひとびとの口くちコミはどんどん広ひろがり、「千せんと千尋ちひろの神隠かみがくし」の作品さくひんページには200万まんの“見みた”が付つき、21位い「となりのトトロ」、39位い「天空てんくうの城しろラピュタ」、41位い「ハウルの動うごく城しろ」も、既すでに100万まん超こえの“見みた”となっています。当とうコラムの第だい3回かい「『千せんと千尋ちひろの神隠かみがくし』中国ちゅうごく大だいヒットのポイントは“18年ねん前まえの旧作きゅうさく”という背景はいけい」（https://eiga.com/extra/xhc/3/）には、海賊版かいぞくばんで作品さくひんを見みていた人々ひとびとが“再ふたたび劇場げきじょうに訪おとずれた理由りゆう”を記しるしているので、是非ぜひ読よんでみてください！

ジブリ作品さくひんのランクインは、予想よそう通どおりだと思おもいます。実じつはここからが面白おもしろい。TOP250には、日本にっぽん映画えいがが32本ほんも入はいっています。これは、国くに・地域ちいき別べつで考かんがえてみると、アメリカに次つぐ2位い。中国ちゅうごく（21本ほん）、香港ほんこん（24本ほん）、韓国かんこく（10本ほん）よりも入選にゅうせん本数ほんすうが多おおいんです。日本にっぽん映画えいがのうち、世界せかい的てきに評価ひょうかも高たかいアニメ作品さくひんが半数はんすうの16本ほん。特筆とくひつすべきは、中国ちゅうごく国内こくないでの一般いっぱん公開こうかいがなかなかヒットしづらい実写じっしゃ作品さくひんが16本ほんも入はいっている点てん。以下いかは、TOP250に入はいった日本にっぽん映画えいがの一覧いちらんです（更新こうしん日び：6月がつ20日はつか）。

黒澤くろさわ明あきら、小津おつ安あん二郎じろう、北野きたの武たけし、是枝これえだ裕和ひろかずといった世界せかい的てきな名匠めいしょうたちはもちろん、岩井いわい俊二しゅんじ、中島なかじま哲也てつやのランクインに関かんしても、以前いぜんからアジア圏けんで絶大ぜつだいな人気にんきを得えているので、意外いがいな結果けっかとは言いえません。

着目ちゃくもくすべきは「リトル・フォレスト　夏なつ・秋あき」「リトル・フォレスト　冬ふゆ・春はる」のランクインです。

日本にっぽんでは約やく30館かんで封切ふうぎられた同どう2作さくは、あまり話題わだいになったとは言いえませんでしたし、国内こくないの映画えいが賞しょうも無縁むえんでした。ですが「リトル・フォレスト」シリーズは、海外かいがいで非常ひじょうに人気にんきがあるんです。「リトル・フォレスト　夏なつ・秋あき」は、第だい62回かいサン・セバスチャン国際こくさい映画えいが祭さい、「リトル・フォレスト　冬ふゆ・春はる」は第だい65回かいベルリン国際こくさい映画えいが祭さいで上映じょうえいされました。韓国かんこくでも大人気だいにんきとなり、18年ねんには「リトル・フォレスト　春夏秋冬しゅんかしゅうとう」というタイトルでリメイクされています。

(C)2018 Daisuke Igarashi / Kodansha All Rights Reserved.

中国ちゅうごくでは一般いっぱん公開こうかいされていないのですが、海賊版かいぞくばんで“見みた”人にんたちは、ほぼ全員ぜんいんが大だい絶賛ぜっさん。「これこそ、私わたしたちが好すきな日本にっぽん映画えいが。好すきな日本にっぽん文化ぶんかだ」とコメントする人ひとが多おおかったんです。その口くちコミは、普段ふだん日本にっぽん映画えいがを見みない層そうにまで影響えいきょうを与あたえていました。「Douban」の作品さくひんページで“見みた”をチェックしたユーザーは、現時点げんじてんで2作さくとも約やく40万まん。なぜここまで愛あいされているのでしょうか？

「リトル・フォレスト」シリーズには、料理りょうりを作つくるシーンが頻出ひんしゅつします。グルメ作品さくひんが大好だいすきな中華ちゅうか圏けんの人々ひとびとは「見逃みのがす訳わけにはいかない」と感かんじたはす。アジアでは、グルメドラマ「孤独こどくのグルメ」「深夜しんや食堂しょくどう」が人気にんきを博はくしていますが、「リトル・フォレスト」の最大さいだいの魅力みりょくは、料理りょうりを食たべるシーンではないと思おもっています。世界中せかいじゅうの人々ひとびとに響ひびいたのは“料理りょうりができるまで”の内容ないよう。農村のうそんに暮くらしている人々ひとびとが、食材しょくざいを栽培さいばいし、収穫しゅうかくをする――この過程かていが、一番いちばんの見みどころとなったんです。

(C)2012 Sushi Movie, LLC

11年ねん、アメリカ製作せいさくのドキュメンタリー映画えいが「二郎じろうは鮨ずしの夢ゆめを見みる」（デビッド・ゲルブ監督かんとく）は、全ぜん世界せかいで“寿司すしブーム”を巻まき起おこしました。この作品さくひんは、寿司すし職人しょくにん・小野おの二郎じろうさんが握にぎる“至高しこうの寿司すし”が評価ひょうかされたというよりも、彼かれの“職人しょくにん精神せいしん”が世界中せかいじゅうの人々ひとびとに衝撃しょうげきを与あたえました。つまり「リトル・フォレスト」シリーズは、「二郎じろうは鮨ずしの夢ゆめを見みる」が得えた評価ひょうかと通つうじているものがあるんです。

「リトル・フォレスト」シリーズは、料理りょうり映画えいがという領域りょういきを超こえ、日本人にっぽんじんの“大だい自然しぜんに対たいする敬意けいい”が完璧かんぺきに描えがかれていたと感かんじています。なぜ中国人ちゅうごくじんは何なん度ども日本にっぽんに観光かんこうに来くるのでしょうか。なぜ、田舎いなかにまで足あしを運はこぶのでしょうか。日本にっぽんの文化ぶんかが、中国ちゅうごく、そして世界せかいに愛あいされている理由りゆうは「リトル・フォレスト」シリーズに詰つまっているんです。138位いのドキュメンタリー映画えいが「人生じんせいフルーツ」も、日本人にっぽんじん夫婦ふうふの老後ろうご生活せいかつが主題しゅだいとなっていますが、彼かれらの生いき方かたと価値かち観かんは、中国人ちゅうごくじんのみならず、海外かいがいの人々ひとびとにとっての理想りそう像ぞう。「日本にっぽんは、自分じぶんたちの桃源郷とうげんきょうだ」と感かんじる人ひとは、数多かずおおく存在そんざいしています。

(C)「リトル・フォレスト」製作せいさく委員いいん会かい

私わたしも海外かいがい出身しゅっしんですので、周まわりに日本にっぽんの文化ぶんかが好すきな人ひとがたくさんいます。日本人にっぽんじんの友達ともだちに「なぜ日本にっぽんの文化ぶんかが好すきなんですか」と聞きかれることがありますが、私わたしは「日本人にっぽんじんが“普通ふつう”だと思おもっていることは、海外かいがいでは非常ひじょうに素晴すばらしいことなのかも」と答こたえています。19年ねん、欧米おうべいで大だいヒットしたNetflixのリアリティ番組ばんぐみ「KonMari 人生じんせいがときめく片かたづけの魔法まほう」も、この事例じれいのひとつと言いえるでしょう。日本人にっぽんじんにとっては当あたり前まえの“片かたづける”という行為こういは、欧米おうべいからすると、全まったく異ことなる価値かち観かんの提示ていじでした。

ただ、個人こじん的てきに非常ひじょうに残念ざんねんだなと思おもう点てんもあります。それは、日本にっぽんの素晴すばらしさを紹介しょうかいする作品さくひんが“日本にっぽん発はつではない”というもの。寿司すしという日本にっぽんの国民こくみん食しょくが、アメリカのドキュメンタリーを通つうじて、世界せかいでブームを巻まき起おこす――ちょっと違和感いわかんを感かんじています。だからこそ「リトル・フォレスト」シリーズにおける日本にっぽんと海外かいがいの反響はんきょうの違ちがいにも、同おなじ思おもいを抱いだくんです。どのようにして“日本にっぽんの素晴すばらしさ”を世界せかいに送おくり出だすか――これが、日本にっぽん映画えいが界かいにとっての大おおきな課題かだいでもあり、ひとつの突破口とっぱこうとなるかもしれません。