ミツオカ オロチは妖艶ようえんで存在そんざい感かん抜群ばつぐんの「ファッションスーパーカー」･･･語かたり継つがれる希少きしょう車しゃ

「大蛇おろち」と書かいて「おろち」と読よむ。

大蛇おろちを「だいじゃ」と読よめば単たんに“大おおきなヘビ”を意味いみするが、「おろち」と呼よんだ瞬間しゅんかんに意味合いみあいが変かわってくる。大おおきなヘビであることに間違まちがいはないが、そのスケールが違ちがう。日本にっぽん神話しんわの「八はち岐大蛇へび（やまたのおろち）」をはじめ神話しんわや伝説でんせつに登場とうじょうする伝説でんせつ上じょうの生いき物ものを意味いみするのだ。
日本にっぽんには、そんな「おろち」を車くるま名めいとしたモデルが存在そんざいする。光岡みつおか自動車じどうしゃの「オロチ」だ。

オロチという車くるま名めいはそのスタイルからきている。スーパーカーを感かんじさせるワイド＆ローなフォルムのそのボディは、なんともおどろおどろしく妖あやしい雰囲気ふんいき。ほかのどんなクルマとも一線いっせんを画かくするものである。
まるで大だい蛇じゃの目めのようなヘッドライトをはじめとする有機ゆうき的てきなデザインは、爬虫類はちゅうるいの体からだ表ひょうの突起とっきを思おもわせるボンネットの穴あなやスリットまで含ふくめて生物せいぶつ的てきなエネルギーを感かんじさせる。

こんなデザイン見みたことない。オロチを見みたら誰だれもがそう感かんじることだろう。

一般いっぱん的てきにスーパーカーやスポーツカーはスピード感かんを強調きょうちょうするデザインとし、多おおくは直線ちょくせん的てきなシャープさ、もしくは筋肉きんにくのような曲線きょくせん美びをデザインに織おり込こむ。オロチのように生命せいめい感かんを感かんじさせるデザインは、極きわめて稀まれだ。
とにかく存在そんざい感かんが凄すごい。だれもが驚おどろくそんな姿すがたは、とことんこだわったデザインの賜物たまものに他たならないだろう。

全長ぜんちょう4560mm×全幅ぜんはば2035mm、そして全高ぜんこう1180mmのボディは、誰だれの目めにも低ひくくてワイドに映うつる。スーパーカーのプロポーションといっていいだろう。
しかしミツオカは「ファッションスーパーカー」と謳うたう。その理由りゆうはスーパーカーのように目立めだつ存在そんざいだが、動力どうりょく性能せいのうは特別とくべつなものではなく、いっぽうで扱あつかいやすさや実用じつよう性せいを重視じゅうしして誰だれでも運転うんてんできるように作つくられているからだ。
性能せいのうを競きそうのではなく、見みた目めを競きそうことを目的もくてきに生うまれてきたクルマと言いっていいだろう。

ミッドシップとしてキャビンの後うしろに置おくエンジンとトランスミッションはトヨタ製せい。V6自然しぜん吸気きゅうきの3.3Lエンジンに5速そくATを組くみ合あわせている。233㎰あるから日本にっぽんの市販しはん車しゃとしては力ちからがあるほうだけれど、驚おどろくほど速はやいというわけではない。
ただ、極ごく低速ていそく域いきまで含ふくめて扱あつかいやすいこと、そして壊こわれにくいことは間違まちがいなく、そのあたりは2006年ねん発売はつばい当時とうじの一般いっぱん的てきな欧州おうしゅう製せいスーパーカーとは明確めいかくに異ことなる。

そしてこのクルマの凄すごいところは、いわゆる量産りょうさん自動車じどうしゃメーカーではない会社かいしゃがクルマを開発かいはつし、製造せいぞうし、実際じっさいに販売はんばいしたことだろう。パワートレインこそトヨタから購入こうにゅうしているものの、車体しゃたい自体じたいは何なにかを改造かいぞうしているのではなくフルオリジナルなのが凄すごい。

オロチを生うみ出だしたミツオカ（光岡みつおか自動車じどうしゃ）は、1996年ねんに同社どうしゃ初はつの完全かんぜんオリジナルの車体しゃたいとしてオープンスポーツカー「ゼロワン」を世よに送おくり出だした際さいに型式けいしき認定にんていを受うけ、車検しゃけん証しょうのメーカー名めいに「ミツオカ」と記載きさいされた。
それは1967年ねんのホンダ以来いらい日本にっぽんで10社しゃ目めの自動車じどうしゃメーカーとして認みとめられた瞬間しゅんかんだった。そんなミツオカの完全かんぜんオリジナルカーとしての次つぎの一手いってが、オロチだったのである。

実じつは、そんなオロチは構造こうぞうも市販しはん車しゃとしては珍めずらしいものだ。パイプフレームとなっているのである。乗用車じょうようしゃとして一般いっぱん的てきなモノコックボディとは異ことなるパイプフレームの特徴とくちょうのひとつが、少量しょうりょうでも作つくりやすいことである。
そこで、ミツオカは少量しょうりょう生産せいさんのオロチを成立せいりつさせるにあたってパイプフレームという手法しゅほうを選えらんだというわけだ。パイプフレームで車体しゃたいを作つくり、そこにFRP製せいのパネルを貼はって外装がいそうとしているのである。すべてが大量たいりょう生産せいさん車しゃとは異ことなるのだ。

オロチがはじめて世よに姿すがたを現あらわしたのは2001年ねんの東京とうきょうモーターショーだった。それはホンダNSXをベースに作つくられたコンセプトモデルだったが大だい反響はんきょうを呼よび、2006年ねんに完全かんぜんオリジナルの車体しゃたいで市販しはん化か。2007年ねんから納車のうしゃがはじまり、2014年ねんに生産せいさんを終了しゅうりょうしている。

1100万まん円えんのモノグレードで発売はつばいされたオロチだが、その後ごに価格かかくを引ひき下さげた仕様しようや、カーボンパーツなどで外観がいかんをドレスアップした「オロチ・カブト」、ゴールドをコーディネートした「ゴールドプレミアム」などいくつかの派生はせい仕様しようも用意よういされた。生産せいさん台数だいすうは400台だい限定げんていとされていたが、実際じっさいにユーザーの手てに渡わたった車両しゃりょうはそれよりも少すくないという。本当ほんとうに希少きしょうなモデルなのだ。

それにしても、一般いっぱん的てきな自動車じどうしゃメーカーではないミツオカが、型式けいしき認定にんていを受うけるまでの道みちのりは険けわしいものだっただろう。ミツオカは「ビュート」をはじめ市販しはん車しゃをベースにしたカスタマイズモデルの制作せいさくは手慣てなれたものだが、車体しゃたいからオリジナルとなるとやはり勝手かってが違ちがう。型式けいしき認定にんていを受うけ、市販しはんすることができたこと自体じたいが快挙かいきょだ。

それを成なし遂とげた行動こうどう力りょくの源みなもとはどこにあったかといえば“情熱じょうねつ”というしかないのではないだろうか。「大だいメーカーにはできないことをやろう」という同社どうしゃの熱あつい想おもいが、オロチに魂たましいを吹ふき込こんだのだ。そして、その行動こうどう力りょくに驚おどろくしかない。

富山とやまの小ちいさな自動車じどうしゃメーカーが現実げんじつのものとした夢ゆめは、間違まちがいなく日本にっぽんの自動車じどうしゃ史しに残のこる1台だいとなったのである。おそらく、当時とうじよりもさらに規制きせいが厳きびしくなった現在げんざいでは実現じつげんできなかった夢ゆめだろう。

（文ぶん：工藤くどう貴宏たかひろ　写真しゃしん：光岡みつおか自動車じどうしゃ）