【『最愛さいあい』感想かんそう９話わ】愛情あいじょうをふりほどき真実しんじつに向むき合あうとき・ネタバレあり

By - かな　公開こうかい：2021-12-15 　更新こうしん：2022-01-12

Twitterを中心ちゅうしんに注目ちゅうもくドラマの感想かんそうを独自どくじの視点してんでつづり人気にんきを博はくしている、かな（＠kanadorama）さん。

２０２１年ねん秋あきスタートのテレビドラマ『最愛さいあい』（TBS系けい）の見みどころを連載れんさいしていきます。

かなさんがこれまでに書かいたコラムは、こちらから読よめます。

一瞬いっしゅんの、感情かんじょうを読よませない毅然きぜんとした表情ひょうじょうに惹ひかれる。本来ほんらい、喜怒哀楽きどあいらくを発散はっさんする朗々ろうろうとしたエネルギーが魅力みりょく的てきな吉よし高こう由里子ゆりこだが、時ときにふと表情ひょうじょうを押おし殺ころす瞬間しゅんかんがある。

それがとても美うつくしいと思おもう。吉きち高だかが主人公しゅじんこうの村岡むらおか花子はなこを好演こうえんした朝あさの連続れんぞくテレビ小説しょうせつ『花子はなことアン』（NHK）でも、妹いもうとのもも（土屋つちや太ふとし鳳おおとり）から恵めぐまれた境遇きょうぐうを妬ねたまれて責せめられた時ときの、困惑こんわく気味ぎみに表情ひょうじょうを殺ころした場面ばめんの美うつくしさが強つよく記憶きおくに残のこっている。

今いま作さく『最愛さいあい』でも、自分じぶんに向むけられる他者たしゃの感情かんじょうに困惑こんわくする時とき、動揺どうようを押おしころす時ときの吉きち高だかの表情ひょうじょうはいつも美うつくしい。

そしてこのドラマの初回しょかい、無表情むひょうじょうに血ちに濡ぬれた指ゆびで髪かみをかきあげる仕草しぐさもまた、息いきをのむほどに素晴すばらしかった。

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宇多田うただヒカルの『君きみに夢中むちゅう』が流ながれる印象いんしょう的てきな場面ばめん

ついにここまで来きたという感慨かんがいがある。

サスペンスとしての考察こうさつ、ラブストーリーとしての盛もり上あがり。どちらも高たかい水準すいじゅんで維持いじしながら最終さいしゅう回かいのひとつ手前てまえに辿たどり着ついた『最愛さいあい』（TBS系けい　金曜きんよう２２時じ　主演しゅえん・吉よし高こう由里子ゆりこ）。

今回こんかい９話わのラストシーンで、初回しょかい冒頭ぼうとう、主人公しゅじんこうの真田さなだ梨なし央ひさし（吉よし高こう由里子ゆりこ）が血塗ちまみれの指ゆびで髪かみをかきあげながら警察けいさつに連行れんこうされる場面ばめんに繋つながった。

それはおそらく物語ものがたりが始はじまった当初とうしょ、自分じぶんも含ふくめて、視聴しちょう者しゃの大半たいはんが想像そうぞうしていた内容ないようとは違ちがうものではあったけれども、梨なし央ひさしが全すべてを失うしなおうとしている瀬戸際せとぎわであることは変かわりない。

このドラマの主題歌しゅだいか『君きみに夢中むちゅう』（宇多田うただヒカル）は、毎週まいしゅう１回かい、印象いんしょう的てきな場面ばめんで流ながれている。最終さいしゅう回かいを前まえに、改あらためてそれぞれの回かいのどこで流ながれているのかを確認かくにんしたい。

１話わ目めは梨なし央ひさしが父ちち・朝宮あさみや達雄たつお（光ひかり石せき研けん）の死後しご、駅伝えきでんの最中さいちゅうに白川しらかわを離はなれる場面ばめん、宮崎みやざき大輝だいき（松下まつした洸こう平たいら）が走はしる姿すがたを確たしかめて迎むかえの車くるまに乗のるところ。

２話わ目めは大輝だいきが梨なし央ひさしを引ひき寄よせた瞬間しゅんかんに菓子かしが潰つぶれて大輝だいきのシャツにべったりついて、よそよそしかった２人ふたりが溢あふれるように喋しゃべりだす場面ばめん（ここは本当ほんとうに見みている側がわが一瞬いっしゅん虚きょを突つかれ、そして緩ゆるやかに気持きもちがほどけていくような美うつくしい場面ばめんだと思おもう）。

そして３話わ目めは暴漢ぼうかんに襲おそわれた加瀬かせ（井浦いうら新しん）の治療ちりょうを待まつ病院びょういんの待合室まちあいしつ、梨なし央ひさしが友人ゆうじんのようでいられたらいいのにと大輝だいきに本心ほんしんを明あかし、２人ふたりのわだかまりが解とけていく場面ばめん。

４話わ目めは梨なし央ひさしと警察けいさつに追おわれている弟おとうとの優ゆう（高橋たかはし文ぶん哉）がビルの屋上おくじょうで再会さいかいを果はたす場面ばめん。

５話わ目めは白川しらかわの大だい学寮がくりょうで父親ちちおやの達雄たつおが残のこした動画どうがが流ながれる中なか、梨なし央ひさしと優ゆう、そして大輝だいきが慟哭どうこくする場面ばめん。

６話わ目めは優ゆうの殺人さつじんの容疑ようぎが晴はれ、もう互たがいに会あわないと梨なし央ひさしと大輝だいきが決心けっしんした時ときの抱擁ほうよう。

７話わ目めは優ゆうの機転きてんで会あわないと決きめていた梨なし央ひさしと大輝だいきの２人ふたりが再会さいかいする場面ばめん。

８話わ目めは逃にげた後藤ごとう（及川おいかわ光博みつひろ）を追おって辿たどり着ついた別荘べっそうで加瀬かせが梨なし央ひさしへの想おもいを語かたる場面ばめん。

そして９話わ目めは母親ははおやの梓あずさ（薬師丸やくしまるひろ子こ）が会社かいしゃの不祥事ふしょうじを全すべて１人にんで被こうむり、娘むすめの梨なし央ひさしを庇かばって記者きしゃ会見かいけんを行おこなう場面ばめん。

いずれも、それぞれの人物じんぶつがそれぞれの方法ほうほうや言葉ことばで、梨なし央ひさしに愛情あいじょうのベクトルを示しめす場面ばめんである。

中なかでも、５話わの父親ちちおやの達雄たつおが渡辺わたなべ康やすし介かい（朝井あさい大智たいち）殺ころしと死体したい遺棄いきは自分じぶん１人にんで行おこなったと動画どうがで語かたりかける場面ばめんと、９話わで真田さなだ梓あずさが会社かいしゃの寄付きふ金きん詐欺さぎは自分じぶん１人にんの責任せきにんであると画面がめん越ごしに語かたりかける場面ばめんは対たいになっており興味深きょうみぶかい。

画面がめん越ごしの嘘うそと隠蔽いんぺいが愛情あいじょう表現ひょうげんで、とりわけ梓あずさはそのような形かたちでなければ娘むすめの梨なし央ひさしに愛情あいじょうを贈おくれない不器用ぶきような母親ははおやである。

今回こんかい、富山とやま県警けんけいで刑事けいじをしている藤井ふじい隼人はやと（岡山おかやま天てん音おん）と梓あずさが会あっている場面ばめんが描えがかれた。本来ほんらいなら接点せってんのない２人ふたりである。

そして藤井ふじいはある意味いみ『１５年ねん前まえ』を象徴しょうちょうする登場とうじょう人物じんぶつでもある。その２人ふたりに接点せってんがあるということは、梓あずさが１５年ねん前まえの事件じけんにも何なにかの関かかわりがあるということに他たならない。

１５年ねん前まえに隠蔽いんぺいされた１ひとつの事件じけんが、いつまでも塞ふさがらない傷きずのように血ちを流ながし続つづけて、現在げんざいに消けせない染しみを広ひろげつづける。あの日ひ殺ころされた者ものの人格じんかくがどうあれ、その真実しんじつが明あきらかにならない限かぎり結局けっきょく『今いま』も『未来みらい』も無ない。

今回こんかいのラストで警察けいさつに向むかう梨なし央ひさしは、心配しんぱいして同行どうこうすると申もうし出でた弁護士べんごしの加瀬かせに毅然きぜんとした表情ひょうじょうで「１人ひとりで大丈夫だいじょうぶ」と断言だんげんして顔かおを上あげる。

それは、これまで愛あいされて大事だいじに包つつまれたがゆえに真実しんじつから遠とおざけられ、そのことに１５年ねん苦悩くのうし続つづけた女おんなが、どんなに苦くるしく悲かなしくても、１人ひとりで立たって真実しんじつに向むかい合あうと決心けっしんした瞬間しゅんかんである。血ちにまみれた指ゆびでかまわないと腹はらをくくった瞬間しゅんかんである。