三菱みつびし・3代目だいめエクリプスの「左ひだりハンドル＆スパイダー」のみというエモーショナル･･･語かたり継つがれる希少きしょう車しゃ

1980年代ねんだい後半こうはんから90年代ねんだいのはじめにかけて、日本にっぽんでは空前くうぜんのデートカーブームが起おきていた。その背景はいけいにバブル経済けいざいがあったことは否いなめないだろう。景気けいきの良よさは人々ひとびとを高揚こうようさせ、遊あそび心ごころをもたらし、クルマ選えらびも実用じつよう性せいよりカッコよさを優先ゆうせんする風潮ふうちょうがあった。

デートカーとは、若わかい男女だんじょがデートに出でかけるときに好このんだ、スタイリッシュな見みた目めのクーペタイプのクルマを指さす。とはいえ若わかい男女だんじょが購入こうにゅうするのだからあまり高額こうがくなクルマは含ふくまれず、いっぽうで安価あんかなものでもなく、排気はいき量りょうでいえば2.0Ｌクラスの国産こくさんクーペを指さすことが多おおい。

火付ひつけ役やくはなんといっても「ホンダ・プレリュード」。主おもに1982年ねん発売はつばいの2代目だいめモデルと、1987年ねん発売はつばいの3代目だいめだ。当時とうじの若者わかものにとってプレリュードは特別とくべつなクルマだった。その後ご1989年ねん登場とうじょうの「日産にっさんシルビア」が大だいブレイク。2ドアクーペが年間ねんかん6万まん台だい以上いじょう売うれたのだから、今いまでは信しんじられない。
そしてトヨタでは「セリカ」もヒットした。

初代しょだいモデルが1990年ねんに日本にっぽんで発売はつばいされた「三菱みつびしエクリプス」もそんなデートカー人気にんきを背景はいけいに登場とうじょうしたモデルだ。
時どきを同おなじくして北米ほくべいでもコンパクトクーペのブームが起おこっており、エクリプスは当時とうじ提携ていけいしていたクライスラー社しゃとの合弁ごうべん企業きぎょうで企画きかくされ、貿易ぼうえき摩擦まさつ解消かいしょうの意味合いみあいもあって生産せいさんも北米ほくべいで行おこなわれた。そのため、日本にっぽんへは輸入ゆにゅう車しゃとして導入どうにゅうされている。

スタイリングは3ドアハッチバックでスポーツカーのような雰囲気ふんいきだが、シャシーやドライブトレーンなどメカニズムのベースは「ギャラン」。あくまで特装車とくそうしゃ扱あつかいの受注じゅちゅう生産せいさんだったが、もともとテレビドラマ用ようとして作つくられた、ガルウイングと呼よばれるドアが上うえに跳はね上あがるタイプに架か装そうした仕様しようも一般いっぱんに市販しはんされたのだから驚おどろきだ。

そして1994年ねんには2代目だいめへチェンジ（日本にっぽんデビューは1995年ねん）。メカニズムは先代せんだいをブラッシュアップしたものだが、スタイリングが流麗りゅうれいになってさらにスポーティな雰囲気ふんいきとなった。こちらも北米ほくべいで生産せいさんされ、輸入ゆにゅう車しゃとして導入どうにゅうされている。
1996年ねんには電動でんどうオープントップを組くみ合あわせた「スパイダー」も追加ついかされた。

3代目だいめが北米ほくべいでデビューしたのは、1999年ねん7月がつ。しかし、日本にっぽん市場いちばにおいてはこれまでのモデルとは大おおきく変化へんかした。

まず、日本にっぽん市場いちばにはしばらく投入とうにゅうされなかったことだ。初代しょだいや2代目だいめは北米ほくべい登場とうじょうから1年ねんほど遅おくれて日本にっぽんデビューをしたが、3代目だいめが日本にっぽんで発売はつばいされたのは2004年ねん。5年ねんもの時間じかんを必要ひつようとしたのである。

この頃ころにはすでにデートカーブームは完全かんぜんに終了しゅうりょう。「ホンダ・オデッセイ」をはじめとするミニバンや「スバル・レガシィツーリングワゴン」などツーリングワゴンがブームとなり、クーペタイプのクルマは「売うれないジャンル」となっていた。だから三菱自動車みつびしじどうしゃは日本にっぽん導入どうにゅうに踏ふみ切きれずにいたのだ。

そんな背景はいけいもあり、日本にっぽん仕様しようも日本にっぽん向むけの変更へんこうは最小限さいしょうげんだった。保安ほあん基準きじゅんに適合てきごうさせるための灯火ともしび類るいや排出はいしゅつガス関連かんれんの変更へんこうなどにとどまり、ほぼ北米ほくべい仕様しようのまま日本にっぽんでも販売はんばいされたのだ。
ハンドル位置いちも、日本にっぽんで一般いっぱん的てきな右みぎハンドルではなく北米ほくべいと同おなじ左ひだりハンドルのまま。それはコストを圧縮あっしゅくするためだ。右みぎハンドルを作つくると、それ専用せんように使つかわれる部品ぶひんはもちろん、開発かいはつにも多おおくの予算よさんを必要ひつようとするのである。そんな仕様しようの設定せっていからも、日本にっぽんで多おおく売うろうとは最初さいしょから考かんがえていなかったことがわかる。

そして3代目だいめのハイライトと言いえるのが日本にっぽんにはオープンモデルの「スパイダー」しか導入どうにゅうされなかったことだ。一般いっぱん的てきなクーペボディは日本にっぽんには用意よういされなかったのである。
左ひだりハンドルでオープンモデルのみ。そんな思おもい切きったチャレンジで、3代目だいめエクリプスは日本にっぽんへ上陸じょうりくしたのである。

なかには「右みぎハンドルがないなんて……」という声こえもあった。とはいえ「それでも日本にっぽんへ導入どうにゅうしてくれた」と考かんがえるべきではないだろうか。

エンジンは排気はいき量りょう3.0LのV型がた6気筒きとう自然しぜん吸気きゅうきで196ps。そこに4速そくATを組くみ合あわせた。価格かかくは5％の消費しょうひ税込ぜいこみで315万まん円えん。販売はんばい目標もくひょう台数だいすうは500台だい（2004年ねんに300台だい、翌年よくねんに200台だい）としていた。
そんなエクリプスが国内こくない販売はんばいを終了しゅうりょうしたのは2006年ねん3月がつ。「左ひだりハンドル＋オープン」というニッチな市場いちばということもあり、実際じっさいに国内こくない販売はんばいされたのは427台だいほどに過すぎなかった。
確たしかにニッチではあった。しかし、エクリプスがたまらなく好すきだという人ひとが日本にっぽんのマーケットにいたものまた事実じじつである。

エクリプスの国内こくない販売はんばい終了しゅうりょうは三菱自動車みつびしじどうしゃにとっても一ひとつの区切くぎりとなった。エクリプスの終了しゅうりょうをもって、日本にっぽん市場いちばにおいては三菱自動車みつびしじどうしゃのラインナップからクーペタイプのモデルが消きえてしまったからである。

エクリプスは日本にっぽんでは、頻繁ひんぱんに見みかけるというほどのヒットとまではいかなかった。しかし“本国ほんごく”ともいえる北米ほくべいでは高たかい人気にんきを誇ほこっていたことを知しる人ひともいるだろう。初代しょだいもたくさん売うれたが、日本にっぽんでオープンモデルのみが販売はんばいされた3代目だいめはクールなスタイリングで若者わかものから絶大ぜつだいな支持しじを集あつめ、「女性じょせいにモテるためにエクリプスが欲ほしい」という男子だんし大学生だいがくせいも多おおかったほどなのだ。

日本にっぽんで3代目だいめエクリプスのスパイダーが販売はんばいされた21世紀せいきに入はいると日本にっぽんのデートカーブームはすっかり収おさまっていた。しかし北米ほくべいではファミリー層そうを中心ちゅうしんとしたSUVブームが拡大かくだいする一方いっぽうで、映画えいが「ワイルドスピード」により爆発ばくはつ的てきに広ひろがった「スポコンブーム」の影響えいきょうもありクーペ人気にんきはかつての日本にっぽんと同おなじ状況じょうきょうになっていたのだからトレンドとは面白おもしろいものだ。

今いまでは死語しごとなった「デートカー」だが、1990年ねん前後ぜんこうに青春せいしゅんを送おくった若者わかものなら、それらがいかに流行りゅうこうしたか覚おぼえていることだろう。当時とうじは、若者わかものの多おおくがクルマにもカッコよさを求もとめた時代じだいだった。実用じつよう性せいよりも遊あそび心ごころのほうが優先ゆうせんされるモノ選えらびが、クルマに限かぎらず当あたり前まえだったのだ。

それから30年ねんが経過けいかした今いま、クルマ選えらびは実用じつよう性せいが主体しゅたいとなっている。それは人々ひとびとが堅実けんじつになったというい方いかたもできるだろう。
しかし、多おおくの人ひとのクルマ選えらびからワクワクやときめきといった心しん揺ゆさぶる感情かんじょうが失うしなわれてしまったのは、クルマ好すきとしてはどことなくさみしい気きがしなくもない。

エクリプススパイダーにはカッコよさのほかに「普通ふつうの国産こくさん車しゃとは違ちがう」という特別とくべつな雰囲気ふんいきもあった。オーナーはそこに感銘かんめいを受うけたことだろう。

エモーショナルなクルマは、人生じんせいを豊ゆたかにする。筆者ひっしゃはそう思おもっている。

（文ぶん：工藤くどう貴宏たかひろ　写真しゃしん：三菱自動車みつびしじどうしゃ）