【舞台ぶたい「トッツィー」レビュー】歓喜かんきのクオリティ!　美女びじょ優ゆうに扮ふんした山崎やまざき育いく三郎さぶろうが魅みせる「トッツィー」の高揚こうよう感かんが止とめられない！【若林わかばやしゆり　舞台ぶたい.com】

ホフマン扮ふんするマイケル・ドーシーは、演技えんぎの才能さいのうはあふれんばかりに持もっているのだが、演技えんぎへのこだわりが強つよすぎて周囲しゅういと協調きょうちょうできない中年ちゅうねん俳優はいゆう。相手あいての気持きもちより自分じぶんの演技えんぎや作品さくひんのクオリティが大事だいじという、度どを超こえた役者やくしゃバカであり演技えんぎオタクなのである。それが災わざわいして仕事しごとにあぶれた彼かれは、女おんな友達ともだちが落おちた昼ひるメロのオーディションに女装じょそうして乗のり込こみ、女おんな部長ぶちょう役やくをゲット。女優じょゆうドロシー・マイケルズになりきって周囲しゅういを騙だまし、成功せいこうしていくなかで、恋こいと葛藤かっとうが生うまれる。男女だんじょ入いれ替かえのドタバタ、葛藤かっとうと人間にんげんとしての成長せいちょう、性差せいさの現実げんじつと女性じょせい賛歌さんかを、ホフマンが徹底的てっていてきな職人しょくにん芸げいで演えんじきった快かい作さくだ。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

この作品さくひんが、ブロードウェイでミュージカルになった。初演しょえん開幕かいまくはコロナ禍かが劇場げきじょうを襲おそう直前ちょくぜんの、2019年ねん。映画えいがのミュージカル化か作品さくひんはブロードウェイに山やまとあるが、19年ねんのトニー賞しょうでは11部門ぶもんでノミネートを果はたすなど、大おおきな成功せいこうを収おさめた。このとき主演しゅえんを務つとめたのは、「アナと雪ゆきの女王じょおう」のプリンス役やくとして知しられるサンティノ・フォンタナ。しっかり主演しゅえん男優だんゆう賞しょうをさらっている。
そしてやっと、待まちに待まった日本にっぽん上陸じょうりく。今回こんかい、開幕かいまくに先さきがけゲネプロを観劇かんげきすることができたので、リポートしたい。最初さいしょに断言だんげんしよう。これは、大当おおあたり！　コメディ・ミュージカルが本来ほんらいもっているべきものを余あますところなく、過剰かじょうなまでにもっているザ・傑作けっさくコメディ・ミュージカルなのだ。しかも、海外かいがいオリジナルの翻訳ほんやくものにありがちな「笑わらえない残念ざんねん感かん」が一切いっさいない。作つくり手しゅと俳優はいゆうたち全員ぜんいんを称となえ、感謝かんしゃしたくなる仕上しあがりだ。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

まず、脚本きゃくほん・演出えんしゅつ、音楽おんがく、振付ふりつけ、衣装いしょうデザインといったスタッフの仕事しごとが素晴すばらしい。脚本きゃくほんは、Netflixの「ザ・ミュージカル」も手てがけたロバート・ホーン。音楽おんがくと歌詞かしは、ミュージカル版ばん「フル・モンティ」や「バンズ・ビジット　迷子まいごの警察けいさつ音楽おんがく隊たい」のデイビッド・ヤズベック。演出えんしゅつは、オリジナルでもアソシエート・ディレクターを務つとめたデイブ・ソロモン。映画えいがからミュージカルへのアダプテーションが、それは見事みごとなのである。その上うえ、主役しゅやくの山崎やまざき育いく三郎さぶろうを始はじめとする日本にっぽん版ばんキャストが全員ぜんいん、当あて書がきされたかのようにハマっていてうまい。聞きけば、山崎やまざきを含ふくむキャストすべてがオーディションによって選えらばれているんだそう。これも成功せいこうの大おおきな要因よういんだと思おもう。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

ストーリーや設定せっていは、大筋おおすじでは映画えいがと同おなじ。ただし時代じだいを踏ふまえてアップデートされ、ミュージカルでの表現ひょうげんにふさわしい改編かいへんが適切てきせつに施ほどこされている。大おおきな変更へんこうは、ドロシーがオーディションで役やくを掴つかむのがテレビの病院びょういんものソーブオペラ（昼ひるメロ）ではなく、「ロミオとジュリエット」をもとにしたミュージカルだということ。舞台ぶたいはテレビ界かいではなくブロードウェイだ。必然ひつぜんとして思おもいっきりミュージカルらしい王道おうどうミュージカルな構成こうせいになっており、それが楽たのしくてしかたない。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

ドロシーが掴つかんだのはジュリエットの乳母うば役やくだが、稽古けいこを重かさねるうちにアイディアが次々つぎつぎと採用さいようされ、ついにタイトルは「ジュリエットの乳母うば」に。前半ぜんはんの大だいナンバーが、劇げき中ちゅうの乳母うばが歌うたう「裏切うらぎらない」。「裏切うらぎらない、信頼しんらいに応こたえるわ、どんな役やくでも演えんじてみせる」と乳母うばがジュリエットへの思おもいを歌うたうのだが、これがマイケル／ドロシーの心情しんじょうでもあり、さらには山崎やまざきの決意けつい宣言せんげんまでもが重かさなって聞きこえてくるというわけだ。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

シーンの洗練せんれんされたムードづくりに、セットや場面ばめんのチェンジにと、若わかく実力じつりょくあるアンサンブルキャストたちを大だい活躍かつやくさせているのもいいし、音楽おんがくがすぐに覚おぼえられるほどキャッチーだから、リプライズでは脳のう内ないで一緒いっしょに歌うたえるのが楽たのしい。音楽おんがくと感情かんじょうたっぷりな歌詞かしに喜怒哀楽きどあいらくを呼よび覚さまされ、ストーリーと登場とうじょう人物じんぶつに没入ぼつにゅう、高揚こうよう感かんでいっぱいになる。これこそミュージカルの醍醐味だいごみだ。その醍醐味だいごみがこれでもか、というくらい詰つまっているのである。

1幕まくラストの大だいナンバー「止とめられない」もすごい。前半ぜんはんはマイケルで歌うたい、アンサンブルのパフォーマンスで間奏かんそうを繫いだ後のち、あっという間まにドロシーとして登場とうじょう、熱唱ねっしょう！　ここでも歌詞かしがダブル、トリプルの意味いみをはらんでワクワクドキドキを生うみ出だし、客席きゃくせきにあふれる高揚こうよう感かん、トキメキをもう止とめられない！

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

ジェンダー問題もんだいがより複雑ふくざつ化かし、意識いしきも変かわった現代げんだいだが、そこをあえて深ふか掘ほりしすぎていないのも潔いさぎよい。ブロードウェイでのジェンダー格差かくさ問題もんだい、女性じょせいへのリスペクトはきっちり出だしつつ、「ハッピーに笑わらって楽たのしめる」というコンセプトにあくまでも忠実ちゅうじつなラインを保たもった。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

ここでは社会しゃかい的てきメッセージより重視じゅうしされているのが、笑わらいだ。映画えいがはポラックによれば「撮影さつえい中ちゅう、笑わらいが起おこるようなことはまったくなかった」という。だが本ほん作さくは、記者きしゃ会見かいけんでキャストが口々くちぐちに「稽古けいこ場じょうに笑わらいが絶たえなかった」と証言しょうげん。翻訳ほんやくもので演出えんしゅつ家かが海外かいがいの人ひとだった場合ばあい、言葉ことばと文化ぶんかのギャップが笑わらいの邪魔じゃまをすることはよくある。アメリカン・ジョークをそのまま直訳ちょくやくしても、何なにが面白おもしろいのか謎なぞ、というモヤモヤが生うまれがち。しかし山崎やまざきを筆頭ひっとうに、今回こんかいのカンパニーは笑わらいへのこだわりがすごかった。マイケルと違ちがい協調きょうちょう性せいが豊ゆたかな山崎やまざきらは、みんなで何なん度ども「この言葉ことばではどうか、こっちのほうがいいんじゃないか」と会議かいぎを重かさねたという。その効果こうかがてきめんで、すんなり腑ふに落おち、ゲラゲラ笑わらえるのだ。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

さらに、変更へんこうされたキャラクター設定せっていが面白おもしろくてツボる。ドロシーにい寄いよる共演きょうえん者しゃは昼ひるメロの老ろうスターではなく、やたら素直すなおで筋肉きんにくバカなロミオ役者やくしゃ（ゲネプロでは岡田おかだ亮介りょうすけ、おばたのお兄にいさんとダブルキャスト）。恋こいする女優じょゆうジュリー（愛希あいきれいか）はシングルマザーではなく、ちょっぴり男おとこっぽさも感かんじさせるキャラクターになっていて、ある衝撃しょうげき的てきな決意けついをしてマイケルを（観客かんきゃくをも）驚おどろかせる。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

また、映画えいがではマイケルと一いち度どだけベッドをともにし、次つぎのデートを期待きたいし続つづけていた女おんな友達ともだちのサンディ役やく（テリー・ガーがコメディセンスを発揮はっき）は、感情かんじょうの起伏きふくが激はげしいマイケルの元もとカノとなり、昆こん夏美なつみが体当たいあたりのハイテンション（ときにヒステリー）演技えんぎで爆笑ばくしょうをさらう。そして、ジェフ役やくの金井かない勇太ゆうただ。映画えいがで独特どくとくの味あじを出だしていたビル・マーレイの、いかにもマーレイらしい脱力だつりょく感かん。なんともいえない「間あいだ」のおかしみが、日本人にっぽんじんの感性かんせいで完璧かんぺきに表現ひょうげんされているのだ。たとえば、マイケルと顔かおを合あわせて「…………」。しばらく言葉ことばが出でてこない、放送ほうそう事故じこのような時間じかんのおかしさ！　歌うたもうまい。このほか全員ぜんいんが、キャラもセリフも間合まあいも顔かお芸げいも、最高さいこう。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

しかしなんといっても、大だい成功せいこうの立役者たてやくしゃは山崎やまざきだ。映画えいがは、実際じっさいに演技えんぎオタクであるホフマンの技量ぎりょうが全編ぜんぺんを支ささえていて、ほとんど「ダスティン・ホフマン映画えいが」と言いっても過言かごんではない作品さくひん。ホフマンの外見がいけんは普通ふつうのオッサンで、中性ちゅうせい的てきでも少年しょうねんっぽい感かんじでもない。それがドロシーに化ばけるのが圧巻あっかんだった。2時間じかん以上いじょうかけて剃ぞ毛けとメイクをして、完璧かんぺきに変身へんしんしてみせた。もともと、彼かれが前作ぜんさく「クレイマー、クレイマー」で、離婚りこんによって息子むすこの父親ちちおやと母親ははおや、両方りょうほうの役割やくわりを担になうハメになる男おとこを演えんじたことが、企画きかくの始はじまりだった。つまりホフマンのための当あて書がきであり、彼かれの意見いけんが濃厚のうこうに反映はんえいされた役やく。ホフマンが「自分じぶんのなかにあった女性じょせい蔑視べっしに気きづかされ、多おおくを学まなんだ」この作品さくひんは、それゆえ「自分じぶんにとってはコメディではない」と語かたられた。

この役やくが山崎やまざきによって、ホフマンとはまったく違ちがった輝かがやきと魅力みりょくを放はなっている。山崎やまざきにはもともと中性ちゅうせい的てきなムードがあり、華奢きゃしゃで体毛たいもうも濃こくない。女装じょそうだって「プリシラ」などで経験けいけん済ずみ。想像そうぞうがつく、と思おもうかもしれない。しかし、彼かれはふたつの面めんで説得せっとく力りょくと意外いがい性せいを強つよく印象いんしょうづけた。ひとつは、山崎やまざきにはやさしげな風貌ふうぼうや物腰ものごしとはかけ離はなれた「男おとこっぽさ」があるということ。責任せきにん感かん、座長ざちょうとしてみんなを率ひきいるリーダーの資質ししつ、有ゆう言げん実行じっこうの姿勢しせいなど、彼かれの言葉ことばを聞きけばわかる個性こせいが、この役やくで生いきている。「エリザベート」のルキーニを演えんじたときより、今回こんかいのマイケルの方ほうがリアルに男おとこっぽく、色いろっぽいと感かんじる。ふたつめは、彼かれの化ばけたドロシーが、実際じっさいに女性じょせいだと信しんじられて、女性じょせいとして魅力みりょく的てきだと思おもえること！　ブロードウェイ版ばんのフォンタナがこの役やくに選えらばれた理由りゆうのひとつが「喉仏のどぼとけが目立めだたない」ことだったというが、山崎やまざきの首くびにも喉仏のどぼとけは見当みあたらない。肌はだのきめは細こまかく、しかも膝下ひざもとのほっそりとした脚線美きゃくせんびは、女性じょせいでも嫉妬しっとを覚おぼえるほど。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

その山崎やまざきがほぼ出でずっぱり、出でていないときは舞台裏ぶたいうらで汗あせだくなのが想像そうぞうつくほどの早さ着替きがえと、フル回転かいてんで観客かんきゃくを魅了みりょうする。彼かれのマイケルはホフマンほどオタクっぽさや変人へんじんくささはないものの、ドロシーになりきる力ちからはホンモノだ。冒頭ぼうとうや、同居どうきょする親友しんゆうジェフの前まえでは「あまりイケていない、苛立いらだっている男性だんせい」だが、騙だまさなければいけない共演きょうえん者しゃの前まえでは、指先ゆびさきに至いたるまで力ちからを抜ぬかず、全身ぜんしんに「チャーミングな女性じょせい」をみなぎらせる。本気ほんきで、すごくかわいい。このギャップを演技えんぎと早着そうちゃく替かえ、そして高音こうおんと低音ていおん、声こえの使つかい分わけによって見事みごとに表現ひょうげん。マイケルとドロシーを行おこなったり来きたりする彼かれの姿すがたは、圧巻あっかんでありながらお腹なかを抱かかえて笑わらい転ころげたくなる。本物ほんもののお笑わらい芸人げいにんたち（おばたとエハラマサヒロ）に「面白おもしろすぎ」と太鼓判たいこばんを押おされた山崎やまざき、恐おそれるべしである。そして笑わらいのなかでハッとさせられる真実しんじつ、心しんの動うごき、成長せいちょうが読よみ取とれ、グッとくることも間違まちがいない。カラフルな要素ようそが心しんを揺ゆさぶり、温あたためてくれるのだ。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり

ネタバレは避さけるが、映画えいがを愛あいする人ひとにとっても、ラストシーンは心しんに残のこるものになるはず。映画えいがを見みていない人ひとも、舞台ぶたいを見みたことがない人ひとも、この作品さくひんでハッピーな観劇かんげき体験たいけんをして、ぜひ、心しんにパワーとエネルギーをもらってほしい。必見ひっけんだ。

ミュージカル「トッツィー」は1月がつ30日にちまで東京とうきょう・日生劇場にっせいげきじょうで上演じょうえん中ちゅう。その後ご、2月がつ5日にち～19日にちに大阪おおさか・梅田うめだ芸術げいじゅつ劇場げきじょうメインホール、2月がつ24日にち～3月がつ3日にちに名古屋なごや・御園座みそのざ、3月8日にち～24日にちに福岡ふくおか・博多はかた座ざ、3月29日にち～30日にちに岡山おかやま・岡山おかやま芸術げいじゅつ劇場げきじょうで上演じょうえんされる。詳くわしい情報じょうほうは公式こうしきサイト（https://www.tohostage.com/tootsie/）で確認かくにんできる。

撮影さつえい：若林わかばやしゆり