【試乗しじょう記き】ホンダN-BOX（FF/CVT）／N-BOXカスタムターボ（FF/CVT）

2023.11.24 07:00

ホンダN-BOX（FF/CVT）／N-BOXカスタムターボ（FF/CVT）

これぞ横綱よこづな相撲すもう

「ホンダ N-BOX」がフルモデルチェンジ。3代目だいめとなる新型しんがたにも国内こくない販売はんばいナンバーワンの座ざの死守ししゅが求もとめられていることは間違まちがいない。シャシーやエンジンをはじめとした基本きほんコンポーネンツはすべてキャリーオーバーとのことだが、果はたしてその仕上しあがりは？

定番ていばんゆえに高たかくても売うれる

N-BOXといえば今いまやホンダの国内こくない販売はんばいを支ささえる大黒柱だいこくばしらにして、真しんの国民こくみん車しゃといえる存在そんざいだ。前者ぜんしゃはまあまあ切せつないが、後者こうしゃは誇ほこるべきファクトではないだろうか。同どうカテゴリーでは「タント」や「スペーシア」も抑おさえつつ、登録とうろく車しゃでは束たばでかかってくる「ヤリス」シリーズも跳はねのけての1番ばんを年次ねんじではしっかり守まもり続つづけている。こうなってくるともう日にち清しんの「カップヌードル」やキユーピーの「マヨネーズ」。永谷園ながたにえんの「お茶漬ちゃづけ」のようなもので、軽けいスーパーハイトワゴンという国民こくみん的てき総意そういにおいて、N-BOXが脊椎せきつい反射はんしゃ的てきな選択肢せんたくしということになるだろうか。

ここまでの境地きょうちに至いたると、販売はんばいの側がわも強気つよきに策さくが練ねれる。スーパーのチラシを見みていると、カップヌードルの値段ねだんは特売とくばい扱あつかいでさえ同業どうぎょう他社たしゃの縦たてカップ銘柄めいがらと同等どうとう以上いじょうだ。それであっても買かいたいと思おもわせる理由りゆうは、味あじや量りょうも含ふくめて慣なれ親したしんだ安心あんしん感かんや信頼しんらい感かんといったところが大おおきいのだろう。新あたらしいN-BOXも抱かかえているたくさんのリピーターの買かい替かえを重視じゅうしし、満足まんぞく度どをさらに高たかめるべくグレードを上位じょういシフトしたうえで同等どうとう装備そうびのライバルに対たいして5万まん〜10万まん円えんは高たかめの値ねづけとなっている。その差さは中身なかみにしっかり反映はんえいされているとエンジニア陣じんは自信満々じしんまんまんだ。こうなるとじかに前線ぜんせんで対峙たいじ（たいじ）するダイハツやスズキの大変たいへんぶりもお察さっしするところでもある。

そんなN-BOXのフルモデルチェンジ……といわれても、発表はっぴょうされた写真しゃしんを見みるにつけ、あんまり代かわり映ばえしない印象いんしょうだ。現物げんぶつを目まの当あたりにしても、もしかして前ぜんまわりはガラス面めんも変かわっていない、上屋うわやもママイキ（注ちゅう：そのままいってくださいという校正こうせい用語ようごです）って感かんじだろうかと思おもいつつ尋たずねてみると、ガラスは取とり付つけ点てんの関係かんけいもあって厳密げんみつには型番かたばんは変かわっているものの基本きほん的てきには同どうじ、なんならルーフパネルも一緒いっしょですとのこと。いわば「ゴルフ」が5から6になったときのような、限かぎりなくマイナーチェンジ的てきなフルモデルチェンジという見方みかたもできるのかもしれない。

面白おもしろいのは開発かいはつ陣じんが特段とくだんそれを隠かくす様子ようすもないことだ。聞きけば「そもそも基本きほん車台しゃだいやパッケージに関かんしては無理むり繰くり変かえる必要ひつようもないくらいご満足まんぞくをいただいているという判断はんだんがありまして、そのぶん中身なかみの熟成じゅくせいに時間じかんを費ついやすのがいいという話はなしに至いたりました」と仰おおせるが、その話はなし、まさにそのとおりだろう。自分じぶんが選えらぼうとしているのは、維持いじ費ひもお得とくな軽けいなんだと認識にんしきしている大人おとなならば、さすがにもっと広ひろくと無慈悲むじひな要求ようきゅうをする者ものもいるまい。

薄化粧うすげしょうが最新さいしんのトレンド

でも、ひたすら使つかい勝手がってのいいハコが欲ほしいというニーズのために、なんなら「iPhone SE」のようなエッセンシャルモデルとして前まえ型がたをそのまんま、ちょっとお安やすく売うってくれるなどすれば、むしろそっちのほうが人気にんきが出でそうな気きがしなくもない。なにせ前まえ型がたは新型しんがたへとバトンタッチする2023年ねん9月がつまで、国内こくない販売はんばいの頂点ちょうてんにいたわけである。

が、結論けつろんを先さきに言いえば新型しんがたN-BOX、見みて乗のってやっぱりうならされることになった。しかもそれは、主おもにわれわれのようなクルマ好すきにとっての利得りとくという面めんでの話はなしだ。

エクステリアは前まえ型がたの面影おもかげを強つよく漂ただよわせつつも、よりスキッとミニマルに仕上しあがった。そういう点てんでは標準ひょうじゅん車しゃより「カスタム」のほうが変かわり幅はばは広ひろく、メッキ等とうの加か飾かざり要素ようそはかなり整理せいりされた印象いんしょうだ。これならギリギリ辛抱しんぼうできるかなというオジさんがいたとしたら、それはまんまとホンダの術中じゅっちゅうにハマっていて、実じつは新型しんがたN-BOXカスタム、マイカーのダウンサイジング層そうの嗜好しこう（しこう）をくんでちょっと薄うす化粧けしょう気味ぎみに仕上しあげているそうだ。思おもえば先日せんじつ投入とうにゅうされた「スペーシアカスタム」も、顔面がんめんまわりの光沢こうたく加か飾かざりは控ひかえめになった。もっと圧あつ高たかめで！という向むきにはディーラーオプションできっちり盛もってくださいという趣向しゅこうなのだろう。

新型しんがたのN-BOXで最もっとも大おおきく変かわったように見みえるのはインテリアではないだろうか。ダッシュまわりはガラリと一新いっしんされ、前後ぜんご席せき間あいだや後こう席せき左右さゆう端はしのクリアランスなどは骨格こっかくレベルでは変かわらずとも、トリム形状けいじょうや臓物ぞうもつの移動いどうなど隅すみをたたいてコツコツと広ひろげている。結果けっか的てきに後こう席せきの脇わきには肘ひじまわりから肩かたまわりにかけて余裕よゆうが生うまれた。前ぜん席せきもメーターをステアリングのサークル内ないから見みせる視線しせん構成こうせいでダッシュボード形状けいじょうがピシッと水平すいへい基調きちょうとなったことで、視界しかい的てきな開放かいほう感かんはうんと高たかまっている。加くわえてピラーのインナートリムや補助ほじょミラーの形状けいじょうからも死角しかくの低減ていげんに気きづかっているのがホンダのクルマらしいところだ。

高速こうそく移動いどう時じの快適かいてき性せいをブラッシュアップ

最初さいしょの取材しゅざい車しゃは丸まる目めのベースモデル。エンジンやトランスミッションは前まえ型がたをキャリーオーバーしつつ、チューニングを新型しんがた向むけに整ととのえている……と、ここで個人こじん的てきに気きになっていたのが、新型しんがたN-BOX、ターボがカスタムのみの設定せっていとなったことだ。なんでわざわざそんな偏狭へんきょう仕様しようにするわけよ……と尋たずねてみると答こたえは明快めいかい。前ぜん型かた実績じっせきでベースモデル＋ターボの比率ひりつはわずか8％だったからだという。思おもえばスズキのスペーシアも、ベースモデルにターボは設定せっていされていない。これもまた多数決たすうけつによる総意そういなのだ。

諸しょ事情じじょうで地方ちほうに行いく機会きかいが増ふえたものだから、個人こじん的てきにはこの総意そういもよく分わかる。郊外こうがいに流ながれのいいバイパスが整備せいびされる一方いっぽうで、インフラがそのままの狭せまい市街しがい路ろでは、軽けいトラをペースメーカーに50km/hで流ながれればまだマシというトラフィックが大半たいはんだ。高速こうそく道路どうろもないし、あってもバイパス走はしれば到着とうちゃく時間じかんに大差たいさはないからETCも要いらないし……と、それが日常にちじょうであれば、もはやターボは“イキリ”向むけという市場いちばの反応はんのうは、軽自動車けいじどうしゃでは大勢おおぜいとなりつつあるのだろう。

一方いっぽうで、エンジニアたちが新型しんがたN-BOXで意識いしきしたのは高速こうそく移動いどう時じの快適かいてき性せいだという。100〜120km/hのレンジでもしっかりスタビリティーを確保かくほしつつ快適かいてきに移動いどうできること。果はたしてそれは軽けいの実情じつじょうに対たいしてトゥーマッチではないか。そもそも高速こうそくとか乗のらないって人ひとも多おおいだろうし……と、走はしりだしてみたらその動的どうてき質感しつかんの伸のびっぷりにびっくりした。路面ろめんからのフィードバックはきれいになましてある一方いっぽうで、操舵そうだ感かんは手応てごたえが増まし、クルマの動うごきもリニアに引ひき出だせる。リニアといえばパワートレインの側がわもしかりで、自然しぜん吸気きゅうきでもエンジンがすぐに無駄むだぼえするようなしぐさは抑おさえられている。そして静粛せいしゅく性せいは前まえ型がたとの差さが最もっとも分わかりやすいところだろう。

それでも中ちゅう高速こうそく域いきになるとさすがに苦くるしいだろうなと高速こうそくに乗のってみると、本線ほんせん合流ごうりゅうでも回転かいてんを抑おさえ気味ぎみにしながらするすると速度そくどを高たかめていき、周囲しゅういの流ながれに乗のるような速度そくど域いきでもエンジンが派手はでにうなるような癖くせはやはり控ひかえめだ。さすがに80km/hを超こえると車くるま格かくに重量じゅうりょうに空そら力りょく的てきな抵抗ていこうにと、それらがモロにかぶさってくるからスイスイと前まえに進すすむというわけにはいかない。それでも乗のり心地ごこちや音おと環境かんきょう的てきには100km/hくらいまでは快適かいてきにクルーズできる。

すべてがピタッと丸まるく収おさまった

取材しゅざい当日とうじつは無風むふうに近ちかいコンディションだったので、高速こうそく道路どうろでもスタビリティーに課題かだいは感かんじなかった。そしてもうひとつ驚おどろかされたのがコーナリングのマナーが随分ずいぶんと変かわったことだ。以前いぜんは一定いっていのGを超こえるとロールが急きゅうに大おおきくなって心こころもとない感かんがあったが、新型しんがたではロールの始はじまりがより低速ていそく域いきになったものの、そこからロールの量りょうが比例ひれい的てきに推移すいいするようになったうえで、リアサスの踏ふん張ばり感かんも明瞭めいりょうに感かんじられるようになった。

要ようはドライバーの感覚かんかくとより相違そういなく車体しゃたいが動うごくようになったことで、乗員じょういんの安心あんしん要素ようそがぐっと増ましたという感かんじだろうか。この傾向けいこうはターボのほうがより明瞭めいりょうに見みてとれる。なんなら先代せんだいではターボだろうがなんだろうがちょっと躊躇ちゅうちょ（ちゅうちょ）させられた120km/h巡航じゅんこうも新型しんがたのターボなら楽らくにこなせるだろう。でも、乗のり心地ごこちや静粛せいしゅく性せいは明確めいかくに自然しぜん吸気きゅうきに劣おとるのもまた確たしかだ。ターボであれ高速こうそく道路どうろの経済けいざい速度そくどは100km/hで、そこから向むこうは車くるま重じゅうや空そら力りょくのあしかせが二に次じ曲線きょくせん的てきに響ひびいて効率こうりつが低下ていかしてしまうことに鑑かんがみれば、実じつは新型しんがたN-BOXの白眉はくび（はくび）は自然しぜん吸気きゅうきのベースモデルなのではないかと、自分じぶんでも想像そうぞうがつかない方向ほうこうに結論けつろんが転ころんでしまった。

2022年ねんの先代せんだいN-BOXのインプレで書かいたところがあらかた改善かいぜんされていた新型しんがたN-BOX。根本こんぽん的てきなソリューションは全部ぜんぶキャリーオーバーなのに、なんでこんなにガラリと進化しんかしたのか。それをエンジニアに聞きいてみるも、なにか決定的けっていてきな一いち打だはないという。逆ぎゃくに言いえば前述ぜんじゅつのとおり、初代しょだいの鉱脈こうみゃくをより広ひろげるべく何なにもかもを刷新さっしんした先代せんだいでは、やはり手数てかず的てきにも詰つめきれていなかったところを新型しんがたにしっかり反映はんえいできた、いわば熟成じゅくせい的てきなところが大おおきいという。エンジンだって抜本ばっぽん的てきな音おと・振動しんどう対策たいさくは加くわえていないファインチューンだし、ステアリングコラムなど部位ぶいごとの増強ぞうきょうはあれどハコ自体じたいの剛性ごうせいは大差たいさない。むしろそこには必死ひっしにこだわらないつくり込こみを重かさねてきたら、静粛せいしゅく性せいも含ふくめたすべてがピタッと丸まるく収おさまったそうだ。

そんな奇跡きせきの惑星わくせい直列ちょくれつはクルマづくりにおいてあり得えない話はなしではない。具体ぐたい的てきに説明せつめいしてもらえないけれども、基本きほんは前まえ型がたと同おなじ材料ざいりょうなのに、なんでこんなによくなっちゃったんだよというゴルフ6みたいな事例じれいは自分じぶんでも幾いく度どか体験たいけんしてきた。

軽自動車けいじどうしゃとしての大義たいぎはここにはないという個人こじん的てきな思おもいは今いまも変かわらない。やはり900kg級きゅうの車体しゃたいを660ccで引ひっ張ぱるという軽けいスーパーハイトワゴンの避さけられない状況じょうきょうそのものがかなり不健康ふけんこうではあるとは思おもう。でも、その限かぎられた体積たいせきと排気はいき量りょうのなかでどれだけ進化しんかを見みせられるかという切磋琢磨せっさたくま（せっさたくま）には敬意けいいを表ひょうするほかない。自分じぶん自身じしん、N-BOXを買かうなら自然しぜん吸気きゅうきかなあと思おもうときがくるとは思おもわなかった。

（文ぶん＝渡辺わたなべ敏史としふみ／写真しゃしん＝向後こうご一宏かずひろ／編集へんしゅう＝藤沢ふじさわ勝まさる）

テスト車しゃのデータ

ホンダN-BOX

ボディーサイズ：全長ぜんちょう×全幅ぜんぷく×全高ぜんこう＝3395×1475×1790mm
ホイールベース：2520mm
車くるま重じゅう：910kg
駆動くどう方式ほうしき：FF
エンジン：0.66リッター直じき3 DOHC 12バルブ
トランスミッション：CVT
最高さいこう出力しゅつりょく：58PS（43kW）/7300rpm
最大さいだいトルク：65N・m（6.6kgf・m）/4800rpm
タイヤ：（前まえ）155/65R14 75S／（後ご）155/65R14 75S（ダンロップ・エナセーブEC300）
燃費ねんぴ：21.6km/リッター（WLTCモード）
価格かかく：164万まん8900円えん／テスト車しゃ＝211万まん0900円えん
オプション装備そうび：ファッションスタイル（9万まん9000円えん）／コンフォートパッケージ＜リア右側みぎがわパワースライドドア、運転うんてん席せき＆助手じょしゅ席せきシートヒーター、運転うんてん席せき＆助手じょしゅ席せきシートバックテーブル、オートリトラミラー、左右さゆう独立どくりつ式しきリアセンターアームレスト＞（10万まん0100円えん）　※以下いか、販売はんばい店てんオプション　9インチHonda CONNECTディスプレイ（23万まん5400円えん）／フロアマット（2万まん7500円えん）

テスト車しゃの年とし式しき：2023年ねん型がた
テスト開始かいし時じの走行そうこう距離きょり：966km
テスト形態けいたい：ロードインプレッション
走行そうこう状態じょうたい：市街地しがいち（--）／高速こうそく道路どうろ（--）／山岳さんがく路ろ（--）
テスト距離きょり：--km
使用しよう燃料ねんりょう：--リッター（レギュラーガソリン）
参考さんこう燃費ねんぴ：--km/リッター

ホンダN-BOXカスタムターボ

ボディーサイズ：全長ぜんちょう×全幅ぜんぷく×全高ぜんこう＝3395×1475×1790mm
ホイールベース：2520mm
車くるま重じゅう：940kg
駆動くどう方式ほうしき：FF
エンジン：0.66リッター直じき3 DOHC 12バルブターボ
トランスミッション：CVT
最高さいこう出力しゅつりょく：64PS（47kW）/6000rpm
最大さいだいトルク：104N・m（10.6kgf・m）/2600rpm
タイヤ：（前まえ）165/55R15 75V／（後ご）165/55R15 75V（ブリヂストン・エコピアEP150）
燃費ねんぴ：20.3km/リッター（WLTCモード）
価格かかく：204万まん9300円えん／テスト車しゃ＝244万まん0400円えん
オプション装備そうび：ボディーカラー＜プレミアムサンライトホワイトパール＞（5万まん5000円えん）／マルチビューカメラシステム（7万まん3200円えん）　※以下いか、販売はんばい店てんオプション　9インチHonda CONNECTディスプレイ（23万まん5400円えん）／フロアマット（2万まん7500円えん）

テスト車しゃの年とし式しき：2023年ねん型がた
テスト開始かいし時じの走行そうこう距離きょり：820km
テスト形態けいたい：ロードインプレッション
走行そうこう状態じょうたい：市街地しがいち（--）／高速こうそく道路どうろ（--）／山岳さんがく路ろ（--）
テスト距離きょり：--km
使用しよう燃料ねんりょう：--リッター（レギュラーガソリン）
参考さんこう燃費ねんぴ：--km/リッター