伸のび悩なやむ前原まえはら、小沢おざわ一郎いちろう「苦肉くにくの海江田かいえだ擁立ようりつ」、勝者しょうしゃが読よめない液状えきじょう化かした民主党みんしゅとうの代表だいひょう選挙せんきょ

マスコミ各社かくしゃの世論せろん調査ちょうさでは断だんトツでトップだが、党内とうないでは不人気ふにんきの前原まえはら氏し〔PHOTO〕gettyimages

　次期じき民主党みんしゅとう代表だいひょう･首相しゅしょうは前原まえはら誠司せいじ前外相ぜんがいしょうでほぼ間違まちがいないという当初とうしょの見方みかたに翳かげりが見みえ始はじめた。ひと言ことで言いえば、国民こくみん世論せろんと民主みんしゅ党内とうない世論せろんに違ちがいがあるということである。

　マスコミ各社かくしゃの世論せろん調査ちょうさでは断だんトツでトップの前原まえはら氏しだが、党内とうないでは不人気ふにんきなのだ。加くわえて、衆院しゅういん解散かいさん･総そう選挙せんきょが年末ねんまつ、あるいは来春らいしゅん実施じっしの可能かのう性せいが低ひくくなり、選挙せんきょ基盤きばんの脆弱ぜいじゃくな「小沢おざわチルドレン」をはじめとする若手わかて･中堅ちゅうけんの衆院しゅういん議員ぎいんが「選挙せんきょの顔かお」としての前原まえはら氏しを取とり合あえず必要ひつようとしないと思おもい始はじめたことも影響えいきょうしている。

　この間あいだの動うごきを検証けんしょうしておきたい。先まず、指摘してきしておくべきことは、やはり「小沢おざわ･仙谷せんごくファクター」があったということである。

　8月がつ23日にち夜よる11時じ30分ふんからのフジテレビ「ニュースJAPAN」のスクープ映像えいぞうは、同夜どうや、東京とうきょう･赤坂あかさかのホテル･ニューオータニで民主党みんしゅとうの小沢おざわ一郎いちろう元もと代表だいひょうと密会みっかい後ご、ホテル出発しゅっぱつ寸前すんぜんの仙谷せんごく由人よしと代表だいひょう代行だいこうをバッチリと映うつしていた。この小沢おざわ･仙谷せんごく会談かいだんには、『読売新聞よみうりしんぶん』(24日にち付づけ朝刊ちょうかん)が報ほうじたように細野ほその豪つよし志こころざし原子力げんしりょく事故じこ担当たんとう相しょうが同席どうせきしていた(実じつは小沢おざわ氏し側近そっきんの樋とい高だか剛つよし環境かんきょう政務せいむ官かんも同席どうせき)。

　筆者ひっしゃが承知しょうちしているところでは、密会みっかいは同どうホテル内ないの一室いっしつで行おこなわれた。セットしたのは仙谷せんごく氏しの意いを受うけた細野ほその氏しである。小沢おざわ、仙谷せんごく両氏りょうしの極秘ごくひ接触せっしょくの可能かのう性せいは、前号ぜんごうの本ほんコラム「小沢おざわ氏しが描えがく『仙谷せんごく首相しゅしょう』構想こうそう」を執筆しっぴつした時点じてんで確信かくしんを持もっていた。というのも、仙谷せんごく氏し本人ほんにんだけでなく、同氏どうし秘書ひしょの松本まつもと収おさむ前ぜん官房かんぼう長官ちょうかん事務じむ担当たんとう秘書官ひしょかんが小沢おざわ氏しの現在げんざいの最さい側近そっきんである三井みつい辨べん雄ゆう国土こくど交通こうつう副ふく大臣だいじんと接触せっしょくを行おこなっていた事実じじつを掴つかんでいたからだ。だが、「2人ふたりは会あわなかった」ことにして別わかれた同夜どうやの会談かいだんは不調ふちょうに終おわった。

土壇場どたんばまで西岡にしおか参議院さんぎいん議長ぎちょう擁立ようりつを模索もさくした小沢おざわ一郎いちろう

　さらに言いえば、次つぎのような事実じじつ(情報じょうほう)もある。代表だいひょう選せん出馬しゅつばの最終さいしゅう決断けつだんに至いたらず地元じもと･京都きょうとから前原まえはら氏しが東京とうきょうに戻もどって来きたのは22日にち夕方ゆうがた過すぎ。同夜どうや遅おそく前原まえはらグループ(凌雲りょううん会かい)の幹部かんぶ会かいが同どうホテルのガーデンコートでセットされていた。そしてその席せきで前原まえはら氏しは出馬しゅつば決断けつだんを伝つたえる段取だんどりとなっていた。その直前ちょくぜんの午後ごご9時じごろ、同氏どうしはホテルの一室いっしつで仙谷せんごく氏しと会あい、代表だいひょう選せんに臨のぞむにあたっての最後さいごの調整ちょうせいを行おこなったのだ。

　前原まえはら氏しは翌よく23日にちの出馬しゅつば正式せいしき表明ひょうめい以降いこう、それまでの発言はつげんを微妙びみょうに軌道きどう修正しゅうせいした。すなわち、小沢おざわ氏しの主張しゅちょうと立場たちばに配慮はいりょして1.消費しょうひ増税ぞうぜいは直ただちには実施じっししない2.今いますぐは大だい連立れんりつを目指めざさない3.挙党きょとう一致いっちで国難こくなんに立たち向むかう---というものだ。同氏どうしとの全面ぜんめん対決たいけつ回避かいひの可能かのう性せいを残のこしたのである。

　仙谷せんごく氏しに対たいし「前原まえはら首相しゅしょう」容認ようにんの見返みかえりに自みずからを幹事かんじ長ちょうにすることを要求ようきゅうした小沢おざわ氏しは、色いろよい返事へんじがなかったことから直ただちに、同氏どうしの支持しじの可能かのう性せいが取とり沙汰ざたされる海江田かいえだ万里ばんり経済けいざい産業さんぎょう相しょうや鹿野かの道彦みちひこ農水のうすい相しょう以外いがいの「第だい3の候補こうほ」まで食指しょくしを伸のばした。

　原口はらぐち一博かずひろ元もと総務そうむ相しょう以外いがいにも西岡にしおか武夫たけお参院さんいん議長ぎちょう、松野まつの頼よりゆき久元ひさもと官房かんぼう副ふく長官ちょうかんの名前なまえまで挙あがった。原口はらぐち氏しは小沢おざわグループの「北辰ほくしん会かい」や鳩山はとやま(由紀夫ゆきお前ぜん首相しゅしょう)グループの若手わかてからの反発はんぱつが強つよく、現実味げんじつみに欠かける。あの西岡にしおか議長ぎちょうを担かつぐということは、端はしから負まけ戦いくさを覚悟かくごであり、離党りとう･新党しんとう結成けっせいの意思いしの表おもてわれと見みることができる。松野まつの氏しに至いたっては論外ろんがいだ。

　小沢おざわ氏しは25日にち午後ごご、鳩山はとやま氏しとの会談かいだんで改あらためて「前原まえはら不ふ支持しじ」を確認かくにんしたが、実じつは有力ゆうりょくな手駒てごまがない小沢おざわ氏しこそが窮地きゅうちに立たたされているかに見みえる。だが、その一方いっぽうで真ま逆ぎゃくな見方みかたも可能かのうだ。小沢おざわ氏しは最終さいしゅう的てきに出馬しゅつばに意欲いよくを持もっていた小沢おざわ鋭するど仁ひとし元もと環境かんきょう相しょうを海江田かいえだ氏しに一本いっぽん化か･擁立ようりつする。と同時どうじに、野田のだグループ内ないの前原まえはら批判ひはんの高たかまりを横目よこめに前原まえはら、野田のだ陣営じんえいの分断ぶんだん化かを誘さそい、決選けっせん投票とうひょうでの第だい1位い海江田かいえだ氏しと第だい3位い(第だい4位い)鹿野かの氏し連合れんごうの結成けっせいを目指めざして代表だいひょう戦せんに突入とつにゅうする---これが小沢おざわ戦略せんりゃくであろう。

　「数かずの力ちから」の信奉しんぽう者しゃ小沢おざわ氏しは党内とうない最大さいだい勢力せいりょく(推定すいてい120人にん)を誇ほこり、昨年さくねん9月がつの代表だいひょう選せんでの国会こっかい議員ぎいん票ひょう200人にん(菅かん直人なおと首相しゅしょうは206人にん)の実績じっせきをい募いつのる。確たしかに、海江田かいえだ氏しらの「小沢おざわ詣もうで」がメディアで伝つたえられ、「キーマンは小沢おざわ氏し」を印象いんしょう付つけた。しかし、その「数かず」は客観きゃっかん的てきに精査せいさされるべきだ。

　6月2日にちの内閣ないかく不信任ふしんにん案あん採決さいけつに当あたって棄権きけん･欠席けっせきした小沢おざわ氏しを含ふくむ衆院しゅういん議員ぎいん13人にん中ちゅう9人にんが党員とういん資格しかく停止ていし処分しょぶんを受うけており200人にんマイナス9人にん。加くわえて、前回ぜんかいは小沢おざわ氏しに一票いっぴょうを投とうじた細野ほその氏しが前原まえはら氏し支持しじを明あきらかにし、中間なかま派はのリーダー格かくである樽床たるとこ伸二しんじ元もと国対こくたい委員いいん長ちょうら約やく20人にんが野田のだ氏し支持しじに回まわるのは確定かくてい的てきである。さらにマイナス約やく20人にんとなり、約やく170人にんが基数きすうになる。

　そこからさらに旧きゅう民社党みんしゃとう系けい約やく25人にんと旧きゅう社会党しゃかいとう系けい約やく20人にんの半分はんぶんは前原まえはら、野田のだ氏し陣営じんえいに流ながれるので、実じつは「小沢おざわ票ひょう」基礎きそ票ひょうは多おおく見積みつもっても約やく150人にんなのだ。もちろん、この中なかには鳩山はとやまグループ約やく40人にんが含ふくまれる。小沢おざわグループは最大さいだいで100人にん前後ぜんこうというのが相場そうば観かんである。そして小沢おざわグループのコアは約やく30人にんと言いわる。

　代表だいひょう選せんは無む記名きめい投票とうひょうなので当選とうせん1，2回生かいせいの「北辰ほくしん会かい」からも少すくなからず前ぜん原票げんぴょうが出でるだろう。仮かりに小沢おざわ氏しが海江田かいえだ氏しを担かついで第だい一いち回かい投票とうひょうで200人にん以上いじょうの第だい1位い･過半数かはんすうに届とどかなければ、決選けっせん投票とうひょうで第だい2位いの前原まえはら氏しと第だい3位いの野田のだ氏し連合れんごうに敗やぶれることになる。

　つまり、現時点げんじてんでの読よみでは、小沢おざわ氏しが200票ひょうを集あつめることは容易よういなことではないということである。ただ、票ひょう固がために苦くるしむ前原まえはら氏しが第だい2位いはおろか鹿野かの氏しにまで破やぶれ第だい4位いになることもあり得える。

　一方いっぽうの野田のだ氏しは自主じしゅ投票とうひょうを決きめた菅かんグループの過半かはんの支持しじを期待きたいでき、第だい一いち回かい投票とうひょうで前原まえはら氏しを上回うわまわる可能かのう性せいが高たかくなった。従したがって、液状えきじょう化か代表だいひょう選せんの現状げんじょうでは、「次つぎ」は誰だれだと断定だんていできないのが正直しょうじきなところだ。